表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/14

第三話 静かに増えるもの ①

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

続きが気になった方は、ぜひ次の話もお楽しみにしてください。


【作者からのお願い】

もし「設定が面白そう!」「続きを読んでみたい」と少しでも思っていただけましたら、画面下部にある【ブックマークに追加】をポチッと押していただけると非常に励みになります!

あなたのブックマーク一つが、この作品がランキングに載るための大きな力になります。

どうぞ応援よろしくお願いいたします!

 翌朝、バックヤードに入ると、大きな音が聞こえる。

 確認すると、青果作業場で岸谷が廃棄ボックスに商品を投げ入れていた。


「岸谷さん、どうしたんですか?」

 彼は振り返らずに答えた。


「歯形がついてた」

「歯形?」

「野菜に。かじった跡がある。ネズミじゃないと思う」

 それだけ言って、また作業に戻った。

 私もそれ以上は、聞かなかった。

 廃棄ボックスの中を見ると、きゅうりが数本、大根一本、人参が二本入っていた。

 確かに、何かにかじられたような跡があった。

 ネズミではない。人間の歯形?

 きゅうりに人間の前歯のような跡が並んでいる。

 だが、私はネズミだと思うことにした。

 ◇

 午前10時すぎより、客足が増えてくる。

 売り場を見回っていると、常連客の若い男が来ていた。

 今日も焦点の合わない目で、一定のルートを歩いている。




 青果、水産、精肉、日配、ドライ。何も手に取らない。何もカゴに入れない。

 田口チーフが横に並んできた。


「今日も来てますよ。万引きじゃないんですか、やっぱり」

「声かけてみます」

 私は売り場を横切り、男の前に立った。


「いらっしゃいませ。何かお探しですか」

 男は足を止めた。ゆっくりこちらを向いた。

 目が合った。

 焦点が合っているのか合っていないのか、よく分からない目だった。

 何かを見ているのか、何も見ていないのか判断できなかった。


「……大丈夫です」

 それだけ言って、また歩き始めた。

 私はしばらくその背中を見ていた。

 男はいつも通りバックヤードへの扉の前で三秒だけ足を止め、わずかに首を傾けてから、

「まだいる」

 聞き取れないくらい小さなつぶやきを落とし、また歩き始めた。

「まだいる?」

 田口チーフが戻ってきた。


「声かけても、ああいう感じですか」

「そういう方なんだと思います」

 田口チーフは納得していない顔だったが、それ以上は言わなかった。


 一週間も経つ頃には、従業員の誰もが男のことを気にしなくなっていた。

「今日もあの人来てるね」

「ああ、来てる来てる」

 それだけで会話が終わるようになった。

 ある夜、例の男が売り場を一周してレジに来た。

 チェッカーの女性のレジに、空のカゴを置いた。


「お買い上げの商品はありますか」

 男は初めて正面を向いた。チェッカーの女性はその顔を見た。

 何も言えなくなった。

 スキャンすべき商品はない。

 レシートも出ない。男は財布を出さずに、カゴだけ持って帰った。

 閉店後、チェッカーの女性が事務所に来た。


「副店長、少しいいですか」

「どうぞ」

「あの男の人の顔、さっき見たんですけど」

「うん」

「何度見ても、思い出せないんです。レジを打ち終わった瞬間に、全部消えちゃって」

 私は返事をしなかった。


「それと……」

 彼女は続けた。

「あの三人が毎回、私のレジにだけ並ぶようになってるの、気づいてますか」

「……気のせいじゃないの」

「毎晩です。おっさんも、おばさんも、あの男の人も、必ず私のレジに来るんです」

 私はしばらく黙っていた。


「気をつけて、と言っても何に気をつけていいか分からないけど。何かあったらすぐ言って」

 それしか言えなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