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〇〇は誰だ  作者: 北崎世道
一章
36/43

ムキンチ戦

 頭の中が全てムキンチへの憎しみに染まってはいたが、それでもある程度の理性は保っており、僕は冷静にヤオ・ワンの身体に回復魔法をかけた。


 かけた瞬間、ヤオ・ワンのぶち抜かれた右わき腹はみるみるうちに超再生、修復されていった。

 血色こそわるいものの、身体は傷跡一つ残らず治癒され、呼吸も正常に戻っていた。


 これでとりあえずは一安心。


 さて、治療の次は防御。


 僕は防御魔法を念じ、ヤオ・ワンの周囲にバリアを張る。

 防御魔法はこの運動場に設置されてある機能を模倣したものだ。

 学校に来たばかりの頃、コアカさんに学校案内をした時に教えてもらったあの機能だ。

 ついでに僕の魔法だけではなく、その運動場に備え付けられていたバリア機能そのものも起動させておく。


 起動した瞬間、周囲は闇に閉ざされた。

 ドーム状の障壁が運動場を覆ったのだ。

 ただ、時間的に運動場備え付けのライトが点いており、真っ暗になる事はなかった。


 ナイター照明だ。野球でもやるのか?


 僕が準備をする間、ムキンチはこちらの行動を見張っていた。


 といっても、見守ってはいないし、待ってもいないようだった。

 今にも飛び掛かりそうな雰囲気を醸し出している。

 ただ、警戒心が勝って、最初の一歩が踏み出せないでいるようだった。


「どうした? 来ないのか?」


 準備を終えた僕がムキンチを挑発する。


 だが、ムキンチは動かない。緊張した様子でこちらを警戒している。


 そのまま動かなそうだったので、僕から動く事にする。


 地面を蹴り、一瞬でムキンチの懐に入る。

 そして、その割れた腹筋に拳を入れる。


 分厚い鉄を殴ったような感触。

 重量があるのは判るが、それでも重いとは感じない。


 僕が殴ると、ムキンチの身体が水平に吹っ飛んだ。

 ライナー性の当たり。

 地面をバウンドすることなく、ムキンチの身体が百メートル以上先の運動場端の障壁にぶつかる。


 そのぶつかった肉体が、壁にぶつけた野球ボールのように跳ね返る。

 どうやら水平よりもやや上方向だったらしく、バウンド後は上の方に舞った。


 殴った直後、僕は吹っ飛ばしたムキンチを追いかけていたので、バウンドで宙に舞ったところに追撃を入れる事ができた。


 両手を組んで行うダブルスレッジハンマーで地面に叩きつける。

 別名、オルテガハンマー、もしくはベジ●タが両手を組んでやるアレだ。


 地面に叩きつけると、凄まじい爆音とともに半径五十メートル程の巨大クレーターができた。

 本来のダブルスレッジハンマーは片手でもう一方の手を包んで行うのだが、失敗してつい両手を組んでいた為、小指の骨が折れてしまった。ボキリ。

 しかも両方とも。ボキボキリ。

 だけど、特に回復魔法を唱える必要もなく自動で小指の骨は治り、痛みも残らなかったので、気にしない事にした。


