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〇〇は誰だ  作者: 北崎世道
一章
29/43

試合後

 どうやらここは救護室らしい。ヤオ・ワンに負けたあと気を失っていた僕は、観客席にいたヒオカさんの手によって魔闘場備え付けの救護室に運ばれたようだ。


「お姫様抱っこで運ばせてもらったよ」

 とヒオカさんがどこか得意げに言う。


「ああ、どうも。ありがとうございます」

 一応、礼を言っておく。


 とりあえず、僕は負けたらしい。

 って事は、ボディガードの件は駄目だったという事だ。


「別にボディガードにならなくても、この学園の生徒である事には変わらないんだろう。それならそれでいいじゃないか」


 そう言われると、そうとしか返せない。


 でも、この敗北にはそれ以上の意味が出てきてしまっている。

 主にメタ的な意味で。


 物語上、ここで負けるのは今後の展開として致命的なミスだと思う。

 おそらく僕は主人公になり損ねたのだ。

 アドベンチャーゲームなら、選択肢をミスって、バッドエンドに向かってしまっている状況だ。


 現実的に例えるなら、志望校受験に失敗してしまったようなものだ。


 …………結構へこむ。お先真っ暗な絶望感。


「何をそんなに落ち込んでいるんだい? そんなにボク達のボディガードでいたかったのかい? どうして?」


「どうしてと言われましても……」

 ここでバッドエンドとかの話をしても仕方ないので「

 やっぱ、ヒオカさん達と疎遠になってしまうのが……」


「どうして疎遠になるんだい?」


 ヒオカさんが心底不思議そうに言った。


「ボディガードじゃなくても、ボク達はもう友達だろう? なら疎遠になる理由なんてないじゃないか」


「…………」


 僕は何を言うべきか分からなくなった。


 さも当然のように友達と言われて感激し、思わず目頭が熱くなってしまった。

 涙をこらえるのに必死で、うまく言葉が出てこない。

 一分前まであった筈の絶望感が綺麗さっぱり消えてしまっている。


「ああ、そういえば」

 と、ヒオカさんが手槌を打つ。

「意識が戻ったら、理事長先生のところに来てくれって、おばあちゃんが言ってたよ。ほら、ボク達が初めて出会った時に居たあのおばあちゃん」


 …………なんだか、ブルババが理事長である事を知らないような言い方が少し気になったが、僕はあえて流して、

「分かりました」と言った。

 感動が少し冷めてしまった。


「ひとまずボクは皆のところに戻るね。皆、試合の後片付けが大変だろうし」


 後片付けというと、僕が土魔法で作ったビッグマグナムの森だろうか。

 あんなものを年頃の乙女たちに片付けさせるのはなかなか罪深い行為だと思い、謝罪する。


「…………すいません。ご迷惑をお掛けします」


「いやいや、いい試合を見せてもらったんだ。安い観戦料だよ」


 ヒオカさんはそう言って救護室から出て行く。

 僕はその背中を見送った後、暫く休んでからブルババのところに向かった。



 ◆



 血が減っていたのでブルババのところに行くのは中々に骨が折れた。

 道中、何度も心が折れそうになり、ようやく理事長室前に辿り着いた頃には独りキックベースしてた時くらいに青色吐息。

 貧血だったので実際に顔は青かっただろう。

 いつものマホガニー製っぽい扉をノックして、返事が来る前に扉を開けると、デスクで書類仕事をしていた感じのブルババが手を止め、こちらを見てきた。


「やぁ、お疲れさま。残念だったね」


「そうだね」と僕は雑に返す。

「まあでも仕方ないよ」


「あんただったら、ヤオ・ワンくらい楽勝だと思ったんだがね。アタシの見込み違いかい?」


「うるさいな。本気でやって負けたんだから仕方ないだろ」


「本当に本気だったのかい?」


 なにやらブルババが疑わしそうにこちらを問い詰めてくる。

 実際、僕は本気を出していたので、そうだよ、と言うしかない。


 それを見て、ブルババがため息を吐く。


「それじゃ、ボディガードは諦めるかい?」


「まぁ、そうなるかな。彼女達と一緒の寮に住めないのは残念だけど、ヒオカさんとは友達になれたし、カナ・ニサンもボディガードの繋がりがなくても仲良くやっていけると思うから、別にいいさ。他二人は分かんないけど、全くの他人になる訳じゃないし」


