表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】獣人の国に嫁がされた聖女は、おまえを愛することはないと宣言される〜私はもふもふに囲まれて幸せです〜  作者:
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/53

それは、帝城案内と初めての痛みでした

 翌日。私は日課である散歩をしていた。

 朝露が朝日に輝き、緑の葉が空へと伸びる。その中を楽しそうに駆けるワヒとナン。少し湿った空気が柔らかい風とともに私の髪を揺らす。

 そして、斜め後ろには私を見守るように歩くアッザ。いつもなら、ここにライル様もいるけれど。


 昨日のフェルナン様の突然の発言の後。

 ライル様が魔力を盛大に放出したらしく、気がついた時にはアッザに抱えられて庭の端にいた。あのまま、あそこにいたらライル様の魔力に当てられて気絶していたかもしれないらしい。

 ちなみに休憩場所となっていたガゼボはライル様の魔力で半壊。フェルナン様は魔力がないため影響は受けなかったものの、その場から逃げるように去ったそうで。


 そんな事件を起こしてしまったライル様はラナ様によって自室に謹慎中。それも仕方ないことですが……


「どうしてライル様は突然、魔力を放出したのでしょう?」


 首を傾げる私にアッザが残念そうに微笑む。


「まあ、自業自得というものです」

「自業自得?」

「はい。セシリア様はお気になさらず……いえ、少しは考えて……あぁ、やっぱりダメです。変な方向に結論が出そうなので。そのまま、お気になさらないでください」

「え? あ、はい」


 私は歩きながら周囲を見回した。整えられた広大な庭園。よく見れば、あちらこちらで使用人が手入れをしている。


 それだけではない。帝城には多くの人が働いている。


 それこそ私と同じ年ぐらいの人から老齢の方まで。


(これだけの人がいれば、ライル様がお慕いしている方の情報が入るかも。アッザも探してくれていますが、やはり自分でできる限りのことはしたいですし)


