第3話:聖夜の対決
王城の廊下で睨み合う、私と騎士。
まるで大型の凶犬のような男は、「サンタクロース、だと?」といっそう眉を吊り上げた。
(顔、こわっ!)
さりとて、怯むわけにはいかない。
私はホリーと共に完璧にプレゼントを配って、最高のサンタクロースデビューを終えなければならない。クロウス伯爵家の威厳と父の期待に応えるためにも、この危機は絶対に突破する必要がある。
「食らいなさい!〈眠りの白雪〉!)」
「く……っ! また魔法か⁉」
ふんわりとした純白の雪が騎士に振る。
騎士は外套で体を庇おうとしているが、無駄だ。私の魔法はそんな布切れでは防げない。私はクロウス伯爵家で最も聖魔法の扱いに長け、その技術は防御魔法も通過させられるほどだ。
この近距離で、ただの騎士が眠りに落ちないはずがなく――。
「ん?」
肩に積もった雪を手でサッサッと払い除ける騎士は、小首を傾げていた。
「え?」
「ん?」
2回目の「ん?」に、私は青ざめた。
(ね、寝ないぃぃぃっ!? まずいまずいまずいわよぉぉっ!)
「よく分からないが、魔法は不発だったようだな」
「いいいいい今のは小手調べだから!」
いったいこいつは何者なのか。
わけが分からないが、騎士の勝ち誇った顔がとにかく憎らしい。
じりり……と、距離を取りながら、私は拳をぎゅっと握りしめた。緊迫した空気が息苦しかった。
「かくなる上は――」
(逃げる‼)
「あっ、待て!」
「待たない!」
くるりと騎士に背を向けて、私は一目散に廊下を駆け出した。
走りながら使った魔法は、先ほどの氷の壁を作ったものと同じ。ブーツの底に氷のエッジを生成し、床にも氷を張り巡らせる。高速で氷上を滑り、私はルベル殿下の部屋を目指した。
(この滑走にはついて来れないでしょう!)
ところがだ。
「うおぉぉぉーーっ!!!!」
「ついてきてる!!」
シャカシャカと氷の上を駆ける私の後ろには、バキバキと氷を踏み割りながら追いかけて来る騎士の姿があった。恐ろしい形相と気迫だ。思わず悲鳴を上げてしまう。
「いやぁぁぁぁーーっ!」
「逃がすものか‼」
(なんで善意のサンタクロースを追ってくるのよ⁉ お父さま、私こんなこと習ってません!)
私は子どたちにプレゼントを配りにきただけなのに。
お父さまの顔を思い出した瞬間、カクンッと足の力が抜けてしまった。「あっ」と間抜けな声が漏れ、私のブーツはつるりと滑り、そして視界がぐらりと後方に揺れた。
手はプレゼントを抱えているので、このままでは頭を打ってしまう。そう思い、瞬間的に目を閉じて――どすんっ。
予想外に軽い衝撃に驚き、私はおそるおそる目を開けた。
「う……あれ……。痛くない……?」
「ぬぅ……捕まえたぞ…、侵入者!」
騎士が私の下敷きになっていた。彼は痛みを堪えながら低い声で唸り、私の腰を強引に捕まえた。
「ひゃぁぁぁっ!」
「こらっ! 暴れるな!」
「暴れます!」
大きな腕に後ろから押さえつけられ、動揺した私はジタバタと暴れに暴れた。
男の人に触れられたことなんて、ほとんどなかった。お父さまやお兄さまにエスコートされたり、病気の時に抱っこされたことが数回ある程度。強い力で捕縛されるなんて経験、あるはずがなかった。
「へ、変なとこ触らないで!」




