『四人の再会』と『姉妹のすれ違い』。
一年後、四人は再会した。
再会した際、【李紗】を除く三人は元の世界-ガイア-での記憶を取り戻していた。
何がそうさせたのかは全くの謎だったが。
【李紗】は泣きながら喜んでいた。
それそうと、だ。
【李紗】は見違えるほどにきちんと魔法を扱えるようになっていた。そしてそれだけでなく魔法を自らに纏う応用技まで身につけていた。
何故か、騎士並に剣術も学んでいた。
【李紗】の担当に抜擢された男はそれはもう、バリバリの脳筋人間だった。
「魔法はただただ、敵を攻撃したり疲弊させるためのものでは無い。こんなことにも使えるんだ」
そう言ってその人、リー・アルマスは腰から短剣を引き抜くとそこに炎を纏わせてみせた。
「おお!すんごいですね!」
それに見惚れてしまった【李紗】。
そして真面目な彼女は根掘り葉掘り教えて貰っていた。
『どうすればそんな繊細に魔法を扱えるようになるりますか』、『それって剣だけでなく、例えば身体強化にも応用出来ませんか?』、『私、魔法の扱いがてんでダメで……』
と、最後には相談にも乗ってもらった訳だが。
まずは魔法の正しい扱い方から教えて貰った。つい昔の癖が出て頑張り過ぎてしまった【李紗】は二ヶ月もしない内にきちんとした魔法の扱い方を身につけた。今までの天然魔女っ子(身体は男)が嘘のようだった。
そして残りの十ヶ月ほどは応用に時間を注いだ。
リーの真似をして剣に纏わせる練習から始めたものの、剣の扱いがなっていないと指摘を受けた彼女は剣の扱いを習得し、見事雷を剣に纒着させてみせた。そしてそれが出来たのならと、次は身体に雷を纏わせる練習を始めた。無理が高じてぶっ倒れることも何度かあったが、リーに助けられつつなんとか成し遂げたのである。
実はリーが見せたそれは祓魔師なら誰もがやってみせる行為で、祓魔師への昇格試験の課題でもある。
ただし、皆、これの習得には数年を掛けるし、これが出来ずに諦めて中級職に居座る者も多数いる。
だからこそリーは驚いた。
当初全くと言っていいほど魔法の扱いに慣れていなかった【李紗】が努力と興味だけでやってみせ、しかも身体強化の応用にも成功したことに。
もし、彼がギルドの明確な職員だったのならば、その場で【李紗】の上級職昇格を認めてくれたかもしれない。
そんな風に逞しくなって帰ってきた【李紗】を三人は笑顔で抱き締めた。
「よく頑張った」
と。
それからそれぞれの力試しを兼ね依頼を受ける。
中級職向けの依頼としては一番簡単なもの。
そう、中級向け版蟹クエだった。
当然、一年の間に成長したのは【李紗】だけではなかった。
【虎鉄】は魔法石から精霊を召喚し、以前よりもド派手に魔法を使えるようになっていた。使える魔法の幅も増えている。
炎系、雷系、氷系魔法を使いこなし、神族は何故か使うことが出来ないらしい《フレア》《メテオ》などの黒魔法も一部覚えていた。
ただし、【虎鉄】自身に魔法の適正は全くないため、魔法石が無くなるとほぼ無力になってしまうが。
【竜矢】はあれだけ嫌がっていた回復系白魔法をマスターしていた。ただの回復だけでなく、リジェネなどの常時回復魔法、レイズ系の蘇生魔法、そして以前一番得意としていた混乱、睡眠、麻痺、などのデバフ系白魔法と攻撃魔法ホーリーの習得していた。
剣を振るうことに忌避感を覚えていた【怜奈】も短剣のみならず投剣から細剣、大剣までなんでも扱える様になっていた。
クナイや短刀、ダガーやククリ、レイピアやエストックも使い、更には二刀流までこなす。
剣ならなんでも扱える上、棒状のものならなんでも武器にできる。
もはや、武器はなんでもござれ、だった。
おまけに、鍛冶師ばりに剣も打てるようになっていた。
そんな成長が垣間見えたクエスト。しかもランクと共に難易度は上がっているはずなのだが。
一年前にあんなに苦戦したのが嘘のように瞬殺だった。
久々に食べた蟹の肉と蟹味噌はやっぱり美味だった。
【虎鉄】は指南してくれたクジャに言われていた。
『その腕なら召喚魔法も扱えるだろう』と。
「まだ上級職に昇格できていないのに使えるのか」と聞いてみたところ、『職業が絶対ではないんだよ』と目から鱗な事を言われたそうな。
