表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/14

第五話 夜のシフト ①

 田原が来なくなったのは、ある朝のことだった。

 シフトに入っているのに、連絡がない。

 私は水産の作業場を確認し、喫煙所を見に行き、駐車場を一周した。どこにもいなかった。

 ロッカーを開けると、私服が残っていた。財布も、スマホも。

 名札だけがなかった。


 田口チーフが横で小さく息を呑んだ。私は何も言えなかった。

 その日の夕方、神社の前を通ると、フェンスの外の供え物が新しくなっていた。

 荒塩、白い皿、おすすめの惣菜のパック。

 そして今日から、もう一膳分が増えていた。

 誰が置いたのか。

 いつ置いたのか。

 フェンスの鍵は今日も閉まったままだった。

 三人の常連客が来なくなったのは、田原が失踪した翌日からだった。

 おっさんも、おばさんも、若い男も。

 閉店間際になっても来なかった。

 チェッカーの女性が、閉店後に事務所に来た。


「あの三人、今日来なかったですね」

「うん」

「最後に来た夜、おっさんが帰り際に何か言ってたんです」

「何て言ってた?」

「今夜で、揃うな、って」

 私は返事ができなかった。


「揃うって、何が揃ったんですかね」

「……分からない」

 彼女はしばらく黙っていた。それから、思い出したように言った。


「あの夢、まだ見るんです。前にお話ししたやつ」

「うん」

「前は、たまにだったんです。今は、毎晩」

 私は何も言えなかった。


「それに、声がだんだんはっきりしてきて。最初は遠くから聞こえる感じだったのに、最近は、すぐそこにいるみたいで」

「田原さんも、夢を見るって言ってましたよね」

 彼女は続けた。

「品出しの音がする夢、って。私の夢とは違うけど、なんか」

「なんか?」

「繋がってる気がして」

 ◇

 その夜は私が閉店処理をする夜だった。

 チェッカーの女性も、伝票の整理が残っているといって事務所に残っていた。


 十二日だった。

 店長は夕方、私に声をかけてきた。

「今夜はご苦労さん。早く帰りなさい」

「はい」

 しかし私は帰らなかった。

 いつも通り、残業があった。

 店長はそれを知っているはずだっ た。それでも毎回、同じことを言った。

 ◇

 午後九時を過ぎた頃、妻からLINEが来た。


「あなたのしょく場いってもいい?」

 いつもと文体が違った。

 句読点がない。平仮名が多い。

 返信しようとした瞬間、事務所の奥から音がした。


 ガチャン。

 タイムカードの打刻音だった。

 私とチェッカーの女性は顔を見合わせた。

 事務所には私たち二人しかいない。

 タイムカードのラックは廊下の突き当たりにある。

 もう一度、音がした。


 ガチャン。

 二人でラックに向かった。

 カードが二枚、新しく打刻されていた。

 一枚は園原さんのカードだった。

 もう一枚は、田原のカードだった。

 打刻時刻は、今の時刻だった。

 私は二枚のカードを手に持ったまま、動けなかった。

 チェッカーの女性が私の隣で、小さく呼吸をしていた。


「副店長」

「うん」

「給与システム、確認しますか」

「……いい」

 確認したくなかった。確認すれば、また数字が増えている。

 まるで二人がどこかで働き続けているように。

 カードをラックに戻した。

 ◇

 バックヤードに戻ろうとしたとき、精肉の冷凍庫の前を通った。

 扉の隙間から、白い霧が漏れていた。

 いつもと違うのは、霧の中に混じった、かすかな臭いだった。

 一度だけ嗅いだことがある臭いだった。

「おすすめの惣菜」を口にしたとき、奥に感じた、あの独特の臭みと、同じだった。


 私は立ち止まらなかった。

 冷凍庫の奥で、何かが動く気配がした。

 大きな、人の形をした影が、霧の中に見えた気がした。

 見なかったことにした。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

続きが気になった方は、ぜひ次の話もお楽しみにしてください。


【作者からのお願い】

もし「設定が面白そう!」「続きを読んでみたい」と少しでも思っていただけましたら、画面下部にある【ブックマークに追加】をポチッと押していただけると非常に励みになります!

あなたのブックマーク一つが、この作品がランキングに載るための大きな力になります。

どうぞ応援よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