罠
ゼットが休みを終え、宮廷に戻ると警備長から警備員の組合せ
についての変更を告げられた。
説明によると、この1週間で各班の状況を確認出来たので、
班編成を変更するとのことだった。
ゼットとアイラの組合せは3週間後に連続で5日間だった。
ゼットとアイラはこの件について話し合っていた。
ゼット:「あの部屋を調べた直後の編成変更。
書棚を調べたのがばれたのか?」
アイラ:「どうだろう?
犯人が我々だと判ったら、捕まえるんじゃないかな?
情報が漏れるのは問題が大きいからね。」
ゼット:「確かにその通りだな。
とすると、まったく気が付いていないか、
気が付いているが犯人を特定できていない。
というところだろう。」
アイラ:「私もそう思うよ。」
ゼット:「最悪の場合を考えて、警戒して動くことにしよう。」
アイラ:「そうだね。そうしよう。」
そして1週間がたった日の夜。
サラフィムが私室で書き物をしていると、バスラが部屋を訪れた。
バスラ:「例の品、ついに手に入れました。」
サラフィム:「おお、ついに手に入ったか。」
バスラ:「こちらでございます。」
そう言うと、1冊の本と複数の指輪、首飾りを差し出した。
サラフィム:「しばらくこの本を読ませてもらおう。
すまんが、下がっていてくれ。」
バスラ:「わかりました。」
バスラが部屋をでると、サラフィムはその本を捲り読み始めた。
次の日、バスラはサラフィムの私室へと呼び出された。
サラフィム:「本を読んで判ったことがいくつかある。
まず、魔法の元となるのはこの石らしい。
この石と同じものがやつらの体内にあるようだ。
そして、指輪や首飾りの石を持つことによって、
その力が大きくなる。
精神集中によって発動され、
その効果は範囲のようだ。
その距離が近いと発動範囲は大きいが、
距離が離れるにしたがって、範囲が狭くなる。」
バスラ:「なるほど、色々と策はありそうですな。」
サラフィム:「石が体内にあるということは、
もし人に直接埋め込んだら魔法が使えるように
なるのか?
色々と試したいことも出てきた。
バスラ、なんとしても捕まえるのだ。
意識をなくしてしまえば反撃をされることはない。
奴らの力を手に入れることができれば、
我々が世界を手中に収めることができるのだ。」
サラフィムは何か呟きながら、バスラに背を向けると
歩き回りながら何かを考えている様子だった。
バスラ:(これは、面白い展開になってきた。
また戦えるということだな。)
バスラは将軍と言う地位は手に入れたが戦えないことに不満を
感じていた。
バスラ:「わかりました。」
サラフィムの返事がない。
どうも、自我の世界に入ってしまったようだった。
バスラは、しかたなく部屋を後にした。
バスラは1人の警備兵に目星をつけていた。
侵入が発覚した直前に不審な行動をした者は何人か
いたが、アマゾネスと同じ班であったのは1人だった。
アマゾネスの気質から考えて自らこのような行為に及ぶことは
考えにくいが、パインが裏にいることを考えると、それを排除
することは出来なかった。
バスラ:(やはり、拘束する場合は2人同時か?
いや、万が一にもアマゾネスが無関係だった場合を
考えると、アマゾネスとことを構えることになる。
これは傭兵全体を敵にまわす事と同じだ。
やはり、これは極力避けるべきだろう。)
そして、2週間が流れゼットとアイラが同じ班になる日が
やってきた。
最初の2日間は、ゼットも警戒を緩めていなかった為、
サラフィムの私室の調査を断念していた。
そして、3日目にサラフィムの私室の見回りを終え、
外に出たとき。アイラに耳打ちした。
ゼット:「アイラ、今日はやるつもりだ。
前回と同じでいこう。」
アイラ:「わかった。気をつけてね。」
そう言い、しばらくアイラと一緒に歩くと、
ゼットが「すまないが、小用にいかせてくれ。」と言った。
アイラはそれを承諾し、1人で巡回を進めた。
ゼットは、サラフィムの私室へと戻ると中を物色し始めた。
アイラが西の塔の階段を登っていくと、そこには警備長が
1人で立っていた。
アイラ:(まさか、嵌められたの?
