決戦
公開処刑当日の夜が明ける前、パインは宿を密かに抜け出すと、
闇に紛れて城壁の外へと向かった。
宿にはアルド一人が静かに瞑想していた。
日の光が窓を照らすとアルドは静かに目を開き、
そして、ゆっくりと立ち上がると部屋を後にした。
宿を出るとそこにアマゾネスの族長達が立っていた。
アルド:「族長、何故ここに?」
族長:「シェリルから話は聞いた。
我々は、もうアマゾネスではない。」
アルドはその言葉を聞いて全てを察した。
アルド:「そうですか、分かりました。」
アルドは族長に耳打ちすると救出作戦の説明を行った。
族長:「なるほど、我々のやるべきことは分かった。
それでは、公開処刑の場へ向かうとするか。」
そして、全員そろって歩き始めた。
それは、城壁の外にあった。
兵士達が巨大な円を描くように並べられており、
その中央には木でできた処刑台のようなものが配置されていた。
まだ、時間があるというのに、多くの見物人もいるようだ。
アルド:「それでは手はず通り。」
そう言うと、2人が1組となり、ばらばらに散っていった。
アルドは族長と同じペアとなった。
アルドは所定の位置に来ると、空を見上げた。
海側から山側へ向けて雲が大きく動いている。
風上の方の空には黒雲が覆っていた。
アルド:(昼頃には雨が降りそうだな。)
アルドと族長は地べたに腰を下ろすと、静かに瞑想を始めた。
しばらくすると、城門から兵士を引き連れてバスラが現れた。
バスラ:(ついにパインを倒すときがやってきたか。
あの試合のことは思い出すだけで腹が立つ。
目に物見せてくれるは。)
バスラは城壁を背にして一段高くなった立ち台の上に上がると
兵士達に命じて多くの槍を持ってこさせた。
バスラ:「準備も整ったな。
それでは主役の登場といこうか。
おい、囚人を連れて来い。」
兵士:「了解しました。」
兵士がその場を後にし、しばらくすると荷台が檻になった
馬車が現れた。
見物人のあいだでどよめきが起こった。
その声に反応し、アルドはゆっくりと目を開ける。
馬車と檻が目に入った。
その檻の中には人が横たわっていた。
目を凝らしてみると、ゼットと思われた。
馬車はそのまま兵士達の間を通り抜けると中央へと向かい
円の中心へ到達しそうな距離まできた。
アルド:「よし、作戦開始だ。」
族長:「本気で行くから覚悟しろ。」
すると、突然族長がアルドに向かって大声で怒鳴った。
族長:「貴様、愚弄するきか?」
そして、アルドに殴りかかった。
突然の喧嘩に見物人はそこを離れるように移動していく。
止めに来た兵士達をも殴り倒すと争いを拡大していった。
バスラは、立ち台の上で馬車の移動を眺めていた。
馬車が所定の位置へ到着したとき、その目線の奥で
見物人が大きく移動しているのを確認した。
原因の中心を凝視すると、2人が争っているのが見えた。
バスラ:(ついに動き出したようだな。)
バスラは横を向き兵士達に指示を与える。
バスラ:「すぐに、収拾するのだ、殺してもかまわん。」
視線を戻そうとしたとき、別の場所で争いが始まっているのが
見えた。
周りを見回すと、その争いの数はいたるところで起きていた。
バスラ:「まさか、陽動か?」
檻の方へと目を向けると檻の上に立っている者を見つけた。
バスラ:(いったいどこから?)
