『中級への昇格』と『魔族軍の侵攻』。
「はあ……、なんとか勝ったな」
「ほんとに。よく勝てたねって感じだ。私ちょっと死を覚悟しちゃったもん」
「最初は順調だったのにな。どこからか雷が落ちてきたり、たまたまそれが当たって、落とした張本人である誰かさん以外三人ともスタン状態に掛かっちゃって。お陰で劣勢劣勢」
「…………うぅ」
一応の勝利に喜ぶ二人とからかいからかわれる二人。
巨蟹魔獣二匹との戦闘中の事。
【怜奈】が彼我の甲殻の硬さに憤りを覚え、途中掛けたデバフ系白魔法が中々上手く通り歓喜している【竜矢】。その隙を見て、魔法を使うために加工された宝石、魔法石を巧みに使い、【李紗】と協力してもう一匹を見事に仕留めた【虎鉄】。
「あともう一匹倒せばクリアだ!」
と【虎鉄】が声を上げた次の瞬間。『ピロロン』と軽快な音が鳴る。
失敗の連発から中々上がらなかった【李紗】がワンランクアップしたのだ。
「おお!やったな【李紗】!」
「お姉ちゃん、おめでとう!」
「ようやくか。やっと頑張った成果が出たな」
もう一匹の巨蟹を置き去りにして喜ぶ面々。
そしてそれは起こる。
「〜~~〜ん。やった~~〜〜!」
【李紗】は大喜びだった。
そしてその勢いのまま……
新しく覚えた雷系統中級魔法 《サンダラ》をぶっぱした。
そう、やってしまったのである。
だが、そんな中、待ち侘びたと言わんばかりにブクブクと泡を吹きながら巨蟹が襲ってくるのである。
スタンで動けない三人。そして四つん這いで落ち込む一人。【怜奈】が言うように死を覚悟した三人と一人。
巨蟹の足元が爆発した。地雷の如く作動したそれは【虎鉄】が捨てた使用済み魔法石。偶然にもそれは、先程の《サンダラ》を吸収し、帯電していた。
そこに大量の水気を帯びて突撃した蟹。
即席地雷が作動したのだった。
スタン状態から解放された三人と目の前で起こったことの理解が追いつかず唖然としていた一人は爆死と感電死のどちらで死んだのか分からない巨蟹の死体から多量の蟹味噌を採取した。
【虎鉄】が【李紗】をからかいつつ、方や【怜奈】と【竜矢】が慰めつつ。騒ぎながら帰途に着いた四人。
村に戻り、依頼者に蟹味噌を渡す。
今回の依頼『巨蟹魔獣を討伐し、蟹味噌を村人に届けよ』成功だ。
ちなみに、依頼内容的には一匹討伐するだけでよかったらしく、蟹味噌も二匹分もの量は必要無かったそうな。
ので、余った蟹味噌は四人が美味しく頂いた。とても美味だった。
以降、三人の装備には必ず《雷耐性》が付与された物が装着されていた事は、【李紗】には内緒だった。
そんなことがありながらも、なんとか皆ランクが《Ⅱ》になった。
これでようやく、中級職に昇格出来る。
【李紗】以外は蟹クエ前からランク《Ⅱ》だったため、本来ならばもっと早く中級職になれていたはずなのだが。
そこは【虎鉄】の『折角の仲間なんだから昇格も皆でしたい』という提案で、【李紗】のランクアップを待っていたのである。
昇格の際、職業を選択する。普通ならここでもっと迷うのだろう。どのように進もうか、こちらの方がいいのかも……などなど。
だが、四人はなんの迷いもない。それぞれ進む道はもう決まっているのだから。
【李紗】は祓魔師を目指す【虎鉄】のために魔術師へ。
【虎鉄】は召喚士を目指す【李紗】のために魔導士へ。
【竜矢】は神聖女を目指す【怜奈】のために聖女へ。
【怜奈】は聖騎士を目指す【竜矢】のために騎士へ。
それぞれがそれぞれのために。
中級職に昇格してからは何というか羽振りが良くなった。依頼を達成することで得られる金額が増えた。
ようやくパーティとしての扱いを獲得し、四人分の額を得られるようになったのも大きい。
当然、そのほとんどは装備や生活の為に宛てがわれるのだが、それでも余裕は出てきた。
だから遂に、ギルドの養成所に通ってみよう。
【李紗】の提案から、そういう話になった。
【李紗】は【李紗】なりに失敗ばかりしてしまうことや役に立てないことを気にしていた。無論、以前とは違い皆にそれをきちんと打ち明け、話し合いもしていた。
