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神の山の民  作者: 夢之中
22/34

大会

アマゾネスの村は女のみの村であるが、その周りを取り囲むように、

男村という村が存在してる。アマゾネスが生んだ男の子を育てている村だ。

この男村で大会が開催されるのである。

昔は大会は男村の男のみで行われていたが、血が濃くなるという理由で

いつの頃からか村外の参加も認めるようになった。

そのうち大会の噂は平原全体に広まり参加者は増え続け、バルディア国では

優勝者に最強の称号を与えるほどにもなった。

大会には毎年腕に自慢のある者達が集まりその力を競った。

あるものは最強の称号を得るために、あるものはアマゾネスを手に入れるために。


パインは男村にいた。

周りを見回すと、男村と呼ばれいるにもかかわらず、女もいることにちょっとびっくりした。

男村は、アマゾネスの男を引き取る事以外は特に他の村と変わらなかった。

普通に結婚して子供を生んで生活していた。

アマゾネスは優秀な子種を求めているだけであり、共に生活をするわけではないということだった。

さすがに男村の男達は逞しくそして勇敢そうであった。

現に傭兵の多くは男村の者が多かった。


パインが村の奥に進んでいくといきなり大声で怒鳴られた。

大男:「貴様、それ以上そちらにいくな!!」

パインが声のする方を見ると、巨大なハンマーを持った厳つい顔をした大男が立っていた。

その大男は、バスラを一回り大きくしたぐらいの大きさがあった。

大男:「それより先は、アマゾネスの領地、入ることは許されない。

   間違えて入っても問答無用で殺すことになる。」

パイン:「知らぬこととはいえ、申し訳ないことをしました。」

そう言って、大男に近づいた。


大男は笑顔になり、ハンマーを下ろすと話し出した。

大男:「こちらこそ、いきなりの攻撃態勢で申し訳なかった。

   わたしはアマゾネスの入り口を守る門番をしている。

   この先に入れるのは前回の大会の優勝者のみなのだ。」

パイン:「あなたが、優勝者なのですか?」

大男:「わたしではない、まあ、次は優勝する予定だがな。」

パインはその気さくそうな大男としばらく話してみることにした。


大男はアルドと名乗った。さらにさまざまな情報を得ることができた。

・アマゾネスは子供が生めるようになると、3年間外の世界を視察する。

 そのときに、大会に出場させる男を1人以上連れてくる。

 その男が大会で優勝した場合、次期族長の権利を得ることができる。

・優勝した男は1年間、身ごもっていないアマゾネスに子種を提供する。

 その間は、アマゾネスの領地への出入りが自由になる。

・族長は人数管理を行い、人口が増えすぎないように管理している。

・アマゾネスは最低1人の女児を産まなければならない。

 女児を産んだアマゾネスは自由の身となり、己の道を歩むことができる。

・10年以上子供を産めない、あるいは産めなくなったものは村を出なければならない。

 女村に住むかあるいは外に出て行くかどちらかになる。

・女村は、アマゾネスの村の奥にあり、アマゾネスの村を越えなければならない。

・アマゾネスは外で身ごもる事を禁止していないが、その子供をアマゾネスの村へ

 連れてくることと身ごもった状態での村の出入りを禁止している。

・大会の2ヶ月前に村に戻り、身ごもっていないかをチェックされる。

・武術大会への参加は男村で申請するか視察中のアマゾネス本人に告げることでなされる。

・試合は予選・本戦の順に行われる。

・推薦+予選で8人まで絞込みが行われ、本戦では8人のトーナメントで行われる。

 つまり、3回勝てば優勝できるということになる。


パインはアマゾネスの長老と話せないかを尋ねてみた。

アルド:「長老と話したいだと。

   それならば、優勝する以外無いな。」

パイン:「それでは仕方が無い、大会に参加するしかないということか。」

アルド:「ほう、その体格で参加するというのか?

