使者
パインは悩んでいた。
サラティア国での調査は不可能になったため、次の目的地をどうするかだ。
パイン:(さて、どうしたものか?
シェリルの言っていたアマゾネスの長老に話を聴くというのもあるが、
たぶん村には入れないだろう。
話を聴くには大会で優勝するしか無いだろうし、
大会までは半年近くある。
他の地を巡るしかないのか。
そうだ、グルーム族を当たってみるか。)
パインは立ち上がると、当ても無くグルーム族を探し始めた。
前線拠点では2人の将軍が再度降伏勧告を行うかどうかを検討していた。
今までに複数回の勧告を行っていたが、受け入れられていなかった。
バルディアの将軍は、5人であったが現在は1人減って4人となっている。
サラティア攻略に半分の将軍を派遣したわけである。
ここにいるバルディア兵は約2000人だが、その半分を傭兵に頼っていた。
このため、篭城が長引くと軍費がかさみむこととなり、
一刻も早い解決が望まれていた。
ウィン将軍:「どうした?顔色がすぐれぬようだが。しばらく休憩とするか?」
ギル将軍:「うむ、すまぬ。」
そういうと立ち上がり、ふらふらとした足取りで出て行こうとした。
そして、前のめりに倒れこんだ。
ウィン将軍:「どうした!!」
ギルに近寄ると叫んだ。
ウィン将軍:「衛生兵!!」
診察の結果、毒物による中毒の可能性が出てきたため、
食品や飲料水などの検査が
行われたが原因は究明できなかった。
バスラが率いる部隊が前線拠点に到着すると、兵士達がざわついていた。
話を聞くと将軍が倒れたということだった。
バスラはその話を聞くとほくそ笑んだ。
バスラ:(うまくいったか。成功した場合はこちらの命令書は渡さないだったな。)
バスラは確認すると、1通の命令書を取り出し、かがり火の炎に近づけた。
命令書に火がつくとメラメラと音をだして燃えてしまった。
残りの1通を右手に持つとウィン将軍のところへと向かった。
ウィン将軍:(まさか?盛られたのか?)
ウィン将軍がこの件について思案をめぐらせていると。
バスラ:「失礼いたします。」
ウィン将軍:「おぉ、バスラか。」
バスラ:「傭兵隊長バスラ、傭兵増員および補給物資運搬、
遅滞無く無事完了いたしました。
なお、こちらが、命令書になります。」
ウィン将軍:「そうか、任務ご苦労。」
ウィン将軍は、命令書の封を開けると中身を確認した。
そこには明日、最終勧告を行うことと書かれていた。
さらに降伏条件は次のようなものであった。
・サラティア国元老院は解散とする。
・サラティア国軍は解散とする。
・サラティア国および国民の全ての財産は一時没収管理する。
・サラティア自治区とし統治官をバルディア国より派遣する。
・兵士として志願した者の家族は一般市民として扱う。
というものであった。
最後の1文が今までの勧告書に追加されていた。
ウィン将軍は思案した。
使者はその軍の副官が勤めるのが通例であった。
これは、使者にもしものことがあれば、
皆殺しにするという意味も込められていた。
その為、勧告を受ける側は使者に対しては最高の礼をもって接していた。
ウィン将軍:(明日か、ギル将軍が倒れたいま、
階級的にはバスラが副官ということか。)
しばらくの沈黙の後、ウィン将軍は口を開いた。
ウィン将軍:「ギル将軍が倒れた。」
バスラ:「なんと!!」
ウィン将軍:「それゆえ、明日勧告を行うがその使者としてそちを任命する。」
バスラ:「はっ、謹んでお受けいたします。」
篭城から半年、サラティア国では毎日のようにの元老院議会が
執り行われていた。
突然のバルディア国の侵攻に対処できず城門を閉ざしたため、
打開策が見つからないのだ。城門を開いて出撃したとたんに矢の雨が降り
兵士が戦死していく。