確かに魔術士の【李紗】が剣を扱えるようになっていたり、そもそも忍術士系職業の扱う短剣や飛び道具武器の使い方を取得している【怜奈】もいる。
あまり職業に囚われる必要も無いのかもしれない、とそんな事を思ったのを思い出す。
「なあ、次の目的地なんだけど……」
そこで【虎鉄】はクジャに教えて貰った『召喚獣が眠っている祠』を目指そうと提案する。
「俺の都合で申し訳ないんだが……」
「そんな!寧ろ私のためにしてくれるんやけん、そんなこと言わんでよ!」
そう言えば、変わったことがもう一つ。
いや、思い出してみればいつからか始まっていたのだが。
【李紗】が訛るようになっていた。
それも【虎鉄】の地元訛りで。
【虎鉄】以外は生まれも育ちも東京という生粋の都会っ子なのだ。
にも関わらず、こう流暢に方言を話されると何かあるのだろうな、と考えざるを得ないだろう。
俯いて少し考え始めた。
もしかしたら、身体の持ち主から何かしらの影響を受けるのかもしれない、等々。
思えば、当初面倒見の良かった【怜奈】は少しずつ天真爛漫というか気分屋になった気がする。
【竜矢】は逆に騒がしく何ごとにも一直線だった印象から一転、周囲に気を配るようにもなっている。
【李紗】は自分の話す言葉が訛っていることに違和感を覚えてないようだった。
人が長年入れ替わりを続けているとこんなこともあるのかもな。
それ以上は考えても仕方ない、と強制的に思考を終えた。
「聞いとる?【比嘉君】」
そんな【虎鉄】が顔を上げると目の前に【李紗】の顔があった。
「あ……ああ、ごめん。ちょっと考え事してた」
「そっか。んでな【比嘉君】がその考え事しとる間にね、【怜奈】も【竜矢】も【比嘉君】の提案を飲んでくれたんよ」
「おう、そうか。ありがとう」
どうしてだろう。ただ、話していただけなのに。
無性に緊張してしまった。心臓が煩く跳ねていた。
「お姉ちゃん、あんまり寄っちゃ【比嘉君】が困っちゃうよ。お姉ちゃんは『そう』でも【比嘉君】はまだ『違う』んだから」
「な……!『そう』って何!?私、別に【比嘉君】の事そんな風には思っとらんし!」
「え〜〜〜」
自分の気持ちに戸惑い頭を抱える【虎鉄】とその後ろで言い合いをする姉妹。
【竜矢】は何かに納得したように「うんうん」と頷きながら【虎鉄】の肩を叩いた。
そんなこんな有りつつも目的地は決まり、『炎の洞窟』を目指す四人。
そこで待つのは召喚獣・イフリートだ。
上級職入りした冒険者が初めて挑むのが定番になっていたりもするらしい。中級職の自分達ではと不安に思う反面、なんとなし何とかなる気がしている四人。念には念を、と近くの街に寄って装備やアイテム、それに一応の為一泊して体調を整えておく。
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相馬竜矢は幼い頃から、周囲の大人に持て囃されて育った。
「かっこいいからアイドルにしてみてはどう?」
「この子のこの顔ならスターにだってなれるわよ」
容姿を褒められることが好きだった竜矢少年は、喜んだ。
「おかあさん、僕、スターになれるって!」
そんな竜矢の嬉しそうな様に隣に立つ母、愛華も笑みを浮かべる。
愛華はその為の事務所選びと応募書類等の用意に取り掛かった。
竜矢は事務所に行って幾つかの審査を受けた。
結果は合格。
そうしてとある事務所への入所が決まった。
レッスンを繰り返し行って。
少しずつTVやCMなどに出演し、役を貰えるようになった頃。
愛華から買ってもらったPCでネットサーフィンをする事にハマっていた。
当然自分の名前でエゴサーチを掛けたりも。
批判を見つけても最初は「まだ始めたばかり。これからだ」とそう思えた。しかし、二年経っても中々成長が見えない竜矢はどんどん堕ちていった。
エゴサーチしてみれば批判と誹謗中傷ばかりだった。
更にはどうやって特定したのか、住所まで晒されて、毎日毎日知らない人が冷やかしに来ていた。
ストーキングの被害にもあった。
幼馴染みの姉妹と歩いていただけでパパラッチの被害にも遭った。
家の外に出ることが怖かった。
そうして小学生半ばにして引き篭もりになった。
