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神の山の民  作者: 夢之中
21/34

内乱

グルーム族は、狩猟民族で常に狩をしながら移動していた。

獲物を発見するとそこでキャンプを張って滞在する。

獲物が見つからなくなるとまた移動する。この繰り返しだった。

このため、1箇所に滞在する期間は長くても数週間程度だった。


パインは小さな村を巡りながらグルーム族の目撃情報を集めた。

情報は少なく追跡は難航した。

そしてついに3日前にグルーム族を見たという情報を得た。

パインがその場所に着いた時、グルーム族は丁度移動を開始するところだった。

グルーム族の移動は神聖なものでもあり、その移動は何があっても止めることが

できないということを聴いていたため、事情を説明して同行する許可を得た。

そして道中さまざまなことを聴いた。

その中には、異端者狩りの言い伝えに関するものもあった。


あるグルーム族の若者がボトム村の近くで目撃したことだった。

目撃したといっても、その距離は遥か彼方からであった。

グルーム族はその環境故、非常に目が良かった。

遥か遠方にいる獲物を発見できる眼を持っていないと生活もままならない。

生活環境に順応した結果といえるのだろう。


---

その日、ボトム村の入り口で1人の老人がバルディア国の兵士達と対峙していた。

次の瞬間、老人が切り伏せられ、兵士達はボトム村になだれ込んで行った。

しばらくそれを見ていたが、兵士達は村の奥の崖に次々と消えていった。

---

というものだった。


それ以上、新たな情報を得られないと思ったパインはグルーム族にお礼を言うと

同行を途中でやめ、更なる情報を求めて歩みを進めた。



丁度その頃、バスラは自室でくつろぎながら手紙を読んでいた。

突然扉がノックされた。

バスラは読んでいた手紙を机に裏返すと、「入れ。」と言った。

シェリル:「失礼いたします。」

という懐かしい声が聞こえると、シェリルが入ってきた。

バスラ:「おぉ、シェリルか、久しいな。いったい何だ?」

シェリルは敬礼をすると口を開いた。

シェリル:「アマゾネスの掟に従い、村に戻らねばなりません。」

バスラ:「!!」

バスラ:「なんと、もうそんな時期だったのか。」

バスラはニヤケ顔で言った。

バスラ:「判ったその件については手配しておく。

   なお、わしは必ず出場するので楽しみにしておれ。」

シェリルはあからさまに嫌な顔をすると敬礼し、部屋を後にした。


バスラは机の上の手紙を手に取るとそれを眺めた。

バスラ:(さて、全ての準備は整った、後はサラフィム殿の到着を待つだけか。)


手紙にはサラティア自治区への統治官任命に先立ち視察が行われることが書かれていた。

視察内容はほとんどが治安と警備に関するものだった。

視察官の横にはウィン将軍の名前と共にサラフィムの名前があった。


サラフィムはバルディア国からサラティア自治区に向かう馬車の中にいた。

サラフィムは上機嫌だった。

サラフィム:(もう、手の届く所まできている。これで一族の悲願も叶うのだ。)

