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『異世界転移の真実』と『彼女の覚醒』。





目が覚めるとそこには見知らない天井があった。


そして妙に嗅覚を刺激してくる臭い。

血腥さだ。


それに気づいて慌てて身体を起こそうとする。


何だか重く感じる身体を必死で起こし、辺りを見渡す。


特に血腥さの源になるようなものは見つからない。




目の前には同じように目を覚ましたらしい二人が見えた。


「おはよう怜奈」


そう言って竜矢の身体の方に話しかける。


「俺、竜矢な」


「ちなみに私が怜奈よ」


「えっ、は?それってどういう……」


「起きてね、妙に身体が軽いなって思ったの。そしたらね目の前に竜矢の身体があってね。ビックリしたんだけど。互いにお互いを認識し合ってね」


「もしかして、元の身体に戻っとる……?」


「うん。そうみたい」


「えっ、なんで?なんで急にそげんこと……。ゲフンゲフン、そんな事になっとる……」


方言を誤魔化そうとしてまた方言。

そんな虎鉄を見て笑う二人。


「いいじゃない。今更普通に話されても逆に違和感あるし『自分を偽らなくてもいい』でしょ」


「そうだぞ〜。『ありのままで良いんだ』だろ」



寄りにもよって李紗を励ましたあの時の台詞を引用してからかってくる二人。


「あーもー!二人とも覚えときい!」


「「あっははは」」


そんな調子で自分の身体に戻れた事を喜びつつ目を覚ました三人。



「そういえばお前ら二人、少しだけ髪の色変わっとらん?」


虎鉄が違和感に気づいた。


「えっ、そう……?気づかなかった」


「あー、でも確かに怜奈の髪少し緑っぽく見えるな。俺の髪の色と同じだ」


「そういう竜矢は私の髪の色になってる。少し茶色い」


互いに髪に触れ合う二人。


「虎鉄も李紗の髪の色よね、それ。濃いめの紫色」


途中で虎鉄の頭に視線を移してそう言った怜奈。



未だ起き上がる程度にしか身体を動かすことが出来ない三人が、そんな話をしている時。そこでようやっと一人足りない事に気がつく。


「李紗はどうしたんやろ」


「もしかしたらまた一番に目覚めて何処かであたふたしてるかもしれないな」


「何処かで蹲って泣いているかもしれないわね。心配だわ」




「ここどこなんだろうな。ま、一つしか無いけど」


「そうやね。ここは……」


「多分だけど、アレクサンドリア城内よね」



「俺、今この身体って事は身体強化も可能なんかな」


そう言って身体に雷を纏わせようと試みる虎鉄。


「多分無駄よ。私も同じような事思って自分の身体に回復魔法を掛けようとしてみたけど、失敗したわ」


「俺も。杖があれば、なんて思って剣の精製を試みたけど同じだった」



そんな二人を無視して行使し続けていた虎鉄は。


「おっ、出来た」


出来てしまっていた。


「「は……?」」


「んじゃ、ちょっくら誰かに起きたこと知らせてくるけんな」


二人の唖然とした表情を軽く流して出ていった虎鉄。



そして、李紗が師匠と呼んでいた人を見つける。


「おーい!レーさん!」


「リーだ!あれ、どうしてここにいる……?ああ、そうか元に戻っているのか。すまない、君は虎鉄君でいいんだな」


「ああ、俺が虎鉄だ!」


「そうか、目覚めて良かった。本当に」


少し思い詰めるような、何かを憂いるようなそんな顔を見せた彼だったが、すぐに元の顔を見せる。

そして先輩方を寝室に連れて行きつつ、現在の身体の状態、ようは動けない以外は元気だと伝えた。



「なあ、李紗はどうしたん?」


虎鉄がリーにそんな事を訊ねる。


「……」


リーは答えない。


「おい!どうしたんかって聞いとるやん!」


「……実は……」



「事情は私から彼等へ話します」


「はい。お願いします」



寝室に神々しさを持った女性が入ってきた。


血塗れの服を着て。


