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第3話 その存在は

「伝説の生き物、女だ!!!」

腰に見たことのない獣の皮を巻きつけた大男が俺を指差して叫んだ。

おんな?は?でんせつ??なんのことだ?

大男が指差すものだからか、周りの人も俺をジロジロと見回している。なにやらコソコソ話しているものもいれば、商人だろうか、趣味の悪い派手なアクセサリーをつけた小太りの男が俺に近づこうとしている。

まずい。

よくわからないが、直感的にこの状況を理解した。

確かに母親似の、なぜか若返った、俺である。女顔であるのは認めるが、残念ながら、胸はないし竿はある。今もしかと玉が縮み上がり、恐怖を覚えている。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

俺は周囲の人々に向けて、否定のジェスチャーを全力で行いながら声をあげた。

すると、どうだろう。周りの男たちが、先ほどとは違う様子でざわめきだした。

「なんだ、違うか」

「伝説では女ってのは子供みたいな声なんだろう?」

「そりゃ、女なんていないよ。歌劇じゃないんだからさ」

色々な声が聞こえてきたが、どうやら俺が女であるという誤解は解けたようだ。

周囲の関心の的は俺からは外れ、人々は先ほどまでの日常に戻って行った。

よかった。よくわからないけど、危機は去ったようだ。

俺は安堵の溜息をつくと、目の前に誰かが立っている気配を感じて顔を上げた。先ほどの大男だ。

「いや、すまんな、あんた」

大男は俺に頭を下げたが、すぐに俺は手を振り、気にしてないと男に告げた。

「いやいや、それでもこれだけの人間に狙われたんだ。あんたにとってはいつものことかもしれないが、申し訳ないことをした」

大柄な見た目とは裏腹に礼儀正しい、筋の通った男のようだ。

それにしても、狙われた?いつものことかもしれない?? どういうことなんだ?

俺が色々と考えているうちに、男はさらに話しかけてきた。

「しかし驚いた。あの幽霊屋敷から、伝説の女が出てきたと思ったんだからなぁ」

「幽霊屋敷?」

俺が目覚めた時にいた家は、そう呼ばれているのか?

「ああ、また申し訳ないことをしたか。すまない、あんたの、家なのか? 俺が小さい頃からあの家に誰が住んでいるのか誰も、この街のギルドマスターですら知らなかったものでな。それにしては明かりが灯っていたり、物音がするもんだから、俺たちは幽霊屋敷って呼んでたんだが…。ずっと住んでいるのか?噂くらい聞いたこともないのか?」

うおお、さっきから色いろんな情報が入ってきて頭の整理が出来ないぞ!幽霊屋敷、ギルドマスター、伝説の女。

「あ、あぁ、昨日の夜に、この家に、引っ越して、来たんだよ?」

「お、そうか。なら知らないものもわかるな。それにしても誰からこの家を借りたんだ?持ち主すらわからないと思うんだが」

しどろもどろの回答だからか、男の質問は止まらない。心なしか。先ほどは申し訳なさそうな、穏やかそうな顔付きから、真剣味が顔を覗かせている。

「いったい、誰から借りたんだ?買ったわけでもあるまい。あんた、本当に、「住んでいる」のかい?」

男が真剣な眼差しで、俺の目を見つめている。

背筋にぞくりとした感覚。

この感覚は、そうだ、知っている。

俺がしるべ様のお導きにより、悪法に背く時に向けられる気配だ!

この男、警察に属する人間だ!

「あんた、黙ってちゃあわからないよ。

「住んでいる」のか?それとも、「入り込んだ」のか?」

男が、腰に巻いた毛皮の奥から、なにやら小太刀のようなものを垣間見せた。

なるほど、こいつ、俺を逃走中の罪人か何かだと考えてやがるな!

確かに昨日までの悪法は俺を罪人と見るかもしれないが、世界がいつも俺を、しるべ様を認めていたのだ!俺は決して、罪人などではない!

俺の中でふつふつと怒りが湧いてきた。

しかし、その時、もうひとつ、心に名前の知らない感情が込み上がってきた。

わからないが、俺の心は大きく広がり、まるで世界と一体化したような感覚。黄色い稲光が放射状に広がるようなイメージが、脳と心に湧き上がってきた。

・・・いける! 俺はこいつと戦える!

直感が、冴え渡る。こんな感覚はこれまで感じたことがないが、簡単に言うと、絶好調だ!

「あぁ、ここに、「住んでいる」。昨日からな。あんたの知らないこの家の持ち主と、正体を明かさないこの家の持ち主とある勝負をして、その勝利の代償にこの家を手に入れたんだ」

「ほ、ほう」

ずっと黙っていた俺が勢いよく答えたものだから、大男は少したじろいだ。

「その勝負とは、なんなんだ?」

「・・・あんただって、間違えただろう?

「女を連れてくる」と、俺は勝負を持ちかけたのさ。結果は、ご覧の通り」

「ふむ、そうか、なるほどな。

しかし、あんた、それは相手を騙したってことかい?」

「なにを野暮なことを。男と男が、こんなでかいものを賭けて勝負をしたんだ。真実はどうであれ、片方が負けを認め、片方が勝ちを誇れるのであれば、それは正しい決着じゃないか?」

「・・・・・・」

大男は黙ったまま、俺をジッと睨みつけている。

俺は、動じない。ハッタリもいいところだが、まるでそれが本当であるかのように、自信に満ち溢れている。

「・・・なるほどな。当人同士が納得しているのであれば、問題ない。

いや、何から何まですまないな」

「いや、いいよ。あなたも立場があるんだろう」

「ああ、その通りだ。それに、この家の持ち主が、あの方なのであれば、あの方の勝負に口を出すわけもにもいかないしな」

・・・ ん?なんのことだ??

あの方?家の持ち主??わからないんじゃないのか?

「いや、あなたは、なにを言ってるんだ?持ち主が、わかったのか?」

「ん??あんたもよくわからんやつだね。この家の持ち主は、女を連れてきたアンタにこの家を譲ったんだろう?つまり、女を、最近見た人物ってことだろう?」

「あ、ああ、そうだ」

「だったら、間違いない。

3日ほど前、女を見たって言ったギルドマスターが、持ち主だったんだろ?」

「・・・え?」

「だから、この幽霊屋敷は、この街のボス、ギルドマスターからもらったんだろう?」


なんだよ、ギルドマスターって!!

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