このまま篭城していてもいずれ食料も底をつくことになり八方塞の状態だった。
国民を守るため降伏することを唱える者も現れ、内部分裂が始まっていた。
そんな折、白旗を持った兵士が城門前に1人で現れた。
使者であることは一目瞭然だった。
サラティア国は城門を開き、使者を丁重に招きいれた。
バスラは会議室らしき部屋に通された。
目前には元老院の面々と思しき人々が立っていた。
バスラ:「以上が降伏条件だ。」
部屋はざわついた。
最後の一文の兵士として志願した者の家族は一般市民として扱うという件が
特例だったからだ。
バスラ:「しばらく時間をやる、じっくりと検討することだ。」
バスラは席に座ると目を閉じた。
バスラ:(さすが、サラフィム殿というところか、最後の一文は魅力的すぎる。)
皆が出て行くと、部屋は静かになった。
部屋から出れないことと衛兵が目の前にいるのを除けば、
待遇は悪くはなかった。
ほしいものは衛兵に頼めばすぐに手に入った。
衛兵が女だったら会話する気も起こるのにと不謹慎なことを考えていると、
扉の外が騒がしくなり数人の男女が入ってきた。
彼等は顔を見合わせると、執政官らしき男が話し始めた。
執政官:「使者殿、サラティア国はその条件で降伏いたします。
その旨、バルディア国王様にお伝えください。」
バスラ:(やったやったぞ、ついにやった。)
バスラは飛び上がりそうな喜びを抑えて。口を開いた。
バスラ:「わかった。それでは城門を開けてもらおう。」
執政官:「わかりました。」
執政官は一度お辞儀をすると、部屋をでていった。
この瞬間、サラティア国という国が無くなった。
建国後、42年目のことだった。
バルディア国の兵士達が城門からへ入ってくる姿は壮観だった。
バスラは元老院の建物の最上階からそれを眺めていた。
サラティア国への兵隊の入城には特に混乱は生じなかった。
強奪や暴漢なども発生せず、サラティアの兵士達は次々と武装解除されていく。
一通り場内の視察が終わった後、ウィン将軍は元老院建屋に入っていった。
そこには、バスラが神妙に待っていた。
ウィン将軍はバスラを見つけ、その前に行くと声をかけた。
ウィン将軍:「バスラ、よくやった。この件、国王様へ報告しておく。」
バスラ:「無事任務を遂行でき、うれしく思います。」
ウィン将軍:「うむ、立て続けですまぬが、兵士の募集を行う。
やってもらえるか?」
バスラ:「もちろん、やらせていただきます。」
そう言うと、バスラはそそくさととウィン将軍の前を後にした。
兵士の募集は滞りなく行われた。面接官は、バスラが直接行った。
実は、これもサラフィムの指示であった。
面接官を行うことにより、兵士に上の者がだれかを明確に分からせることと、
味方にできるかの見定めを行うためだった。
面接はおよそ一月の歳月を要し、再編が完了した。
その兵士数は2000人にもなった。
再編が完了したことが本国に伝えられると、帰還命令が発令された。
ウィン将軍はバスラに後を任せると傭兵部隊を残し、
本隊を引き連れて本国へと帰還した。
これによってしばらくの間、バスラが統治官の任を兼任することになった。
この人事は、サラフィムの占いによるものであった。
バスラは統治官の任に就くなり、すぐに動いた。
バスラが自伝を出したとしたら人生で一番働いたと書くであろう量だった。
サラフィムに言われた通り治安と警備体制の強化に全力を注いだ。
裏では兵士の武器装備の調達と食料の買い付けを行い、
さらに傭兵の募集も行った。
それはまるでこれから戦争が起こるのではないかというほどの量だった。
かかった費用はサラティアの一時没収された財産が使われた。
そして、味方にできそうな兵士を見極めながら、手の内へと引きこんでいった。