「さて、一応初めまして。私の名はルナアーク・フォン・アレクサンドリア。この国の女王を任されているものです」


「女王様……!?」


「なんでそんな人が俺達に……」


「さっきの一応っていうのはこの身体で李紗と会っとるからか?」


「それもありますが、私は以前に貴方達に会ったことがあります。その話もきちんとします」


「そんなことより……」


「李紗さんの居場所、ですよね。彼女は今、この城の集中治療室にて治療を受けています」


「は……?」


「えっ、どういうことだ」


「なんで李紗が……もしかしてその血は」




「全て、お話します」



そう言って女王は虎鉄達が倒れた時の話から目を覚ますまでの話をしてくれた。



--------------------




【李紗】が【虎鉄】を抱え、先輩二人が【怜奈】と【竜矢】を運んだ。


「こっちです!」


リィリスの案内で寝室へと向かった【李紗】達。


触れている【虎鉄】の身体は異常に冷たい。

彼我の身体を温めようと微量に電気を流してみる。しかし、帰ってくるのは冷たい体温。

温まることはない。


倒れた三人を寝室にあった六つのベッドのいずれかに運び込み寝かせる。

寝てるだけのはずなのにそれはまるで……。



気を遣ってくれたのだろうか。

【李紗】だけを部屋に残して居なくなっていた皆。

そこで彼女は【虎鉄】の手を取り、部屋に響き渡るほどの声で泣き叫んでいた。




翌日、心配を掛けたお詫びと手伝ってくれた礼を皆に伝える。

当初、『刺客からの攻撃ではないか』と誰しも疑った。辺りを警戒し、厳重に調べた。

しかし何も見つからず、且つ倒れた彼らから外傷が見つからなかったがために刺客の線は消えた。



『また自分だけ無事なんだ』と考えずには居られなかった。



それからも何をするでもなく、皆が眠っている寝室にいた【李紗】。『たとえ何かあっても私が守りますから安心してください』とだけ告げて引き篭った。

丸一日、食事も睡眠も取らずに皆がいつもみたいに目を覚ますのを待っていた。


そこに『コンコン』と扉を叩く音がした。


慌てて目元の雫を拭う。


「……どうぞ!」


「失礼、します……」


返事をすると恐る恐ると言う風にリィリスが寝室に入ってきた。


リィリスは【李紗】の目元を見て彼女の心中を察すると。


「【李紗】さん。私、皆さんが今までどんな風に生活してきたのか興味があります」


気を紛らすため、だけではないが聞いてみる。


「うん、よかよ」


そう言って、【李紗】はポツリポツリと話して聞かせた。


抑えていただろう涙を零しながら。




「……と、こんな感じやね。私、【怜奈】の癪に障る事ばっかししてしまって怒られてばっかやったけど、皆と居て本当に楽しかったんよ」


泣いたり笑ったり忙しなく表情を変えて話す【李紗】だった。


けれどそんな【李紗】を気にも止めずに何かを考え込むリィリス。


「皆さんの名前。【比嘉虎鉄】、【相馬竜矢】、【丹下李紗】、【丹下怜奈】。やっぱり……」


「リィリスちゃん?」


「【李紗】さん。貴方に会って欲しい、貴方を会わせたい女性が居ます。明日時間を頂いてもよろしいですか」


「えっ、うん。いいけど」


「ありがとうございます。今日はもうお休みになってください。この部屋は誰かに頼んで守ってもらいますので」


「そんな、私が……」


「《スリプル》」


【李紗】がそう言って拒んでくることを悟っていたリィリスは睡眠魔法を掛けて彼女を眠らせた。


他のベッドに運び込み、寝かしつけ、リィリスは。


「おやすみなさい。【李紗】さん」


そう言って寝室を後にした。





「【李紗】さん起きてください!【李紗】さん!」


「んあ……」


目を覚ました【李紗】が最初に見たのはネグリジェ姿のリィリスだった。

リィリスは一度自室に戻ったあと、着替えだけ済ませ再びこの寝室を訪れ、【李紗】の眠るベッドに潜りに眠っていた、らしい。



「……よかった……」


「……あれ、リィリスちゃん。私、いつの間に寝とったん」