 ヤオ・ワンについては最初から論外なので語らない。


「ほほぉ随分、前向きになったんだね。アタシはてっきり落ち込んでるかと思ったんだが…………ああ、ヒオカ・ニサンに励まされたか」


「察しが良すぎて腹立つなぁ、クソババア」


「相手を見抜くのが得意でね」


 勝手に疑問視され、勝手に解決されるのも癪に障る。

 しかもそれが正解なのだから、完全に見透かされてる感が出て、腹立たしい。

 そんなに僕は判りやすいか。

 それとも薄っぺらいか。


「判りやすいとは思うが、薄っぺらいとは思わないよ。複雑だと偉い訳でもないし。むしろシンプルな性格の方が個人的には人間性は深いと思ってる口さ、アタシは」


 確かにそれは一理あるかもしれない。

 突き詰めていくと、結局は人それぞれって結論に落ち着くから、それ以上考えないけど。


「ところで用件は?」


 少しわき道に入ったのを修正して、本題を尋ねる。ブルババは特に表情を変えないまま、


「あんたの方にないのかい? アタシに対する用件は?」


「あん? 用があるからって呼んだのはそっちでしょ?」


 ブルババは口端を歪め、軽く手を振ってから、


「ああ、そうかい。無いならいいんだ。無いなら。それよりアタシからの用件だったね。一つはボディガード関係解消の手続きの取ろうかと思ったんだが、ちょっとこれは様子見しておこうか。おそらくだけど、ヤオ・ワンの気持ちが揺らぐ可能性もまだゼロではないからね」


「あんまり希望はなさそうだけどね」


「もう一つはヤオ・ワンが二本目の剣を使いだしてから、あんたの動きが妙に悪くなったように見えた件について。あれは一体何だい?」


「いや、あれについては僕の方が聞きたいぐらいなんだけど」


 とは言いつつも、異世界チートの力をばらす訳にもいかないので、


「あれって一体なんなの? 明らかに普通の剣じゃなかったっていうか、ヤオ・ワンの意識とか消えてたよね? マジで何?」


「そうじゃなくて、あんたの動きが悪くなった件について聞きたいんだがね」


「ん? 動きが悪くなったって? そりゃ、あんだけヤオ・ワンが変貌すれば狼狽えもするよ。普通どおりに動ける方がおかしいでしょ」


 咄嗟の誤魔化しについては、我ながら良くできた方だと思う。

 実際、そういう気持ちは多分にあった。

 ただ、異世界チートの力が使えなくなった事の方が衝撃が大きかったんだけど。


「…………」


 僕の誤魔化しについて、ブルババは目を細め、何やら険しい顔でこちらを睨むけど、それ以上の追及はしてこなかった。


 ブルババの観察眼ならこっちの内心を見透かしてもおかしくないかもしれないけど、追及がなくてほっとした。


 ここでバレたらボディガードとかの件とかすっとばして、ここの学生である事自体辞めさせてもらう事も視野に入りそうだったから、本当によかった。


「まぁ、いいさね」とブルババは言い、

「とりあえず用件はそんなとこさね。とりあえず、さっきも言ったが、手続き関係については少し様子見にするから、後回しさね」


「本当にヤオ・ワンが考えを改めてくれると思う?」


「五分五分さね。あんたの本当の実力をきちんと見せたら、試合とか関係なしに認めてくれると思ってるさね」


「本当の実力って……試合中にちゃんと見せたんだけどね」


「さぁ、どうだかさね」


 全然、信じてくれてないようだ。


 異世界チートの力については、僕自身ほとんど把握できてないので、あまりあれこれ探られてほしくないのだけど。


 どうやらそんな簡単にはいかなさそうである。


 かなり面倒だ。


 僕は、これ以上ブルババと話すのは危険だと判断し、てかそもそもこれ以上話す事はないと思ったので、この場を後にしようとした。

 だが、部屋を出る際、突然ブルババの手から、


『ビィーッ! ビィーッ!』


 と音がしたので、流石に足を止めた。


「何だ、いきなり?」


「ああ、これはあの寮の警報だよ。誰かが、勝手に寮に入ったみたいさね。それも二人」


「え? 侵入者って事? 泥棒?」


「いいや。この感じは覚えがあるさね。前に一度、案内した覚えがあるさね。それに全然隠れる気配もないし、ただの客人だろう。別にほっといていいさ。なんだったら、あんたが用件聞いておくのもいいんじゃないかい? 今のところ全員さっきの魔闘場にいるだろうからね」


