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【書籍化】獣人の国に嫁がされた聖女は、おまえを愛することはないと宣言される〜私はもふもふに囲まれて幸せです〜  作者: 禅
第一章

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23/53

それは、人族の国の舞踏会でした

 あれから私は、腕の傷が治ったライル様とダンスの練習をする毎日。ただ、あの日からライル様に変化が。


 ケガをされて以降、毎回なぜか私より先に広間に来ているライル様。私はライル様をお待たせするわけにはいかない、と早く広間へ。

 すると、私の考えを読んだようにライル様がもっと早く広間に。


 そこから私とライル様の静かな戦いが始まった。


 私は昼食後に広間へ移動していたけれど、広間で昼食を食べて、そのままライル様を待つ。すると、ライル様が午前中から広間で書類仕事をするように。


 かくなる上は!


 と考えたところで、アッザとウカーブに止められて終了。広間にベッドを持ち込んで寝ようとしたのがいけなかったようです。


 あと、ライル様が以前より私の体調を気にされるようになったような。

 少し練習をしたら「休むか?」と確認され、平気だと答えれば無言で再開。でも、動きは穏やかで。初めて踊った時のダンスも楽しかったので、少し物足りないぐらいな時も。


 こうして、私は順調に練習を積み重ね、ダンスについてはアッザたちから太鼓判を押されるほど上達。でも、不安は拭えなくて……



 ――――――それから幾日が過ぎ、ついにやってきた舞踏会当日。



 人族の国の城に到着した私は、ライル様にエスコートされて馬車から降りた。


 白銀の髪を結い上げ、細かなレースと刺繍で飾られた淡いピンクのドレスを身に着けた私。胸には母から譲り受けたブローチ。他にもイヤリングやネックレスなどのアクセサリーが気になり、どうしても動きにくい。

 転けないように気をつけながら、私は目の前にそびえ立つ城を見上げた。


 白亜の壁にいくつもの細長い窓。その上には、空を突き刺すような紺色の屋根。ちっぽけな私なんて押しつぶされてしまいそう。

 私は無意識に胸にあるブローチを握りしめた。


「どうした?」

「あ、いえ。城に入るのも、正面から見るのも初めてで、少し緊張を……」

「そうか」


 ライル様が眉間にシワを寄せる。それから軽くため息を吐くと私にむけて腕を曲げた。


「ほら。行くぞ」

「へ? あ、はい。失礼いたします」


 私はライル様の腕にそっと手を添えた。あまり近づきすぎず、でも不仲に見られない程度に……


(これってかなり難しいのでは!?)


