第1話 狂信者 石神キョウヤ
きっかけなんてものは、特になかった。
父親を早くに亡くし、母親は淫売。血の繋がらない父親が何人いたか、10から先は覚えていない。
祖父母に預けられ育ったが、愛された記憶もなければ、粗末にされた記憶もない。
特に目標もなく日々を過ごしていたが、人並みに恋はしていた。それでもずっと片思いしていた好きな女は、ある日突然現れた転校生に簡単に奪われた。
一度の失恋から立ち直れずにそのまま何年も孤独に過ごした。
もちろん、友達だっていなかったし、仕事にはなんとかありつけたものの、周囲から浮き、上司からは怒鳴りつけられる毎日だった。
空虚な日々。何のために、何をして生きるのか、考えることもやがてしなくなっていった。
そんな時、俺は、俺を救う神さまに出会ったのだ。
神さまというのは、正確ではない。俺たちはしるべ様と呼ぶ。俺たちの、人類の、世界のいく末を示してくれる存在だ。
しるべ様は、人の姿をされ、その御口で、俺たちに道を直接示してくれるのだ。
自分の人生を、いく末を、考えることがなくなってしまった俺は、しるべ様と出会い、そして、そう、運命のように、そのお導きに従うこととなっていった。
それは、かれこれ、5年ほど前の話。
今、俺は仕事も辞め、しるべ様に直接お仕えし、そのお導きの手助けをしている。
それは空虚な日々を送っていたあの頃とは違い、希望や活力にみなぎる毎日だ。
しるべ様は、時に激しくこの世界を震撼させる。
その行為が、時に法に背くこともある。けれど、俺たちが法に裁かれることは決してなかった。俺たちは、世界を正しく導いていることの何よりの証明であった。
悪法に縛られた窮屈な魂を解放し、世界を次のステージへ。
しるべ様が語られる一番のお導きのお言葉だ。
俺たち、救済者はそのお言葉に、お導きに従い日々を過ごしている。
そんな中、今日という日は、ステージが大きく変わるとても重要な、1日であった。
「あなた方のこれまでの働きにより、人類が次のステージに上がる日がやってきました」
しるべ様が、1000人を超える救済者を前にして、静かにお言葉を語られた。
とある山奥に作られた、白い屋根の体育館のような建物の中、俺たちはそのお言葉に耳を傾けていた。
「悪法を頑なに守り、あなた方を縛り付ける邪悪なる集団を、今日、私達の手で葬りさるのです」
しるべ様が静かに語るのとは裏腹に、我々の心はざわめき、熱を帯び始めていた。一体何が起こるのだろう、そのお導きの真意はなんであろうか。期待が、希望が溢れ出て、止まらない。
「今日、あなた達には、この街の、警察施設を一斉に襲撃していただきます。
銃を携え、自由を奪う、彼ら悪法の番人に鉄槌を下すのです!!」
しるべ様が声を荒げると共に、1000人の歓声が湧いた。とうとう悪法から人類を救済するその一歩を、我々が、踏み出すのである!
俺の心はこれまで感じたことがない多幸感と高揚感に包まれていた。
今まで俺たちの行いが裁かれたことはない。悪法に背いていたかもしれないが、世界は俺たちを味方した!今度はその世界そのものを我々が次のステージへ導くのだ!!
俺たちは拠点にある銃や刀、棍棒など様々な武器を手にとって、戦いに備えた。
しるべ様のお導きに従い、この街の全13の警察署、派出所を同時に襲撃、その機能を停止させ、奴らの設備を持って続く後続部隊を撃退する。
そういうお導きだ。
俺は少し大きめの拳銃を手に取ると、周囲からの支援もあり、切込隊長を任されることとなった。
その日の午後5時ちょうど。
俺たち救済者は一斉に警察施設を、襲撃した。
しかし、なぜだ、どうしてか。
俺が手にしていた拳銃を構えるより先に、俺の心臓は、後ろから、打ち貫かれていたのであった。
「石神キョウヤ。時に魂は、失われるものにより、また、救われるものなのです」
意識が真っ黒になる直前に、そんなお導きが、聞こえたような気がした。




