警備兵
3人は男村へと戻ってきており、飲み屋の2階にいた。
ゼット:「さて、どうやって証拠を見つければいいのか?
まるで、雲を掴むような話だな。」
パイン:「ああ、エンクロウズ村のことも知られてしまったし、
サラフィム、バスラ共に身辺の警護を固めているだろう。
うかつに乗り込むのは敵の罠に落ちる可能性もある。
どうするべきか?」
シェリル:「私が動こうか?」
ゼット:「いや、あいつらは、パインとシェリルはすでに繋がっていると
考えているだろう。
まあ、公には襲っては来ないだろうけどな。
身元のばれていない、俺の出番ってことだな。」
パイン:「やってくれるか?」
ゼット:「もちろんだ、しかし何をすればいいのか、まったく分からん。」
そう言うとゼットは、仰向けに寝そべった。
そして、何気なく天井を見た。
ゼット:「ん?なんだこれは?」
パイン:「どうした?」
ゼット:「上を見てみろ。」
パインが上を見るとそこには、沢山の紙が整然と貼ってあった。
前に来たときには、ただの壁紙かと思っていた。
シェリル:「あぁ、それか。ここの店主は変わり者でな。
天井を掲示板代わりに使ってるんだ。
飲み屋だけあって、人が集まるからな。
最初は壁に貼っていたのだが、数が多くなるにしたがって、
見た目が悪くなるからといって天井に貼ったのが最初だ。
いまでは、これを見に来る客もいて、ここの名物みたいなものだ。」
ゼット:「そうなのか、、、ん?」
ゼットが1つの真新しい貼り紙に注目した。
そこには、「警備兵募集 10名 腕に自信のある者 場所:バルディア王宮」と書かれていた。
ゼット:「これだ!!」
ゼットは起き上がるなり、飛び上がって、その貼り紙を剥がして2人に見せた。
パイン、シェリル:「!!」
シェリルはその紙を掴むと階段を駆け下り、直ぐに戻ってきた。
シェリル:「これは、先ほど貼ったばかりだそうだ。」
パイン:「ゼット、行ってくれるか?」
ゼット:「ああ、いまから向かおうと思っていたところだよ。
2人は、別の方法を考えてくれ。」
そう言ってゼットは、階段を下りようとした。
シェリル:「待て!!」
ゼット:「なんだ?」
シェリル:「身元をどうするんだ?」
パイン:「あっ、すっかり忘れていた。
ゼット、前に私も身元を偽ってシェリルに見破られたんだ。
事前に決めておいたほうがいい。」
ゼット:「そうか。で、どうする?」
シェリル:「考えがある。アルドを呼んで来るから、待っていろ。」
そう言うとシェリルが出て行った。
ゼット:「シェリルはすごいな。」
パイン:「あぁ、細かいところによく気がつく。
彼女が味方でよかったと思っているよ。」
ゼット:「お前、尻に敷かれそうだな。」
その言葉に、2人は思いっきり笑った。
パインは、前にこんなに大笑いしたのは、いつの頃だったろうかと考えていた。
シェリルがアルドを連れて2階に上がってきた。
アルド:「一体なにが始まるんだ?」
シェリルが経緯を説明した。
アルド:「で、俺に嘘の片棒を担げというのか?
んー、正直な話、気が進まないのだが、
シェリルの頼みでは無碍に断る訳にもいかんしな。
嘘だとばれたときは、全て正直に話すぞ。
パイン、それでもいいか?」
パインは、すこし考えると、「ああ、それでかまわない」と答えた。
シェリル:「こう見えて、アルドは結構有名人なんだ。
昨年の大会の予選で優勝候補だったバルディア王国の前の傭兵隊長を倒した。
傭兵隊長はその時の怪我が元で退役することになったのだが、
その交代としてアルドを雇いたいと申し入れがあった。
それを断って門番を続けたんだ。
アルドがそれを受けていたら、バスラは傭兵隊長にはなれなかっただろう。
まあ、そのときの怪我で、アルドも本戦出場を断念したんだがな。
出場していたら、きっと優勝していただろう。
この話は、すぐにバルディア、サラティアへと広がって行き、
今では、伝説の有名人だ。」
アルド:「よしてくれ、優勝していないのに傭兵隊長など、恥にしかならん。
それに、門番続けたのは、、、いや、やめておこう。」
アルドはシェリルをちらっとみると話をやめた。
ゼット:(なるほど)
ゼットは、ニヤニヤしながらパインとシェリルを見た。
そして、この2人なら気がつかないだろうなと思った。
パイン:「アルドにそんな過去があったのか。」
アルド:「迷惑なだけの話だがな、、、。
そうだ、ゼット、腕には自信はあるか?」
ゼット:「ああ、それなりには」
