病④
夢のような話だが、本当にそこまで上手くいくのだろうか。ダグマを信じていない訳ではないが、アデリーは不安を覚えていた。
それを察したのか、ダグマは顎を擦ってさらに細かい話を始す。
「今のは大雑把な話だ。実際にはもう一人、賃金を取る人間がいる。鉱石を手に入れて、製品を売りに行くニコラスだ。だからニコラスも金を得るとなると、金貨三枚の売上を三分割するってことになる」
それでもアデリーにはやたらと旨い話だった。ただ装飾品を提供するだけで装飾品の価値以上の金貨を手にできるということなのだから。
「いい話だと思うんだが、あんまり気乗りしないか?」
アデリーが悩んでいるのを感じ取ってダグマはアデリーの顔を覗き込んだ。それには少しだけ焦って、手を振って否定した。
「そんな事はないです。ただ、私だけ何もしていないのにお金をいただくのがちょっと……」
「かなりまとまった金が必要だからな。アデリーだけがそれを支払えるのだから、対価をもらうのは当然のことだぞ」
あの日、逃がしてくれた時に装飾品を持たせてもらった事がここに来て大きな意味を持ったらしい。それだけの財を築いた両親と、それを持ってきてくれた下働きのミーナに感謝してもしきれない。
「どうする?」
きっとダグマはアデリーがそうすると承諾することを望んでいる。そして、この廃城には鉄や銅の製品が必要だ。答えは出た。
「そのようにします」
ダグマの頬が上がり、詰めていた息を柔らかく吐き出した。
「助かる。俺も新しい鉄製の武器が欲しくてな。あ、それでだ。アデリーはニコラスと買い付けに行くと良い」
青天の霹靂だった。ニコラスと買い付けに行くとなると、ここから出なければならないということだ。
「私、追い出されるのですか……」
アデリーの言葉に今度はダグマが驚いたらしい。目を見開いてからすぐに眉間にしわを寄せた。
「なんでそうなる。装飾品はお前の財産だろ? ニコラスは信頼出来るが、一緒に行ったほうがより安心できるだろ」
そうは言われてももっと違った意味があるのではないかと勘繰っていた。なんせ今でも大した仕事はできないし、ダグマとベッラはもしかすると距離を縮めていて……そこは関係なかったと頭を振った。
「そうかもしれませんが、ここを離れたくはないんです」
先ほどまでロセにニコラスとくっつけばいいと言われたし、提案された旅はまるでそのお膳立てみたいで気乗りがしなかった。それに、ニコラスと旅に出ている間にダグマとベッラがもっと距離を縮めてしまうかもしれない。
「そうか? ニコラスはああ見えて腕っぷしも強いし、判断能力も高いから心配することはないんだけどな。ま、俺としてもアデリーにはあんまりここから離れられるのは──」
そこでダグマは失言をしたかのように口を閉ざした。言葉の意味もその反応も、アデリーには理解できずにただただ瞬きをするだけだったが、ダグマはそのことに関して話す気はないらしかった。宙を彷徨っていた視線がすぐに元に戻り、気を取り直して言う。
「とにかく、ニコラスに装飾品を託してくれるんなら俺はありがたい。もし、なんらかの形でアデリーの財産を失うようなことになったら、それは俺が一生掛かっても償うつもりだ」
「待ってください! それはおかしいです。これはニコラスさんと私の取引というか、そういうことですから」
ダグマは顎をこすって「だがな、それを仲介した俺にも責任はあるんだ。ニコラスのことは俺が保証する。だから、そのニコラスが例えば持ち逃げしたりしたら、俺にも責任があるってことだ」と、アデリーを諭した。
アデリーもまだ知り合ったばかりだが、ニコラスは信頼出来る人だと感じていた。もちろん、まだまだ社会経験の浅いアデリーだから間違った判断をしている可能性もあるけれど。
「元々、私が築いた財産ではありませんし、ニコラスさんがなんらかの理由で戻ってこなくても、それは運命だったと思えるはずですから」
強がりではなく、本心だった。アデリーは自分の力でなにも成し遂げていないことは承知していたし、不相応な物を持っているとも感じていた。どの人も何かしら出来るのに、アデリーより財産を持っていないのは、なんだか不条理にすら思うのだ。