   だがそれは無謀というものだぞ。

   大会では武器が使えない。相手が降参するか戦闘不能と判断されるまで続けられる。

   負傷するものも多く、死ぬものさえいるのだ。

   忠告しておく、参加するのはやめておけ。」

パイン:「忠告はありがたく受けておくが、参加しないわけにはいかないのだ。」

アルド:「そうか、何か理由がありそうだが、それは聴かないでおこう。

   ただし、私と戦うことになったら、手加減はしないぞ。」

パイン:「望むところだ。」

アルドは大笑いすると、大会参加の申請方法を教えてくれた。

申請は、大会の2ヶ月前から行われる。

あと、2日だったため、男村に滞在しながら情報取得をすることにした。


次の日、村の中を歩いていると、突然声をかけられた。

シェリル:「パインじゃないか。」

振り返ると、シェリルが立っていた。

パイン:「シェリル隊長!!」

シェリル:「もう隊長ではないし、すでに除隊している。

   呼び捨てでもかまわんぞ。

   それに、隊長だったら、すぐにお前を拘束しているところだ。」

といって、シェリルは笑った。その笑顔がとてもまぶしく見えた。

シェリル:「立ち話もなんだな。そうだ、そこの店に入って話でもしよう。」

そういうと、店の中に入っていった。

パインはその後に続いた。


席に座ると、あの後のことをお互いに包み隠さずに話した。

シェリル:「そうか、長老の話を聴きたいのか。」

すこし考えるとシェリルは話始めた。

シェリル:「お前になら本音を話してもいいだろう。

    私はバスラを推薦することになってしまったが、

    本音ではあやつが好きではない。

    できれば負けてほしいとさえ思っている。

    しかしあやつは強い。たぶん優勝候補の筆頭だろう。

    あいつを倒すのは至難の業だぞ。

    それでも挑むというのなら、私が推薦しよう。

    推薦されれば、本戦以外の戦いが免除される。

    おそらく、バスラとの戦いが決勝になるだろう。

    同じ推薦人の対戦は後回しにされるからな。

    推薦されたいなら、必ずバスラを倒すと約束しろ。

    優勝者は、アマゾネスがその身柄を守ることになる。

    バスラとて手出しはできないはずだ。

    しかし負けた場合、そのまま拘束され軍法会議にかけられることになるだろう。

    命を懸けてでも戦う価値があるのか?」

パインは少し考えた。

シェリルをバスラから守ってやりたいという気持ちが芽生えていることに気がついた。

そして、だまって頷いた。

シェリル:「わかった。そこまでの気持ちがあるならば。推薦しよう。

    私はパイン、お前に勝ってほしいと心底思っているよ。」

シェリルは静かにそう言った。

シェリルを見ると頬が紅潮しているように見えた。


パインはその日の夜から対策を考え始め、通常の攻撃ではいくら殴っても

ダメージを与えるのは困難だと結論付けた。

パイン:(やはり魔法を使う必要があるな。)

