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【書籍化】獣人の国に嫁がされた聖女は、おまえを愛することはないと宣言される〜私はもふもふに囲まれて幸せです〜  作者:
第二章

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誘拐されたセシリア~アッザの奮闘~

 私は最低限の休憩だけで、昼夜問わず走り続けた。結果、早馬を飛ばしても往復一日はかかる行程を半日で制覇。

 沈む夕陽を背に出発した私は、朝日を背に帝城へ戻った。魔法で足の脚力を増強させたため、今は反動でガクガクと震えている。


「あと……少し。少しだけ」


 私は倒れるように治療テントに入った。


「早かったな」


 早朝にもかかわらず予想していたように私を迎えるサナジャブ。私は薬草が入った袋を差し出した。


「これ、を……」

「おっと。無理しすぎだ」


 膝の力が抜けて倒れかけた私をサナジャブが小さな腕で支える。


「ライル様の城の付近に魔獣の群れがおりまして、魔力を消費しました……」

「珍しいな。最近はほとんど姿を見かけなかったのに」

「それより薬を……」

「分かっている。治療薬を調合するから、そこで休んでいろ」


 小柄な体のサナジャブが私を持ち上げて簡易マットに落とした。


「いえ、私はセシリア様のところへ……え?」


 私は微かに聞こえた音に口を閉じた。声にもならない声。擦れて音にもならない。でも、歌声だと分かる。一生懸命に歌う声。


 それは、今までに聞いた中で、一番悲しく。それでいて、必死で。そして、なによりも強い願いが込められていた。


「この歌は……」


 私の呟きにサナジャブが薬草の調合の準備をしながら答える。


「あぁ、気がついたか。セシリア様だよ。あの後から、ずっと歌っている」

「あの後って、まさか一晩中!?」

「そうだ。ひたすら、ライル様の回復を祈って。そのことに人族が驚いていたよ。どうして、獣人のために、ここまでするのかって」


 その疑問に私は笑みが漏れた。


「それがセシリア様ですから」

「そうだな」

「ですから、私たちはセシリア様に尽くしたい。自分のことより他人のことを優先するセシリア様に。幸せになっていただきたい」

「そうだな」


 サナジャブの即答に私は少し驚いた。


「まさか同意するとは思いませんでした」

「……おまえ、私をなんだと思っている?」

「ハリネズミ、もといツンツン治療師」


 サナジャブが大きなリスの尻尾をふわりと揺らす。


「視力が悪いのか? こんなに柔らかく、ふくよかな尻尾がツンツンに見えるとは」

「外見ではなく、性格のことです」

「それなら、そうと言え」

「否定しないのですね」

「否定するぐらいなら、こんな性格などしていない。ほら、できたぞ」


 サナジャブが魔法で合成した薬を私に見せる。


「昨日はセシリア様が居たから言わなかったが、ライル様が刺されたナイフに塗られていた毒。あれは人族には無害だが、獣人には猛毒となるモノだ」

「え!? ですが、刺したのは獣人で、セシリア様を狙っていた、と」

一見すると(・・・・・)な。だが、目的は別なところにあったのかもしれない。だから、ここにある人族用の毒消し草では効きが悪く、獣人用の毒消し草が必要だった」

「だから、ライル様は私に人族が侵入しにくい魔法をかけるように指示を……ハッ! ラナ様には!?」

「報告済みだ」


 私はガクガクと震える足に力を入れて立った。


「では、私はセシリア様のところへ」

「あまり気負うな。魔力が乱れて神殿のかけている魔法が崩れ……」


 不意にサナジャブが黙る。神殿を包んでいる魔法が破れ、セシリア様の歌が消えた。


「まさか!?」


 私はサナジャブに支えられて神殿に駆けつけた。入口には私の代わりに護衛に入った獣人のメイドが倒れている。


「どうし「待て!」


 サナジャブが布で私の鼻と口を覆った。微かに煙の臭いがする。


「獣人用の強力な眠り草の煙だ。おまえはこのまま各部屋のドアと窓を開けながらセシリア様を探せ。私はライル様の治療をしてくる」

「わかりました」


 私は布で鼻と口を押さえたままセシリア様を探した。


「セシリア様!」


 神殿の中を探すが、どこにもいない。自室にも、書物が大量にある書庫にも、どの部屋にも。


 私は祈る気持ちで祭壇がある部屋へ。泉の魔力のおかげか、煙の臭いがしない。注意深く室内を見ていると、中央に輝くモノが。



「……セシリア様?」



 祭壇の前。ポツンと転がる、黄金の指輪。ライル様に頂いてから、セシリア様はずっと身につけて。時間があれば、嬉しそうに眺めていた。


 その笑顔が。その光景が脳裏に浮かぶ。



「セシリアさまぁぁぁ!」



 私の声だけが虚しく木霊(こだま)した。


※※