毎日毎日、アニメを見て、ゲームをして、漫画を読んで。
それで満足だった。
十三歳になった。
その頃から、幼馴染みの姉妹が変わった。
久々に会った李紗はよく笑顔を見せるようになっていた。怜奈の方は何だか不満そうだった。
「李紗は遊んでいる時間が勿体ない」とあまり居座らずにすぐに帰っていき、怜奈だけが残る。
怜奈が聞かせてくれた。
母娘の、そして姉妹の現状は凄く複雑にすれ違っていた。
そして何だか、自分が情けなく思えた。
折角相談してくれた幼馴染みに何もしてあげることが出来ない自分が。
それから彼女がこうして家に来ることが多くなっていた。
一緒にアニメを見たし、漫画を読み漁った。好きなアニメキャラのコスプレをしてくれるようにもなった。
依然、家から出ることを怖がっていた竜矢は日に日に笑うようになり、遂には引きこもりを克服した。
そして、彼女と付き合い始めた。
それから間もない頃。
「どうした……怜奈」
「たっくん。お姉ちゃんが万引きしてた」
「……は?あの真面目な李紗が……?」
そこから泣きながらポツポツと語る。
母も姉も自分を頼ってくれないこと。姉が何もかもを我慢してオーバーな生活をしていること。そんな姉が学校でいじめられていること。
そして自分が何も出来ないでいることを。
竜矢は自分が情けなかった。
幼馴染みなのに何もしてあげられないのか、と。
翌日、その事を愛華に相談した。
愛華はすぐさま丹下家を訪ねて姉妹の母親、莉亜と話し合いを始めた。
結果は芳しくなかった。
怜奈を家に呼んで話を聞いたりもした。
そして愛華は考えた。
莉亜は李紗の現状をどれだけ把握しているのだろうか、と。
それが中三の秋の事だった。
冬に入りいよいよ受験シーズン真っ只中に入る。
受験日前日。怜奈から李紗が倒れたと連絡を貰った愛華。慌てて駆けつけた。
李紗を入院させた後、病室から離れようとしない怜奈に「後で迎えに来ます」と伝えて病室をあとにする。
竜矢と愛華、莉亜の三人でご飯に行く。
そしてそこで怜奈から聞いていた事を愛華に全て話した。
莉亜は「そんなの知らなかった」、「何故話してくれなかったのか」と姉妹二人を責めるように言った。
愛華は頭にキテいた。
「貴方がそう仕向けてしまっていたのでしょ!」
つい、怒鳴り声を上げてしまうくらいには。
李紗の意固地も大概だが、それをそのまま良しとしてしまっていた莉亜も悪い。その上、怜奈が何かを言えば「それは李紗のためにならないから」と跳ね除けていたのである。
愛華から事情を聞いてそれを自覚した莉亜は「あの子に謝らないと」とそう言うので愛華は彼女を病院まで送り届けた。
怜奈から聞いた話では。
目を覚まさない娘の元に毎日訪れては「ごめんなさい」と懺悔していた。
それは一週間続き、李紗が目を覚ます。
診察があったため、その日は李紗の体調面を考慮して帰宅する。
そして翌日、莉亜も李紗もお互いに自分に責任を感じて言い合いになり、あろう事か二人揃って『責任を取って死ぬ』と言い出した。
そんな二人の様子を見た看護師に呼び出された怜奈は二人に思いの丈をぶつけたのだと。
そうして何とか丸く収まった、と。
中学校に途中から通い始めたとはいえ、ある程度勉強をしていた竜矢。
成績的には問題無かったはずなのだが、当日は李紗の事が気になって試験に集中出来ていなかった。
結果は不合格。
滑り止めとして受かっていた私立高校に入学した。
そして。
「俺の名前は比嘉虎鉄です」
小さな声で自己紹介した彼と出会った。
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翌日、朝から街を出発し炎の洞窟へ。
中に入ってみるとそこはとてつもない熱気が篭っている場所だった。
取り敢えず厚着で来る場所ではなかった。
一度外へ出る。仕方なく必要な装備以外はストレージに収納し、ある程度身軽になった状態で再度中に入る。
それでもやはり暑いし、熱い。
【虎鉄】が氷系統中級魔法 《ブリザラ》を細かく器用に行使してパーティの周辺を囲んでくれているので多少はマシなはずだが、それでもやっぱり熱を感じるのだ。
当初の重装備のまま進んでいたらどうなっていたか……。