 ずっとライル様が側にいたのでお慕いされている方を探すことができなかった。けど、ライル様がいない今なら……


「探せるかも」

「セシリア様? 何をお考えで?」


 私の名を呼ぶ、明るいのに積年の重圧がある声。

 恐る恐る振り返ると、満面の笑顔を浮かべたアッザ。ただし、背後からはドス黒い何かが湧き出している。

 私は慌てて両手を前に出して振った。


「あ、あの、帝城がどれぐらいの広さか知りたいと思いまして。あと、どのようなお仕事があるのか。ライル様の城との違いを知りたくて……」


 私の説明にアッザが訝しみながらも普通の笑顔に戻る。同時にどす黒い何かは霧散した。


「人族との違いを知ることも必要ですしね。でしたら、午後の空き時間に案内できる範囲で案内いたします」

「え? アッザは帝城の間取りを知っているのですか?」

「はい。とはいえ、私はこの国の者ではありませんから、すべては教えてもらえておりません。ですので、私が知っている範囲になりますが」


 どこか事務的に話すアッザ。でも、私はそれより……


「帝城の間取りも知っているなんて、さすがアッザです!」


 嬉しくなった私はアッザに飛びついた。アッザが困ったように、でも嬉しそうに微笑む。

 こうして、本日の午後の予定が決まった。



 いつものように美味しい昼食をいただいた後、まずは城内で一番高い塔へ。そこから城と庭を見下ろす。


「あの中央にある一番大きな城が本殿です。で、右側にあるのが私たちが住んでいる離れの城になります。そこから奥に畑がありまして、その隣では牧畜がされております」

「もしかして、ここでいただいている料理のお野菜やお肉はあそこで作られているのですか?」

「すべてではありませんが」

「凄いですね」


 窓辺から身を乗り出して見ようとしたらアッザに止められた。


「危ないですよ。後日、あそこも見学させていただきましょう。ただ広大ですので、あそこに行くだけでも体力が必要となります」

「大丈夫です! 最近は運動もできるようになってきましたから」


 右腕を曲げて力こぶを作るポーズをしたらアッザが困ったように笑った。


「申し訳ございませんが、セシリア様の運動ができるようになったレベルは普通以下ですから」

「え……腹筋や腕立て伏せが五回もできるようになりましたのに? 普通ではないのですか?」

「子どもでも出来る回数ですので」

「そんな……」


 落ち込む私をアッザが慌ててフォローする。


「ま、まだ、これからですよ! もう少し運動をする回数を増やしましょう! セシリア様は前より体力がついてますから!」

「前よりも……そうですね! 頑張ります!」

「そうと決まりましたら、さっそく体力作りのために城内を歩きましょう。ついでに説明もしていきますので」

「はい! お願いします!」


 いくつものドアが並ぶ長い廊下を歩く。装飾品はないけど、掃除が行き届いていて清潔な印象。


「こちらは使用人たちが仕事をする区域です。掃除や洗濯、繕い物など城に必要な雑務を中心に行います。ここは一階ですが、上の階は使用人たちの部屋となっております」

「つまり仕事場が一階で住居が二階ということですか。効率的ですね」

「使用人の全員がこの区域に住んでいるわけではありませんが」

「それだけ多くの人が働いているのですね」


 私はそう言いながら別のことを考えた。

 今のところ黒髪の女性を見かけたことはない。これだけ人がいるのに意外なほど。もしかしたら、黒髪の女性は少ないのかも。 


(そうなると、黒髪の女性さえ見つければ、その人がライル様がお慕いされている方の可能性が高く……)


 無意識に顎に手を添えて唸る私にアッザが足を止める。


「セシリア様?」

「い、いえ! なんでもありません!」


 私は急いで顔をあげて弁明した。ライル様がお慕いされている人を探していると気付かれたら、また止められてしまう。


「お疲れでしたら休憩いたしますよ?」

「大丈夫です。少し考え事を……」


 そこで微かに開いたドアの中から若い女性の話し声が聞こえてきた。


「どうして私たちが獣人の世話までしないといけないのよ」

「本当。建て前と本音の区別もつかない、粗野で粗暴な連中のさ」

「あの、先帝の娘のセシリア様だっけ? いくらイケメンの獣人とはいえ、そんなところに嫁がされて気の毒よね」

「あー、獣人の国の第二王子? 黙っていればイケメンだけど、すぐ不機嫌顔で舌打ちするんでしょ?」

「そんな態度で、よく王子が務まるわよね」

「私なら、どんなにお金を積まれてもゴメンだわ」


 からかい混じりの笑い声。

 その言葉の数々に胸がキュッとする。マクシム陛下に鞭で打たれた時よりずっと痛くて苦しい。この気持ちがなんて言うものなのかは分からない。


 けど!


 私は一歩踏み出して笑い声が漏れるドアノブに手を伸ばした。


「セシリア様」


 アッザが声とともに私の肩に手を置いて止める。


「いきましょう」

「ですが……」

「私たちはセシリア様のお気持ちだけで十分です。さあ、参りましょう。今から行く庭は初めての場所で、きっと驚かれると思いますよ」


 にこやかにいつも通り話すアッザ。その気遣いが余計に苦しくて。


(私がこの国にいるから、アッザたち獣人の方々が来てくれただけなのに……アッザたちは何も悪くないのに。私のせいで……)


 アッザに連れられて廊下を進む。でも、足は重くて。顔をあげることができなくて。いや、アッザの顔を見ることができない。あんなことを言われて傷ついていないわけない。

 俯いたまま歩いていると、視界が明るくなった。


「着きましたよ」


 言葉とともに甘い薔薇の香りが鼻をくすぐる。その香りに誘われて顔をあげると、そこは薔薇だらけの庭だった。


 白いアーチをピンク色に染める薔薇。その周囲で壁のように咲き乱れる黄色と白の薔薇。そして、絨毯のように広がる真っ赤な薔薇。一面に広がる薔薇の世界。


「ふぁ……」


 考えていることが吹き飛ぶほどの幻想的な光景。まるで本の世界に迷い込んでしまった主人公みたい。

 見惚れていると、聞き覚えがある声がやってきた。


「奇遇ですね」


 従者を連れたフェルナン様が薔薇の回廊を抜けてこちらに歩いてくる。アッザが気配を鋭くしたまま頭をさげた。

 しかし、フェルナン様はアッザの存在が目に入っていない様子で私の前に立ち……


「お一人で散歩ですか? そろそろ日も暮れますし、よければ、お部屋までお送りしましょう」

「いえ。私は……」

「私に遠慮は不要ですよ。さぁ」


 フェルナン様が私に手を伸ばす。


「あの……「こいつに近づくな」


 どう断ろうか悩んでいる私を不機嫌な声が包んだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