 巨大クレーターの中心でムキンチが若干向きそうになりながら、全身をピクピク痙攣させていた。

 僕は構わず彼女の足を掴み、上空へと投げ飛ばした。

 そしてすぐに地面を蹴って追いかけ、空中で追い打ちをかけた。

 昇竜拳。


 少々強く殴り過ぎたので、ムキンチがぶつかった障壁がバリンと割れた。

 だが、障壁の上には更なる障壁。

 最初から三〇〇枚ほど重ねて張っているので問題ない。

 今回のは、そのうちの一枚が割れただけだ。


 既にムキンチは完全に白目を剥いているが、それでも僕は攻撃を止めない。

 結構、マジで頭にきている。

 僕がクリネさんと特訓せず、回復魔法を覚えていなければ、ヤオ・ワンは死んでいたのだ。

 そう考えると、どうしても怒りは収まらない。

 むしろ殴れば殴る程、まだ殴り足りない気持ちにさせられる。


 空中で五十発ほど殴り続けた後、僕はムキンチの頭を掴み、再び地面に叩きつけた。

 柔らかい地面には反発性はなく、巨大なクレーターができるだけだ。

 先程と同じくらいの大きさのクレーターができ、そこに僕は飛び降り、あらぬ方向に向いてる頭部をサッカーボールのように蹴り飛ばした。


 どうやらこの世界にもサッカーはあるらしく、ムキンチボールはサッカーゴールのど真ん中に吹っ飛び、ゴールネットを揺らし、引き伸ばし、更には突き破った。


「んぐぁっ!」


 そのせいかどうかは知らないが、ムキンチが意識を取り戻した。


 だが、ムキンチが意識を取り戻そうと僕には関係ない。

 ゴールネット突き破った後、地面を転がり続けるムキンチの頭を踏んで止め、その場で何度も踏みつけた。


 顔面を何度も踏みつけられながらも、ムキンチが両手を伸ばし、こちらに掴み掛ろうとする。

 僕は伸ばされた右手の人差し指を掴み、逆側に折り曲げた。


 しかし、ムキンチは怯まない。

 ならばと僕は更に力を籠め、指を引き千切る。


「がぁあああっ!」


 今度は流石に怯んだ。


 悲鳴を上げ、のたうち回るムキンチの口に引き千切った指を詰め込んで、頭と顎を手で押さえて、無理やり食わせてみた。


 が、咀嚼させる前に、ムキンチの指は再生しており、五本揃った指の拳で僕のわき腹を殴りつけた。


 特に踏ん張ってもなかったので、僕は吹き飛ばされた。

 だが、ダメージらしいダメージは感じない。

 なので吹き飛ばされながらも空中で態勢を整え、なんとか着地した。 


 ズザザザッと地面に直線を描く。

 直線のブレーキ跡は三メートル程だった。

 完全に止まった時、ムキンチはまだ起き上がっていなかった。

 今のは半分寝転んだ状態のまま殴ったのだ。


 僕はムキンチが起き上がる前に、この非常識な筋肉女を下から上へと蹴り飛ばした。


 これまたサッカーボールを上空へ蹴り飛ばすようなキック。

 下手くそな小学生がリフティングを悪ふざけしながら始めようとして、どこかあさっての方向に飛ばすようなキック。

 基本的に僕の蹴りはサッカー由来だ。


 ムキンチの身体が宙に浮き、顎が一番上にいく。

