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『姉妹喧嘩』と『新たな旅路』。





【虎鉄】達のホームはダリ村の外れにある。

ギルドが冒険者達に貸し出している格安の一戸建て物件。ただし、作りは頑丈になっている。そこは冒険者向けの物件としての仕様だそうだ。

ロフト付き2LDK程の間取りで本来は一人又は二人で住むための広さしかないのだが、そこに四人で住んでいる。


「住む家は安く済むほうがいいだろ」


とは貧乏性の【虎鉄】の提案だ。

【竜矢】は姉妹二人を慮って「もう一軒あった方がよくないか?」と提案するが却下。


【虎鉄】は「【李紗】が俺の身体で何をやらかすか分からないから傍に居てくれた方が安心する」と、理由を述べる。


本当はそんな事を微塵も心配していないし、寧ろ【李紗】が【虎鉄】の身体を労わっていて、傷が付けばすぐにでも【竜矢】に回復魔法を頼んでいたりと大事にはしてくれていることは知っていた。

ようは、照れ隠しだった。


四人で一緒に居たかったのだ。






「この分からず屋!」


「この自己犠牲野郎っ!」


「私は私で自分なりに皆の役に立てるようにって頑張っとるだけ!それは何も間違っとらんやろ!」


「だからって自分がどうなってもいいなんて、そんなのは違うでしょ!」


さて、そんな四人のホームは現在、雷で覆われていた。

そして床に墓標のように立てられた複数の剣等の武器。


そしてそこには顔を歪ませてぶつかり合う女(身体は男)二人。

家の耐久性を考慮せず落雷を放つ姉、そんな姉に短剣を投げつけつつ、怒りに任せて思い切り剣を振り回し、衝撃で壁を叩き壊してみせる妹。


そんな姉妹の様子を呆然と眺める男(身体は女)二人。


「考えてなかったけどさ、これ家の修理代どうすんだ」


「何も考えるな、何も」


【竜矢】がそう零して、【虎鉄】が無心になる。



「私は、幼い頃から【怜奈】の陰に隠れて守られてばっかりやった。そんな私はもう嫌やけん!だから……!」


「だから?だから今度は自分が私の身代わりになってやるって!?自分が過去にされて嫌だって思ってた事を今度は自分がするんだ!なんなの!なんなの、ほんと!」


「違う!『どちらかが』やなくて一緒に互いに守りあって行ければいいと、そう思っただけ!だって私達は姉妹で仲間やけん……」


「だったら……!そう思うんだったら、そんな捨て身の技を多用するのやめなよ!師匠直伝の技だかなんだか知らないけど、その技は私が知ってる【李紗】の性分に合いすぎてるんだよ!不安になるんだよ!未だに『死んでやる!』とか思ってそうで!だから私はそんな【李紗】は見たくない!!!」



【李紗】は身体に【怜奈】から受けた数箇所の傷を抱えつつも、身体に雷を纏い戦っていた。傷に雷が触れて火傷のような痛みが走っていた。

その上、雷系統上級魔法 《サンダガ》を多用しては魔力を消耗していた。既に限界は近かった。【怜奈】が奥の手として所持している魔剣 《ラグナロク》を使ってていたら死んでいただろう。


【怜奈】は《雷耐性》の装備のお陰で何とか凌いいでいるものの、その装備を既にボロボロ。絶大なダメージを追っていた。麻痺して硬直している身体を無理矢理動かしつつ、大剣を奮っていた。

身体にガタが来ているのか、剣の重さがいつもの数倍に感じられ、戦いにくかった。剣を百本以上も生成したため、魔力があまり残っていない。こちらも限界だった。【李紗】が奥の手である《紫電》を行使して戦っていたならば、既に危なかったかもしれなかった。


