浴場④
ニコラスはアデリーにそう説明した後で、安心した? と付け加えた。なんのことだか一瞬わからず、けれどわかった後に手を振って否定する。
「違います、違います。あの、お二人が付き合っていたりしても私は一向に構わなくて──」
「えー、そうなのか? そこは『ニコラスさんが好きなので付き合ってないって聞いて嬉しいわ』とか言うのかと」
「いえいえ、そんなそんな、違いますから」
ニコラスは全否定するアデリーに「否定しすぎだろ。傷つく」と大笑いだ。
「恋愛とかわからないですし、なんかもうなんて言ったらいいのかわからなくて」
笑ってくれているということは気分を害してないようで、とりあえず安心した。
「ま、アデリーだしな。そんな感じなのはわかる。よし、ちょっと湯加減みるか」
ニコラスは完全に引いていない笑いを顔に残したまま、機嫌よく腕まくりをしていく。
「一日おきに湯を男性用、女性用にしたらいいよな。心置きなく入れるし。俺は混浴でも構わないけど、恥ずかしがる人も──」
そこでアデリーを見て、アデリーはダメだと伝えるべくブンブンと首を横に振った。
「恥ずかしがる人もいるな、確かに。まだ温いか」
手を湯から引き上げて振ると水滴が飛び散った。
「しばらく俺が見てるよ。旅から帰ってきたばかりだし、ちょっと休みたいからさ。アデリーは働いておいで」
確かに湯を沸かしている間はかなり体を休められる。これはニコラスにピッタリの役割だ。
アデリーは立ち上がり「では、薪を運んできたら料理の手伝いをしてきます」と、服の砂を払った。
「そしたらベッラに聞いてごらん。『ニコラスさんと恋人同士なんですか』って。同じことを言うと思うぞ」
「でも、ニコラスさんの言葉を信じていますから」
「いやいや、聞いてみてくれ。どんな反応だったか俺にも教えて貰いたいんだよ」
同じことを言うと断言していたのに、反応を見たいというのが不思議だったが、アデリーは頷いた。
「あ、そうだわ。ニコラスさんは宿の方に泊まりますか?」
「ああ、また数日したら出ていくからな。何ならベッラの部屋に泊まってもいい」
恋人同士ではないと言ったのにと困惑していたら、ニコラスが笑い出した。
「アデリーは直ぐに顔に出るな。冗談だよ。真冬はずっとここに居るつもりだから、そうしたらダグマの部屋に住もうと思ってる」
もし、ベッラがダグマとそういう関係なら、これはこれでお邪魔なのではないだろうか。なんだか頭の中がグルグルしてきたので、逃げ出すことにした。
「宿の方は泊まれますから、シーツをお渡ししますね。ニコラスさんのシーツがあるならご自身のを使ってください」
「了解だ。シーツは自分のがあるから問題ないよ」
じゃあと出て行くと、投げキスをして送り出された。アデリーはニコラスにおもちゃのように扱われているのだと思った。ロセに冷たくされているので、それよりおもちゃならまだマシな気がしてテクテクと歩いていく。
通りがかった猫のトーマスに「ベッラさんみたいな大人の受け流し方法ってどうやって学ぶのかしらね」と話しかけてみた。艷やかな黒い毛をブルっと震わせてからミャと短く答えると岩を登って去っていってしまった。この話題は猫のトーマスには好みではなかったらしかった。そもそもトーマスはオスだし、まだ大人の猫にもなっていないのだから答えられなかったのかもしれない。