とりあえず、手はずどおりにするしかないか。)
アイラは、ゼットが小用に行った事を説明した。
その後、警備長は色々と質問をしたが、
最初に「これ以上は答えられない。」と言って無言を通した。
嘘を嫌うアマゾネスが秘密を守るために使う言葉だった。
それを知っていた警備長は質問をやめ、バスラの元へと
連れて行った。
その頃、ゼットは物色を終え、サラフィムの私室を出た。
そこで目にしたのは、玉座の間を埋め尽くす兵士達だった。
後方には、弓矢を構えている者達もいる。
ゼットは、物色中の音が外に聞こえないようにしていたが、
それが裏目にでたのだった。
次の瞬間、突然頭に衝撃を感じると意識を失った。
兵士がゼットに近づくと、ゼットの持ち物を調べ始める。
そして右腰の袋の中を見ると「ありました。」と言った。
確保の報を受けると、バスラはすぐにサラフィムの元に
報告にいった。
サラフィム:「そうか、捕まえたか。
手足の拘束と目隠しを忘れるな。
魔法は、イメージのようだからな。
見えないものに魔法の効果は現れん。
魔晶石さえ奪えば、魔法の効果もそれほど
遠くまで及ばないだろう。
ゼットというやつを囮にしてパインをおびき寄せ、
2人とも始末しろ。
わしは明日から、しばらくの間バルディアを
離れることにする。
あとのことは、お前にまかせる。」
バスラ:「承知しました。」
バスラは、サラフィムの私室をあとにするとゼットの元へと
向かった。
ゼットは目隠しをされ全身を拘束された上、四方を鉄格子で
囲まれた檻の中にいた。
ゼット:(うっ、頭が痛い。)
ゼットは体を動かそうとしたが、まったく動かなかった。
ゼット:(体が動かない。いったい何が?)
ゼットは意識を失う前のことを思い出そうとした。
ゼット:(そうか、部屋を出たところで殴られて、
気を失ったのか。)
ゼットが様々な事を考えていると、突然声がした。
バスラ:「どうやら目が覚めたようだな。」
声が反響してどこから話しているのか判らなかった。
ゼット:「バスラ?」
バスラ:「お前には、もうひと働きしてもらう。
パインをおびき出す囮としてな。」
ゼット:「パインがお前ごときに遅れをとる事は無い。」
バスラ:「その格好で、威勢がいいものよな。
さて、お前の処刑は明後日の昼に決まった。
辞世の句でも考えておくことだ。」
そして、バスラが離れていく足音が耳に残った。
ゼット:(パイン、、、すまない。)
間もなくして、ゼットの公開処刑の告知が行われた。
アイラはバスラの元でも沈黙を通していた。
これ以上質問しても意味が無いと考えたバスラは、しかたなく
アイラを解放した。
アマゾネスと事を構えるのは危険と判断したためだった。
アイラは官舎に戻り、ゼットの公開処刑のことを知ると、
この件をすぐに手紙にしアルドの元へと飛ばした。
パインとシェリルは、バルディアの王宮前でこの件を知り、
そして宿に戻ると対策を検討し始めた。
パイン:「ゼット、、、こんなことになるなんて、、、」
シェリル:「いまさら悔やんでも仕方が無い。
どうやって救出するかを考えよう。」
パインは少し悩んだが、もう進むしか道が無いと結論付けた。
パイン:「ああ、そうだな。」
シェリル:「ゼットが捕らえられている場所がわからない以上
明後日の公開処刑で救出する以外ないだろうな。
わざわざ公開処刑にするということは、お前を
おびき出したいと考えているのだろう。
場所も城壁の外側ということは、決戦を望んでいるの
かもしれん。
さらに一般の人間を巻き込んだ場合、
村の討伐の口実にされかねない。
捕まえたいのか、あるいは殺したいのか?