道中のモンスターを難なく倒し、道を進む【虎鉄】達。
最奥に到達。そこには扉があった。どうしてこの環境で燃え尽きないのかと一瞬考えたが、そんな事を考えている暇はないと直ぐに頭を切り替える
恐る恐るといった様子で扉に手を掛ける【虎鉄】。そして勢いよく扉を破壊した。
扉を開いて通り抜けた瞬間に彼我と相対するものだと身構えていた四人だった。
しかし、そこには何もいなかった。
「そんな〜!」
「どうして!」
「マジか」
「なんでなん!」
声を重ね、各々に落胆する。
もしかしたら、少し前に他の冒険者が倒してしまって。未だリポップされていないのかもしれない。そんな事を考える。
「イフリートちゃん、どこ〜?」
そんな所にいる訳ない、と思いつつも最奥の間のを探し回る【怜奈】。
「どこにおるんやろ、イフリート」
そう、嘆きながら【李紗】が広間の中央に足を踏み入れたその時だった。
突然と頭上から大きな炎石が降ってきたのは。
「え?」
いきなりの事に唖然とする【李紗】。
けれどそれを雷を纏い躱した彼女は即座に仲間の傍に戻った。
そして炎石が落ちた場所に目を向ける。
そこから卵から孵るかのように生まれい出る巨体の獣。
「イフリートおって良かった!」
場違いにも声を大きくして喜ぶ【李紗】。
その声が合図になったように、召喚獣・イフリートとの戦闘が始まる。
「やあああああ~!」
双短刀を構えながらイフリートに突撃する【怜奈】。敵の放つ《ファイア》に翻弄されつつも次の瞬間には装備を換装し、大剣を持って切り掛かる。
が、イフリートはそれを膂力で跳ね返した。
そこから隙を見出した【虎鉄】が氷系統上級魔法 《ブリザガ》を発動し串刺しにする。
そしてその氷柱を足場にして掛け抜けた【李紗】は自らの身体と自身の持つ剣に雷を纏わせると、刺突した。
【李紗】がそんな捨て身の技を行使でるは【竜矢】がタイミングを見計らい《リジェネ》を発動してくれたからである。
「《ボルテッカー》、上手く決まったな」
「その技名、恥ずかしいからやめて欲しいん」
先程の刺突攻撃、【虎鉄】命名の《ボルテッカー》だ。
某電気鼠が使う技なのだが、【李紗】はあまり嬉しくない。
《ブリザガ》と《ボルテッカー》のコンボが決まっても未だピンピンされているイフリートさん。
今ので【李紗】の剣はダメになってしまったが、そこは何の問題もない。なぜなら。【怜奈】が大量に剣をストックしてあるため、何本でも剣を借りることが出来るから。
【怜奈】はすこし複雑そうに新しい剣を渡した。
【竜矢】が逐一パーティ全体に回復魔法を掛けていたためそれぞれそこまで消耗はしていない。
再び《ボルテッカー》突っ込む【李紗】。
今度は《ボルテッカー》を決めつつ雷系統上級魔法
《サンダガ》を放った。
そして帯電してスタン状態になっているイフリートを、【虎鉄】が《ブリザガ》で凍結させた。
「これで終わり~~〜!」
【怜奈】が大剣でトドメ刺しにかかる。
刹那、凍結している氷に罅が入った。だが、【怜奈】は止まらない。
氷が内側から砕かれたのと、【怜奈】が大剣を振り下ろしたタイミングは同じだった。
大剣がイフリートの角を切り落とした。
「【怜奈】、躱せ!」
角を切られ、暴走状態に陥ったイフリートは【怜奈】を強襲しようと迫っていた。【竜矢】の声を受け、何とか避けようと試みるも足が地に着いていない彼女は体制を取り直すことが出来ない。
イフリートの腕が【怜奈】の腹部に到達せんとしたその時。雷が迸った。
そして【怜奈】の身代わりにと、【李紗】が強烈な一撃を受け吹き飛ばされた。
「……がはッ」
岩壁に叩きつけられ、吐血する。
「お姉ちゃん!!!」
慌てて駆け寄り、介抱する【怜奈】。
【竜矢】はそんな【怜奈】を引き剥がして【李紗】を治療する。
「《アレイズ》」
レイズ系上級魔法 《アレイズ》。
瀕死の者を半回復させる回復系白魔法の中でも強力な魔法。
魔法のおかげで何とか回復した【李紗】だった。
そして戦いに赴こうとして……、次の瞬間頬に平手を受けた。
【怜奈】からのビンタだった。
それだけして何も言わず、戦闘に戻る【怜奈】。
「……ごめん【怜奈】。やけどこれが今の私やけん」
