晩秋⑤
各自カゴを三つ抱えてきていた。夕方にはカルロが荷馬車で駆けつけてくれると約束していたので、歩いて持ち帰る量よりずっと多くのキノコを狩れる。それに、ダグマ達が猪を狩ったらそれも荷馬車で持ち帰れるのだ。
大きなカゴにアカハツタケとカラハツタケをいっぱいに積んだベッラが他のカゴと一緒に置いておくためにアデリーの近くまでやってきた。
「一つ一つは重くないのに、これだけ揃うと重いのなんのって」
ベッラが苦労して運んでいた。アデリーがキノコを探す手を止めて駆け寄るとカゴの片方を持った。
「あら、ありがとう。助かるわ」
二人でゆらゆらとしながらカゴを運んでいく。
「さっきの話だけど」
ベッラはやや抑え気味の声量でアデリーに話しかける。
「アンナって人。あの人たちにとって、とても大事な人なのね。なんだか妬けるわ。入り込む余地がないみたいで……ちょっと落ち込むわね」
最後の言葉が気になってチラリとベッラを見た。ベッラもそれを察して軽く肩を竦める。
「恋愛に時間なんて関係ないのよ。出会って間もなくても、好きになることもあるわ。それなのに、この場に居もしない相手がライバルだなんて、ね。記憶って美化されるから、時として生身の人間より厄介な相手なのよ。近くに居れば嫌なところとかも見えるけれど、居ないと最高の記憶しか残ってないものね」
なんとなく、ベッラがダグマを気に入っているのには勘づいていたが、こうはっきり言われるとアデリーはただ黙って密かに落ち込むしかなかった。憧れる女性が同じ男の人を好きなら、本当に勝ち目なんてこれっぽっちもない。
「そうでしょうか……。記憶は美化されますけど、決して触れられません。素敵な思い出を新しく紡ぎ出せるほうが良いんじゃないでしょうか」
勇気付けているのか、自虐的な遊びをしているのか、アデリーには判断できない。ベッラを励ますと自身が落ち込むという、嫌なループに迷い込んでいるようだ。
「慰めてくれてありがとう。そうね、ここで負けたら欲しいものも手に入らないわ。頑張ってみよう」
ベッラはニッコリと微笑むとカゴを置きましょうと言うので、まだ目的の場所まで距離があるもののアデリーは素直に従いカゴを置いた。するとベッラがアデリーを力強く抱きしめる。
「可愛いアデリー。あなたは生きているだけで私や皆を明るくしてくれているって知っていた? いつも一所懸命で、可愛らしくて大好きよ。何もできないと悩んでいるけれど、アデリーが居てくれるだけで私達は幸せなの。わかった?」
柔らかな胸に顔が埋まってしまいそうだ。アデリーは藻掻きながら顔を上げて、ベッラを抱き返した。
「ベッラさん。私はあなたみたいになりたいわ。本当に憧れてるの」
「まぁ、嬉しいことを言うのね。私が娼婦だったと知っているのに……嘘でも嬉しいわ」
「嘘じゃありません。こんな魅力的な女性を他に知りませんから」
更にベッラがアデリーをキツく抱きしめる。
「可愛い子。あのロセすら懐柔させる力は本物ね。私もあなたの虜だわ」
「あのあの……胸に押しつぶされそうです!」
あははと声を上げると、ベッラはアデリーを解放し、もう一度軽く抱きしめるとまたカゴを持った。
「胸を大きくする方法を知りたい?」
アデリーは自分の胸を見下ろしてから、その貧弱さに素直に「聞きたいです」と答えていた。
「男に愛されることよ。だから、恋をするといいわ」
妖艶な笑みを浮かべて「あと少しだから自分で持っていくわ」と宣言し、ベッラはカゴを運んでいった。
アデリーは去っていくベッラの姿を見送りながら、もう一度自分の胸元を見下ろしていた。恋はしているけれど、愛してもらえる確率は低そうだ。なんせ、あの魅惑的なボディに素敵な性格のベッラが相手なのだから。
その時だった。ベッラの悲鳴に弾かれたように顔を上げた。ほんの少し先で尻餅をついたベッラと興奮した猪が対峙していた。
猪は興奮すると攻撃性が増し、その牙と恐ろしい力で人間を突き上げるのだ。
「ベッラさん!」
アデリーもまた悲鳴に近い声でベッラの名を叫んでいた。




