爆発しろリア充~ラナ視点~
政権交代した人族の国と獣人の国の繋ぎ役として。また、セシリアちゃんの補助をするため、人族の帝都にある城に残った私。
宰相はもともと先帝の右腕として働いていた有能な人物。あのバカ暴君がいなくなってから、次々と新しい政策を出して国の立て直しに奔走している。
セシリアちゃんの歌で泉の魔力も安定して、ついでに国民も温和になってきたから、どうにかなるでしょうけど。
それより、どうにもなりそうにない馬鹿がここにいる。
私は自室として使用している客室にいた。目の前にはテーブルに肘をつき、頭を抱えて唸るライル。
「あいつが……あいつが黒髪の……まさか、なんで気付かなかったんだ……」
「ほ~んと、なんで気付かなかったのかしら」
私の言葉に苦悩していたライルが顔をあげる。
「おまえは、いつ気がついた!?」
「当然、最初っからよ。あの歌声を聞いた時にすぐに気付いたわ。昔、大けがをしたあんたの治療をしてくれた女の子の声だって」
私たちは昔、先帝の葬式に出席するため、この城に来たことがある。
その時、ライルが人族の街を見たいと城を抜け出した。私は止めようと後を追いかけたけど、褐色肌が珍しいと奴隷商人に捕まりそうになって。
人から動物へ姿をかえて逃げたけど、その途中でライルが足に大けがをした。なんとか城にまで戻ったけど、そこまでが限界で。どうしようか悩んでいたところに声をかけてくれたのが、子どもの頃のセシリアちゃんだった。
「あんたの命の恩人といっても良いぐらいの子なのに、まったく気付かないなんて。薄情にも程があるわ」
「だっ……黒髪だったんだぞ! 黒髪だったのに!」
「黒髪しか覚えていなかった、あんたが悪い」
私の一撃にライルが沈む。私は頬杖をついてテーブルと同化しているライルを眺めた。
「まあ、ケガの手当をしてもらって、一目惚れして。会いたいから、わざわざ動物に姿を変えて、警備が厳重な神殿に毎晩花を持って忍び込んでいたのにね。まさか、恥ずかしさと緊張で、黒髪以外のことを全部覚えてないなんて」
「おまっ!? なんで、それを!?」
勢いよく顔を上げたライルを私は鼻で笑った。
「何年、あんたの双子の姉をしていると思うの? それぐらい想像つくわ。それにしても、初対面でお飾りの妻発言はないわぁ」
「グッ……あの時のオレを殴りたい! 殴り倒して、半殺しにしてでも止めたい!」
「不可能ね」
再びライルが後悔とともにテーブルに沈む。
「ま、しばらくはそうして反省していなさい」
私はライルを放置して部屋を出た。
(ライルのことだから、これから意地でも挽回していくだろうし)
廊下に出れば窓から中庭が一望できる。来賓が宿泊するための離れの城で、設備も申し分ない。
セシリアちゃんが人族の国の復興のためにしばらく滞在すると伝達をしたら、バクルを始め多数の使用人がライルの城からやって来た。そのため、この離れの城が獣人専用状態。
獣人は一度懐いた相手にはとことん尽くすため、セシリアちゃんの好感度の高さがわかる。
目的の部屋に到着した私はドアを軽くノックした。
「どうぞ」
頭をさげたアッザが私を中へ通す。もともとアッザは舞踏会に出席するセシリアちゃんのお世話のため、一緒にこの国にきていた。
「「わふ! わふ!」」
二頭の犬が私の足下ではしゃぐ。
「ワヒとナンまで来ていたの?」
呆れる私にアッザが苦笑しながら説明する。
「セシリア様が不在となってから元気がなくなっておりましたそうで」
「まあ、番犬になるから良いかしら。セシリアちゃんはどう思う?」
突然、話を振ったからかキョトンとした後、セシリアちゃんが満面の笑顔で答える。
「私は毎朝ワヒとナンとお散歩ができまして嬉しいです」
「なら、良かったわ。散歩は運動にもなるし」
「ところで、ラナ様はいかがされました?」
アッザが紅茶を淹れながら私に訊ねる。
「ちょっと、セシリアちゃんとお話をしたいと思って。いいかしら?」