「あとでゆっくり話し合えばいいさ」
呟くように謝る【李紗】。
横からやって来た【虎鉄】はそんな一言を零して、【李紗】の持つ剣に氷属性を属性付加した。
氷の魔力を帯びた剣を構えて《ボルテッカー》で突撃する【李紗】。
「はあああああああぁぁぁ!!!!!」
それがトドメとなり、見事イフリート討伐を果たした。
【虎鉄】は《イフリート》の召喚石を手に入れた。
中級職でありながら上級職向けの依頼を達成してみせた【虎鉄】達四人。
ホームであるギルドに戻ってみれば皆に歓迎された。
「すげえなお前ら」、「もう上級職並に力をつけたのか」、「おめでとさん」と祝ってくれた。
急遽、「パーティを開こうじゃないか!」とはギルドマスターの提案だ。
大量の酒と豪華な料理を用意せよ!といそいそと動き出す面々。
折角のそんな雰囲気をぶち壊しそうなほど、ギクシャクしている四人は。言い訳を残して一度家に帰ったのだった。
家に帰った俺達はそれぞれに荷物を置く。
「なあ、折角祝ってくれるって言うんだし盛り上げようぜ?」
【竜矢】である。
「お姉ちゃんが行くなら私は行かない」
【怜奈】だった。
どうも少し意固地になってしまっている。
【怜奈】がここまで怒っている理由について【李紗】の過去を知っている俺は何となく察していた。
自分を守るためとはいえ、自ら死にに行くような事をした姉の行動で昔を思い出したのだろう。
母親と『自殺してやる』とそう言い合っていたあの日を。
『やっぱり自分を置き去りにして死ぬ気なのか』
とまあ、そんな所だろう。
俺達三人は記憶が戻ったばかりというのが影響しているのか、割と過去の出来事に干渉されやすくなっていることは俺自身も気づいていた。
【怜奈】も多分それなんだろう。
「【怜奈】ちょっと二人で話してみないか?ほら、俺とお前って向こうでも絡み無かった訳だしさ。互いに挨拶がてらどうよ」
「何それ気持ち悪い。普通にお姉ちゃんの事で話があるって言えばいいじゃん」
俺を貶しつつも【怜奈】は乗っかってくれた。
二人でテラスに立った。
【相馬】は気を使ってくれたのだろうか、外に出て行った。【李紗】も気まずそうにそれに続いていた。
「お姉ちゃんが私を守ってくれたことは分かってるの。調子に乗ってトドメを刺そうとして。お姉ちゃんが助けてくれなかったらダメだったことくらい分かってる」
【怜奈】は俺が声を掛けるでもなく、ポツポツと零し始めた。
「けどねお姉ちゃん、壁に埋まって死にそうになりながらも笑って言ったんだよ。『【怜奈】が無事で良かった』って。もう、助けられた自分が悔しくて、死ぬことに迷いを感じていないお姉ちゃんが腹立たしくて……」
何となくわかる気がする。
以前はそもそも魔法が上手く使えなかったがために引っ込み思案を拗らせていた【李紗】だった。そんな【李紗】はきちんとした戦い方を覚えて帰ってきて、おそらくは『もう足を引っ張りたくない』『皆のために力を振るう』等を考えつつ戦っている。
『死んでも構わない』と思っているかどうかは別としても、自らの命を軽く捉えてしまっていることは事実だろう。
「多分だけど、【比嘉君】はお姉ちゃんの過去を見たんでしょ。あの時もそれでお姉ちゃんを励ましてあげたんだよね」
「ああ、見た。お前達がすれ違いながらも必死に思いやって生きていたことを知っている。あと、そのあれだ。【李紗】を立たせた時のあれな。今思うと凄い恥ずい。だから忘れて欲しい」
「ええ……、私はいいけど。私が忘れたところで当のお姉ちゃんは『一生』忘れないと思うよ」
「やっぱそうか……。うう」
記憶が無かったとはいえ、自分らしからぬ発言を堂々としていたことを思い出す。
『ありのままの自分』だとか『受け入れて貰えば』とか。
どの口が言うんだって今は思う。
「変なの〜。まあいいや。実は私達もね。互いの記憶を見ていたの。【たっくん】の過去の記憶。私、あの時期に【たっくん】が私達家族の事をあんなに気にかけてくれていたなんて知らなかったの。」
あの時ってやっぱり丹下母娘がギクシャクしていたあの頃のことだよな。
そりゃあ幼い頃は仲良さげだった幼馴染みの姉妹が一転、姉は独り相撲してるし、妹は存在価値を見失ったかのように気落ちしてるし。そりゃあ気にもなるだろ。