けれど、それでもここぞという時にはやらかしてしまう。それは中級職になった今でも変わることは無かった。
「もっと皆の力になりたい。足を引っ張りたくない」
そんな【李紗】の気持ちを、誰も否定しなかった。
ギルドの養成所。
近くの街、トリノにそれはある。
各々、最終的に目指す職業を選択すると、その職業に就いている上級職者が選出され、マンツーマンでみっちりと指導を受けることが出来るらしい。
教育者兼指導者兼アドバイザーという立場で相手をしてくれる。
申請し、受講する者の多くは初級職者のため、養成所の受付の中には中級職者となった【虎鉄】達に『中級になったのに何故今更』と首を傾げるものも多い。
けれどそれは些細な事なので、『まあ、事情があるのだろう』と申請を受諾。
入校が許可された。
祓魔師のリー・アルマス。召喚士のクジャ・アルティー。聖騎士のベルクーリ・ファナティー。神聖女のクラウディア・ルー。
これからは彼らに指南をしてそれぞれ腕を磨くことになる。
今まで四ヶ月ほど。それこそ家族のようにずっと一緒に生活をしてきた彼らは、しばしの別れに感傷を覚えつつ、『また一年後に会おう』。
そう手を取り力強く握り、そして別れを惜しむようにゆっくり手を離した。
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【虎鉄】達のいるダリから遠く離れた大都市アレクサンドリアは、今正に魔族達の進軍を許していた。
戦場となった城下は荒地と化し、国民が次々と命を落とす。魔族の襲撃だけに飽き足らず、周囲の魔獣達も活性化し暴走していた。
突然の魔族軍の侵攻に誰もが戸惑いを覚えていた。『まさか本当にこんなことになるとは』と。
アレクサンドリア国女王、ルナアーク・フォン・アレクサンドリア。
彼女には未来視の力があるとされていた。
ルナアークは近々、他の世界から魔族軍の侵攻があることを事前に、知っていた。
対策を立てては、『そんな事有り得ません。他の世界からの攻撃など』と配下に笑われる。配下だけでなく、側室達も国御用達の騎士達も同様に。
だからこそ、秘密裏に講じた『とある手』も失敗に終わってしまい頓挫した。
女王は本当に起こってしまったこの戦争に、何も出来ないでいた。
第一王女のリリィ・フォン・アレクサンドリア、第二王女のアリス・フォン・アレクサンドリアはそんな女王のを守る為と戦に赴いた。
二人の姫は憤怒していた。
それは攻めてきた魔族軍へ、では無い。母である女王の予言を一切信じず鼻で笑い馬鹿にしたこの国の者達を、だ。
『あの者らに国を任せておけぬ』と自ら渦中に飛び込んだのである。
実際、王女二人の活躍は目まぐるしかった。
女王から受け継いだ魔法の適正と、亡くなった王から受け継いだ剣の腕。それらを組み合わせた王族特有の《聖剣技》。
数々の魔族を圧倒し、ただでさえ少ない魔族を極少数にまで減らした。
そして邂逅した。
一人は魔族の少年。
鈍色の髪に虚無の闇を彷彿とさせる漆黒の瞳。
黒く禍々しい翼を生やし、身体は毛に覆われていた。
ネスだった。
もう一人はこれまた少年と同じく、漆黒の瞳に鈍色の髪を持った女性。
頭には角、腰からは黒い尻尾を生やしていた。
マリアだ。
魔王の近衛とも言える二人。
女王の娘であり、近衛である二人。
光の世界、闇の世界。それぞれの最強が今対峙する。
「《クライムハザード》!」
アリスが放った剣技により幕が上がる。
その剣技を受けるネスは。羽の一部が切られ、痛みに呻き声を上げた。
「《ショック》」
続いてリリィが剣技を放つ。敵を内側から切り裂く光の刃。
それはマリアを内側から切り裂く。「がはっ」と声と共に倒れ伏すマリア。
『こんなものか』と早くもトドメの一撃を行使せんとする王女二人だったが、刹那にも構えを改めて守りの姿勢を取った。
「「《ダークフレア》」」
ネスとマリアの二人が黒魔法を同時発動したからだ。
黒魔法という物を初めて受ける二人だったが、魔法名を聞き、それがただの黒魔法でない事にはすぐに気づいた。