そう思うと、相手や観衆に気がつかれないように魔法を使って倒す方法を考えた。

エンクロウズ村では武術が盛んに行われていた。パインは弓術は不得意であったが、

剣技と体術は及第点以上の成績であった。特に体術はその体格を活かしたスピードによる

攻撃・防御を得意としていた。

体術、スピード、魔法、さまざまな方法を頭の中で模索していく。

そして複数の方法を思いつくと、その練習を始めた。


バスラはサラフィムの指示通り、国王や大臣などを軟禁し奴隷の解放を行ったのち、

信頼できる部下に管理を任せサラティア国へと戻った。


バスラがサラティアの城門をくぐると、国民の歓声に驚いた。

それはバスラをサラティアの英雄として賛美する声だった。

もし、バスラが望めば国王にもなれただろう。

しかし、バスラは根っからの武人であり、戦いの中でしか喜びを得られなかった。

本人もそれを自覚しており、国王になったら自分でなくなってしまうことを知っていた。

群集をすり抜け元元老院建屋に入ると、そこにはサラティムが待っていた。

サラフィムはこれ以上無いという笑顔でバスラを迎えた。

バスラはサラフィムの前に行くと言葉を待った。

サラフィム:「バスラ、よくやってくれた。信じていたぞ。」

バスラ:「サラフィム殿の策のおかげでございます。」

サラフィム:「うむ、早速だが執政官の任命投票を行うぞ。」

バスラ:「わかりました。」


そして、形だけの執政官の任命投票が執り行われた。

すでに、元老院はサラフィムの配下で構成されていたため、

全員一致でサラフィムに決定した。

バスラは将軍となり軍の全権をまかされた。

そして、その旨はすぐに国民に告知された。


執政官になったサラフィムはいくつかの法律の改定を行った。

まず、奴隷制度を廃止し国民に階級付けを行った。

1級国民は、旧貴族などであり元老院になる権利を持つ。

2級国民は、選挙権をもち元老院のメンバーを選ぶ権利をもつ。

これは、実質旧サラフィム国の制度と変わりなかったが、

明確化することにより元老院をサラフィムにとってより堅固なものとした。

さらに、元老院の任期を1年から4年に延長した。


一通りの作業を済ませるとバスラと共に旧バルディア王国へと戻った。

サラフィムは旧バルディア王国へ到着するなり動いた。

まず、君主制の撤廃を行い共和制へと移行した。

サラティア国と同じように元老院を作り執政官を任命した。

奴隷制度を撤廃し、階級付けを行った。


そして城、各家を入念に調べ武器防具の類を押収したうえで、

製造を禁止し、武器になりそうな物の数を厳重に管理した。

軍は置かず、治安と警備に関してはサラティア国から

兵士を派遣するという方法がとられた。

このように反乱を起こしにくい状況を作ることに専念した。

国王の一族は第一王子を含め全員城に幽閉された。


大会の4日前、サラフィムとバスラが話をしていた。

バスラ:「ところで、サラフィム殿、2つほど疑問があります。」

サラフィム:「なんだ?」

バスラ:「1つは、王にならなかった理由。

    もう1つは奴隷制度をなくした理由です。」

サラフィム:「そのことか。

    王にならなかったのは、王になれば反乱の理由を作られてしまうからだ。

    反抗勢力は必ずある。それをいかに抑えるかにかかっている。

    共和制であるなら、任期がある。

    任期を我慢すればよくなるだろうという希望を残すことが重要なのだ。

    そもそも、王である必要などないのだ。

    私が元老院を抑えている限りは王と変わりないのだからな。

    つぎに奴隷制度だが。

    奴隷はこの国の人口の1/5にも及ぶ。

    さらに、奴隷でなくとも、それに疑問を感じていたものもいるだろう。

    解放することによってそれらの支持を得ることができる。

    これは、王国を復活させようとする反抗勢力を抑える力になるわけだ。」

バスラ:「なるほど、まったくもって奥が深いですな。」

バスラはサラフィムの知慮深さに感銘を受けた。


そして本題を切り出した。

バスラ:「ところで、アマゾネスの大会の開催が近づいてまいりました。」

サラフィム:「おお、もうそんな次期だったか。」

バスラ:「予てからお話していましたとおり、参加のためアマゾネスの村へ向かいます。」

サラフィム:「わかっておる、優勝して帰って来い。」

バスラ:「かならず。」

バスラは次の日、アマゾネスの村へと旅立った。



試合は闘技場で開催される。

しかし闘技場といっても立派なものではなく、平地に柵で囲いをした程度であった。

柵の周りには、各地から見物にきた人々が地面に座ってくつろいでいた。


「おい、対戦表を見たか?