お互い本気で戦いつつも、必殺の一撃だけは使わない。

お互いにお互いの力をぶつけ合い、『殺し合い』という名目で喧嘩をしているだけ。


本当に殺し合おうとしている訳ではないように思えた。

それどころか、初めてのちゃんとした喧嘩らしい喧嘩に笑みを浮かべている二人。


自らの身体が限界だと知りつつも戦い続ける。


「そろそろ止めに入るか」と【虎鉄】が動いた、そんな時だった。



『バゴッ』という音と共に、家の扉が蹴破られた。


「お前ら、何をしている」


ギルドのマスター、レオナルド・ルーが我が家に乗り込んで来たのである。



二日酔いのまま目覚めてみれば、朝から『隣の家から凄い音がする』、『近くで落雷が起きた』、『何処からか剣が飛んできた』、『隣の家、あんなにボロボロだったかしら』等々、口々に話しているのを聞いたレオナルド。

試しに外に出てみれば、なんということでしょう、一軒の家屋が雷を帯びているではありませんか。


それをやりそうな者達に心当たりを付け、且つそれが当人達が住む家だと知っていたレオナルドは尋ねてきたわけである。



限界ながらも気を張って戦っていた二人は、レオナルドの登場に気が抜けたのかお互い向き合う形で倒れた。

【怜奈】は【虎鉄】の方に視線を向けると申し訳なさそうにしながら、そのまま気を失った。

そして、そんな【怜奈】の言わんとする事を理解して『しまった、事後処理を丸投げされた』と肩を落とす【虎鉄】。

【竜矢】もそれに気づき、【虎鉄】の肩に『ポンッ』と手を置いた。



「さて、改めて伺おうか。何をしていた」


二日酔いも相まってか機嫌がすこぶる悪そうなレオナルドもといギルマス。


「えっと、ちょっと姉妹喧嘩が始まって。それで……」


ギルドの人間には入れ替わりの件について説明しているため、姉妹と言って理解してもらえたはずだ。


「ほう、喧嘩とな。雷雲の異常発生を起こして落雷を放ち、周囲に被害の出るレベルで地面に亀裂を作り、格安とはいえ頑丈に作ってあるはずの家をここまで破壊してみせた。これが喧嘩の範疇で行われた事だとは末恐ろしい。あの最弱パーティがここまで成長するとはな」


最後に褒めてはくれているが、ギルマス全力の皮肉である。



「すみません。多分【怜奈】を煽ってしまったのって俺なんですよ。んで、今朝本気で喧嘩するって言い出して。身体は【相馬】が直せるから問題ないってとこまでは考えたんですけど。それ以外に頭回ってなくて周囲の被害については考慮出来ていませんでした……。ほんと、すみません」


「俺はギクシャクしてた幼馴染み二人に何も出来ないって落ち込んでて。だからこれを機に二人がまた向き合えるようになれば、なんて思ってて。その辺の事は全く考えていなかったです。すみません」


昨日の夜、浅慮にも【怜奈】を煽ってしまっったのは俺かも知れないと思い起こす。

だからとは言わないが、その辺の事を考えれていなかったのは俺の落ち度だ。


【相馬】は幼馴染みとしてただただ二人を心配していたのだろう。そして、だ。何も出来ず見ているだけだった事に後悔しているのかもしれない。



「事情は理解したとは言えないが、まあいいだろう。実はなこういう事は良くあるんだ。特に宴会を開いた次の日にはな。それでお前達もそうなのかと思ってみたが……。何やら複雑な事情があるみたいだな」