母と妹が召喚魔法を得意とするが故の知識だった。敵が黒魔法として放ったそれは召喚獣、《ティアマット》が行使する黒炎の咆哮、それに他ならなかった。
「「ホーリー!」」
ならば、と。王女二人も白魔法、そしてそこに聖剣技を重ねて対抗する。
赤黒い闇と青白い光がぶつかり合う。
そして数分もの間拮抗し合う両者だったが、途中王女達の背後から横槍が入る。
目の前の魔族二人の放つ《ダークフレア》とは比べ物にならない程の黒炎。
それに飲まれた王女二人は黒炎をモロに受けた。そして弱った白魔法を塗り潰すように目の前からも。
後方から放たれた《ダークフレア》。それを放ったのは彼らの戦いを塔の頂から眺めていた魔王が召喚した《ティアマット》によるものだった。
「強そうな女性は好物だ」
魔王はそれだけ言い放ち、倒れた王女二人にトドメを刺す。
そう、戦争中手に入れた神族女性の死体で実験を繰り返していた魔王。殺す際に身体を傷つけてしまったところで魔族化すると再生が効くことに気がついたのである。
なので、殺す際に手加減をする必要は無い。
あの日重宝されたネスの存在価値はどんどん薄くなっていく。
王女の死体、それも二人分手に入れた魔王。その他、集めた死体の量も大満足だった。
共にこの世界にやってきた魔族達の死体には目もくれず、ネス、マリアと共に山のように死体を抱えてゲートをくぐった魔王。
これから忙しくなりそうだ。
「母上は私達が必ず守ってみせます。妹と共にこの城で待っていて欲しい」
そう言って飛び出したリリィとアリス。二人が戻ってくることは無いまま、魔族の侵攻が終わった。
城は召喚獣 《アレクサンダー》の結界によって守られたものの、城下は焼け野原。そこに街の名残は無く、焼死体だけが点々と残されていた。
昨日まで賑わいを見せていたアレクサンドリアという国は城だけを残し壊滅した。
「母上、妹達はどうしたのだ」
私の息子でありこの国の第一王子であるグレーテル・フォン・アレクサンドリアに声を掛けられた。
「ちょっと二人に偵察に行ってもらったのです。ほら、取り残された魔族が居たら困るでしょう?」
そんな嘘をついた。
「そうですか。確かに密かにもこの世界に魔族等を住まわせる訳には行きません。今回の事で魔獣に対する危険性にも目を向けなければならなくなりましたし。これは二人が帰って来た後で話し合う必要がありそうだ」
真面目な顔でそう言うグレーテル。
誤魔化すために言っただけの戯言を信じ、対策をと考えてくれるその姿を見て、嘘を言ってしまった自分を責めたくなった。
「あの、グレーテ……」
「それでは母上。私も周囲の魔獣の様子などを偵察して参ります。女王たる母上は今回の一件でお疲れでしょうから、あまり無理をなさらず休まれてください」
それだけ言い残し、部屋を後にするグレーテル。
四人兄妹の一番上だったグレーテルは少し歳の離れた妹達をとても大事に思っていた。召喚魔法の適正が無いと落ち込む二人を幾度か励ましたこともある。『その分頑張って父直伝の剣技を覚えればいい。一緒に覚えていこう』と。
グレーテルの言葉があったからこそ、リリィもアリスも今の様に強く成長出来たのだと。そしてグレーテルもまたそんな妹達の逞しく育った姿に悦びを覚えていたのだ。
ルナアークはそれを知っているからこそ思うのだった。
「あの子達が殺されてしまったのかも知れないなんて、そんなこと言えるわけないじゃない」
そんな母と兄のやり取りを。
自分達兄妹の事を考えてくれているのか、悲痛に顔を歪める姿を。
第三王女、アーリア・フォン・アレクサンドリアは見ていた。
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数週間後のこと。
「痛てて、流石に毎日毎日これはキツいな」
-テラ-から拾ってきた死体全てを媒体に魔神族を量産するまでは良かった。
だが、それだけだとどうしても自我が薄いままになってしまうのだ。
しかも、魔族の血を与え続けなければ朽ち始めることも分かった。
