秘密①
ニコラスは数日廃城に滞在した後、買い付けに出かけていった。
アデリーと相談の上、半分だけ装飾品を持っていくことにした。これは途中何らかの事故に遭った時、全部持っていると危険だという理由からだった。そして残り半分のうち、小さなものを選んで袋に入れて持ち歩き、大きなものはダグマが保管してくれる運びになった。
「ずっと思ってたけど、危ないからさ」
そうニコラスはダグマに預けることを勧め、アデリーもそうしたいと願い出たというわけだった。
「俺も危ないとは思っていたんだが、流石に知り合って間もないし、どうしたものかと考えていたんだ。それでいいなら預かろう」
ダグマも快く受け入れてくれた。しかもこのことは三人だけの秘密にしておこうと決めたことが、ちょっぴり嬉しかった。好きな相手と秘密を共有するのは、不思議と楽しいことだった。
アデリーは宿のベッドに使っていた藁を家畜小屋へと運ぶ仕事をしていた。使いまわしだが家畜たちの敷き藁にするには十分清潔で良い藁なのだ。
「アデリー」
藁をカゴいっぱいにし、前がほとんど見えない状況で歩いていたら、家畜小屋のすぐ近くの石工部屋からリルが顔を出した。
「あ、はい! えっと、急ぎかしら?」
カゴを下ろすとまた抱えあげるのは大変だし、かと言って立ち話をするには重すぎた。
「急ぎじゃないよ。それ運んであげるからちょっと耳を貸してほしいんだけど」
ヨタヨタ歩いていたアデリーからカゴを取り上げると、「家畜小屋?」とリルが問う。そうだと答えると、リルはスタスタと階段を降りながら言う。
「今夜ちょっとだけ時間ないかな」
「今夜? ええ、大丈夫だけど」
そこでリルは足を止めて、階段を降りて並んだアデリーにコソッと耳打ちする。
「君一人で俺の部屋に来てくれないか。皆には秘密にしてもらいたいんだけど」
アデリーは答えに困って固まった。夜にリルの部屋へ行くのもそもそも少し抵抗があるのに、秘密にしろと言われて困惑していた。
「あー……、どんな御用なのかしら」
アデリーもリルも、いい大人だ。流石に男女で二人きりで夜に部屋でとなると警戒せざるを得ない。
「あ、悪い。警戒させた? ホントは言いたくないんだけど、俺、明日誕生日なんだよ」
「あら、そうだったの? おめでとうございます。皆に秘密にすることじゃないと思うけど」
そこで再びリルはアデリーに体を寄せて耳打ちする。
「でさ、明日……ロセにプロポーズしようと思ってて」
思わず背筋がシャンと伸びた。それは大きな衝撃だが、思い返せばリルはロセを探しにここまでやって来ているのだからおかしな話ではない。ただ、男性の婚期は遅くあと十歳くらい上の人が言い出すならわかるが、リルには早すぎるように思うのだ。
「それは、おめでとうって言えばいいのかしら。ロセは知っているの?」
「いや、まだ言ってないからさ」
「言ってなくても雰囲気とかで──」
「俺達は幼馴染だから、なんとなくそういう雰囲気にはならなくてさ。そこで、ちょっと相談に乗ってもらいたいから今夜アデリーを呼んだってわけなんだけど」
なるほど、そういうことか。確かにアデリーは二人が仲睦まじくしているのを見たことがなかった。はっきり言えばダグマとベッラの方が断然距離が近い。それは今はいいとしても、ロセとリルが話しているのはほぼ見たことすらなかった。
「私では役不足じゃないかしら。ベッラやカリーナの方が良くない?」
自分の恋心ですらやっと気がつく有様なのに、二人の関係に何をどう手助け出来るのか想像もできない。
リルはまた動き出して「君のほうがロセとは距離が近いと思うんだよ。だからお願いしてるんだけど」と、アデリーの心をくすぐるようなことを言う。ロセと仲良くなりたい願望が強いアデリーは、こう言われたら断る理由がなくなってしまった。
「そうかな。私になにが出来るのかわからないけど、二人のためになれるなら喜んでなんでもするわ」
「君ならそう言ってくれると思ったよ。プロポーズするまで皆にはとにかくバレないようにしたいんだ。今夜こっそり部屋に来てくれ」
「わかったわ。あの、カゴをありがとう。私が持っていくわ」
話したいことが済んだなら仕事に戻ってほしかった。リルはアデリーと違い、石工として皆に頼りにされる存在なのだから。
「ああ、あんまり一緒にいると見られちゃうしな」
リルはあっさりカゴをアデリーに戻すと、自分の部屋へと戻っていった。