先程のような鬼の形相とは違い、今度はこちらを気遣うようにポツリポツリ話してくれるギルマス。

普段は優しい人だけど、怒らせると怖いんだよなあ……。


「まあ、あれだ。あの二人の乱闘を女性の身体してるお前らに止めろとは言わん。だから次に同じようなことがあれば気軽に呼んでくれ」


それだけ言い残して踵を返すギルマス。

そんな姿を眺めつつ、とりあえず今からやらなければならない事を考えていると。


「あ、言い忘れてたわ。家の修理費、近隣への迷惑料等は次の依頼報酬から引くからな。それだけだ、じゃあな」


ギルマスが戻ってきて、満面の笑みでそれだけ伝えて、彼は再び帰途に着いていた。


「なあ、【相馬】。この家って買うと幾らなんだろうな」


「俺が知る訳ないだろ」


「だよなあ……」


「「はあ…………」」


ギルマスが残していった『給料から天引きするから!』という発言に頭を抱える。


そして俺と【相馬】は、同時に溜め息をついた。




兎も角だ、諸経費に関してよりも、まずはこの疲れ果てて眠るように倒れている二人をなんとかしなければならない。


それに喧嘩をした事で本当にお互いに通じ会えたか。

まあ、それは目を覚ました後の二人の心境次第だろう。



【相馬】と協力しながら、男二人の身体をロフトまで運んだ。


自分本来の身体が凄く重くなっている事を知った。少なくとも転移してすぐはもう少し痩せていたし、軽かったのだ。

それは紛れもない、ここ一年の【李紗】が努力のしてきた結果なのだろう。



ただでさえ、女性の身体に慣れつつあるのに、自分の本当の身体は以前とは比べ物にならないくらい鍛えられている。

元に戻ってからはリハビリが必要そうだ。


「「これ元に戻った時大変そうだよな」」


多分、【相馬】も同じようなことを考えたのだろう。

綺麗にハモった。



壊れた家で【相馬】と二人、『直せるとこは直しておこう』と片付けをしていた。

分担作業だ。


まずはギルマスが破壊した扉から始め、床に刺さっていた武器類を回収。そこで床が脆くなってしまっている事に気が付き、本棚の残骸を使い修繕。床に散乱していた本は大半が燃えてしまっていたのでやむ無くゴミとして処理した。



そうこうしているうち四、五時間経っていたらしい。


【怜奈】が目を覚まして降りてきた。


「私のわがままで迷惑掛けちゃってごめん」


開口一番それだった。


「満足したか?」


「少しだけ。【李紗】が一応は『互いに守り合う』って思ってくれていたらしいことが分かったから」


「それな、お前達母娘が変わろうと決めて変わり始めたあの日から、ずっと思ってたんだよ、あいつ。ただ、それがこなせなくて結局お前に守られてたから、お前は気づけなかったのかもしれないけど」


「えっ、そうだったの。けど、だったらそれを伝えてくれたら良かったのに……。【李紗】、なんで……」


「思っても結局、守られる自分でしかなかったから伝えられなかったんじゃないか?」


「なるほど。『私じゃ怜奈を守れないからそんな偉そうな事は言えない』か。確かに李紗が考えそうね」


『一緒に隣を歩いていきたい』、思うのは簡単だったがそれを実際に行動に移すことが出来なかった。だからそれを伝える自信も持てなかった。けれど、今なら出来るからと実行して、別の意味で失敗して。けど伝えることは出来た。


そしてそれを聞いた妹も、一応は納得していた。



「多分だが、お前らはもうちょっと自分の気持ちを伝え合うべきだと思う」



結局、この姉妹の溝は自らの気持ちを相手にきちんと伝えられるかそうでないか、そこにあるのかもしれない。


「ええ、そうしたいと思う」


そんな無愛想な返事で返される。

なんだかなあ。



「そういえばさ、【李紗】の事、『お姉ちゃん』とは呼ばないんだな。今朝のは、てっきり頭にキテたからそうしてただけだと思ってたんだが」


「仲間として生活するのに姉妹って関係は邪魔に思えてきちゃって。姉だ妹だって考えるとね、私も【李紗】も変な劣等感を持っちゃうし、殊更お互いの為にって思うだろうから。『姉なんだから妹を守らなくちゃ』とか『妹なんだから姉を助けなくちゃ』とかね。それが叶わないと私達挫けちゃうんだし、ならいっその事そんな柵(しがらみ)無視しちゃえばいいやってね」


