晩秋③
「寂しくないかって? そりゃあ、前はちょっとね。でも、うちは、お爺ちゃんと二人きりだったからいつか必ず一人になることはわかっていたもの」
ぞろぞろとキノコ狩りに向かう途中、アデリーはロセに家族が居なくて寂しくならないか聞いてみた。一度寂しさを感じると、アデリーは鳥が番で居ることを見ただけでも自分は一人なのだと落ち込んでいた。
「わかっていても寂しいわ」
ロセは寂しくないというのに、アデリーの方がロセの境遇に涙を浮かべていた。
「勝手に不幸にしないでよ! 私は……そりゃ時にはお爺ちゃんと話せたらと思わないこともないわ。でも今は近くにベニートが居るし、なんとなくぽっかり空いた穴が塞がったのよ。泣くのは止めなさい。辛気臭くなるじゃない」
確かに、せっかく楽しい日なのにこれでは台無しだ。アデリーは涙を拭いて空を見上げた。雲一つない晴天で、日陰は寒いが日の当たる場所を通ると心も自然と温められるような穏やかさだ。
「それに、いつかは結婚して子供も持てるでしょ。新たな家族を作ればいいわけだし、悲観的になる必要なんてないのよ」
言い切られるとそうだとも思うが、それでも親や兄のことを変わらず愛しているし、なんとも言えない気持ちになっていた。
「それより」
ロセは横にいるアデリーに体を寄せて、前を行く一団の様子を窺いながらコソコソと話し出す。
「アンナって人。あの三人とも知っている人なのね。『俺達のアンナ』と言っていたじゃない? どういう意味なのかしら」
「そうね。推測するに、アンナさんは何かしら不幸な出来事に遭って、三人ともそれを心の傷として持っているみたいだったわね」
アデリーの赤髪と同じアンナという女性がロセもアデリーも気になっていた。あまり勝手な推測をするのも悪いとは思うのだが、三人が何度も口を滑らせるからどうしてもアデリーたちは二人になると色々と憶測を立ててしまうのだ。とにかく三人にとってとても大事な人だったことは間違いない。居ないのに名前が出るというのはそういうことだ。
どんなに考えてもヒントがないのだから、答えは出そうもない。二人は皆の背を眺めつつ歩く。先頭を行くトニとマリオ。その次に仲睦まじく話をしながら歩くダグマとベッラ。
「ベッラはダグマと一緒になりたいのかしらね。負けてられないわよ、アデリー」
急に話を変えてくるのはロセらしいが、これには面食らって頬が熱くなった。
「ちょっと! そんな聞こえそうな声で言わないで。それにベッラがその気なら私には……勝てる要素なんてないから」
娼婦だっただけあって艶っぽさもあるし、何事にも冷静なところもあって、ベッラはアデリーにとって憧れの女性と言っても過言ではない。料理の腕も遠く及ばず、元々勝負になるような相手ではない。
「まぁね。男はダグマだけじゃないから気にすることないわ」
ロセはアデリーを慰めたつもりだったようだが、なんとなくこの言葉はアデリーを更に落ち込ませた。
「ロセはどうなの? 結婚したい気持ちがあるなら相手が必要よ」
アデリーの話ばかりしていると、救いようがなくなるのでロセに矛先を向けてみた。ロセは道に落ちていた小枝を足で蹴って言う。
「そりゃ一人では結婚できないわ。かと言って、なんだか決め手にかけるのよね。カルロなんかも悪くないと思うけど、カリーナがいるでしょ? なかなか手強い姑付きだとさー」
ロセならばカリーナと対等にやりあえると思うのだが、本人はそう思っていないらしい。でもカルロは大工としても一人前だし、人当たりもいい。確かに良い相手かもしれない。
「ま、ここだけの話、ベニートと家族になりたいわね」
「え! ベニートさんと結婚したいの?」
男性側が歳上であるのは普通のことだ。しかし、ベニートとロセだとさすがに歳が離れすぎている。男性側が相当裕福ならばこういう年齢差はなくもないが、ベニートはいい職人だが裕福ではない。とにかくお爺さんと言っていい年齢のベニートとロセだと感覚には夫婦と思うことは難しいのだ。
「何言ってんのよ。家族ってのは親とかも家族でしょ? ベニートを夫にするつもりなんてあるわけがないじゃない」
ロセは呆れ顔でアデリーを見ると首を振った。
「アデリーは妹よ。出来の悪い妹でなかなか認めるのは難しいけれど、仕方がないわ。家族ってそういうものでしょ?」
アデリーの心を直撃するような言葉だっただけに、アデリーは自分の涙腺が一気に緩むのを感じて天を仰いでから目を閉じた。
「そんな嬉しいこと言われたら、泣いてしまうから……」
間髪入れずに「バカね。それはもう泣いてるって言うのよ」と、いつものロセらしい言葉が飛んできた。ただ、なんとなく幾分柔らかく感じたが、アデリーは涙を堪えるのに必死で余裕がなくて判断できなかった。




