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【書籍化】獣人の国に嫁がされた聖女は、おまえを愛することはないと宣言される〜私はもふもふに囲まれて幸せです〜  作者: 禅
第二章

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29/53

それは、突然の求婚でした

面白ければブックマーク・評価☆をポチッとしていただけると嬉しいです!(人*´∀`)。*゜+

励みになります!(๑•̀ㅂ•́)و✧

 私が誰かに愛されるということはない。白銀の髪に紫の瞳を持つ私は、色なし(・・・)と呼ばれ、蔑まれる存在。世間知らずで、歌うことしか出来ない。

 そんな私にライル様は生きる意味をくれた。生きてよいのだと。


 だから、私はライル様に幸せになっていただきたい。私がライル様のところで幸せになれたように。ライル様にも――――――



 いくつかある人族の国の一つ、ストファリア帝国。それが私が生まれ育った国の名であり、私の名がセシリア・ストファリアということを知ったのは最近のこと。


 私の父である先帝から帝位を引き継いだ、叔父のマクシム陛下は国を乱したとして幽閉。マクシム陛下の娘であり、私の従姉妹でもあるヴァレンティーヌ様とジャクリーヌ様は修道院へ。

 現在の政治は宰相を中心に、先帝派と呼ばれる方々と、獣人の国との仲介役として滞在中のライル様とラナ様でおこなっているという。


 そして、私は国の安定を維持するため、毎朝、泉がある神殿の祭壇に歌を捧げている。

 あとは、獣人の国から来た犬のワヒとナンと一緒に散歩をして、獣人と人族の礼儀作法について勉強をする日々。たまに、他国の大使と面会もあるけど、政治的なことは宰相たち先帝派と呼ばれる方々に任せている。


 少し湿った空気に、緑と花があふれる庭。乾燥した空気と砂の大地が広がる獣人の国のライル様の城とは正反対。キラキラして色鮮やかで、様々な命があふれる世界。

 でも……


「はぁ……」


 私のため息で正面に座っている影がピクリと動く。そこにアッザが紅茶を差し出した。


「セシリア様がため息なんて珍しいですね。あ、もしかして座学の時間が多すぎましたか? もう少し休憩を増やしましょう」


 ここは帝城の庭にあるガゼボという建物。

 八角形の土台に白い円柱の柱が立ち、その上には深い青の屋根。壁はなく、庭の景色が一望できる造り。

 中にはオシャレなデザインの白い椅子丸いテーブルがあり、休憩をするにはピッタリ。足下で寝転ぶワヒとナンもお気に入りの場所。


「あ、いえ。そうではありません。その……ライル様の城を思い出すと、何故かため息が出てしまいまして」

「城を思い出すと?」


 私は紅茶のカップを持ち上げながら言葉を探した。


「えっと、正確には城の……その、景色とか城に残られている方々のこととか、です」

「もしかしたら、恋しい(・・・)のかもしれませんね」

「恋しい?」

「はい」


 アッザがクリッとした大きな黒い目で私を見つめたまま頷く。長い亜麻色の髪を一つにまとめ、その隙間から後ろ向きに生えた細長い角。葉っぱのような形の耳を持つガゼルの獣人で、私の身の回りを世話をしてくれる。

 とても気が利いて、いつも私を助けてくれて。早くアッザの手を煩わせなくても大丈夫なように自立したいです。


 私は口をつけたカップをテーブルに置いて質問をした。


「あの……恋しいとは、離れている人や場所、また事物などに強く心を引かれるさま、ですよね?」

「………………そうですね」

「なら、この気持ちは恋しいで合っていると思います。強く心を惹かれていますので」


 ガチャ。


 茶器が荒く触れあう音。ずっと私の正面で静かに話を聞いていたライル様。そのカップを持つ手が心なしか震えているような。


「どうかされましたか?」

「……いや、なんでもない」


 ライル様が無造作に伸びた焦げ茶色の髪で表情を隠す。

 まっすぐな鼻筋に薄い唇。太い首に健康的な褐色の肌。しっかり筋肉がありながらも、しなやかな体。

 でも、一番の特徴は髪からのぞく丸い耳にライオンの尻尾。顔を背けながらも、耳はソワソワとこちらを向き、尻尾の先が忙しなく揺れている。


 獣人の国の第二王子であり、私とは国の盟約による政略結婚。でも、私にとっては夢のような幸せな生活の連続で。

 なんとか、このご恩をライル様にお返ししたいと思案していた。そこで耳にした、ライル様には長年お慕いされている方がいるという話。

 しかも、黒髪の人族の女性で、子どもの頃に帝城を訪れた時に出会っているらしい。


(お飾りの妻として、ライル様がお慕いされている方と幸せになれるように手助けしなければ!)