「なるほどな」


「他人事みたいに言ってるけどそれは、【比嘉君】だって同じだよ。私達はもう仲間なんだから。だから【李紗】だけじゃない。【比嘉君】も同じ。もし【比嘉君】が自分を大事にしてくれないなら、私は怒る。『自分を大事にしろ』って伝わるまで伝える努力をする」


「そうか、分かった。そうはならないと思うけど、その時は頼む」


「うん。だから、よろしくね【虎鉄】」


「ああ、よろしく【怜奈】」



名前を呼ばれることに少し照れつつ、答えた【虎鉄】。



仲間でいるために『姉妹』という枷を捨てた【怜奈】。そして怒ってでも仲間を大事に思ってくれる彼女を見て思ったのだ。


強いな、と。

優しいな、と。

逞しいな、と。


--------------------


男の子は、わんぱくだった。


木に登っては枝を持って帰ってきて、「剣だよ!」とはしゃぐお転婆さん。そんな彼は他の男の子と木の棒を振り回して特撮の真似事をした。

保育士さんに注意されても、枝を手放すことはしなかった。


「もっと先生の言うこと聞きよ!それに木の棒は危ないけん振り回さんの!他の子に当たったらどうするとよ!」


そんな日の夜は大抵母親に叱られていた。


ある日のこと、母親が手紙らしき何かを読みながら涙を流していた。


男の子は母の元に寄って、それを見た。

が、当然男の子に読める物ではなく、けれどしっかりと見ていた。


そんな子を母は思い切り抱き締めて泣き続けた。


「まま、なかないで」


そう言って母親を慰めようと試みる。


「ごめんね、ごめんね」


けれど、泣き止むことは無かった。



小学生に入学した頃だった。

偶然にも母が大事に残してあるその手紙を見つけてしまった。


「……は…しい……と…しくやっている。…いがもう……は……さないでくれ」


漢字が読めない小学一年生の男の子が解読出来たのはここまでだった。


それからだった。

毎日毎日、母は辛そうだった。



そして、男の子が小学二年生になるという頃。

先生に褒められて、少し上機嫌で帰宅した男の子は見た。


首を吊って死んでいる母親の姿を。



--------------------


また、夢を見ていた気がする。

今度は以前の温かさを含んだ夢ではなく、悲しい寂しい夢だった。


多分これは、【比嘉君】が本当のお母さん、雅(みやび)さんと過ごしていた時の夢。

今も頭から離れない。

帰宅した我が家で、彼女が首を吊っていた光景。


起きてすぐだが、気持ち悪くなって慌てて部屋から飛び出した。


「おろろろぉぉぉぉぉ……」


トイレに行くと口から吐瀉物が溢れ出した。

昨夜食べた料理らしきものまで出てくる出てくる。

そして、胃液しか出てこないまでに全てを吐き出してもまだ嘔吐いていた。


「げほっ、おえ……」


ようやく少し吐き気が収まるも、喉が痛い。

身体も怠かった。

なのでトイレで蹲っていた。



夢の内容を思い返していた。


雅(みやび)さんが読んでいた手紙の内容。


「今俺は新しい家族と楽しくやっている。悪いがもう手紙は寄越さないでくれ」


相手に何通も何通も送りつけて、やっと返ってきた返事がそれだったのだ。



それから日を重ねる毎にどんどんやつれていった雅さん。


多分この時に彼女の姉、優(ゆう)さんに何かを言われてしまったのだろう。


自ら命を投げ出した。



その光景を思い出して、再び吐き気が来る。


「おええぇぇ……」



【李紗】の目覚めは最悪だった。




真っ青な顔のままトイレから出た。そしてそこで何やら作業をしていたらしい【竜矢】を見つけた。