「はい。あ、ではこちらのテラスでお茶をご一緒にするのはいかがでしょう?」
セシリアちゃんが手で示した先は大きな窓と、その先にテーブルと椅子が置かれたテラスがある。
「いいわね」
こうして私はテラスでお茶会となった。
砂漠とは違う湿った風。でも不快な感じはない。アッザが淹れた紅茶の香りが緩やかに漂う。砂埃もなく、草花の匂いが風とともに香る。
「こういう日も悪くないわね」
穏やかな午後の休日、という雰囲気。しかし、セシリアちゃんの表情は硬く。
「どうしたの? なにか不安なことでもある?」
「いえ、その……私のために、ライル様の城の使用人の方々がここまで来られて……それが、申し訳なく……あと結婚式の準備も中断してしまいまして……」
「それはセシリアちゃんが悪いわけじゃないから。それに、人族の国が落ち着けば戻るんだし。あ、そういえば神殿の書物を見たけど、ものすごく沢山あるのね。あれを全部読んだの?」
私の質問にセシリアちゃんが恥ずかしそうに答える。
「全部……というわけではありませんが。だいたいは読みました」
「そうなの。でも、ちょっと気になったんだけど、恋愛とか結婚とか、そういう物語が書かれた書物がなかったような気がするんだけど。有名な恋愛劇の書物が一冊もなかったのよね」
「それは……たぶん、お母様が隠したのだと思います」
「隠した? どうして?」
セシリアちゃんが持っていたカップを置いて目を伏せた。
「私が六歳の時に神殿にあった書物の一部をお母様が片付けてしまいまして。理由を訊ねたら『あなたを苦しめるものにしかならないから』と悲しそうな顔で言われて。それ以上は聞くことができませんでした」
「そう」
六歳ってことは先帝、つまりセシリアちゃんの父が急死した時のこと。政略結婚の道具にされる可能性を考えて、結婚に恋愛や夢を持たないようにしたのかも。
私はセシリアちゃんの母の考えに苦いものを感じながら訊ねた。
「ところで、ライルとはどう? ヘタレでおバカな弟だけど、セシリアちゃんに迷惑をかけてないかしら?」
「め、迷惑だなんて、そんな! わ、私の方がご迷惑をおかけして……」
顔を赤くしたセシリアちゃんがわたわたと話す。
「むしろ、私が変な動きをしておりまして……ライル様が困っておられるのではないかと」
「変な動き?」
「は、はい。あの、最近はライル様のお姿をお見かけするだけで、なんだか心がふわふわして。それなのに、お顔を合わせると、すごく恥ずかしくなりまして……」
(ん?)
「あと、声をかけていただけると、すごく嬉しいのですが、頭が真っ白になりまして……何を話したら良いか分からなくなりまして」
(もしかして、これは?)
「それなのに、ライル様が他の女性の方と話しているのを見かけると、なぜか悲しいような、気持ちが沈むような……」
(これは脈ありっぽいわね)
もじもじと可愛らしく話すセシリアちゃんが何かに気づいたように目を大きくした。
「あの! もしかして、これは何かの病気でしょうか!?」
「ブハァッ」
私は思わず飲みかけていた紅茶を吹いてしまった。
「どうされました!?」
「なんでもないわ」
心配するセシリアちゃんに笑顔をむけながら横目でアッザと確認をする。
恋愛関係の本を読んだことがないため、自分の心を理解できていないのだろう。
アッザも同意見らしく頷く。
(面白そうだし、しばらくこのまま様子をみることにしましょう)
素早くテーブルを拭いたアッザが新しい紅茶を私に差し出す。
「ありがとう」
一口飲んだ新しい紅茶は砂糖を入れていないのに、とても甘くて……
「爆発しろリア充」
「え?」
「なんでもないわ」
私はにっこりと笑った。
(そういえば、セシリアちゃんはライルの想い人が誰なのか、まだ気づいてないんだっけ。まあ、いいわ。この二人なら、ほっといても結婚するし)
二人の恋のゆくえを特等席で見守らせていただきましょう。
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