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【書籍化】獣人の国に嫁がされた聖女は、おまえを愛することはないと宣言される〜私はもふもふに囲まれて幸せです〜  作者: 禅
第二章

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それは、緊急報告でした

 連行されたフェルナン様の処遇についてはシェノバ国と国交問題もあり、処罰が決まるまで帝城内で幽閉という形なった。といっても帝城のほとんどが崩れているため、頑丈な造りで倒壊を免れた牢屋に入れられたそうで。


 そして、私は今後のことについて宰相と話し合うことに。

 庭に作られた簡易テントの中。周囲は兵士で守られ、同席するのは宰相を始めとした先帝派の方々数人とライル様とラナ様。


 最初に宰相が口を開いた。


「本日はセシリア様にご相談がありまして。泉に毎朝、歌を捧げ浄化をされていることについて、です」

「そのことについては、申し訳ございません。歌声が……」


 前より少しは歌声が出るようになっているけど、それも風が囁く程度。かなり近づかなければ聞き取れない。

 謝る私に宰相が慌てる。


「そうではありません! 浄化はできております! 前回、セシリア様が不在だった時は日に日に天候が乱れ、民の心が荒みました。ですが、今回はそのようなことがありません。それはセシリア様の歌声で泉が浄化されているからでしょう」

「それならいいのですが……」


 半信半疑な私に宰相が話を続ける。


「ですが、獣人の国に嫁がれたら毎朝歌うことは不可能になります」

「嫁ぐ……」


 改めて想像すると顔が赤くなる。と、同時に気分が沈む。私はお飾りの妻。ライル様がお慕いされている方も探して、ライル様に幸せになっていただかないと。


(でも、そのことを考えると胸が痛くなるような、苦しくなるような……以前はこのようなことがなかったのに、どうして……)


 俯いていると宰相が話を続けた。


「そこで、この帝城の廃棄に同意していただければ、泉の前で歌う回数を減らすことができるかもしれません」

「廃棄? 回数を減らす? どういうことでしょう?」

「セシリア様の負担を減らすため、ライル様から提案がありました」

「ライル様から?」


 隣に顔を向けるとライル様が顔を背けた。ラナ様が軽く笑って答える。


「このままだと、泉が心配でセシリアちゃんが嫁げないでしょ? そのための対策をライルが考えたの」


 ラナ様が私にウインクをした。

 その事実だけで、さっきまで沈んでいた気持ちが消えていく。ライル様が私のために考えてくださったなんて、恥ずかしいような嬉しいような、くすぐったい。

 そんな私の心境に気づくはずもない宰相が淡々と話を進める。


「ライル様より泉の水が汚れる原因が、近くにいる人の思念や欲望であると聞きました。ですので、帝城を破棄して、この敷地すべてに隠匿の魔法をかけ、人が近づけないようにします」


 宰相の説明にラナ様が付け加える。


「ライルの城の近くにある泉が魔法で簡単に近づけないようにしているのは、そういう理由もあったの。それでライルの城の近くの泉は汚れたことないわ。ただ、ライルの昼寝場所になってるけど」

「オレ一人ぐらいなら泉の近くにいても影響はない」

「泉との相性もあるからね。ライルは泉と相性が良いし」


 そこで私は首を傾げた。


「もしかして、私も相性が良いのでしょうか?」

「そう。魔力があって相性が良いから泉に選ばれたの。で、ここの泉も近くに人がいなければ、すぐに汚れることはないと思うわ。ただ、街が近くにあるから、どうしても影響は受けてしまう」