 胸の前で拳をつくり気合いを入れていると、アッザが私に訊ねた。


「セシリア様は何に一番強く心を惹かれて(・・・・・・・)いるのですか?」


 アッザの、強く心を惹かれて、という言葉にライル様の耳の動きが止まる。濃緑の瞳は庭を眺めているのに、耳が私を見つめているみたい。

 私はどこか恥ずかしさを感じながら体を小さくした。


「これ、というのはありません。ただ、あの空気というか雰囲気が懐かしいような……」


 ライル様が視線を庭にむけたまま少し意外そうな声で私に問う。


「砂の世界が懐かしいのか?」

「はい。あの乾いた風も、強い日差しに揺れる木漏れ日も、お城の皆さんの優しさも。すべてが懐かしくて……恋しいです」

「グッ!」


 苦悶の声を封じるようにライル様が口元を手で覆う。あと、目元がほんのり赤いような。そこにアッザの呆れ声が響いた。


「砂漠の景色と使用人たちが懐かしいと言っているのですよ。ライル様を恋しいと言っているわけではありませんから」

「……わかっている」


 軽く舌打ちをして眉間にシワをよせるライル様。たしかにアッザの言う通りなのですが。


「なにか問題がありましたか?」


 首を傾げた私をライル様がチラ見する。そして、そのままテーブルに肘をつき、顔を覆って撃沈。


「……クッソ、可愛い」


 その呟きは私に届く前に強い風でかき消された。


「申し訳ございません。よく聞き取れなかったのですが」

「いや、独り言だ。気にしなくていい」

「……はい」


 チクンと痛む胸。


(ちゃんと聞こえなくて、呆れられたのかも)


 私の心が沈みかけたところで、ワヒとナンが体を起こした。ワヒが前に出て、ナンが私を守るように足下で待機。


「どうかしましたか?」


 ワヒとナンに訊ねながら私は視線をあげた。二頭が睨む先には、従者を連れてこちらに歩いてくる人影。



 静寂の中、砂を踏む音が耳につく。



 ふわりとした淡い栗色の髪に、色素が薄い水色の瞳。顔立ちは整っているが冷徹な感じではなく、優しい美男子という雰囲気。スラリと背が高く、着ている服装から高貴な身分だと分かる。


 ぼんやり眺めているとアッザが私に耳打ちした。


「ストファリア帝国の西側にある隣国の一つ。シェノバ国王の弟君です」

「王の弟にしては若くないか? 二十歳前後ぐらいに見えるぞ」


 アッザは小声で耳打ちしたのに、しっかり聞こえていたライル様が訊ねる。やはり獣人の方々は耳が良いですね。


「兄である王とは十歳差と聞いております」

「シェノバ国王は三十歳ぐらいだったな。それなら計算が合う。で、そんな偉いヤツがなんで、この国にいるんだ?」

「先帝の死後、シェノバ国との関係も悪化して一時は国交を断絶しておりました。ですが、暴君マクシムが失脚したため、国交を再開させる使者として訪国されたそうです」

「それと、この国の現状視察も兼ねて。だろうな」

「はい」


 ライル様の質問に澱(よど)みなくと答えるアッザの姿に感嘆の声が漏れる。


「アッザは物知りですね」

「それほどでもございません」


 そう言いながらアッザが軽く頭をさげた。気がつけば隣国の王弟が私の前に立っている。従者たちは数歩下がった所で待機。

 王弟が私に微笑みかけた。


「お久しぶりですね」

「謁見の間でお会いして以来、でしょうか」

「それ以前にお会いしておりますが……あの時はすぐに離れていかれましたから覚えていなくても仕方ありませんね」


 小声で呟いた王弟が一人で納得する。そして、片膝をつき、右手を胸に当てて頭をさげた。


「改めまして、セシリア皇女。私はシェノバ国王が弟、フェルナン・ル・シェノバと申します。どうぞ、お見知りおきを」


 皇女という呼ばれなれない敬称に戸惑いながら声をかける。


「は、はい。あの、フェルナン様。どうかお顔をお上げください」


 しかし、私の訴えは聞き入れられず。フェルナン様が頭をさげたまま言葉を続けた。


「毎朝、聞こえるあなたの歌に心打たれました。清水のように汚れなく、晴れ渡った青空のように澄んだ歌声。もう、私はあなたの声なしでは生きていけません」


 突然の言葉の連続にどう返事をしたらいいのか分からず無言でいると、フェルナン様が顔をあげた。


「あなたを一生愛すると誓います。私とともに両国を繁栄させていきましょう」


 信じられない言葉の数々に私は目を丸くするしかなかった。





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