「だから今になるとね、私と付き合ってくれたのだって気を使ってくれただけなんじゃないかって思っちゃうんだ。えへへ、ごめん、話戻すね」
もちろんそれもあるかもしれない。
けれどそれだけではないと思う。
相馬竜矢という男にとって、自らの趣味を否定せず肯定してコスプレイヤーという趣味に興じてくれるようになった幼馴染みを好きになることは何もおかしくないはずだ。
そう思っても多分、俺の言葉じゃ伝わらないだろう。
そもそもそれは【相馬】が言うべき言葉であって俺が伝えてしまうのは間違いだと思う。
「多分、これからもお姉ちゃんはああいう戦い方をしちゃうと思う。この一年間の内に昔の無理しちゃう癖が少し復活しちゃってる気もするしね。【比嘉君】が名付けた《ボルテッカー》。あれはそれのいい象徴だと思うよ」
「確かに。自分の身を削りながら、敵に大ダメージを与える大技だもんな。今回だって【竜矢】の回復魔法があるからって連発してたしな。あれが無きゃ勝てなかったのも事実だけど」
「そう!だからそれが凄く悔しいの!あんな技を宛にしなければ敵を倒せなかったって事実がね。だからこそ祝いパーティというのも複雑な気持ちなのよ」
「なるほどなあ」
そんな複雑な気持ちを抱えながら戦い、更には身を呈して守られてしまったのだ。
これは根が深いな。
と少し遠い目をする。
これに関しては結局のところ本人同士が折り合いを付けるしかない。
「明日にでも【李紗】と話し合って……」
「それは嫌」
頭の中で出した結論の末に提案してみるも失敗。
うーん、どうしたものか。
「それはそうと、私【比嘉君】の過去に少し興味があるんだけど」
「え、なんだ藪から棒に」
「だって人に全て知られてしまっているのに、相手のことは何も知らないのって悔しいじゃん」
「あー、まあ。面白いもんじゃないぞ。そっちの家族並みには少し重い話になるし」
「うん、それでもね。聞く聞く」
それから俺は【怜奈】に語ってみせた。
死んだ母親のこと。義母になってくれた叔母のこと。母親と義母の拗れた関係のこと。二人を裏切った父親のこと。
「ごめん、ちょっと力んでしまった」
後半、怒りを混じえて語気を強めに語ってしまった。
その事をそそくさ謝る。
「いえ、それは良いんだけど。ごめんなさい。嫌な話をさせてしまったわね」
「いや、割と吹っ切れてる事だし、いいんだ」
「そう……。にしてもそれぞれの家庭に色々とトラブルが起きるものね。それが人間の性なのだとしたら少し悲しい」
「いや、良く考えれば大したことは無いさ。俺は義母さんから愛を沢山貰っていたんだ。父親のことは許せないし、憎んでいないと言ったら嘘になるけどさ。それでも俺は幸せだった」
傍から見れば児童虐待に数えられていたのかもしれない。けれど、それでも義母さんは俺を育ててくれていた。
こうして俺が生きていることがその証だった。
「ねえ、貴方の両親の名前、なんて言うの?」
「これまた唐突だな。何でまた急に……」
「いいからいいから!」
「はいい。義母さんは優。母親は確か雅だったかな。んで、父親は確か陸って名前で……」
「えっ」
俺の台詞を遮って、【怜奈】が驚愕の色で顔を染めた。
「どうした?」
「いえ、私の、私達の父親だった人の名前も陸だったから驚いちゃって」
「…………。そんな事ってあるのか。偶然出会っただけの、そして一緒にこうして転移してた姉妹。そしてその姉妹の元父親が俺の元父親と同じ珍しい読み方の名前を持っている。そんな事って有り得るのか」
たまたま、聞かせた身の上話。そこからとんでもない真実が飛び出そうとしていた。
もしかしたらこの姉妹は……。
いや、やめよう。
だからなんだと言うのだ。既にそれ以上の関係を作りつつあるのだから今更そんな事を考えたって仕方がない。
ただ、これを知ってしまうと色々と抱え込んでしまうだろう人間がいることを思い出した。
「なあ、悪いんだがこの事【李紗】には黙っててくれないか」
「ん、私も同じことを考えた。けど多分手遅れだと思うよ」
「どうして?」
「お姉ちゃんは多分、既に【比嘉君】の過去を見てしまっているからだよ」