「寝てくださいって言っても聞かなそうだったので睡眠魔法を掛けさせてもらいました。中々起きないからやり過ぎたと思って焦ったんですよ」


「えへへ、ごめんね〜」


「それに、そうじゃないとしたら【李紗】さんも御三方と同じように……と。心配しました。なので起きてくれて良かったです」


「……ん、ごめんね」


明るい様子から一転、本当に安堵したように言ったリィリス。


三人が倒れた時、強くも冒険者達に指示を出していたリィリス。しかし、そんな彼女が明らかに冷静さを欠いていたことには気づいていた。

けれど、一番落ち込んでいた【李紗】のためにと気丈に振る舞ってくれていた。


もし、私までそうなっていたなら。


そんな事を思いつつ、リィリスに謝る。


「いえ、本当に良かったです」


そう言って寂しそうな顔を見せたリィリスを抱き締めた。

リィリスも【李紗】の腰に手を回す。

暫くの間、互いに身を寄せ合った。


「さて、じゃあ支度しましょうか」


「えへへ、そうだね」


一時の恥ずかしさを紛らわすためか明るめにそう言ってのけるリィリス。


それに笑顔で答える。



私が起きてるのにまだ皆が眠っているのを見るのは、あの時と今回で二度目やな。


そんな風に思いつつ、寝室を後にした。



着替えて、リィリスに案内されつつ向かったのは城の大広間。

そしてそこを通ってこの城で一番大きい居室へ。


「あれ、ここって女王様の……」


「はい、この国の女王。ルナアーク・フォン・アレクサンドリア様のお部屋です!」


「そっか。『会わせたい人』って女王様の事やったんや」


「はいです!」




そして大広間を通り抜けて大きな扉の前へ。


リィリスが「お連れしました」と声を掛けると綺麗な女性が扉を開けた。



「初めまして、と言うべきでしょう。我が名はルナアーク。一応はこの国の女王です」


「ん?どうして一応なんですか?」


曖昧な女王の自己紹介に疑問を持つ。


「女王様は今、国を守れなかったという責任から自信を失っておられるのです」


「なるほど」


すぐにリィリスが注釈を入れてくれた。



「アー……リィリス。良くぞこの方をここへ連れてきてくれたわね。ありがとう」


「いえ……、ありがとうございます」


ルナアークがリィリスを撫でながら褒めていた。そして褒められた彼女はすごく照れくさそうにお礼を返していた。


母娘の様だ。と、そう感じた。

それにしてはリィリスは甘え下手だけど。

けれど何となくそう思ったのだ。





「さて、本題に入りましょうか」


そう言ってルナアークが手を叩くと目の前に三体の召喚獣が現れた。


《ケツァクウァトル》、《ギルガメッシュ》、《エデン》


どれも最小化された姿だった。







虎鉄達四人をこの世界に呼び寄せたのはルナアークだった。


未来視の力を持っていた彼女は魔族が攻めてくることを知る。けれど、国内で私の話を信じるものは我が子達だけで、誰も信じようとはしなかった。


それはもしかしたら他の街や村の人達も同じかもしれないと、人間不信になり、結果、他所の世界の人間に頼ることにしたのだ。


『来たれ、異世界の物達よ』


そうして行使した極大召喚魔法。



しかし、途中で何者かの妨害を受けた。

自然、この世界に連れてこられようとしていた彼らは異空間を彷徨うこととなる。


身勝手な理由で連れ出しておいて、そのまま放置出来る訳が無い。


何とか再び召喚魔法を行い、彼らを助け出す。

結果、虎鉄と竜矢、怜奈は死亡しており、李紗だけは瀕死の状態だった。


まずは瀕死の李紗に慌てて蘇生魔法を掛けた。


「どうか、どうか死なないで……!」


だが、治らない。通常の蘇生魔法では間に合わないのか。


延命治療を続けながら、他の三人を見やる。


見た限り、まだ死んでからそんなに時間は経っていないように思えた。


何とか蘇生が叶わないものかと、考えついたのが。

召喚獣を分け与えて蘇生させる方法。