同時に立てかけてあった槍を手に取ると、力を込めて
その者に向けて投げた。
すこし前、パインは空の上にいた。
そして、檻が円の中心に停止したタイミングを見計らって、
飛行のイメージを解除した。
そして、自由落下に身を任せる。
ある程度落下したところで、減速するイメージを思い浮かべる。
落下速度が急激に減速する。
そして、檻の上に着地すると、すぐに意識を集中した。
自分を中心に檻の回りに風が舞い始めた。
そして、目の前に見えたバスラが槍を投げたのが見えた。
パインは、風を出すことに集中しすぎたため、
目の前に近づいてくる槍を避けるタイミングを逃していた。
パイン:(まずい、間に合わない、、、)
アルド達はその時兵士達と戦闘中だった。
止めに来た兵士達を殴り倒すと、それを見ていた兵士達が
つぎつぎと加勢に来たため、乱戦状態となっていた。
アルドがハンマーを振り回すと、複数の兵士が吹き飛び
戦闘不能状態となった。
その姿は兵士達から見ると鬼神そのものであった。
円の内側へと移動すると、徐々に檻へと近づいていく。
戦いながら檻の方を見ると丁度パインが降り立ったところだった。そのとき、視線の先にバスラが槍を投げようとするのが見えた。
狙いがパインだと知ると、とっさに兵士が持っている盾を奪い
槍の軌道上に投げた。
次の瞬間、槍と盾が激突した。
槍は盾を貫いたが、軌道を変えるとパインの足元に突き刺さった。
パインは横目でアルドを見ながら意識を集中していく。
風の強さが十分な強さになると、次の行動へと移った。
バスラは、槍の行方を確認していた。
檻の周りには、すでに竜巻の様に風が舞っていた。
バスラ:「くそ、はずしたか。
邪魔者の排除が先か。」
そう言うと両手に槍を持ち、あたりを見回した。
パインは檻の天井に付いた蓋を開け、檻の中に飛び降りた。
ゼットは動かない。
パイン:(生きていてくれ。)
そして、ゼットの頬にそっと触れてみた。
暖かかった。
パインはすぐに目隠しをはずすと、他の拘束を解いていく。
そして最後の拘束を解いている最中にゼットが目を開けた。
ゼットは、パインを見つけると口を開いた。
ゼット:「パイン、すまない。」
パインはその声を聞いて安堵した。
パイン:「何を言うんだ、友達だろ。」
パインは手を休めることなく拘束をはずした。
パイン:「そんなことより、今は脱出が先だ。
動けるか?」
ゼットはゆっくりと起き上がると体を動かした。
ゼットは、体中が痛かったが動かないところが無いことを確認
すると答えた。
ゼット:「ああ、動かないところはない。
大丈夫そうだ。」
パイン:「よかった。
すぐに脱出しよう。」
そして2人は、檻の上に上がるとバスラとは逆の方向の風の壁に
穴を空けるとそこから外へとでた。
周りを見回すと、アルドとアマゾネス達がパインの元へと
集結しているところだった。
パインはアマゾネス達が参戦していることを
このとき初めて知った。
「なぜ?」と考えようとしたが、今はその時ではないと思い
その考えを押さえ込んだ。
バスラは苛立っていた。
邪魔者を排除するつもりで多くの槍を遠投していたが、
動きが早く的確に狙うことができないでいた。
兵士達が邪魔で狙いにくかったのも原因のひとつだった。
そして、バスラは一つの結論へとたどり着いた。
バスラ:(そうか、何でこんな簡単なことに
気がつかなかったのだ。)
そう考えると、近くの兵士達に槍を運ぶように指示を出すと、
次々に投げた。
アマゾネス達も善戦していた。
老いたとはいえ、その動きは常人の動きを越えていた。
複数の兵士達を手玉にとり、そして1人、また1人と確実に
戦闘不能状態にしていった。
そして、当初の作戦通りにゆっくりと、バスラから見て反対側の
檻の近くへと回り込んでゆく。
応戦しながらパイン達が風の渦の中から現れるのをみた。
そして、胸を撫で下ろした。
次の瞬間、腹部に焼けた火箸を差し込まれる様な感覚を感じた。
そして、兵士ごと倒れこんだ。
パインはアマゾネスが兵士ごと槍に貫かれるのをその眼で見た。
パインがそれを呆然と見つめていると。
その先で、また一人のアマゾネスが兵士ごと串刺しになった。
それを見ていたアルドが叫ぶ。
アルド:「渦の後ろに回りこめ!!」
その声で、アマゾネスも兵士達も我先にと渦の後ろへと
逃げ込もうとしたが、容赦なく降り注ぐ槍の雨に敵味方関係なく
貫かれて行く。
パインはそれを呆然と見つめていた。
作戦は次のようなものだった。
アルドが陽動し、敵の注意を引く。
この時、パインはアマゾネスの参戦は知らなかった。