アルド:「それなら、修行の旅をするアルドの血縁者だと言え。
アルドを倒すために修行にでたと。
もし疑われたら、アルドに直接聞けと言え。
ここに来るものがいたら、血縁者だと答えておく。」
ゼット:「・・・」
ゼット:(んー、魔法無しなら、パインよりも強いんだけどな、、、)
ゼットは何か言いたげな顔をしたが、それを飲み込んだ。
アルド:「報酬は、、、そうだな、今晩の晩飯にするか。
それで、貸し借りなしだ。」
パイン:「わかった。本当にありがとう。」
パインはアルドの申し入れに感謝した。
ゼットは、アルドに礼を言うと、直ぐにバルディアへと出発した。
アルドも持場へと戻り、残った2人はこれからのことを話し合った。
パイン:「さて、我々はどうするか考えないといけないな。」
シェリル:「パイン、優勝者としての責任もあることを忘れないようにしてくれよ。
長期間ここを離れることはアマゾネスとしては困る。」
パイン:「ああ、そうだったな。」
シェリル:「まあ、それはさておき、あの襲撃してきた者達のことでも調べてみるか?」
パイン:「そうだな、武器の紋章の件もあるし、とりあえずバルディアへ向かってみるか。
しまったな、あの短剣持って来るべきだった。」
すると、シェリルが布に包まれたものを取り出し、机の上におくと布を捲った。
そこには、バルディアの紋章の刻まれた短剣があった。
シェリル:「村長が葬儀の後に渡してくれたんだ。」
パインは、自分の読みの甘さにがっかりした。
パイン:「シェリル、この件といい、見破られた件といい、私の何がいけないのかな?」
シェリルは少し考えると口を開いた。
シェリル:「お前は結論を急ぎすぎる。
そのため、対策ができていないんだ。」
パイン:「そんなことはないぞ、一応は考えている。」
シェリル:「じゃあ、何故グルーム族を騙った?」
パイン:「それは、、、」
パイン:(確かにあの時は、なにも考えていなかった。)
シェリル:「失敗には、原因があるんだ。
その原因を出来る限り事前に潰す。それに尽きる。
グルーム族について何を知っているんだ?
それがグルーム族の全てではないだろ?
ならば、自分よりグルーム族について知っている者が
いてもおかしくない、ということだ。
それに、グルーム族が古い部族なら、傭兵募集の情報は伝わっていると考えられる。
もっと前に雇われた者がいてもおかしくないだろ?」
パイン:(確かにその通りだ。)
パインは反論できずにいた。
シェリル:「私がパインの立場なら、まずグルーム族を名乗らない。
そうだな、放浪者とでもするかな。それなら、知らなくても問題ない。
そうすれば、得意でもない弓矢の試験ではなく、剣術の試験だったろう。
もし、どうしてもグルーム族を名乗らなければならないなら、
アルドの時のように、口裏を合わせておく必要がある。
そうだ、アルドがこの話を引き受けるときに、何故お前に嘘が見破られた時の事を
確認したかわかるか?」
パイン:「・・・」
シェリル:「アルドは、嘘が見破られたとしても、決して我々の名前は出さないだろう。
たとえ殺されたとしてもな。」
パイン:「!!」
シェリル:「アマゾネスは嘘が嫌いだ。
私がそれに加担するということが、何を意味しているかアルドは理解したんだ。
そして、お前の決意を聞きたかったんだ。
私が思うに、この件はお前が考えているよりも、
はるかに悪い状況にあるということだ。」
パインは何と答えていいのかわからなかった。
シェリル:「まあ、今日明日に何かが起こるとは思えないがな。
今は少しずつでも出来ることをやるしかないんだ。
あまり落ち込むな。これから注意すればいい。」
パインは自分が何も考えていなかったことに苛立ちを感じ、
結論を出す前にもう1度考えなおしてみようと思った。
パイン:「そうだな、これから出来る限り気をつけよう。」
シェリル:「さて、この話はここまでだ、この短剣について考えよう。」
パイン:「そうだな、そうするか。」
そう言って、短剣を手に取ると眺めだした。
パイン:「この短剣よく見ると普通の短剣とちょっと違わないか?」
シェリル:「ああ、兵士が持つものは、両刃の上、もっと細身だ。
これは、片刃だし、肉厚の上、刃先が湾曲している。
これだけ、特殊な短剣ならば、武器商人を見つければ何かわかるかもしれない。」
パイン:「そうだな、明日バルディアに行ってみるとするか。」
そして約束通りアルドに夕食をご馳走すると、
次の日の朝、ゼットを追うようにバルディアへと向かった。




