第三話 静かに増えるもの ④
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次の日の夜は黒崎さんの当番日だった。
閉店作業を黒崎さんに任せて帰ろうとしたとき、忘れ物に気づいた。
事務所に財布を置いてきた。
裏口から戻ると、店内はすでに照明が落ちていた。
非常灯の薄明かりだけが廊下を照らしている。
財布を取って、また出ようとしたとき、駐車場に面した窓から外に人影が見えた。
神社の前だった。
黒崎さんだった。
みどり色のフェンスの外側にしゃがんで、何かを並べていた。フェンス越しに鳥居が見える位置に、静かに、丁寧に。
中には入っていなかった。
フェンスの鍵は閉まったままで、黒崎さんはただ外側から、何かを置いていた。
私は窓の前で動けなかった。
黒崎さんも鍵を持っていない。ならば誰が持っているのか。
どのくらい見ていたか分からない。
黒崎さんが立ち上がり、こちらを向いた。
店の窓越しに、目が合った。
黒崎さんは何も言わなかった。
驚いた様子もなかった。ただ静かにこちらを見ていた。
私は窓から離れた。
そのまま裏口から外に出て、駐車場を横切って車に乗った。エンジンをかけながら、バックミラーを見た。
神社の前には、もう誰もいなかった。
フェンスの外に、さっき黒崎さんが並べていたものだけが残っていた。
◇
その日の夜、帰宅すると部屋の電気がついていた。
リビングに入ると、妻がダイニングテーブルに座っていた。
何も食べていない。何も飲んでいない。
スマホも本も持たずに、ただただ窓の外を見ていた。
「ただいま」
「おかえり」
「こないだはごめん。誕生日、忘れてて」
「うん」
「今度、どこか食事でも行こう」
妻はしばらく窓の外を見ていた。
「うん」
それだけだった。
「ご飯は?」
「食べた」
テーブルの上には何もなかった。食器を洗った形跡もなかった。
「何か食べる?」
「いい」
それだけだった。
シャワーを浴びて戻ると、妻はもうテーブルにいなかった。
寝室のドアが閉まっていた。
隙間から明かりは漏れていなかった。