 私が距離を測りかねていると、ライル様に引き寄せられた。


「もっと近づけ。オレから離れるな」

「は、はい」


 ライル様に体を寄せ、二人で城内を案内されながら進む。

 アーチの形をした高い天井。壁は様々な絵で装飾され、等間隔に配置された灯りが廊下を照らす。足下を赤い絨毯が包み、足音を吸収する。


 広い廊下の先。


 私たちは大きな両扉の前に立った。中からは軽やかな音楽と人々の話し声。


『ご存知? 今日は獣人の王子も参加されるそうよ』

『それは存じ上げませんでしたわ。二本足で歩く獣が、どう踊るのか楽しみですわね』

『サーカスの動物ショーぐらいの余興にはなりますかしら』

『まぁ。それではサーカス団の方に失礼でしてよ』


 ドアを通して聞こえる笑い声。その酷い内容に手が震えてしまう。

 ライル様の顔が見ることができない私は俯いたまま謝った。


「も、申し訳ございません」

「なぜ、おまえが謝る?」

「不快な会話をお耳に入れてしまって……」

「それなら、話したヤツが悪いのであって、おまえが悪いのではない。それより顔をあげろ」

「は、はい」


 私は言葉に引っ張られ、ライル様を見上げる。不機嫌か怒り顔なのではと思っていたら、ライル様は淡々とした表情で。


「つまらんことを言うヤツはいる。それは、人族でも獣人でも同じだ。いちいち気にするな。そして、オレに謝るな」

「ですが、私は人族で……」

「人族だが、人族の代表ではない。すべての人族の言動の責任を負う必要はない」

「は、はい」

「あと……」


 ライル様が言葉を切り、顔をそむける。でも、耳はこちらを向いていて。


「もっとオレを信じろ」

「え?」


 思わぬ言葉に本音が漏れてしまった。

 どこか拗ねたような顔をしたライル様が横目で私を見下ろす。


「オレはそんなに頼りないか?」

「い、いいえ! そのようなことは、ございません!」

「なら、オレをもっと信用しろ。どうでもいいヤツらが言うことに耳を貸すな」


 力強い濃緑の瞳。吸い込まれそうな輝き。不思議と不安が和らぐ。


「……はい」


 私はライル様の腕に添えている手に力を入れた。


『獣人国、第二王子ライル殿下、婚約者セシリア嬢、ご入場!』


 案内人の声とともにドアがゆっくりと開く。


 私はライル様とともにホールに足を踏みいれた。

 ざわついていた人々が一斉に静かになる。遮る音が消え、楽器が奏でる音楽が私たちを導く。人が割れ、現われた道を二人で進む。


「おい。誰だ? 二本足で歩く獣と言ったのは」

「話が違うだろ」

「隣を歩かれている令嬢は、どこの家の者だ?」

「皇族から嫁いだと聞いたが……あれほど美しい令嬢がいたか?」

「本当にアレが獣人なのか?」


 男性のヒソヒソ声が響く一方で、女性たちは頬を赤らめ、無言のまま呆然とライル様を見つめる。

 周囲の様子に私はそっと隣に立つライル様を覗き見た。


 首の後ろで緩く一つにまとめた焦げ茶色の髪。宝石よりも澄んだ輝きを放つ濃緑の瞳。眉目秀麗な顔立ちに、しなやかながらも筋肉がついた立派な体。獣人の証であるライオンの耳と尻尾。

 そこに獣人国の真っ白な正装をまとえば、普通の男性では太刀打ちできなほどの美丈夫となったライル様。

 女性たちが見惚れるのも納得の容姿。


 ホールの中心でライル様が足を止めた。


「で、これからどうすればいいんだ?」


 私は神殿で読んだ舞踏会の手順書の書物を思い出した。


「えっと……最初は出席者同士で談笑をして過ごしまして、主催者が登場しましたらダンス。それから、挨拶を……」

「なら、さっさと踊って終わりにすればいい」

「えっ!?」


 ちょうど曲が切り替わり、ゆったりと流れていた音楽が軽いリズムになる。ライル様が私の腰を引き寄せ、ステップを踏む。突然のことに驚いても、体は練習通りに動いて……


 人々が驚きながらも一歩下がり、空間をあける。


「あ、あのライル様」

「なんだ?」


 踊りながら平然と会話できるぐらいにダンスが染みついた体。


「舞踏会の流れについて、説明が抜けていたところがありまして。主催者が登場して、まずは主催者が一曲踊ってから出席者が踊るという順番があるのですが……」

「間違っていたら、誰か止めるだろ。止めないなら、そのまま踊りきればいい。それで、あとは帰るだけだ」

「そ、それでよろしいのでしょうか?」

「気にするほどのことでもないだろ。それより足は大丈夫か? ステップは早すぎないか?」


 いつも練習していた広間は床が大理石。しかし、ここのホールは絨毯。どうしても勝手が違う……けど。


「大丈夫です」

「……」


 私の返事にライル様が無言になる。それから、ステップが変わり、グッと力強く私を誘導した。


「え? あ、これは」


 初めてライル様と踊った時のダンス。ほとんど足が地面につかなくて、でも空を飛んでいるようで。とても楽しかった。

 実は絨毯の毛に足をとられかけていた私。でも、このダンスなら足をとられる前にライル様が引き上げてくれる。

 ふわふわと雲の上を歩くように足を動かす。やっぱり全身を使って思いっきり踊るダンスは面白い。


 あれだけ緊張していたのに、今は笑みが漏れる。そんな私にライル様も微笑んで。


 こうして、あっという間に曲が終了。同時にピタリと私たちの動きが止まる。

 その瞬間、髪止めが外れ、まとめていた髪が肩を流れた。


「あ……」


 髪をまとめようとライル様から手を離す。すると、体が宙に浮いた。


「ふぇっ!?「「「「「キャーーーー!!!!!」」」」」


 女性陣の黄色い悲鳴が私の声をかき消す。ライル様が右腕だけで私を軽々と抱き上げた。


(いつも遠いライル様の顔がこんなに近くに!?)


 突然のことに戸惑う私とは反対に、平然と前を向いているライル様。……いえ、頬に少し赤みが差しているような。しかも、丸い耳がピクピクと恥ずかしげに動いている。

 私を見ることなくライル様が宣言した。


「帰るぞ」

「えぇ!?」


 これには周囲も騒然となる。けど、ライル様は気にする様子なく。


「一曲踊ったんだ。これで参加の義務は果たした」

「そ、そういうものなのでしょうか?」

「そういうもんだ」


 ライル様が歩き出したところで広間のドアが開き、兵士がなだれ込んできた。

 和やかな雰囲気が一変。優雅な演奏は消え、緊迫した空気が張りつめる。


「その女から離れろ! そいつは皇女を名乗った重罪人だ!」


 どこからかマクシム陛下の声が響いた。




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