「後片付けの四人はともかく、ヤオ・ワンもか?」


「あのコこそ、今、一番動かないだろうさね。疲労困憊で救護室のベッドから動けない筈だから」


 救護室には誰もいなかった筈だが、と思ったが、別にあの規模の魔闘場だったら救護室が複数あってもおかしくないか、と思い直した。

 控室も複数あったし。


「そっか。分かった。それじゃ寮に行ってみるよ」


 そう言って、僕は理事長室を後にした。


 あれなら確かに侵入者に気付くなぁと思いながら。



 ◆



 未だヤオ・ワンが救護室から動けないという事は、僕が思う以上に僕はヤオ・ワンを追い詰めていた事になる。

 それについては嬉しくもあるし、悔しくもある。

 追い詰めた事自体は嬉しい。

 だけど、そこまで追い詰めておきながら、僕の方が負けたという、ヤオ・ワンとの根性の差が浮き彫りになった感じがして、とても悔しい。


 僕にもう少し根性があれば勝てたかもしれない。


 …………いや、ここら辺について考えるのはやめておこう。

 おそらく反省ではなく、後悔の類。延々と悪い思考がループするだけで、あんまり利にならない。

 むしろ悪い事ばかり。

 タバコと麻薬、あと童貞と一緒だ。


 こういう時は別の事を考えるに限る。

 普段ならそういう事すら思いつかないのだけど、今回は幸い考える事、てか気になる事がある。

 寮に来た客人についてだ。

 一体、誰が来たのだろう。

 前に来た事があるとブルババが言ってたから、怪しい人物ではないだろうけど。

 だとしてもコミュ障を拗らせて、一時期すね毛としか喋れなかった僕に、案内とかできるのだろうか。


 …………まぁ、なんとかなるか。


 異世界に来て、変わろうと決心して、実際色々と変わってきた僕だ。

 初対面の人に話し掛ける事だって、然程難しくない。

 少なくとも寮であいさつ回りをしてきた時と比べたら、全くこれっぽっちも緊張していない。


 異世界来たばかりの精神的高揚がなくても、こういう風に考えられるようになったのだから、我ながら随分と成長したと思う。

 人間ってきっかけがあれば意外と変われるものだ。

 変わろうって意志を持ち続ける事と、責任を相手に擦り付ける精神を捨て去れば、意外とね。


 ちょっとした事で得意げになって虚空に向かって手前勝手な持論を展開する悪癖はまだ治ってないけど、これも少しずつ治していこうと思う。

 やはり意志。

 強い意志は全てを解決する…………!

 あ、あとネットミームを多用する癖も。


 貧血で一苦労しながらもなんとか寮に戻り、そしてブルババの言ってた客人らしき人物を発見する。

 寮のロビーで寛いでいる。


 見覚えのある人だった。


 見覚えのない人だった。


 一人はサムさん。

 家具屋の店長。

 正直、今、僕が一番会いたくない人である。


 家具壊しちゃったし。


 ただ、顔がすごいぼこぼこになってる。

 原型がないくらい。

 たぶんアレだとまともに前も見えないだろう。

 筋肉がなければサムさんだと気付かなかったくらいだ。

 そういう意味では、見覚えのない人とも言える。


 もう一人は正真正銘見覚えのない人だ。

 初めて見る顔。

 妙齢の女性だ。

 強気そうな眉と目が整った顔をやや悪そうな雰囲気にしている。

 人によっては魅力度アップと言うだろう。

 簡単に言うならヤンキー系の姉さんみたいな雰囲気。


 姐さんの方がこちらを見つけ、ロビーにあるソファーから腰を上げる。


「どうもこんにちは。もしかしてだけど、キミがゴンベー君かな?」


「え? あ、はい。そうですけど」


 名前を知ってる事はサムさんがいるから驚かない。でも、


「そっか。会えてよかった。実はキミに話があって来たんだ」


 流石にこっちは驚いた。


 まさか僕の方に話があるとは。

 サムさん関係ならヒオカさんに話があると思ったのだけど。


「ほら、あんた。言う事があんだろ」


 姐さんはそう言って、サムさんを立たせて、尻を蹴った。


 サムさんはデカい身体を震わせながら、こちらに向かって頭を下げた。


「この前は本当にずびまぜんでじた……」


 大の大人が身体と声を震わせながら謝っている光景は、なかなかにドン引きである。


「…………えっと?」


「話は聞いたよ。どうやらヒオカとこの馬鹿に無理やり家具を買わされたんだってね? 美人局みたいな真似はやめろって言ってんのに。うちの旦那は何度言っても学習しない。だから直々にこっちから謝りに来たって訳さ。いやぁ、時間が掛かって悪い。気付くのに遅れてしまったんだ」


「あ、はい」


 雰囲気から察してはいたが、やはり姐さんはサムさんの奥さんだった。

 サムさんみたいな強面なら、これぐらい強気な女性じゃないと相手にならないのだろうか。

 ものすごく尻に敷いている。顔面ボコボコにしたのもこの人だろう。


「お金は返すよ。なんだったら返品対応もする。良かったら、キミの部屋に案内してもらえないかな」


「…………あぁ、その……」


 ものすごく親切な対応ではあるけど、今回に限ってはその親切さが痛い。

 胃がねじ切れそうだ。


「うん?」 


 僕が言い淀んでいると、ナチュラルに圧力を掛けてくる。

 たぶん姐さんにそういう意図は一切ないのだろうけど、僕みたいなクソ雑魚メンタルの持ち主には、そういう態度だけで僕は、凌辱前の姫騎士だってもう少し粘るだろうってくらいの早さで屈してしまう。


「すいませんでしたぁっ!」


「あれ? サムさんと義姉さん?」


 僕が土下座すると同時に、ヒオカさんと他三人が寮に帰ってきた。


 これをナイスタイミングと言うべきかどうか。


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