晩秋④
目的地に着くと目視であちらこちらにキノコが生えているのがわかった。しかも至る所にヤマドリダケが顔を覗かせている。
「わぁ、ヤマドリダケが沢山!」
歓声を上げるアデリーにロセがふうとため息をつく。
「これだからお嬢様はなんにも知らないって言われるのよ。あんたが見てる殆どは『ヤマドリダケモドキ』。ソックリだけど違うものなの。今、本物を見せるから待ってなさい」
こんなに似ているのに違うのかとヤマドリダケモドキを観察していると横からベッラがそっと教えてくれた。
「私も勘違いしてたのよ。だって本当にそっくりだし、実は味も似てるらしいのよ。ヤマドリダケが一級品ならヤマドリダケモドキは二級品くらいの差みたい」
説明されている所にロセが本物のキノコを手に戻ってきた。そこここに生えているもどきとの差はカサの色だ。ヤマドリダケのほうが濃い茶色をしている。
「これと見比べて採りなさい。私はベニテングタケを採るわ」
「ベニテングタケ? それは美味しいの?」
アデリーの問いにベッラが笑い、ロセは目玉を回して見せる。
「知らないにも程があるわ。ベニテングタケは毒キノコ。煮汁を置いておくとハエが寄ってきて舐めて死ぬのよ。赤くていかにも毒がありそうだから間違えて食べる人はアンタか赤ちゃんくらいなもんだわ」
アデリーは恥ずかしさを紛らわせる為にスカートを弄りながら「今学んだもの、間違えないわよ」と小さく反論した。
「食べて知るのも悪くないわよ。死にはしないから。腹痛だけだって聞いてるし」
なんだか食べさせたがっているようにも聞こえたのはアデリーだけではなかったようだ。話を聞いていたトニが会話に入ってきた。
「ここの薬師は勉強熱心だな。毒キノコを食べてどうなるか知りたがってる」
これをロセは否定しない。
「もちろん、知りたいという欲はあるわ。効果を実際に見れるのは最高だもの」
ここで顔をくるんと向きを変えてアデリーへと向けた。
「とはいえ、アデリーは食べなくていいわ。いつかリルに再び会うことがあったらその時はあらゆる毒キノコを食べさせてやるんだから」
鼻息荒く言い切るとカゴを持って大股で森の中へ入っていく。
「遠くには行くなよ」
「わかってるわよ!」
弓を背から下ろしながら声を掛けたトニに振り返りもせず答えるとしゃがんで草を引き抜いていた。
「さて、アデリー。君もベッラや元気な薬師と互いに姿が見えるところでキノコ狩りだ。気をつけるんだよ」
トニはダグマは少し離れたところで辺りの様子をチェックしている姿を目で追いながら言う。ダグマは獣の食べ残しなどがないかなど、痕跡を探すと話していた。
「それは……私が赤毛だから心配するのですね?」
つい、言いたいことが口からついて出ていた。トニには何でも話せるような柔和な空気があって、普段なら閉じ込めておく言葉の数々を出してしまっても問題ないように感じさせるのだ。
「ああ、そうだ。アンナを守れなかった俺達には今でも後悔が渦巻いている。君の赤毛は本当にアンナにソックリだ。思わず構いたくなる雰囲気まで似てる。ダグマが君を手元に置きたくなる気持ちは理解できるな」
顔を上げたアデリーにトニは陰のある笑みで見下ろしていた。
「あの時──」
「おい! トニ!」
遠くでダグマがトニを呼び寄せていた。トニは話を切ってダグマに顔を向けた。
「俺も廃城に住む。今度こそ守らなきゃならないから」
そう言うと早足でダグマの元へと歩いていった。
残されたアデリーは手にしていたヤマドリダケを見下ろした。アンナがヤマドリダケならば、アデリーはヤマドリダケモドキだ。皆が大事にしていたアンナという人物を、何かの事態で失ったのだと推測する。そこにアンナもどきのアデリーが現れて、三人とも次こそは守らねばと感じているらしい。
「でも、何から……」
アデリーを守ろうとしてくれているが、アデリーに差し迫る脅威などないのに。
「目印はアカハツダケよ。赤っぽいキノコが見えたら周辺を探してみて。ヤマドリダケも近くにあることが多いの」
アデリーの呟きを勘違いしたベッラが助言してくれたことで我に返り、アデリーは「はい。探してみます」と返事をした。とにかく半人前なのだから、物思いにふけっている場合ではなかった。手にしていたヤマドリダケを再度確認してから、辺りを散策しだすのだった。