【竜矢】も【李紗】に気づく。


そして慌てて状態異常回復魔法《エスナ》を施した。

しかし、あまり効き目は無かった。


「おい、大丈夫なのか【李紗】」


「うん、これでも少し落ち着いた方なんよ」


明らかに大丈夫じゃない様子でそう言った【李紗】に【竜矢】は怪訝な顔を向けた。


『【怜奈】が怒るのはこういう所に対して、なんだろうな』と。


「いや、大丈夫じゃないだろ。明らかに顔色悪いし、身体だってフラフラしてる。寝てる間に何があった」


「えへへ、本当にもう大丈夫。ちょっと悪い夢を見ただけやけん……」


「それは【虎(とら)】の記憶か」


「……うん。【比嘉君】のお母さんが辛そうに生きて、そして最後には……うぷっ」


「もういい!思い出すだけで吐き気を覚えるなら無理に思い出さなくていい!」


「……げほっ、ご、ごめんね」


「無理はしないでくれ……。もう少し寝とくか?」


「いや、いいよ。多分な、寝てもまた同じ夢見るだけやし。あと寝坊してしまったけんさ、【怜奈】待たせとるやろ?ちゃんとお話せんと本気で戦った意味無いやん?」


「ちゃんとその状態の事も話すんだぞ。あ、そうなった理由については俺から話すから考えなくていいからな」


「あんがと〜、【竜矢】」



身体の覚束無い、そんな【李紗】を支えつつ。一緒に居間に向かう二人。


そんな二人の姿を見て、慌てて駆け付ける【虎鉄】と【怜奈】。

そこで心配を掛けぬようにと、笑ってみせた【李紗】。そんな彼女を見て【竜矢】が溜息をつき、代わりに状況を説明する。


「……とまあ夢の内容はこんな感じだったらしい」


「うっ……」

「うぷ……」


【虎鉄】と【李紗】。二人同時に口を抑えた。

やはりこの話題は避けるべきだったか、と【竜矢】は少し落ち込む。

【怜奈】が二人の背中を指すって落ち着かせた。


「もう大丈夫、ありがとう【怜奈】」


「悪い、助かった」



「そっか、そんな記憶まで見てんのか。俺自身もその辺は朧気なのに」


「うん。【比嘉君】のお母さん、すごい辛そうやった。それでも懸命に【比嘉君】の事、育ててくれとった」


「そっか」


「うん、【比嘉君】を愛してくれたのはお義母さんだけやなかったんよ」


「……ん、ありがとう」


【虎鉄】はそんな【李紗】の言葉で、少し昔のことを思い出して、目を潤ませた。

ありがとう、お母さん。



しばらくしんみりした空気が続いたものの、少し遅めの夕食の準備を始めたところ、御生憎様、食器が全て粉々になっていたため、仕方なく外食することになった。



そんな道中、敢えて【李紗】と【怜奈】を二人にした。


最初は無言が続いていたが次第にポツリポツリと話し始めていた。



「ねえ、【李紗】」


「あ、まだ名前呼びなんやね」


「【虎鉄】から聞いた。昨日言っていたあれ、昔から思ってたんですってね」


「あれって……、『互いに助け合って』ってやつ?うん。思っとったよ。えっ、っていうか名前……。『虎鉄』って……」


「……なんで言ってくれなかったのか。何となく想像は出来る。それでね、【虎鉄】と結論付けたの。私達は何でも話し合うべきだってね」


「それは分かったけど。何で、名前呼びなん?」


少し目が怖くなる【李紗】さん。

そしてその視線をゆっくりと【虎鉄】の方へ。



「それは俺から話そう。【怜奈】はな……ごがが」


と代わりに説明を始めたところで【怜奈】に猿轡を噛まされる。


「【虎鉄】がね、どうしても名前で呼んで欲しいっていうから呼んでるの」


「……!!!」


