逃亡
次の日、彼らはサラティア国へと移動を開始した。
総勢200人ほどの部隊だった。
攻城戦のため、定期的に兵士を交代することで、兵士の士気を保っていた。
サラティア国までは、およそ2日の道のりであり、バルディア国最西の拠点で休憩が行われた。
パインとシェリルは相席して食事をしていた。
パイン:「シェリル隊長、サラティア国は意外と近いのですね?」
パインは何気なく呟いた。
シェリル:「おまえ、グルーム族のくせにサラティア国の場所を知らなかったのか?」
パイン:(しまった。)
パイン:「いえ、私は、どちらかというと地理には無頓着なほうで、
仲間にくっついて移動していただけなので。」
シェリル:「・・・。」
シェリルは何も言わなかったが、何かを思案していた。
パインは苦しい言い訳をしてしまったことを後悔した。
食事も終わり休憩していると、シェリルがやってきた。
シェリル:「パイン副隊長、話があるちょっとこっちへ来い。」
シェリルは拠点から少し離れた所まで移動すると突然話始めた。
シェリル:「お前、グルーム族では無いな。」
パインははっとした。
パイン:(ばれたか?)
シェリル:「グルーム族は狩猟民族だ、狩をするために拠点を作らずに各地を移動している
その為彼らはその地形の隅々まで熟知しているのだ。これはグルーム族の子供でも
例外ではない。ましてや大人のお前が知らなかったとは考えられない。」
パイン:「・・・。」
シェリル:「お前は何者だ?何が目的で傭兵に志願したのだ?」
パイン:「・・・。」
シェリル:「まさか、サラティア国の間者ではないだろうな?」
シェリルはすばやく剣を抜くとのど元に突きつけて言った。
パインは有無を言わさず殺されなかったことに安堵した。
シェリル:「まあ、それは無いか、サラティア国の者なら自国の位置を知らぬはずがない。」
シェリル:「どうした、答えろ!!、返答によってはこの場で切る!!」
パイン:(すぐ殺さなかったのなら魔法を使う必要はないな。)
そう、この状況であれば魔法を使って脱出することは簡単だった。
たとえば相手の脳あるいは心臓を燃やすか凍らせるかすれば瞬時に開放されるだろう。
ただしそれはシェリルの死を意味していた。
パインは色々と考えた上で観念することを選択した。
そして、どこまで話していいかを考えて口を開いた。
パイン:「わかりました。お話しますので、剣を降ろしていただけませんか?」
シェリルはちょっと考えた上、剣を収めた。
パインはその場にへたり座り込むと話始めた。
パイン:「異端者狩りというのをご存知ですが?」
シェリル:「ああ、アマゾネスの村の長老に聴いたことがある。
たしか、バルディア王国の一方的な虐殺だったと。惨い歴史だと思うよ。」
パイン:「私は、そのボトム村の生き残りの子孫です。」
シェリル:「なんだと。」
パイン:「私は、異端者狩りの真実が知りたいのです。情報を得るため、傭兵に志願しました。」
この言葉に嘘は無かった。しかし魔法については隠し通すことにした。
シェリルは少し考えてから口を開いた。
シェリル:「なるほど、それで合点がいった。それで朝から王立図書館に行って
国の歴史書を閲覧していたのか。」
パイン:「えっ、何故それを。」
シェリル:「お前を監視するようにバスラに言われていたのだ。
不審な行動を取るようなら、すぐ知らせろとな。
さて、どうしたものかな。」
シェリルは思案し始めた。
パインは、ここで初めて理解した。あのときの会話の気になる者とは自分自身のことだったのだ。
シェリルはしばらく考えたのち、自身の中で結論をだしたようだった。
シェリル:「異端者狩りについては不幸なことだと思っているが、グルーム族を騙った事は別問題だ。
この件は聴かなかったことにしてやる。しかし、現地についたらグルーム族がいるぞ。
いずれ発覚することとなる。なお、逃亡は軍規違反でつかまったら死刑となる。」
パインは驚いた。グルーム族がいるとは、さすがにそこまでは気が回らなかった。
シェリルは続けた。
シェリル:「私はもう寝る。あとはお前の好きにしろ。」
シェリルは後ろを向くと右手をあげ、去れという合図を残して拠点の方へ歩いていった。
パインは感謝した。そしてシェリルとは逆の方へと歩いていった。
次の日の朝、シェリルは傭兵隊長の前にいた。
バスラ:「なに?パインが逃亡しただと?
あいつの動きで怪しいところはなかったのか?」
シェリル:「特に怪しい動きはありませんでした。話してみて思ったのですが、
出発後からかなり怯えていましたし、その程度の男だったようです。」
バスラ:「そうか、見込み違いだったようだな。
見つけた場合、すぐに捕らえろ。軍法会議にかける。
以上だ、さがってよし。」
シェリル:「了解しました。」
シェリルは敬礼をするとその場を後にした。




