第四話 踏み込んだ者 ①
園原さんが失踪して、二週間が経った。
警察には届け出た。
しかし担当者の反応は薄かった。
成人の自発的な失踪は、事件性が認められない限り積極的には動けないという。
財布とスマホが残っていると伝えると、少しだけ表情が変わったが、それでも「様子を見ましょう」という言葉で終わった。
店長は最初から関心がなかった。
シフトの穴を埋める人間が必要だという話しかしなかった。
私は一人で、少しずつ調べ始めた。
◇
最初に気になったのは、過去のタイムカードだった。
バックヤードの奥にある書類棚を漁ると、段ボール箱に古いタイムカードが詰め込まれていた。
埃をかぶっていた。
誰かが整理した形跡はなく、年度もばらばらのまま突っ込まれていた。
一枚ずつ確認していくと、数年前のカードの中に、見覚えのある打刻パターンがあった。
出勤の打刻がある。
しかし退勤の打刻がない。
そして翌日以降、その人物のカードが存在しない。
同じパターンが、三枚あった。
打刻時刻を確認した。
三枚とも、同じ時刻だった。
午前2時15分。
私はタイムカードを箱に戻した。
手が少し震えていた。
名前は確認しなかった。
なぜか、確認してはいけない気がした。
書類をさらに漁っていると、古い紙が一枚出てきた。
手書きのメモだった。
前任の誰かが書いたものらしく、インクが薄れかけている。
「この土地のことを区長に聞いた。江戸の頃、ここは」
そこで紙が破れていた。続きが読めない。
破れた断面は綺麗すぎた。
経年で破れたのではなく、意図的に切り取られたように見えた。
◇
次の休日、妻がまだ起きてこないので、私は図書館へ行った。
司書に頼んで、この地域の古い地誌を取り寄せてもらった。
江戸期から明治にかけての土地の記録が載っているという。
一時間待って、分厚い冊子が出てきた。
目次を確認し、北惢森山地区の項目を探した。ページを開いた。
そこだけ、綺麗に切り取られていた。
前後のページはある。しかしこの土地に関する記述だけが、根元から切り取られていた。
いつ切り取られたのか。誰が切り取ったのか。
司書に聞くと「以前からそうなっていた」とだけ言った。
夕方、私は図書館を出て、駐車場でしばらく立っていた。
調べれば調べるほど、何も分からなくなっていく。
◇
気になって、過去の失踪者の名前を一人だけ調べてみた。
タイムカードの束の中から、数年前に消えた元従業員の名前を確認した。
店長からは「突然辞めた」と聞かされていた人物だ。
SNSで検索すると、アカウントが出てきた。
プロフィール写真がある。
普通の顔をした、三十代くらいの男だった。
投稿も残っていた。旅行の写真、食事の写真、近況報告。ごく普通の日常が記録されていた。
最後の投稿の日付を確認した。
失踪した日の前日だった。
それ以降、投稿が止まっていた。
アカウントは存在している。しかし更新されていない。
生きているのか、死んでいるのか。どこにいるのか。何も分からなかった。
私はスマホを閉じた。
死んでいないかもしれない。
しかし生きている証拠もない。調べる前より、分からないことが増えた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
続きが気になった方は、ぜひ次の話もお楽しみにしてください。
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