一番簡単なのは魔族と魔神族を無理矢理でも交配させてしまえばいいのだが、如何せん魔族と魔神族の比率が1:9と偏りが凄いことになってしまっていたのだ。
『戦争中、魔族をぞんざいに扱い過ぎたか』と今になって少し反省する魔王。
そこで取り敢えずは自ら魔神族女性達の閨へと毎日足を運び、種付けして回っているのだが、やはり一日、二十人。それを毎日相手にすると考えると体力が持ちそうもない。
体力は何度でも魔法で回復出来るのだが。
それでも精神的限界があった。
「そこの所、何とかならないものか」
そう、例えば生き返らせた段階でそのまま自我を見せてくれたりすれば手っ取り早い。
正直うんともすんとも言わない相手と行為に及んだところで、快感どころか、苦痛を感じてしまうのだ。
「死体に欲情する連中の気持ちは昔から理解出来なかったが、こうして実際やってみてもやっぱり分からんな」
王女二人の死体を手に入れ、ワクワク気分で戻ってきて蘇らせてみれば、話さないし笑うこと、嫌そうな表情で反抗することもしない。
ただの人形のようだと改めて思った。
けれど、そう思いつつ『あの二人は自我を覚醒させたら楽しそうだ』と思ったりもするからこそ、やめられなかったりする。
王族の女、というものに少しロマンを抱いている魔王だった。
さて、マリアはともかく、最近になって更に俺の周りをうろちょろとするようになったネスだが。正直に言うと邪魔だった。何かあればマリアを敵対しているし、俺とマリアの一時を邪魔さえしようとする。
神族共を手柔らかに殺す必要も無くなくった今、ネスから毒薬をもらう必要ももうない。
最近こそ、召喚獣の一部を宛てがう実験に使ってはみたが、共に行ったマリアの方が力は延びていた。今後はマリアの増強に懸かる予定であるし、マリア増強のための被検体にしても良いのだが、うむ。
よし、俺の代わりに閨事をさせてみようか。
そう考えに至った魔王は、翌日ネスを呼び出し命令した。
「やり方は教えるので女性達を相手にしろ」と。
ネスは必要とされたことに悦びを覚えたらしい。すぐに始めた。
そして取り敢えず企みは上手くいった。
魔王がマリアに新たな力を与えている間、ネスは楽しんでいた。
それこそ魔王が理解出来ないと嘆いていた『死体にも欲情する』タイプになっていたらしいネスは四六時中、性に勤しんだ。
そしてその甲斐あって、計画は思いの外上手くいった。
魔神族女性陣は互いにコミュニケーションを取るまでには自我を取り戻していたのだ。
魔王様絶対主義という信念が植え付けられていたが、まあいい。
「良くぞやった」
少しやつれたように見えなくもないネスをこの時は本心から褒めた。
役立たずだったネスの使い道が決まった。
そんな本心だったが。
「魔王様、リリィで御座います」
「魔王様、アリスで御座います」
ようやく俺の楽しみの時間だ、とそう言わんばかりに歓ぶ魔王。
王女二人に囲まれ、共に過ごした夜は魔王にとって幸せな一時だった。
「魔王様!今日はどのようになさいますか?」
「魔王様!私にも指示をください!」
リリィとアリスは魔王と共に過ごすうち、明らかに明るくなっていった。
マリア然りだが、どうして魔王と夜を共にした者だけがこうなるのか。新たな問題だった。
「そうだな。二人にもそろそろ試すか。元々騎士なのだから適正は十分にあると思うが……」
「「はい!やります!」」
問答無用で返事をする二人。
魔王は召喚獣の力を分け与えた。騎士としての才を持つ二人なのだ。
それを加味して考え、リリィには《オーディン》の力、アリスには《ギルガメッシュ》の力を与えた。
そして白魔法を扱う事が出来る子も知っていたので彼女らに黒魔法を教え込む。
基本的に魔族は白魔法を使えないので、その穴埋めとも言える。
そうして魔王による鍛錬を重ねた結果。
リリィは魔竜に跨って戦う竜騎士。アリスは複数の剣や鎧を自在に扱える換装騎士となった。
次の戦争での最前線は彼女らに任せようと、心に決めた魔王だった。
台詞入れるのとか苦手だったんですけど、もう少し頑張って台詞を入れていきたい。