パインは上空で待機し、檻の上に降り立つ。
そして、風によって檻を守る。
ゼットを救出後、バスラの反対側へと脱出する。
弓矢などの遠距離攻撃は乱戦に持ち込めば、
味方に当たることを考えるとありえないとの結論に達していた。
ゼット:(バスラ、なんてやつなんだ。)
前方の風の渦が突然無くなった。
ゼットがパインの方を見ると、パインの顔がみるみると
形相を変えていくのが分かった。
バスラを擬ししていた。
右手に持った魔晶石が光輝くのが見えた。
そして、パインの眼が赤く充血し、そして血の涙を流した。
ゼットは血の涙を見た瞬間フラッシュバックした。
それはゼットが幼かった頃の記憶だった。
ゼットは村の外れの崖の傍にいた。
何故ここにいたのかは思い出せなかった。
周りには数人の大人がいた。
上を見上げると日の光が降り注ぎ、まぶしかった。
大人たちは畑仕事をしているようだった。
そのとき、地面が大きく揺れた。
エンクローズ村では地震はそれほど珍しいものではなかったが、
今回の揺れはいつもより大きかった。
ゼットは、その場にへたり込んでしまった。
揺れが収まり、大人たちが近づいてくる。
その時、一人の大人が叫んだ。
大人:「まずい、上を見ろ!!」
大人たちが上を見上げるのが見えた。
ゼットが崖の上を見上げると、パラパラと小石が落ちてくる
のが見えた。
壁に亀裂が入り今にも崩れそうだった。
1人の大人が近づいてくる。
そして、ゼットの元に来ると立ち止まると同時に
自分の周りが暗くなった。
上を見上げると、巨大な岩が落ちてくるのが見えた。
次の瞬間辺りの音が掻き消えると同時に、大人の手が光輝いた。
しばらくすると、辺りが急に明るくなった。
そして何かが砕ける散るような音がした。
自分の周りを避けるように、小石がぱらぱらと降ってくるのを
眺めていると、傍にいた大人がゆっくりと倒れるのが見えた。
倒れた大人はピクリとも動かない。
周りの大人たちが近づいてくる。
そして、倒れた大人の周りに集まってきた。
ゼットは突然抱きかかえられた。
その時、倒れた大人の顔が見えた。
その顔は、紛れもなくパインの父親だと確信した。
そして、その目からは赤い涙が流れていた。
大人の手で目を覆われるとその先のことは思い出せなかった。
そのあまりにも強烈な恐怖のため、
記憶の底に封印されたのだろう。
この瞬間まで、思い出すことは無かった。
ゼット:(そうだ、パインの父親はあの時、死んだのだ。)
ゼットは、全て思い出した。
そして、パインに抱きつくと、大声で怒鳴った。
ゼット:「やめてくれー!!」
パインにはゼットの声は届かなかった。
バスラは、何が起こっているのか判らなかった。
突然、地鳴りが鳴り響いたと思うと、兵士の持っていた無数の
矢が空中に浮いているのを目にした。
次の瞬間、その矢が自分目掛けて飛んできたのだ。
とっさに床においていた盾を手に取ると、目の前に構えた。
矢は、むなしく盾にはじかれて落ちて行く。
アルドは、それを呆然と眺めていたが、盾を構えるバスラを
見ると猛然とバスラに向けて走った。
その時、アルドの後ろではバスラが投げていた槍が浮かんでいた。アルドは走った、そしてバスラの斜め横まで来ると、
巨大なハンマーを振り回し始めた。
そしてハンマーを投げた。
バスラは盾に身を隠しながら笑っていた。
バスラ:(この程度の攻撃、この盾で防ぎきれる。)
そう思った瞬間、金属と金属がぶつかる音がしたと当時に、
盾が吹き飛ばされた。
目の前には、無数の槍が飛んできていた。
その1本はバスラの頭目掛けて飛んできていた。
バスラは、反射的に後方へと飛んだ。
この時、バスラは逃げなければ、苦痛を感じずに死ぬことが
出来ただろう。
しかし槍はバスラの逃げる方向へとホップした。
そして、その体を貫いた上、城壁へとめり込んだ。
バスラは複数の槍で貫かれながら城壁に磔になった。
次の瞬間、パインの持っていた魔晶石が真っ二つに割れた。
同時に浮いていた槍が下へと落下した。
そして、パインが力なく崩れ落ちた。
ゼットは倒れるパインを受け止めると、静かに横たえた。
アルドは、バスラに止めを刺そうとバスラに近づいた。
その時バスラはまだ生きていた。
バスラは、アルドを見ると息も絶え絶えに言った。
バスラ:「いっ、いずれ、、、サラフィム殿が、、お前達を、、、
倒す、、、だろう、、、」
そして、バスラは絶命した。
バスラの死を見ていた兵士達は、恐怖し、
そして戦意を失っていた。
アルドはパイン達の元へ戻り、パインを抱き上げると、
アマゾネスの村へと歩き出した。