「え……?嘘だろ」
「お姉ちゃんが少し前からどこの訛りだか分からない話し方するようになったじゃん。あれってもしかしたら【比嘉君】が以前住んでいた地域の訛りなんじゃない?」
「……そうだ」
「やっぱり……。多分【比嘉君】も薄々感じていたとは思うんだけど、【比嘉君】達や私達、段々色んな部分で互いに影響されてきているんだよ。んでね、何が言いたいかって、ほら。あのお姉ちゃんが丸一日起きなかった日があったの覚えてる?あの日からしばらくの間、お姉ちゃんは【比嘉君】と話す時少し気まずそうにしていたことを思い出したんだ。だからもしかしたら……ってね。訛りもあの頃からだった気がするし」
だとしたら。
もし【李紗】が【怜奈】のようにその事実に気づいてしまったら。
その時はもう、俺達は今までのような関係では居られないような気がする。
「やめ、やめ。やっぱ分からないこと考えても仕方ないよね。ごめんね、突然身の上話ばかりさせちゃって」
おそらく同じ結論に至ったのだろう。
軽く頭を下げると謝罪の言葉を口にした。
「別に、大丈夫」
「あー、なんでだろう。【比嘉君】には色々と話しちゃうんだよね。お姉ちゃんの顔してるからかな。それともやっぱり……。いやいやなんでもない」
「まあ、それらが関係あるかどうは別に気にしなくていいだろ。少なくとも俺は楽しかったし」
「私も。少し気が楽になった。そういえば今更だけど、私歳上の【比嘉君】に当たり前のようにタメ口をきいちゃってるね」
「別にタメ口くらい気にしない。二つも三つも離れてるわけじゃないんだしな」
「えへへ、ありがとう」
「そろそろ俺達はギルドに戻るけど、【怜奈】はどうする?」
「宣告の通り、参加は辞退しま~す。よろしくお伝えください」
「了解。なるべく早く帰ってくるからな」
「気にしなくていいよ〜」
そんなやり取りをして二人の話は終わる。
少し前に遡る。
そろそろ、【怜奈】とちゃんと話さんと。
そう思って家の中に入ろうと扉を開け、中に入る。
【竜矢】も続いた。
【怜奈】は居間のテラスで【比嘉君】と楽しそうに話をしていた。
少し妬けてしまう。
【比嘉君】と笑いながら話をしている【怜奈】にも、【怜奈】と軽快に話している【比嘉君】にも。
「何話してんだろうな」
ボーッとして見ていた私は【竜矢】に声を掛けられビックリしてしまう。
「ほんと、何話してるんやろ」
テラスの様子を眺める二人。
「「気になる」」
そう声をハモらせて溜息をつく二人であった。
ギルドに戻ってみれば拍手と共に出迎えられてしまった。
【怜奈】を除く、俺、【李紗】、【竜矢】は司会役に案内されて席に着く。
最初ちょっとした紹介等されてた俺達だったが、直ぐに乾杯に移り、皆一息に酒を頬張った。
異世界と言えど飲酒には抵抗があったので、果汁のジュースを頂く。
豪華な料理の中、皆一様に騒いで盛り上がっていた。
酒と雰囲気に酔ったらしい【李紗】と【竜矢】の二人から「さっき【怜奈】と何話しとったん!」、「【怜奈】は俺の彼女だからな!」とウザ絡みを受ける。
「あー、ウザいウザい」と流しつつ、手でしっしっと邪険にした。
頬を膨らませる二人。しばらく二人でぶつくさと文句を言っていた二人。
しばらくして大人しくなったな、と思って見てみれば二人して潰れていた。
二十歳を過ぎてもこの二人とは飲みに行けないな、と思った。
ギルドの賑やかさを楽しみつつ、おそらく俺も場に酔っていたのだろう。一口だけ頂いてみた。
美味しかった。だから一口と言わず飲み干した。
酔って身体が火照ったのか。熱い。
勢いで服を脱ぎたくなる。
【李紗】の身体なのでそんなことは出来ないが。
これ以上ここに居たら危ないなと思い始めた俺は潰れた二人を起こそうと試みる。
しかし、起きる様子は無い。
仕方がない。
「すまないが、姉か彼氏どちらか運んでくれないか」
俺は【怜奈】に連絡を取った。
「はあ……。ん、分かった」
「ん、あんがと〜」
「『あんがと』って……、【比嘉君】も結構酔ってるね。って、だから呼ばれたのか……」
そうして十分も経たずに迎えに来てくれた【怜奈】と共にギルドを後にする。
「酔った状態なのでなるべく男女の身体接触は控えた方がいい」