そんなことを考えていると突然声をかけられた。


ウィン将軍:「サラフィム殿、上機嫌でございますな。」

サラフィム:「これは恥ずかしいところを見られてしまいました。

   実はサラティア料理を楽しみにしておりまして。」

ウィン将軍:「おお、貴殿もそうであったか、サラティアの料理は美味であるからな。

   私も楽しみでならんよ。」

そんな他愛も無い話をしながら馬車はサラティアへと向かって行った。


サラティア自治区へ到着すると、2人はバスラの元へと向かった。

バスラ:「これはこれは、お久しゅうございます。」

ウィン将軍:「バスラ、ご苦労であったな。統治官様着任の視察にまいった。

   さっそくであるが、案内を頼む。」

バスラ:「それでは、ご案内いたします。」

そう言うと城下町を一通り案内して回った。


一通り回った後にウィン将軍は口を開いた。

ウィン将軍:「バスラ、見事なものだ、よく統治されておる。」

バスラ:「ありがたきお言葉、痛み入ります。」

ウィン将軍:「これなら統治官様をお迎えしても問題あるまい。

   統治官様の着任は7日後だ。

   判っているだろうが、丁重にお迎えするように。」

バスラ:「心得ました。」

バスラはそう言うとサラフィムの方をチラッと見た。

そしてサラフィムが上機嫌であるのを見て心より喜んだ。


そして、本国より正式な統治官が着任するときが来た。

統治官はバルディア王国第一王子が任命され、儀礼的な儀式が行われた。

バスラは儀式の会場で、お付きの護衛兵の数を数えてニヤッと笑った。

バスラ:(たった10人か造作も無いことだ。)

そして、正式に告知が発布された。


明けて翌日、統制官着任を祝してのパレードを行うため統制官、ウィン将軍、

サラフィムの3人が部屋に集まっており、統制官の横には2人の護衛兵が立っていた。

王子は統制官という初めての大任に緊張を隠せない様子であった。


ウィン将軍:「これより国民への顔見せのためのパレードが催されます。

   閣下は国民へ向けて軽く手を振っていただければよろしいかと存じ上げます。」

統制官:「うむ、よしなに取り計らおう。」


しばらくすると扉がノックされバスラが入ってきた。

バスラ:「準備が整いました。」

ウィン将軍:「そうか、それでは参ると致しましょう。」

バスラ:「その前に、統制官様に内々にお耳に入れたい話がございます。」

ウィン将軍:「内々だと!!、この場に居る者に聞かれては困るというのか?」

統制官:「将軍、落ち着け、まあよい、こちらへ参れ。」

そう言うとバスラを近くに寄るように指示した。

バスラ:「それでは失礼して。」

バスラは統制官の横に近づく。

バスラ:「お話というのは。」

というと、右手で剣を抜き、そのままの体勢で横になぎ払った。

護衛兵2人が吹き飛んだ、そして部屋は一瞬氷ついた。


ウィン将軍:「!!」

ウィン将軍の動きは早かった。

椅子から立ち上がると同時に剣を抜き、一瞬で合間をつめる。

そして、バスラめがけて突きを放った。

剣先がバスラに当たるかと思われた刹那、バスラの返した剣に

弾かれてその軌道を変えバスラの頬をかすめた。

バスラは手首のスナップのみで己の剣の剣先を将軍向けると

そのまま前に突き出した。

バスラの剣は将軍の首筋へ吸い込まれるように進んでいった。

バスラの頬から一筋の血が流れ落ちる。

バスラが剣を引くと将軍は前のめりに崩れ落ちた。

バスラはゆっくりと剣を王子に向けた。


バスラ:「王子様、お静かにされます様に。」

と丁重な口調で言った。

床は将軍の血で真っ赤に染まっていった。


王子は動かなかった。

恐怖もあったが、このような場合の対処法を教育されていたからだった。

すぐに殺されない場合、自分の命に価値があると教え込まれていた。

相手が丁重に扱うならば、価値がある限り殺されることは無いということを。


バスラ:「入れ。」

バスラが声を発すると数人の兵士が入ってきた。

バスラ:「王子様、身柄を拘束させていただきます。

   連れて行け、くれぐれも丁重に扱うのだぞ。」

そう言うと、兵士達は王子を連れて行った。

この後、バスラはすぐに出兵の指示をだした。



王子が拘束された日の夜、バルディア王国では黒いフード付きの服を着た不審者が

多数目撃されていた。

何人かがそれを通報したが、特に被害も無かったため衛兵はそれを無視していた。


深夜大半の者が寝静まった頃、突然の警鐘に多くの国民が叩き起こされた。

眠い目を擦りながら窓を開けると、複数の方向で火の手が上がっており、

それを目にした国民の多くは直ぐに消火作業へと向かった。

火災は武器庫や食料庫からであり、同時に複数個所が燃えていた。

武器庫・食料庫は当然であるが火気厳禁であり分散管理されいていた。

ほとんど全ての倉庫で同時発生したため、放火であることは明白だった。

火災の報告は直ぐに王宮にも届けられ、鎮火のため兵士も総動員されたが

消火作業は難航し、明け方近くになってもまだ燃えているところがあった。


明け方、西門の番兵は眠い目を擦りながらお茶をカップに注いでいた。

番兵:(もう朝か、それにしても火事のおかげで散々な目にあったな。

   くそ、早く交代要員がこないと、寝ちまうよ。)