消えかけている魂の空白を召喚獣で埋め合わせ、身体にも召喚獣を一部を組み込むことで身体の再生を促すと共に魂と身体が相互に引き合うように仕向ける。

リジェネとアレイズを組み合わせた複合白魔法で治療を続けた結果。

魂の蘇生には成功する。

あとはそれぞれを結ぶだけなのだが。


傷が全く癒えない彼女。

もしかしたら彼女は他の三人とは逆。

魂は生きていて、身体が死んでいる状態なのかもしれない。


そう思い至って思い付く。


身体が死んでしまっている彼女に生きている彼の身体を、魂が生き返った彼に死んでしまっている彼女の身体を、と。


そうすれば両方に召喚獣の魔力が働いて上手く蘇生魔法の効果が及ぶかもしれない。


そうして李紗の魂を虎鉄の身体に。虎鉄の魂を李紗の身体に。


あとはきちんと魂が定着するまで様子を見ればいい。


成功だった。ただし、三人のみだ。



李紗の死んだ身体に入った状態で蘇生した【虎鉄】は意識自体は戻った。

けれど、相も変わらず治療が進まない。


『やっぱりダメなのか』と諦めそうになりつつ、歯痒い思いで回復系統上級白魔法 《ケアルガ》を繰り返し行使する。


そして、四日ほど経った日、治療が終わった。


今はスースーと気持ち良さそうに眠る【虎鉄】。


「良かった。本当に良かった」





「母上、例の召喚は上手くいきましたか?」


「いえ、失敗してしまいました。やはり難しいですね異世界からの召喚というのは」


グレーテルから聞かれるもなんと説明すればいいか分からず、咄嗟に嘘をついてしまう。

いや、召喚すること自体には成功しているが何者かからの横槍で死なせてしまっているという現状は半分成功、半分失敗なので全くの嘘という訳でもないのだが。



さて、グレーテルにああ言った手前、この城に四人を置いておく訳にもいかない。



ルナアークは魔法で彼らを辺境の村まで飛ばした。


「ごめんなさい。何とか生きて」




--------------------



「酷い話だと思います。勝手に呼びつけて、勝手に放り出して。【竜矢】と【怜奈】さんの入れ替わりに関しては私の手違いですし。それにおそらく今回この地に足を運んだ彼らが目を覚まさないのも……。全部私のせいです。ごめんなさい」


「けど、女王様がそうして奮闘してくれなかったら、私達は今頃死んでたんです。こうしてこの世界で生きることも出来なかったと思います」


確かに大変だった。訳の分からない事態に涙を流して挫けたことだってある。トイレにも困った。中でも上手く力が使えなかった私は皆の足を引っ張ってばかりで何度も何度も自分を責めた。強くなると決めて、師匠について魔法、剣、力の使い方を教えて貰って。ようやく足を引っ張らない自分になったと思えば、妹に歯痒い思いをさせてしまった。けれどそんな事も乗り越えて今がある。だからこそ妹と少し分かり合えた。



そしてそれはもし、死んでいたら叶わなかった事だ。


「ですから、ありがとうございます」


心からの感謝だった。




私は身体に《ケツァクウァトル》の一部を持っている。

【虎鉄君】は魂に《ケツァクウァトル》を宿している。

【竜矢】は身体と魂の両方に《エデン》を宿している。

【怜奈】身体に身体と魂の両方に《ギルガメッシュ》を宿している。


私は多分、【虎鉄君】の身体に居るからこそ生きることが出来ているのだ。




「眠り続ける彼らを覚醒させるには元に戻る必要が出てくる。貴方達を元に戻す事は可能です。身体から召喚獣を取り出して、それぞれの身体に再移植すればいいのですから。ただ、その場合……」


「はい、私だけは普通の人間に戻るんですよね」


「その通りです。そして、もしかしたら貴方は危険な状態に陥るかも知れません。【虎鉄】さんがこれまで何とかやってこれていたのは彼が上手く身体を使い、そして労わって来たからでしょう。今、元に戻った場合、貴方は死んでしまうかもしれない。もちろん、あの時やった事と同じ事を試みますが、貴方の場合は成功する可能性が著しく低い。そして、もしそれをしなかった場合、今後、彼らが目を覚ますかどうか分かりません」