いずれにせよ罠が仕掛けられていると考えた方が
いいだろう。」
そして、夜遅くまで救出作戦が検討された。
次の日の朝、突然部屋の扉をノックされ、2人はベットから
飛び起きた。
そして、シェリルに後方の警戒を任せると扉に向かって
声をかけた。
パイン:「誰だ?」
アルド:「俺だ、アルドだ。」
その懐かしい声はまさしくアルドだった。
パインは、注意しながらゆっくりと扉を開いた。
そこには、険しい顔をしたアルドが立っていた。
パインは廊下の警戒を怠らないようにしながら、
アルドを部屋に招き入れた。
アルド部屋に入るなり小声で呟いた。
アルド:「いったい何が起こっているんだ?」
シェリル:「それを話す前に何故ここに来たのかを教えてくれ。」
アルドはここに来た理由を手短に説明した。
それは、アイラからゼットが捕まり公開処刑されることが
書かれていた手紙を受け取ったためということだった。
シェリル:「そうか、手紙を出せたということは、
アイラは無事なようだな。
パイン、もうアルドにも全てを話して仲間になって
もらうしかないだろう。」
パイン:「それしかなさそうだな。」
そう言うと、パインは3人を取り囲むように音を遮断した。
アルドは突然いままで聞こえていた音が聞こえなくなったため
困惑したが、シェリルが「だまって聞いてくれ」と言ったため、
それに従った。
パインは、今までのことを包み隠さずに説明していった。
アルド:「なるほど分かった。
手伝ってもいいが、いくつか条件がある。」
パイン:「それはなんだ?」
アルド:「1つ目は、これ以上アマゾネスを巻き込まないこと。
2つ目は、シェリルを村に返すこと。」
シェリルはすぐに反応した。
シェリル:「まて、2つ目の条件は飲めない。」
アルド:「いや、これは絶対だ。」
シェリル:「パイン、お前も何とか言え。」
パインは少し考えると、「わかった」と言った。
シェリル:「!!」
シェリルは、パインを驚いた顔で見つめたが、
パインの真剣な顔を見るとなにも言えなかった。
パインはシェリルを見つめるとゆっくりと口を開いた。
パイン:「これ以上かかわるとアマゾネスに被害が及ぶ。
それに子供のこともあるんだ。
すまないが、こらえてくれ。」
シェリルは渋々承諾するしかなかった。
3人の間で合意が得られると、すぐにシェリルは村へと
向かうことになった。
最悪の場合を考え、防衛準備をするためでもあった。
残った2人で、救出作戦の検討が行われた。
そしていくつかの案の中から1つへと絞り込んでいった。
その日の夕方、シェリルは女村の族長の前に畏まっていた。
そして多くの老いたアマゾネス達が回りを囲んでいた。
族長:「で、お前はパイン殿を置いて帰ってきたというのか?
まあよい、それもパイン殿の意思なのだろう。
しかし、アマゾネスの族長としては大会の優勝者を
守らねばならん。たとえ命に代えたとしてもだ。
子を産めぬ老いた者達で向かうとしよう。
老いたとはいえ、並のものにはまだまだ負けんし、
盾ぐらいにはなれるだろう。」
そう言うと、10人の名前を呼ぶ。
族長:「今のものは、私と一緒に死んでくれ。
よいな?」
呼ばれた者達は、一斉にときの声を上げる。
しばらくして、族長は身振り手振りで静まるように指示する。
そして、少し間をおくと話を続けた。
族長:「呼ばれなかった者達は、若い者達と一緒に村を守る事。
呼ばれた者は男村にでた時点で、追放処分とする。」
これは、アマゾネスを名乗ることが許されなくなる
ということだった。
黙っていたシェリルが突然声をあげた。
シェリル:「族長、私も連れて行ってください。」
族長:「それはならん、パイン殿の意思は絶対だ。」
シェリルは黙ったままだった。
族長はゆっくり、そして静かに言った。
族長:「お前はまだ若い、多くの子を産んで村を守るのだ。
これは、族長しての最後の命令だ。」
シェリル:「わかりました。」
族長:「よし、武器を持って、すぐに出発する。
いまから行けば、明け方には到着できる。」
そして、11人はアマゾネスを捨てバルディアへと向かった。
シェリルはそれを見守ることしか出来なかった。