今回はサラティア国の将軍が参加するらしいぞ。それもサラティアの英雄だ。」

「それは面白い試合が見られそうだな。」

「ああ、しかし本戦からの参加みたいだから、、、あっ、あれを見ろ。」

前を見るとサラティアの武装をした大男が数人の兵士をつれて歩いてくる。

「あれがサラティアの将軍か?でかいな。」

「もしかしたらアルドより、でかいかもしれんぞ。」

「あぁ、決勝はアルドとあいつになりそうだな。」


パインは控え室の中で瞑想をしていた。

試合前にバスラと出会うことが気になっていたが、推薦の場合は個室が与えられるため

その点を排除できたのは幸いだった。


しばらく瞑想を続けていると突然部屋の扉がノックされた。

???:「パイン殿、まもなく一回戦が始まります。闘技場の方へおいでください。」

パインはゆっくりと眼を開くと静かに立ち上がり闘技場へと向かった。


闘技場の真ん中に2人の男が立っていた。

1人は上半身裸の男だった。その鍛え上げられた筋肉の隆起は見るものを釘付けにする。

いかにも猛者と呼ぶにふさわしかった。

もう1人はフード付きの服装でフードを目深に被っており顔は判らないが、やや小柄の

体格だった。


観客:「おいおい、大人と子供の対決か。これは直ぐに決着がつきそうだな。」

この時までは観客の大半は同じ事を考えていただろう。


そして試合開始の合図が発せられた。

刹那、フード付きの服の男が対戦者の左に動いた。

対戦者はそれを眼で追えなかったのか、真っ直ぐに前を向いたままだった。

そして下から突き出すような蹴りが放たれ、足の先が対戦者の顎をかすめる。

数秒の間がおかれた後、対戦者はふらふらと動き始めると膝から崩れ落ちた。

脳震盪だった。

観客席は一瞬沈黙ののち轟音とよぶにふさわしい歓声が渦巻いた。

そして試合続行が不可能と判断され、勝者の右手が高々と掲げられた。


観客:「今の子供はいったい誰だ?」

観客:「パインとかいうやつみたいだな。シェリルの推薦らしい。」


対戦者が付き添いの者に掴まりながらふらつく足で控え室へと向かっていく。

対戦者:「いったい何が起こったんだ。試合開始の合図直後、あいつが右に移動するのが見えた。

   それを追って右を見ようとしたのだが、首が回らなかった。」

付添い:「頭ではそう思っていても体がついてこれなかっただけだろう。

   首の筋肉もほぐしておけばよかったな。来年があるさ。」


パインは控え室に戻ると再び瞑想を始めた。


バスラは早々と決勝進出を決めていた。

特に苦戦することもなく、その力を存分に発揮していた。


観客A:「バスラってやつは強すぎる。去年の本戦参加者がこうあっさりと倒されるとは思わなかったぞ。」

観客B:「次の試合は、アルドとパインとかいうさっきの小僧みたいだが

   アルドが相手じゃ、小僧もここまでだろう。

   決勝はバスラとアルドで決まりだな。」


バスラは控え室に戻っていた。

バスラ:「さて、後1回勝てば優勝か。もう少し歯ごたえのある相手とやりたいものだな。」

付添い:「決勝の相手ですが。」

バスラ:「まて!!、それは言わなくていい。誰であろうと目の前の相手を倒すだけだ。」

そう言うとゆっくりと瞳を閉じた。


闘技場の中心でパインとアルドが対峙していた。

アルドが口を開く。

アルド:「よく勝ち上がってこれたな。

   お前に求める物があるように、私にも求める物がある。

   残念だが勝たせてもらう。」

パイン:「その言葉、そのままお返ししよう。」

2人はにやっと笑うと、すぐに素に戻り戦闘体制に入った。


先に動いたのはアルドだった。

アルドは掴みかかろうと右腕を差し出した。

同時にパインは少し後ろに下がると左へと飛んだ。

アルドはパインを追いきれていないようだった。

パインの蹴りがアルドの顎に炸裂した。

これは、前の試合でパインが勝った戦法だった。


この蹴りが入ったとき、パインは勝ったと思った。

しかし、同時にアルドは右手を右に振っていた。

その拳がパインの腰辺りに当たると、パインは吹き飛んだ。


パインはこの時何が起こったか判らなかった。

いきなりハンマーで殴られたような衝撃を感じ、次の瞬間空を飛んでいるような感覚だった。

なんとか受身を取ったが、勢いは殺せず何回転も転がった。

そして起き上がり意識がはっきりしている事を確認すると、右腰骨辺りが痺れている感覚を感じた。

アルドの方を見ると、彼の足はふらつき、今にも倒れそうだった。


パイン:(まずい、すぐ倒さないと!!)

時間が経てばアルドは回復するだろう。一刻の猶予も無かった。

パインは動こうとしたが、思ったように動くことが出来なかった。


パインはアルドの首に意識を集中した。

パインはアルドを殺したくなかった。

心臓を狙えば確実に戦闘不能に出来る。

しかし心臓の鼓動が再び始まらなかったら、そう思うと心臓を狙うことができなかった。


観客がアルドの首辺りを注意してみていたら、その部分が凹むのが見えただろう。

数秒後、アルドは崩れるように倒れていった。

頚動脈を圧迫し、脳に血液が流れないようにしたのだ。

いわゆる締め技で落ちるというやつである。


パインはそれを解除し、ふらふらと中央に戻る。

審判がアルドの状態を確認すると、パインの勝利を宣言した。


パインは控え室へと戻り、そして右腰を丹念に調べた。

部位に触ると激痛が走る。


パイン:(これは骨折しているかもしれないな。

    決勝は、疑問を持たれるかもしれないが、最初から魔法でやるしかないか。)


パインは痛み止めの薬草を患部に貼ると、腰辺りをロープでぐるぐると巻き始めた。

パイン:(少しは持ってくれるといいのだが。)

係りの者が呼びに来ると、パインは足を引きずりながら闘技場へと向かった。


闘技場ではバスラが仁王立ちで待っていた。

バスラの前に立つとバスラがいきなり口を開いた。

バスラ:「お前、パインだろ?」

パインはゆっくりとフードを捲った。

バスラ:「よくおめおめと私の前に現れることが出来たな。

   試合が終わったら、拘束し軍法会議にかける。

   楽しみに待っていろ。」

パイン:「・・・。」


審判が試合開始の合図をするのと同時にパインは意識を集中した。

つぎの瞬間、バスラは驚いたような顔をすると胸を手で押さえた。

その顔は見る見ると青ざめていった。

そしてそのまま仰向けに倒れた。


審判が駆け寄りバスラを見ると、口から泡を吹き、完全に昏倒していた。

試合は不戦勝となりパインが優勝した。

そしてシェリルが現れるとアマゾネスの領地へと導かれて行った。


バスラは控え室で目を覚ました。

バスラはそのときの状況を周りの者に確認すると、しばらく考えに耽った。

バスラ:(くそ、一体何が起こったのだ。あの時突然胸が苦しくなり、そのまま意識を失った。

   こんなことは今までに一度も無かったし、前の試合で有効打を受けた覚えも無い。

   パイン、あやつが何かを仕掛けたとしか思えん。

   この件、サラフィム殿に報告しなければならないようだな。)


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