ある意味死の宣告だった。

そして、脅迫でもある。


元の身体へ戻れば私は死ぬかもしれない。けれど元の身体に戻らなければ彼らはこのまま目覚めないかもしれない。




「やっと皆が元に戻れて、やっと本来の身体で皆と一緒に過ごせるんです。もし可能性が低くても、私はそうなりたい。私は皆で元の身体に戻る方を選択します」


「そう」


「そして、そうなれたら。私はやっと【虎鉄君】に気持ちを伝えられるんです」


「……そう、好きなのね。彼の事が」


「はい……。だから、必ず生きてみせます」


「分かったわ。私も貴方の蘇生に全力を注ぎます。だから、どうか諦めずに生きることを願ってください」





私はそんな事情をギルドの先輩方に説明して回った。

『生きるつもりではいるけど、私は死ぬかもしれない』、『私の大切な仲間達をよろしくお願いします』。

そんな旨の挨拶と一緒に。



準備が整ったと連絡を受けて寝室に入る。


ベッドに横たわった後で、ルナアークから《スリプル》をかけてもらう。



私の意識はゆっくりと落ちていった。






以前と同じように、回復魔法をフルに行使しつつ取り掛かったルナアーク。


リィリスはそれを補助していた。


それぞれ召喚獣を召喚。

次に三人の身体から召喚獣の一部を剥ぎ取る。既に身体に馴染んでしまって居るものは吸収した。


そしてあとは、虎鉄の身体に《ケツァクウァトル》の一部を、竜矢の身体に《エデン》の一部を、怜奈の身体に《ギルガメッシュ》の一部をそれぞれ植え付ければいいはず。

問題は李紗だ。

李紗の身体と魂に何らかの召喚獣を宿して、虎鉄の身体から分離させ、李紗の精神を本来の身体に戻す。召喚獣には李紗の治療を促す役目を負ってもらわなければならないため、適正にあった属性を選ばなければならない。


『どの召喚獣がいいだろうか』と悩んでいるとリィリスが教えてくれた。

『虎鉄は李紗の身体を使っていた時、魔法石を介した魔法を得意としていた』と。


そして思い至った。

もしそれが魔法に適性がなかったからこその技術だとしたら……。


結論の末にルナアークが選択したのは無属性の《バハムート》だった。



それぞれの身体に召喚獣を移植する。


離れていた精神がそれぞれの身体に引き寄せられていく。

【虎鉄】は虎鉄の身体へ。

【竜矢】は竜矢の身体へ。

【怜奈】は怜奈の身体へ。


そして、【李紗】は李紗の身体へ。



そしてリィリスはすぐに李紗に蘇生魔法を掛ける。


ルナアークは四人全員に回復魔法を施しつつ、蘇生魔法に手を貸した。




そして


「ふぅー、ふぅー」

「かぁー、かぁー」

「すぅー、すぅー」


寝息が聞こえてきた。


それぞれ召喚獣を宿し直した三人は無事息を吹き返した。



「………んんんんんんんんんんッ!!!」


息を吹き返した李紗は苦しみ喘いだ。

左手で頭を押さえ、右手で身体を抱き蹲る。


「うぁぁぁぁぁぁぁ……ッ!いやぁぁぁぁぁぁぁ……ッ!」


生きている魂に召喚獣を宿したのは失敗だったか、と焦るルナアーク。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ……ッ!」