「ごがげ、げぎごぐがごご(お前適当なことを)……」


猿轡を噛みつつも何かを喋っている【虎鉄】。何を言ってるのか全く分からないが。


「羨ましかったら、【李紗】も呼べばいいじゃん」



「…………」


しばらく黙った【李紗】。


しばらくして意を決したように顔を上げる。


「え、えっと、じゃあ。呼ぶね。こ……、こて……、『こてちゅくん』!」


「噛んだ」

「噛んだな」

「がんがが(噛んだな)」



「【こ・て・つ・く・ん】!」


「はい、よく言えました」


「もう!【怜奈】!」


ポカポカと【怜奈】の胸を叩く【李紗】。



その後、きちんと話をした。

姉妹関係についてとか仲間としてとか。



「ん、分かった。私は【怜奈】の姉、じゃなくてただの【李紗】になる。これでいい?」


「……本当に分かってる?」


「分かっとるよ。姉妹だからとかやなく、仲間として互いを……ってことやろ?」


「分かってるなら、いいけど」




そしてお店に到着。

皆で各々好きなものを頼んだ。


「色々あったが、心機一転してこれからも頑張っていこう。乾杯!」


「「「乾杯〜!」」」


と、それぞれの杯をかち合わせる。




そしてやいのやいのと騒ぎながら食事を取り、酒を煽った。

今日くらいは、と。



「私はもっと強くなりたいとって!」


「【李紗】はその前に戦い方工夫しなさいよ!」


「それが出来たら苦労せん!」


師匠直伝の脳筋スタイルが見事に受け継がれていた【李紗】だった。


「違う師匠に教え直してもらいなさい!」


そしてそんな現状に起こる【怜奈】。


そういうやり取りだったり。


「……ぐすっ、【虎鉄君】。辛かったねえ……。頑張ったねえ……」


と、【虎鉄】を撫でる【李紗】。

そんな【李紗】に少しドキッとする【虎鉄】だったり。


「『恋人』という関係は解消したけど、私は【竜矢】の事誰よりも大好きだから。それは忘れないで……」


「ああ、俺もだよ」


(酒のせいもあるだろうが)顔を真っ赤にして見詰め合った二人が、互いの気持ちを確かめて笑い合っていたり。


「んで、【李紗】はどうなのよ」


「え……、どうって……そんな……」


「早くしなきゃ、私が取って食っちゃうから」


もちろん、そんなつもりは毛頭ない。


「な……!【怜奈】には【竜矢】が居るやん!」


「確かに【竜矢】の事は大好きよ。けど【虎鉄】は【竜矢】とは違う魅力を持ってるし、私【虎鉄】の事も好きだし〜?」


『仲間として』が付け足されるが。


「……えっ、そんな。私、【怜奈】に勝てるとこなんて……。どうしよう……、【怜奈】に【虎鉄君】を取られちゃう……。……ぐすっ」


「ごめん!冗談だから。【李紗】にだってちゃんと【李紗】の魅力はあるから!だって現に……」


とコソコソ話ではあったが、【怜奈】が煽るように話題を飛び火させた結果、【李紗】が大変なことになっていたりもする。



「俺、早く【怜奈】に身体を返してあげたい。やっぱ姉妹の絡みだと分かっていても傍から見たらBL……」


「やめろ、それ以上言うな」


二人を眺めながらそんな事を思う男性(身体は女性)二人。


「……俺だって自分の顔見て気持ち動かされてんのが気持ち悪くて仕方ねえんだよ……」


「ん?なんか言った?」


「いや、何もない」



結構長い時間騒いでた四人。


「私、次の仕事が終わったら新しい武器買わんとやん」


不意に、【李紗】がそう零した。

イフリート戦で剣が折れてから、まだ新しい物を誂えて居なかったのである。


「あ、私も【李紗】との喧嘩で壊れた装備を修理してもらわなきゃ」