 それから、帝城内は大混乱に。そんな中、帝城の庭にある簡易テントの前で獣人と人族が言い争いを始めた。

 普段は穏やかで、前に出ることを嫌うゴリラの獣人のグリラが人族の兵に詰め寄る。


「城と神殿の守りは兵士の仕事だろ! 怪しいヤツを見なかったのか!?」

「怪しいというなら、獣人(おまえ)たちだ!」

「何を! セシリア様が攫われたのをオレたちのせいにするのか!?」

「元々は獣人がセシリア様を狙っていたというではないか!」


 この騒動に他の人族と獣人たちが集まってくる。このままでは収集がつかなくなり、争いに発展する。

 私は足を引きずりながら進んだ。普段なら数十歩で行ける距離がとても長い。


「対立している場合ではない、のに……」


 亀のような速度で歩いていると、グリラが叫んだ。


獣人(オレたち)がセシリア様を狙うわけないだろ! セシリア様はな! いっつも、獣人(オレたち)を褒めてくださるんだよ!」

「それなら、我々のことも褒めてくださる! いや、それだけではない! いつも労いの言葉までかけてくださる!」


 人族の兵士からの思わぬ言葉に私の足が止まりかける。


(話の方向が?)


 そこにグリラの背後にいた獣人の料理番たちが声をあげた。


「そんなの当然なんだよ! セシリア様はオレたちの料理をいっつも嬉しそうに食べてくださる! しかも、一季節以上前にお出しした料理まで覚えていて、それを褒めてくださるんだぞ!」

「こっちだってな! 神殿に続く廊下に飾った花に気づかれたセシリア様が、わざわざ飾った人を探して礼を言われたんだぞ!」

「セシリア様の優しさなら当然のこと! オレだってスープのニンジンをハート型にしたら喜ばれて、直接礼を言われたぞ!」


 その話に他の料理番が拳をあげる。


「てめぇ! 料理で抜け駆けはしねぇって協定を忘れたのか!?」

「卑怯だぞ!」

「オレだって我慢していたのに!」


 何故か獣人の料理番同士での殴り合いへ。その様子をポカンと眺める人族……って、眺めていなかった。すごく悔しそうな顔をして拳を握っている。


「クソッ! セシリア様に手料理を食べていただけるとは、なんて羨まし……って、違う! 違う! 勘違いするな、獣人! セシリア様は我が国の皇女! 我々の癒やしだ!」


 殴り合いをしていた獣人たちが一斉に人族に吠えた。


「それを言うならセシリア様は天使だ!」

獣人(われわれ)の天使なんだよ!」

「セシリア様を助けるのは獣人(おれたち)だ!」


 その言葉に人族たちが反論する。


「その言葉、そっくり返す!」

「セシリア様を助けるのは人族(われわれ)だ!」

「邪魔をするな!」


 目的は同じなのに……


 やっと目的地に着いた私は獣人と人族の間に立った。


「お互い、セシリア様をどれだけ大切に思っているか分かりました。ここは共同戦線といきませんか? 地震の後処理もあり、人族側も捜索に出せる人数は限られているでしょう? そして、獣人には不慣れな土地。どこにセシリア様が連れていかれたか、皆目見当がつきません」


 私の提案に両者がコソコソと相談を始める。そこに、低い声が割って入った。


「ギャー、ギャーと外野がうるせえな。セシリア(あいつ)は、オレの嫁なんだよ」


 声の強さとは逆に、今にも倒れそうなほどフラフラした体。


「ライル様! まだ、休んでください。残っている毒が体にまわってしまいます」


 サナジャブが薬を飲ませて治療魔法をかけたが、完全に解毒できたわけではない。動くには早すぎる。

 心配する私の声をライル様が右手で切った。


「悠長に寝ていられるか。情報をよこせ。オレが助ける」


 額から流れ落ちる汗。苦痛に耐える顔。浅く短い呼吸。とても動ける状態ではない。

 でも、その気迫に。鬼気迫る様相に。誰も声を出せない。


 ザリッと砂を撫でる足音。落ち着いた重みがある声が指摘した。


「ですが、そのお体では満足に動けないでしょう」


 ズバリと事実を口にした人物。先帝派の筆頭であり、現政権の中心である宰相がライル様の前に立つ。

 ライル様が自分より背が低い宰相を睨み付けた。


セシリア(あいつ)を助けるのはオレだ。邪魔をするなら……」

「邪魔などいたしません」

「は?」


 てっきりライル様を止めるために現われたと思っていた私は目を丸くした。他の者も目を丸くしている。

 宰相がライル様に鎖を編み込んで作ったネックレスを差し出した。


「こちらを、どうぞ」


 ライル様が訝しげにネックレスを見る。


「なんだ、これは?」

「魔道具です。一時的に体を回復して、自由に動けるようになります。ただし、後で反動がありますので」


 宰相の説明にライル様がニヤリと口角をあげた。


「上等だ。今だけ動ければいい」


 ライル様が荒々しく宰相の手からネックレスを奪った。




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