 僕は高く跳びあがる前にムキンチのピッチピチのティーシャツの胸倉を掴み、これまた何度目かの地面への叩きつけを行う。

 ドゴンと、またまたクレーター。

 いい加減ワンパターンだろうかと思いつつも、僕には喧嘩などの戦いの経験はほとんどないので、仕方ないと開き直る。


 地面に叩きつけた後は、ムキンチの身体にまたがり、馬乗りになった態勢で両こぶしを叩きこむ。


 連打。連打。


 ドブネズミが美しく見えるくらいの勢いで連打乱打を繰り返す。

 ヘッドバンキングのような頭突きも複数回行い、ムキンチの口元が伝説のロックンローラーでもないのに鼻に近付く。


「ごぁああああああああああああああああああっ!」 


 突如ムキンチが吠え、腰を浮かし、馬乗りになっていた僕ごと跳ね上げる。


 思わぬムキンチの抵抗に、ロデオ経験のない僕はあっさり振り解かれる。

 バランスを崩して、地面に転がってしまうと、その隙に今度はムキンチの方が馬乗りになる。


「ガハハハハハっ! 喰らえぇええええええええッ!」


 ムキンチが僕の顔面に何発もの拳をぶち込んでくるが、特にダメージはない。

 精々、皮膚が少し切れた程度。

 鼻血すら出ていない。


 僕は殴られつつも、咄嗟にムキンチの太ももを掴み、握力だけでその肉を引き千切る。


 硬い筋肉の鎧から、柔らかな肉の感触。


「ぎゃぁああああああああっ!」


 あまりの痛みにムキンチは馬乗りを放棄し、地面をのたうち回る。


 僕は悠々と立ち上がり、のたうち回るムキンチの頭を蹴り飛ばす。

 そして即座に移動して回り込み、別方向に蹴り飛ばす。


 それからはもう、ムキンチの抵抗はなかった。


 蹴っては回り込み、更に蹴り飛ばす。

 超音速の機動力がなければ、ぼっちのサッカー練習みたいな光景になっていただろう。

 だけど蹴り飛ばしたボールよりも速く動いてるせいで、それは異次元の光反射みたいな光景となっていた。


 僕の一方的な蹂躙は、僕が飽きるまで続いた。



 ◆



「…………あれ?」


 度重なる爆発音のせいでヤオ・ワンは目覚めた。


 暗い。

 そして外だ。


 どうして自分が屋外で寝ていたのかが分からない。

 眠る前の記憶がとんでいる。


 一刻も早く眠る前の記憶を探りたいところだが、それよりも目の前の状況がそれを許さなかった。


 耳をつんざくような轟音。

 それが目覚める前からずっと鳴り続けている。


 おそらくは何かが暴れているようだが、動きが速すぎて、目では追えない。


 そこが暗いせいもある。

 ライトがあるので真っ暗ではないが、それでも恐るべき速度で動き続けてる何かを目で捉えるには、やや光量が不足している。


 おそらくは何かしらの魔法だろう。


 とりあえず当たりの景色から、ここが学校の運動場である事は察したが、地形が変形しているせいで、いまいち確証が持てない。


 穴だらけだ。


 流星群が全て運動場に落ちたりでもしないと、こんな事にはならないだろう。


 そもそも、自分は今、どこにいる? 

 地面から浮いていないだろうか? 

 否、地面が浮いてないだろうか?