「え?」

「だから、年に二回、泉で歌って浄化をする必要があるの」

「かなり回数が少なくなりますね」


 宰相が頷く。


「平行して他の聖女候補も探します」

「他の……」

「はい。他の聖女が見つかればセシリア様には皇女の公務に専念していただけますから」


 私は思わず聞き返した。


「用無しではないのですか?」


 宰相を始め、人族側が慌てる。


「用無しなんて、そんな滅相もない! セシリア様は先帝の唯一の忘れ形見! 誰にも代えられません!」


 ストンと言葉が落ちる。

 きっと今までなら即座に否定していた。でも、ライル様や獣人の方々は私を必要としてくれた。それならストファリア帝国でも……


「私の代わりは……」

「おりません! セシリア様は嫁がれますが、ストファリア帝国はセシリア様の故国。いつでも、お帰りをお待ちしております」

「故国……故国とは、昔からあった国。もしくは、生まれ育った土地、古里。ということでしょうか? で、この場合は生まれ育った土地、という意味になりますか?」


 私の質問に宰相側が呆気にとられたような顔になる。すぐに気を取り直した宰相が頷いた。


「はい。ここはセシリア様の故郷、家になります。いつでもお帰りください」


 宰相の言葉に私は周囲を見回した。柱と布で作られ、風が吹けばめくれて外から光が漏れ入る簡易テント。


「家……」


 私の呟きに宰相が両手を振って否定する。


「いえ、あの、このテントが家と言っているわけではありません! 帝城を新しい場所に建てますので。そこをセシリア様の家にされてください」

「そんな! 帝城を家になんて……」


 困っているとライル様の不機嫌な声が間に入った。


「こいつが帰る家は砂漠にあるオレの城だ。勝手に決めるな」


 乾いた風が心を撫でた。強い日差しに、サラサラと流れる砂。緑は少なく、水は貴重。暮らしやすい気候ではない。でも……

 私は宰相に言った。


「お心遣い、ありがとうございます。でも、私は砂漠にあるライル様の城を恋しいと思っております。それはきっと、ライル様の城が私の家になったからだと……そう感じております」

「セシリア様……」

「ライル様の城の方々は色なし(・・・)の私を、そのまま受け入れてくださいました。その温もりは、たぶん家族のようなモノだと思います。ですので、私の家は砂漠にあるライル様の城です」


 と、言い切ったところで私は重大なことに気がついた。


「あ、あの! ライル様がそれで良いと言われたら、ですが! あの、ライル様の城はライル様の城であって、家であって、決して私の物ではなく…………ライル様?」


 隣に視線をむけるとライル様がテーブルに沈んでいる。しかも、焦げ茶色の髪の隙間から見える耳はペタリと伏せて、ピクピクと震えているような。


「ライル様!? どこか調子が悪いのですか!? また毒が!?」

「いや、なんでもない。気にするな」

「ですが、お声も心なしか震えているような……もしかして、お寒いのですか? 上着を……あ、私のストールでよければ!」


 私は肩にかけていたストールをライル様の肩にかけた。


「嫁が、可愛すぎる……匂いが、良すぎる……」


 そんな呟きとともに魂が抜けたライル様の体が完全にテーブルと同化した。


「ライル様? ライル様!?」


 私の呼びかけにも、体を揺すっても反応がない。慌てる私にラナ様が軽く言った。


「セシリアちゃん、そんなバカ弟はほっといていいわよ。それより、前の人たちをどうにかしないと」


 そう言われて正面を見ると、何故か涙ぐんでいる宰相たち。


「どうされました!?」


 私の問いに宰相たちがボソボソと答える。


「い、いえ。セシリア様が嫁がれるのだと実感しまして……」

「私は息子しかおりませんが、娘がいたらこんな気持ちになったのだろうな、と」

「娘が嫁いだ時のことを思い出しまして……グスッ」


 その言葉に息子しかいないと言った人が泣いている人に謝罪する。


「あの時は嫁ぐぐらいで泣くなって言って悪かったな」

「いや、おまえもこの気持ちが分かったならいい」

「あぁ。これは辛い」

「「友よ!!」」


 何故か抱き合って泣き合う二人。

 宰相がハンカチで自分の涙を拭いながら私に言った。


「あとお二人に子が生まれ、その子が成人されるまで皇帝の座は開けておきます」


 思わぬ言葉に私とライル様が顔をあげる。


「「子!?」」


 当然のように宰相が頷く。


「この国の皇帝の継承者はセシリア様か、その子になりますから」


 今まで沈んでいたのが嘘のようにライル様が真剣な顔で訊ねた。


「いくら皇族の血を引いているとはいえ、獣人の血が混じっているんだぞ。おまえたち人族はそれを受け入れられるのか?」

「今すぐには無理でしょう。ですが、今回の地震でお互いに協力することができました。このまま交流を続けていけば、それも可能な世代が作れると思いませんか?」

「かなり苦労するぞ」

「暴君マクシムの政治よりは希望があります」


 一瞬の間。それから簡易テント内が笑いに包まれた。ライル様が大きく同意する。


「たしかに希望はあるな。なら、その方向で頑張るか」

「はい。セシリア様もよろしいでしょうか?」


 私はお飾りの妻だから、子については考えておりません……なんて言えない、希望に溢れた雰囲気。


「あ、あの……その……」


 どう答えるか悩んでいると、突如切羽詰まった声が響いた。


「ライル様!」


 鋭く切り裂く気配。それは、砂漠にあるライル様の城で留守番をしていたウカーブの声で。



「砂漠の、ライル様の城が! 魔獣の群れに襲われております!」



 簡易テントに文字通り飛び込んできた鷲の姿のウカーブは全身が傷だらけだった。




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