という【怜奈】の提案から、彼女が【李紗】を、俺が【竜矢】を抱えて帰ることなった。
「さて、明日からもばり頑張ろ~!」
今、【虎鉄】の頭からは【李紗】と【怜奈】の確執のこと、知るべきで無かった真実についてなどは頭からは吹き飛んでいる。
結局、家に帰り着いた途端、【竜矢】を伴って崩れた【虎鉄】。
『もう面倒臭い!男女云々の心配など知らん!』と居間に三人を寝かしつけた【怜奈】。
彼女も部屋に戻って床に着いた。
「うーん」
目を覚まして少し寝違えたしい身体を伸ばす【李紗】。
何だか昨日の夜の記憶が朧気だった。確かギルドのパーティに参加して、それから……。
「お酒飲んで寝ちゃってたんだ私」
酔っ払って【虎鉄】に絡んでいたことを思い出した【李紗】は顔を真っ赤にした。
そしてそんなことを考えている時に。
「ふぁ~、何か凄い頭痛ぇ」
隣から【虎鉄】の声が聞こえる。
「……えっ」
恐る恐る横を見た【李紗】。
それは確かに李紗の身体をした【虎鉄】だった。
「おぅ、おはよう」
「あわわわわわ、何で、一緒に寝とるん……」
「えっと、確か……。酔って、【怜奈】を呼んで一緒に帰ってきて……。あれ、玄関からの記憶が無い。もしかすると【怜奈】が玄関で潰れた俺までそのまま寝かせてくれたのか?」
とそんなことを考えている間、【李紗】には彼の言葉など聞いていなかった。
「もしかして、もしかして夜這っ……」
「いやいや、待て待て。それは無い!」
「朝から騒がしいな二人共」
ここで【竜矢】が目覚ました。これまた【虎鉄】の隣から。
「いやああああああ、3Pなん!?3Pなん!?」
「いや、無いから無いから!つうか女子がそんな単語連発してんじゃねえ!」
賑やかな朝だった。
そして……
「あ、起きたのね二人とも」
「あ、おはよう【怜……」
「おはよう【比嘉君】、【竜矢】」
明らかに【李紗】を無視しつつ二人にだけ挨拶をする【怜奈】。
「むか!ばりむか!」
「あら、居たんですか【李紗】さん。御機嫌よう」
ちょっと馬鹿にした感じで挨拶をしてくる【怜奈】。
これには【李紗】も黙っていられない。
怒りに身を任せ、昨晩ドレス姿のまま雷を纏った。
そして【怜奈】のいる場所に向けて突撃した。
【怜奈】を攻撃しつつ、家の一部を破壊してしまう。
けれど、暴走はやめない。
「昨日からなんなん!?なんでそんなに私を目の敵にすると!?」
【怜奈】の肩を鷲掴みにしながら詰め寄る【李紗】。
「はは、どうしてか分からないんだ。やっぱりお姉ちゃんはお姉ちゃんのままだね。昔から何も変わっていない」
「……くっ。だってそれが私やもん」
「そうだね。王子様に『変わらなくてもいい』ってそう言われて、それに甘んじて?
一年経って強くなって帰ってきて。最初は素直に感動した。へっぽこ魔術士が見違えるように。それこそ、誰よりも強くなっていてさ。けどさ、それを自覚してかせずにかは知らないけど、以前の独り善がりな自分に戻っていることに気づいてないの?何なの、十八番の技が自爆技とか。それだけでも腹が立つのに、昨日のあれは何?自らを犠牲にして私を庇って?それで『【怜奈】が死ななくてよかった』?ほんと、どれだけ人をイラつかせればいいの」
「あの技は師匠のリーさんの直伝で……。それに昨日のことに関しては咄嗟に身体が動いてん。もちろん無傷で助けれたら良かったんやけど……。心配掛けてごめ」
「もう、いい。退いて」
「あ、ごめん」
「ねえ、【李紗】」
「……えっ、名前」
「【李紗】」
「えっ、あ、はい」
「ちょっと本気で戦ってみようか。それこそ殺し合うつもりで」
「え?待って、なんで?」
「それが今私達に必要な事だからだよ」
「……意味が分からん」
「『ぶつからなきゃ伝わらない事だってある』。まさかこの台詞を本当に痛感する日が来るなんて思わなかった」
「……分かった。手は抜かんけん。覚悟しぃ」
「それはこっちの台詞だよ」
過去最大の姉妹喧嘩勃発。
「俺達の身体、なんともなきゃいいな」
「そうだな。まあ、大丈夫だろ。【相馬】が居るし」
「まあ、瀕死までならなんとかなるし良いけどさ」
そんな外野二人の声はきちんと【怜奈】の耳に届いていたりする。




