第2話 魂の救済地
意識が真っ黒になり、まるで眠りに落ちる直前のような、まどろみが続いていた。
そしてそれこそ、眠りから覚めるように、次にまばゆい光が俺に差し込んでくるような感覚があった。
悪い夢。それから、俺は眼を覚ますのだろうか。
だんだんと意識が、神経が通っていくような感覚。
長い眠りから眼を覚ますように、俺は、まぶたを開いた。
「・・・これは」
ふと、言葉が漏れた。
眼前には、見慣れぬ天井。
蛍光灯もない、ランタンがぼんやりと光る薄暗い部屋。
木造づくりの小屋であろうか。窓にも木製の雨戸がはめこまれていて、周囲の隙間から光が差し込んでいる。
俺の目を覚ました光とは違う、小さな光線が俺の目さめた部屋を少しだけ、明るく照らしている。
俺はこんな場所は知らない。そもそも俺はさっきまで公園前の派出所にいたはずだ。こんなロハスを売りにした小洒落た小部屋など訪れたことはない。
雨戸を外し、俺は外の様子を伺った。
「なんだ、これは・・・」
そしてすぐさま絶句した。
石で舗装された道。その上を走る馬車。
大きな台車を引くものはあっても、自動車なんて走っていない。
道の向こう側には煉瓦造りの家が立ち並び、木造の家もいくつか混じっているようだ。
かつて絵画で見た中世的な街並みが俺の眼前に広がっている。
人々の姿はどうだろう。俺が愛用していたファストファッションなんて誰もしていない。その代わり、剣を携え鎧を着ているもの、ぬののふくを着ているもの、ワンピースとは程遠いローブを着ている青年。子供の頃、祖父母に唯一ねだり、ついぞ手に入ることはなかった、ロールプレイングゲームの世界が、目の前に存在しているのだ。
「これが、次のステージ、なのか?」
ほんの少し前、俺は胸を縦断に撃ち抜かれ、命を失ったものと思っていた。
しるべ様の最後のお導きが頭の中でリフレインした。
「石神キョウヤ。時に魂は、失われるものにより、また、救われるものなのです」
失われ、救われる。
俺の、あの悪法に縛られた魂は救済され、この世界にやってきた、そういうことなのであろうか?
それともここが、しるべ様の導かれた、次のステージなのか?
暫く考えてみたが、答えが出るものでもなかった。当分はその答えを探すためにも、俺はこの世界でまずは暮らしていくことを静かに決めた。
とりあえず、この部屋から出てみることにしようか。
自分の姿を確認したが、街中の人々同様にぬののふくを着ているようだ。
別に服装にこだわりがあるわけではないが、どんなことかあるかわからない。
部屋を見回してみると、角の方に姿見と、クローゼットらしき家具があった。
そもそもこの部屋が何かもわからないが、俺はクローゼットに近づき、中身を確認することにした。
クローゼットの中には、薄いピンクの襟付きの服と、茶色い革製のホットパンツが入っている。今着ているぬののふくよりも良い生地であるのは見て取れる。おそらくこれが外着なのだろう。
とりあえずぬののふくを脱ぎ、外着に着替えようとした時、無意識に姿見に目をやった。
外見は、以前と変わりない。
男らしくない、細身の体。しかしどうしてうっすら肉付いている。
色白で不健康な肌は、血管まで見えてしまいそうだ。
顔は、まあ、自分で言うのはなんだか、淫売だが美人であった母親の面影がある。
鼻筋は通り、まつげは長い。
・・・これで性格が明るかったら、モテたのかもしれないな。
そんなことを改めて鏡を見ながら軽く妄想して気がついた。
「・・・若返っている?」
俺の年齢は28だったはずだが、それよりずっと若い。髭も生えていないように見えるし、目も大きく、丸く見える。
よくわからないが、おそらくこの世界に来て、時間の流れのようなものが違うのだろう。
その辺りはこれから調べたり考えたりすることにして、外着に着替えた俺は、部屋のドアを開け、外の世界へ足を踏み出した。
眩しい光。
空は高く、普段よりも青く美しい気がする。
どうも俺がいた家は、繁華街の中にあるらしく、周りが、人で溢れている。
しかし、喧騒などない。静かなものだ。
・・・おかしい。なんだこの違和感は?
人々は静止し、俺を見ている?
あれ?なんだ、なんだこの人たちは。
街中だぞ、繁華街だぞ?
どうして男しかいないんだ!?
その違和感気付くと同時に、静寂を切り裂く野太い声が聞こえた。
「伝説の生き物、女だ!!!」