 よく見れば、ヤオ・ワンは今、浮いた透明な球体の中に座り込んでいる。

 この球体の正体は一応、判る。

 障壁だ。

 誰かが自分に障壁を張ったのだ。


 おそらくは障壁の下にある地面が根こそぎ吹っ飛んでしまったので、こんな奇妙な状態になったのだろう。

 障壁内にある地面は無事なので、居心地はそれほど悪くはないが、半円部分しか自由な空間は残されてないので、立ち上がるのも無理そうだ。

 この大きさだと、天井に頭をぶつけてしまう。

 球体の直径はおよそ自分の身長よりもやや大きいくらいだ。


 障壁についてはいい。


 目の前の惨状を見れば、悪意で閉じ込められたのではないのは判る。


 ふと、ここでヤオ・ワンは自分の衣服が破れている事に気付く。


 だいぶ大きく破れている。

 しかし、自分の身体には傷ひとつない。

 引き千切られたのだろうか。

 にしては、破れ方が奇妙だ。

 まるで自分の右わき腹を大砲で吹っ飛ばして、その後、身体を再生したかのような破れ方である。


 まさか、そんな訳はないだろうが。


 ヤオ・ワンは困惑しつつも、目の前で暴れ続けてる何かを見続ける。


 魔法にしてはどうも発動時間が長すぎる。

 最初は、何かしら魔法研究の失敗でこんな事になってるかと思ったが、それにしては何かがおかしい。

 ここまでの惨状を引き起こすような魔法なんて発明できるのか。


 ヤオ・ワンはじっと見続け、やがてそれが二人の人間であると気付く。

 小柄な一人が、大柄な一人を一方的に吹っ飛ばし続けている。

 ある意味やってる事は、小さな子供がボールを蹴っては追って、蹴っては追ってを繰り返しているような構図だ。


 だがその力は、今までヤオ・ワンが築いてきた常識を粉々に粉砕してしまうものだった。


「人間があんな動きをする…………?」


 あまりにも非常識な動き。

 あまりにも非現実的な光景。


 我が目を疑いところだが、見れば見る程、それが間違いなく人間であると分かってしまう。


「というかあの人影は……まさか…………」


 いや、そんな訳はない。


 ヤオ・ワンは頭を振る。


 自分はあの男に勝った。


 ならば、あの男は自分よりも弱い筈だ。


 確かに動きそのものはヤオ・ワンよりも速かったかもしれない。

 だが、目の前の影の動きはそういう次元ではない。

 影は、完全に自分とは違うステージに立っている。

 いや、そもそも人類とは根本的に異なるステージに立っている。

 あの男とは比べ物にならない。


 紛う事なき化け物。


 にもかかわらず、どうしてあの男の顔がちらつくのか。


 圧倒的な光景を前に、ヤオ・ワンは苛立ちを覚えつつも、ただ茫然とするしかなかった。



 ◆



「まいった……降参だ…………許してくれ……」


「謝罪は?」


「すいませんでした…………」


 一時間ほど吹っ飛ばし続け、ようやくムキンチの口から謝罪の言葉が聞こえたので、僕は攻撃をやめた。


 運動場はもはや原型がない。

 一応途中で照明の方にもバリアを張っていたので、暗くはなってないが、それでもちょっと暴れすぎて、見るも無残な惨状となっている。


 ムキンチさんの方は途中で何度も自己再生を行っていたので、人型を保っているが、それでもちょいと殴り過ぎたので、筋肉も萎み、全体的にしなびた茄子みたいな感じになっている。

 顔も腫れ上がったモノは別にして、だいぶ老け込んでいる。

 最初二十歳くらいだったのが、今は三倍の六十歳くらい。服が完全に破れ切って、ほぼ全裸のR―18版仕様だが、これだと全然嬉しくない。

 むしろR―18(グロ)版仕様だ。


 かなりの高速で吹っ飛び続けたのだが、どうやら相対性理論は適用されなかったようだ。

 あれは確か、速く動いてた方が時間の速度が遅かった筈だから。


 …………こんな事を考えるくらいだし、どうやら怒りも吹っ飛んでしまったようだ。

 まぁ、これだけ暴れ続ければ、怒りも吹っ飛ぶわな、と自分で自分に突っ込む。


 ボロボロのムキンチさんをほっといて、とりあえず運動場の障壁を解除しに向かう。

 最初三〇〇枚ほどあった障壁が今では残り一桁の枚数まで減っていた。

 それでも太陽の光は遮断しているのだから、この障壁はどれだけ真っ黒なのか。

 いや、戦い始めたのが既に夕方だったから、時間的に太陽自体が沈んでるか。


 そう思いつつ、障壁を解除すると、空は茜色のままだった。


 …………おかしい。たしか一時間くらい殴り続けたと思ったのに…………。


 どうやらまだ十分かそこらしか経過してなかったようだ。


 まさか…………これが本当の相対性理論…………?


 いやまぁ、殴る事に集中し過ぎたせいだろうけど。

 でも、集中したらむしろ時間は短く感じるような…………? 


 超有名バトル漫画のフリ●ザ戦で、星が爆発するまでの五分が異様に長かったりするし、超有名バスケ漫画の山●戦後半も凄まじく長かったし、これはもしかすると、そういうものかもしれない。


