病⑤
話に耳を傾けていたダグマが「たまたま財産があるっていうのはもちろんそうなんだが、アデリーは頑張ってると思うぞ。何をしても半人前だが、それを何個もこなしているんだから一人前以上の働きをしてるさ」と、褒めた。
「私も胸をはってこれならできますって言えるものが欲しいのです」
ダグマは自分の唇を指でなぞって僅かに首を傾げる仕草をした。何か考えを巡らせているようだ。
「うーむ、そうしたらやはりニコラスについていくのがいいだろうな。商いを覚えれば行商人としてやっていける。お前は読み書きできるし、計算もできるだろ? うってつけな気がするんだが──」
ここまで話してからチラリとアデリーを見て「気は進まんがな」と付け加えた。
「お店を構えてはいけませんか? ここで、なんというか雑貨屋さんみたいな」
それにもダグマは気乗りしないようで「んー」とうなって唇を撫でていた。
「確かにそれもありだが……率直に言えばそれもやって欲しくはないな」
そこで扉の向こう側から「ここにいるのか? ダグマ国王は」と呼びかけるニコラスの声がした。
「国王ってなんだ。入ってこいよ」
ダグマの返答にニコラスがひょこっと笑顔で現れる。
「湯加減、最高。ほら、入ってこいよ」
そう、ニコラスは浴槽に湯を張っていたのだ。
「ああ、お前は?」
「後から行く。アデリーのほらネックレスやらなにやらを見せてもらいたいから」
「そうだな。話はしておいた。了承してくれたよな?」
ダグマに話を振られ、二人の視線がアデリーに向かう。アデリーが頷いた。
「それは良かった。じゃあ、悪いけど見せてくれ」
「じゃあ俺は先に国王さながら贅沢を満喫してるぞ」
ダグマは湯に浸かるのは久しぶりだと言いながら部屋を出ていった。残されたアデリーは自分の服をガサゴソとめくって袋を取り出した。
「これでどれくらいの鉱石が手に入るのでしょうか」
袋を丸々手渡すと、ニコラスは中身をベッドの上に開けた。ジャラジャラと音を立てながら暗い室内でも眩い光を放っている金細工たち。
「いやまぁ、凄いな。そうだなぁ、相場が動くからハッキリはわからないが相当量買えるな。まずは手が出しやすい銅を多めに仕入れよう。ベニート爺さんのお手並みも拝見しないとな」
そこまで言ってニコラスがいつも下げている斜め掛けのカバンから馬用の蹄鉄を取り出した。まだ新品らしく傷もないし、光り輝いていた。
「これ、ベニート爺さんの作品。これだけ見てもかなり腕が良い。ただ、そうは言っても本当に自分で作ったかわからないだろ? 俺達はまだ爺さんが仕事をしてるところを見れてないから」
「そうですね」
しかし、昔から知っているカリーナがベニートの腕は良いと太鼓判を押していたから、アデリーはそれを信じていた。よってこの蹄鉄もベニートが作ったものだと信じて疑うことはなかった。
「そんなことで銅を馬車に積めるだけ持って帰ってくるつもりだよ。馬が嫌がらない程度にな」
馬はかなりの荷物を運べるはずだ。確かに鉱石だから小さくても重量はあるだろうが、たくさん買えるということだと理解した。
「さっきちょい聞こえたんだけど。アデリーは俺と一緒に買い付けに行きたいかい?」
「ああ、いえ。ごめんなさい、ここを出ていきたくないんです」
そんなに日数は掛からないとニコラスは言うが、アデリーは首を縦に振らなかった。残念そうではあったがニコラスはそれ以上誘ってこなかった。
「まぁ、どのみちダグマが君をここから出すとは思えないしね」
「そうでしょうか。さっきはダグマさんがニコラスさんについていくべきだと言ってましたけど」
高く細い鼻を人差し指で擦り「うーん」と、ニコラスは唸った。
「じゃあ、その時はダグマも行くつもりだったかな。そのへんは本人じゃないとわからないけど。ダグマはきっと恐れているから、アデリーを近くに置いておきたいはずなんだ」
怪訝な顔でアデリーは聞き返した。
「恐れている?」
ダグマが何かに恐れを抱くなんて想像できない。けれど、ニコラスはそうだよと肯定した。
「俺達は恐れているんだ。赤毛の君をね」
気になることを言ったのに、ニコラスはそこまで話して切り上げてしまった。手際良く装飾品類を袋に戻すとアデリーに握らせた。
「これはかなり高額なものだから気をつけるんだ。誰かに見せたりしないでくれよ。俺、アデリーがお宝を持っていることは秘密にしとくから」
さて、風呂だと宣言してアデリーを残して出ていった。