「………」


そして【虎鉄】と【竜矢】はそんな二人に気まずげな表情を向けた。



「あ、それなんだが……」


「「……?」」


「多分、次の仕事収入ゼロだ」


「え、どういう事」


「ほらさ、ホームボロボロになっちゃったじゃん?それの修繕で……」


「あ、私達が壊したけん……」


「……もしかして今朝レオナルドさんにそう言われたの?」


「ああ」


「修繕費と近隣への迷惑料を報酬から引くってさ」



呆然と縮こまる姉妹二人。

【李紗】の頭の中では金額計算が成されている。


「なるほどね。でもそれって……」


「私達のせいやん!だったら私達の分からだけ引けばいいやん……」


「仲間なんだし、家族なんだから。気にすることねえよ。『助け合う』だろ」


「そうだよ。止められなかったし、何も対策出来ていなかった俺達にだって責任はあるんだ」



申し訳ない気持ちを抱えつつ、二人に同意した。



「じゃあせめて迷惑料だけは私達が払うわ!」


「うん!そしてちゃんと謝らんと!」




取り敢えず話はまとまり、いい時間だからと店を出る。



皆酔っ払ってフラフラだったので『手を繋いで帰ろうか』という【怜奈】のお巫山戯発言を了承し、四人で手を繋いで帰っていた。


内二人はルンルンと楽しそうに、内二人は顔を真っ赤にして照れくさそうに。



そして帰り着くと着替えを済ませて四人で仲良く(?)居間で寝るのだった。




翌日。


「なんで皆ここで寝てるの」


と、一番に起きた【怜奈】が皆を叩き起した。



【怜奈】は酔うとその時の事が記憶に残らないタイプらしく、ご飯を食べて終わった辺りから記憶がぼやけているらしい。



「おはよう【怜奈】。お前記憶残らないタイプなのな」


「昨日、あんだけ騒いどったのに」


「ってことは、俺と気持ちを確かめ合ったことも覚えてないのか」


「何の話?」


【虎鉄】はそうかそうかと納得する。

【李紗】は少し残念そうに不満を漏らす。

【竜矢】は四つん這いで落ち込む。



「あ、話し続ける前にちょっと待ってくれ、吐きそう」


「そういえば私もや」


「俺もだ」


そして皆二日酔いを起こしていた。


「ほんと、皆どうしたの?」


確か、【怜奈】も同じくらいには酒を煽って居たはずなのだが。


酒に強いが、記憶に残らない。

割とタチの悪いタイプだった。




そんな一悶着あり、【李紗】と【怜奈】で近隣への謝罪参りをし、ギルドに顔を出す。



「「本当に、すみませんでした!」」


レオナルドに頭を下げる。


「流石、律儀だな。他の冒険者達は当たり前のようにやらかすから、こんな風に頭を下げに来る奴はお前達くらいだ」


『お前達もこのくらいしてくれたらいいのだが』と期待を込めた鋭い眼差しでギルド内を見渡しながらそう言ったレオナルド。


冒険者達が肩を震わせていた。



「さて、報酬から徴収するとは言ったが、取り止めにしよう」


「え!」


「ほんとですか!」


目を輝かせて言う二人。


「ああ、代わりに依頼を受けてもらいたいのだ。上級冒険者達に同行する形でな」


「……は?」


「うむ、我がギルドには珍しい隣国からの依頼でな。どうも魔獣の総統に力を貸してほしいとの事だ」


「それで、なんで俺達に?」


「『上級冒険者並に力のあるもの』という条件があったのだ。そしてウチには上級冒険者はそう多くない。そこでイフリートを討伐せしめたお前達なら大丈夫だろうと思い、声を掛けたまでだ。それに今回の依頼にはリーとクジャとベルクーリ、それにウチの娘もおる」