けれど、このままじゃ。彼女が痛みに耐えきれずに死んでしまう。



「がふッ……がはッ……」


多量の血を吐き意識を失う李紗。



いよいよ危ない。



身体にも限界が来ているのか節々から血が溢れている。



ルナアークの魔力も限界だ。

李紗の身体に負担を掛けぬように慎重に集中治療室へと移動させ、他の者に治療を任せた。


リィリスも手伝った。




--------------------





事情を聞いた三人は車椅子で運ばれて、集中治療室まで来た。


李紗は薄紫色の髪になっていた。

虎鉄の地毛の色だ。


そんな李紗は結界に囲われ、治療されていた。


身体に限界が来ているのだろう。夥《おびただ》しい量の血を流し、腕や脚などが今にも取れてしまいそうな程に垂れ下がっている。

口の周りにも大量に血が塗布されている。


「……覚悟はしておいて欲しい」


ルナアークは顔を歪ませてそんな事を言って部屋へと戻っていく。虎鉄が文句を言いたい気持ちを何とか留められたのは、フラフラな様子で歩く彼女を見たからだった。

相当に無理をして手を尽くしてくれていたのだろう。


虎鉄達は何も言えなかった。




「また一人で背負わせちゃったな」


「身体が元に戻れた事に浮かれてたけど、それが全部李紗のお陰だったなんて……」


「俺達はいつも、あいつに助けられてんな」



各々に悔しさを覚えつつ、ポツリポツリと零す。

今回ばかりは怜奈も何も言わなかった。言えなかった。


だって、もし李紗と同じような、『自分の生きられる確率は限りなく低い、けれど皆は助かる』か『自分はそのまま生きられて、けれど皆は助からない』という選択を迫られたなら。そんな状況に置かれたなら、躊躇いなく前者選ぶ。同じ選択をしていただろうから。


「李紗ぁ……、李紗ぁ……」


助からないかもしれない。

そんな事を考えては涙を流す怜奈。


「考えても仕方ないやろ!俺達は待つことしか出来んのやけん。李紗が目を覚ますのを待つしかないやん……」


「うん、ごめん。ごめん……」


「虎、どうどう。イライラする気持ちは分からなくないけど、当たるのは違うだろ」


「そう、やな。ごめん怜奈」


待つしかない。何も出来ないことが腹立たしい。そんな思いから八つ当たりをしてしまう虎鉄。



自分達をここに連れてくる途中、ルナアークに言われたことを思い出す。


『彼女は元に戻れたら、貴方に気持ちを伝えるんだとそう言っていました』


そんなの、他人の口から聞きたくなかった。



慌てた様子でクラウディアがやって来た。

魔獣討伐組に参加していたはずだが、誰かが呼び戻してくれたのだろうか。


彼女は虎鉄達には目もくれず慌てた様子で治療室に駆け込んだ。



そうして様々な手を施した。


彼女は白魔法のスペシャリストであり、唯一再生・復元の魔法を行使することが出来る天才だった。


李紗の脆くなっている身体に魔法を行使する。壊死しかかっている筋繊維と皮膚を再生させ、それぞれを復元する。魂と身体を定着させるための補助として彼女の身体に持続的な《アレイズ》を付与する。

《ケアルガ》の回復も同時並行で行う。


いずれも並の冒険者には出来ない芸当だった。



しかし、それでも李紗は目を覚まさない。


怜奈は声を上げて泣いた。







元々の依頼だった魔獣の討伐に関しては先輩方がきちんとこなしてくれた。




俺達は何も出来ない悔しさと自分達を元に戻してくれた李紗の為と先輩方の指導の元、城外でリハビリを始めた。

リハビリという名の復興作業だを。


毎日をある意味ハードに過ごし、何とか身体を動かせるようにはなっていた三人だった。


一人については今まで使っていた魔法石での魔法の扱いに雷撃を加えての特攻という荒業を繰り出せるようになっているし、成りたかった職業に関する力は使えないものの、二人も今まで別の身体で磨いてきた技術についてはきちんと扱えていた。


だからこそもう今から新しく覚え直すより、今までの職業をマスターすれば良くないか、との結論に至った。

怜奈は聖騎士、竜矢は神聖女は嫌だと神使徒を目指すことにしたのだ。





そうして一週間程がすぎて。



リハビリを行っていた三人の元にクラウディアが顔を出した。


「峠は越えた」



そう告げた。

三人は慌てて李紗の眠る治療室に向かった。



「どうやって治した。あんな状態だった彼女をどうやって……」


リーはクラウディアに訊ねる。


「ルナアーク殿から《バハムート》を宿した召喚石を譲り受け、それを彼女の身体に浸透させただけ」


「『だけ』って。魔石に宿る魔力を身体に浸透させるなど、本職がやってもそう易々と出来るものでは無いというのに。ましてや召喚獣が宿った召喚石を……。そんなことより、そんなことして彼女は大丈夫なのか?」