 まぁ、一秒間に百メートルを何度も往復するくらいの速さで動いてたら、そういう感覚になっても当然な気がする。

 時間が遅くなったんじゃなくて、思考速度が速くなってただけみたいな。


 それよりもこのぼっこぼこになった運動場をどうするべきか、考えた方がいいだろうか。

 個人的には誰にも見られてないうちにさっさと逃げようと思っているのだが…………ああ、そういえば、と。


 僕はここでヤオ・ワンの存在を思い出す。


 たしか右わき腹を吹っ飛ばされて、気絶してる筈だが、これは僕が寮まで運んでおくべきだろうか。

 もしも運んでる最中に目覚めたりしたら、すっごい面倒な事になりそうだけど。

 その場合はどうしたらいいだろうか。


「…………って、起きてるゥゥゥゥ?」


 運動場のバリアの制御装置のすぐ傍に半径一メートル弱の球体がぷかぷか浮いており、その中でヤオ・ワンがものすごい形相でこちらを見つめていた。


「…………あんた、これは一体なに?」


 僕は後ろを向いた。

 両手で耳を塞ぎ、しゃがみ込み、何も見なかった、聞かなかった事にする。


「おい、こっちを見ろよ」


 ドスの効いた声。

 泣きそうになりながら振り向くと、ヤオ・ワンがぶちギレしていて、めちゃくちゃ怖い。バリアも破れないのにとんでもない怖さだ。


 どうしようかと恐怖に打ち震えていると、


「おぃーっす」


 と、不意に声がした。

 声の方を振り向くとそこには先程ボコボコに叩きのめしたムキンチさんがやや疲れた様子でありながらも、ちゃんと自身の二本足で立って、歩いてきていた。

 顔も服も何故か元通り。

 全年齢版だった。


「んぉお、お疲れさま。いやぁ、まさかあんなコテンパンにやられるとはな。マジで手も足も出なかったわ。やっぱつえぇな、お前。ホント、オレと交尾してくれないか?」


「は? 交尾?」


「いや、できれば勘弁願いたいです。自分は、その、そんなチリチリのパンチパーマ」

 アフロは千切れて、元のパンチパーマに戻っている。

「の人には、あまり性的魅力を感じないので」


「あ、それ思ったんだけどさ」とムキンチさんが言う。

「そもそも、こんな風にしたのはお前だろうが。オレだって、元々はこんな髪じゃなかったぞ」


「はい? 僕にはそんな事した覚えはありませんが?」


「いやいや思い出せよ。あん時、お前が出した熱いモノが、オレを焼き焦がしたんだ」


「?」


「それに、お前、オレの中に入れただろ? オレの中で滅茶苦茶に暴れてさぁ。あんときの感触がまだ残ってんだけど」


 そう言って、ムキンチさんがお腹を擦る。


「…………」


 なんか、隣で聞いてるヤオ・ワンの視線が痛い。


 何かものすごい勘違いが起きてる気がする。


 ムキンチさんの登場で怒りが消えたかと思ったが、別の怒りが湧き出ている感じだ。


 とりあえずヤオ・ワンは無視して、ムキンチさんに返事する。


「まぁ、でもやっとで分かりました。そう言われると、確かにそういう事がありましたね」

 ムキンチさんの言葉で、ようやく彼女の正体が分かった。


 確かに、誤解が芽生えそうな表現ではあったが、彼女の言葉に嘘はない。


「ねぇ、色々と説明してほしいんだけど」


 ヤオ・ワンの殺気が色々と限界を超えてきている。


 僕は何とか誤魔化そうと思い、


「そ、そろそろここを離れません? いつまでもこんな惨状のグラウンドの近くにいたら、色々と面倒な事になりますよ」


「別によくね?」


「いや、よくないんですよ。人間は色々と面倒な種族なんです」


「ん? それってどういう意味?」


 ヤオ・ワンが怪訝な様子を示すと同時、突如、茜色に染まっていた筈の空が暗くなった。


 日没にしては、おかしな変化。まるで太陽が雲に隠れて、さっと日陰になったような感じ。


 見上げると、そこには暗くなった原因が飛んでいた。


「……り……竜…………ッ?」


 ものすごくデカい竜が空を飛んでいる。


 あまりの状況にヤオ・ワンは顔面を蒼白にして、口をパクパクさせている。


 どうやら怒りは、一時的にかもしれないが、吹き飛んだようだ。


 僕は竜を指さし、ムキンチさんに尋ねてみる。


「あれって、もしかしてムキンチさんの知り合いですか?」


「ん? ムキンチさんってオレの事?」


「あ、はい」

 そういえば僕が勝手につけた呼び名だったか。

「でも、名前も知りませんし」


「いや、別に人間の名前はないから、それでいいけどよ」


「なら今後もそう呼ばせてもらいます。それで、もう一度聞きますが、あれはムキンチさんの知り合いですか?」


「そうだよ」


 ムキンチさんが首肯する。


 それと同時に、竜が小さくなり、別の形態に変身して、落ちてくる。


 ショタッ、と落ちてきた元竜は、どこからどう見ても小さな男の子。


 シュタッ子だった。


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