火災に交代要員が借り出されたため、1人で寝ずの番となっていた。

そんなことを考えながら、お茶を一口すすると、外を眺めた。

外には薄っすらと朝もやが立ち込めていた。

そして、番兵はもやの中から馬に乗った兵士がぞくぞくと現れるのを見た。


番兵:「なんだあれは!!」

目をこらしてよく見ると、先頭は傭兵隊長バスラであることが確認できた。

番兵はカップを置くと、すぐに当番長のところへ向かった。


番兵:「当番長!!、傭兵隊長バスラ殿の率いる軍が近づいてきています。」

班長:「なんだと、そんな話は聞いてないぞ。

   火災といい今日は厄日か?

   私が確認してくる。お前は持ち場に戻れ、指示があるまで門は開けるなよ。」

番兵:「了解しました。」

そう言うと当番長は走って行ってしまった。

番兵が持ち場に戻ろうとしたとき、その後ろに黒いフード付きの服を着た者が立っていた。


バスラが城門に近づくと、城門はそれを待っていたかのように、ゆっくりと開いていった。

バスラはしばらく開いてゆく城門を眺めながら、サラフィムの話を思い出していた。


  「バスラよ、今夜半バルディアは混乱の渦に巻き込まれる。

  なんとしても、明朝までにバルディアの城門に到着せよ。

  城門はおまえの到着をまって開くであろう。

  突入後、迅速に制圧するのだ。

  このとき、黒いフード付きの服を着た者たちがそちを助けてくれるだろう。

  なお、城門が開かなかった場合、突入を諦めサラティアへ帰還せよ。

  王子はその場合の人質となる、丁重に扱うようにするのだ。

  成功の如何はそちの働きにかかっている、心して執り行うように。」


そして城門が開ききると無言のまま右手を掲げると前に突き出した。


国王はそのとき玉座に座っていた。

ふと前を見ると、大臣がこちらに向かって走ってくるのが見えた。

大臣:「国王様、一大事でございます。」

国王:「落ち着け、一体何事だ。」

大臣:「サラティアの兵士が反乱を。」

国王:「なに?」

国王は外が見えるところまで移動すると外を眺めた。

眼下に見えるのは、溢れ返るサラティアの兵士達だった。

大臣:「すぐにここからお離れに。」

国王は少し悩むと以外な言葉を口にした。

国王:「いや、ここに残ろう。」

大臣:「それでは御身に危険が。」

国王:「よいではないか、それも運命というもの。

   バルディアの国王として国民を置いて逃げるわけにはいかぬ。」

大臣:「それでは私目もお供いたします。」

国王:「うむ。」

そう言うと、国王は玉座に身を置いた。


しばらくすると、バスラが複数の兵士をつれて、ゆっくりと歩いてきた。

国王の前まで来ると、一礼して話し始めた。


バスラ:「この国はほぼ制圧しました。

   これ以上の戦闘は無益です。国王の口から国民に向けて投降するよう

   御発声をお願い致します。」

大臣:「バスラ、貴様!!」

国王:「まあよい、そちの言い分最もである。

   これ以上国民に負担をかける必要もあるまい。」


そう言うと国王は国民の前に顔を出し、降伏すること、

兵士達に投降することを望むことを告げた。

バルディア兵士達の大半はこの声を聞くと次々に投降していった。

多少の小競り合いはあったが、程なくして反抗勢力は駆逐された。

こうして、バルディア王国が無くなり、サラティア国に管理される立場となった。


バルディア王国滅亡の知らせはすぐにパインの耳にも入った。

パインはシェリルの安否が真っ先に気になり、アマゾネスの村へと足を向けた。


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