「いずれ竜化するかもしれない」


「……」


「けれど彼女を生かすにはこれしか無かった」


「彼らにもそれを……」


「後ほど伝える」


「そうか」


有り得ない蘇生法に愕然とするリー。


「クラウディア。弟子を助けてくれてありがとう。感謝する」


「ああ。私も彼女を救えて良かったと心から思う」



リーは頭を下げて感謝した。


クラウディアは疲れ果てた顔で優しい顔をした。






何だか、身体が軽く感じた。


あれれ、ここはどこなんだろうか。


確か、私は学校に居たはずなのに、どうして知らない場所で寝ているんだろう。


傍で私の手を握って眠っているこの白金の女性は誰だろう。


っていうか、こんな綺麗な髪の人いるんだなあ……。


あ、起きた。


目元ゴシゴシしてる、可愛い人だなあ。


「おはようございます」


「えっと、おはよう、ございます……。あっ、皆を呼んでこなくちゃ……」


慌てて出て行っちゃった。


皆。皆って誰だろう。


怜奈と竜矢かな。あとは……。


誰だっけ。


何となく顔は思い出せるんだけど、名前が出てこない。

ごめん。なんとかさん。



「李紗!」


「うわっ、怜奈。どうしたの。っていうか名前呼び……?」


「李紗ぁ……李紗ぁ……。良かったよぉ……」


「えっ、ええ。どういうこと」







どうやら私は記憶を失っているらしい。


この世界は私達のいた世界とは全く別の世界で。私達はそこで今まで色々あって、色々経験しつつ成長してきた、らしい。


怜奈も竜矢も少し雰囲気が変わっているからそれは本当なのだろう。


そして彼、比嘉虎鉄くん。

ごめん、全く覚えていないんだけど、私は異世界召喚の日に彼と出会って、一緒に巻き込まれて。そしてここ一年半くらい彼の身体で生活していたらしい。

本当にどういうことなの。


かく言う私の身体にも違和感は沢山ある。


私はそもそもこんなにモノローグを話すような人間だっただろうか。

否、断じて違う。


それに耳が少し尖った。黒くもなってる。


なんだこれ。




分からないことしかなくて戸惑う。


何か記録映像みたいなのでここに来てから今までを見せてもらえたり出来ないかな。




あ、比嘉くんって人、気が利く。

本当に映像っぽいもの用意してくれた。


そして見てみたわけですが。


意味が分かりません。

比嘉くんって人、全然ダメじゃん。ダメダメじゃん。

皆の足引っ張ってばかりだよ。


あ、そこはこうしないと!あ、ダメだって!



あれ、そういえばこの比嘉くんの中身って私なんだっけ?


ダメなの私じゃん。何やってんの。



一年間くらい皆で修行したんだね。

あ、比嘉くんもとい私、凄い強くなってるじゃん。


でも突撃技って……。しかもなんかポ〇モンの《ボルテッカー》みたい……って本当にそう呼んでるんだ。マジか。


うへえ、怜奈と大喧嘩。

そんなに家壊しちゃって大丈夫かな……。


酔っ払うとこうなるんだ私。っていうか今気づいたけど方言……。


なにこれ、何処の方言だろ。関西か九州?



えっ、三人とも一度死んでいるってなに、どういうこと……。



なるほど……?

取り敢えず死んで無くなっていっている部分を召喚獣っていう怪物の力で補完してるわけだ。


皆元に戻って、私は身に余る怪物の力を抑え込めず、死にかけていた。



そして目を覚ましたら今の私でした、と。


なるほどなるほど。



これがファンタジーってやつだね。




私は事実を確認しても受け止められません。


寝ます……!


おやすみなさい……!

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