「なら、大丈夫やね!」


「【李紗】が一番不安なんだけどね」


「もう、【怜奈】は本当に心配しいやなあ」



「分かりました。受諾します」



そうして、【虎鉄】達四人は師匠ズ含む上級職の先輩方と一緒に隣国アレクサンドリアまで向かうこととなった。

取り敢えず、費用の心配は無くなったので、ある程度、回復用アイテム等も忘れずに購入。それぞれの装備品を怜奈が調整する。





「じゃあ、行くか」


先輩方との集合場所へ。



アレクサンドリアを目指しての旅が始まった。



【怜奈】が【李紗】の師匠であるリー・アルマスに『あなたのせいで姉が脳筋になりました!』と文句を言っていたり。

そんな二人を『あわわわ……』と止めようとしてあたふたしている【李紗】だったり。


【虎鉄】は召喚石の扱い方をクジャから教えてもらっていたり。

【竜矢】はその外見と話しやすいらしい雰囲気から先輩方にチヤホヤされたりと。


比較的騒がしい旅路を歩んでいた。




そしてそんな道中の事だ。


山の麓を進んでいると、魔獣に追われている一人の少女を見つける。

剣をぶら下げては居るがおそらく扱えないのだろう。

剣を引き抜く素振りすら見せずにひたすら逃げ続ける少女。


すぐさま【李紗】が雷を纏って助けに行った。


「あ、またそういう!」


【怜奈】が不満を口にする。


そして魔獣を瞬殺した。


「放っておけんくて、つい……」


「はあ……そういう事にしといてあげる」


【李紗】を糾弾していた【怜奈】だったが、もう諦めるしかないのか、と言わんばかりに溜息をつきながら言った。





「私はアー……。いえ!リィリス・クレセリアと申します!助けていただいてありがとうございます!」


リィリス・クレセリアと名乗った少女。

第一印象は『お姫様のよう』だった。

綺麗な白い肌に美しく輝く銀の髪。


名前宜しく、月のような子だと四人は思った。

そして、【怜奈】は思った。

なんだか李紗に似ているな、と。


どうも彼女はただの少女でない気はする。


【虎鉄】がそう思って『どこに住んでいるのか』と尋ねる。


「アレクサ……いえ!少し離れた辺境の街です!」


すると彼女は分かりやすすぎる返答をした。


「なあ、君の家はアレクサンドリアにあるんだろ?なんでこっち方面に走ってきてたんだ?」


と秘密にしていてるのだろうことを考慮して小声で話掛ける【虎鉄】。


「うぅ、実はアレクサンドリアが大変なことになっていて。それで母上が大変そうで。私も何か出来ないかなって」


「そっか。なら丁度良かった。俺達も今からアレクサンドリアに向かうとこなんだ」


「……!もしかしてお兄様が呼んだ救援の方?」


「その『お兄様』がかどうかは分からんがな。なんだったら一緒に行くか?」


「はい!そうして頂けたらありがたいです!」


「よし、決まりだな。俺の名前は【虎鉄】。比嘉虎鉄だ。よろしくな」


「……ヒガ・コテツ。独特な苗字と名前。もしかしてだけど貴方はお母様が召喚された……」


「ちょっと待って。先輩達に事情を説明してくるから」


話している途中で先輩方が寄ってきた。


「おっ、その子どうしたんだ?」


「いえ、彼女が魔獣から追われていたので助けてあげたんです。行先も同じようなので俺達が同行しようと、提案していたところです」


「そうか。よし同行を認めよう」



ギルドの先輩方が次々と魅了され、リィリスに声を掛ける。彼らのあまりに必死な様子に、【虎鉄】達はそこに加わることは出来ない。ので、後ろからそんな様子を眺めていた【虎鉄】だったが、ふとリィリスと目が合った、ような気がした。『助けてください』と。


『すまん。少しの間だけ我慢してくれ』


そんな事を心の中で呟きながら合掌する。




それからも魔獣を狩りつつ道を進んだ。



何度か野宿もした。


皆で火を囲って笑い合って、互いを鼓舞し合って。

リィリスはそれに一喜一憂して。



そうして少しずつ少しずつ目的を目指して。一行は一月と経たぬうちにアレクサンドリアに辿り着いた。



酷い有様だった。


城塞都市として有名だったはずのアレクサンドリア。

今は城だけを残して全壊していた。


悲しげな目をするリィリスを【虎鉄】が支え、一緒に城へと向かっていた。



そして。



城の大門をくぐった途端、【虎鉄】、【怜奈】、【竜矢】が意識を失って倒れた。



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