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黄泉渡り伊織 ーー関ヶ原で滅した六千の魂を抱く巫女ーー  作者: 結城謙三


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バシレオン

「建物の中に避難するんだ!住民を誘導しろっ!!」大谷吉継が叫ぶ!

闇夜に魔光灯の光が反射する瞳を、大谷吉継の案山子の眼が捉えていた。

しかも聞いたこともないほどに大きな翼の羽ばたきまでが案山子の耳に聞こえてきている……


目の前の広場には数万人の人族が集まり、そのほとんどが一般の住民でありガーダーたちが守るように周囲を囲う。

「間に合わない!五助君![伏せろっ!]と言ってくれ!!」

吉継の必死の形相に、すぐさま広場に向かって[伏せろーっ!!]湯浅五助の法螺貝の付喪神が大音量で伝える。

一般の住民といっても、ほとんどが元ガーダーのマリアガ国民の集まりである。

その声にすぐさま反応し近くにいる子供たちの頭を抑え地面に伏せると持っていた荷物でその頭を守る。


“ゴゥッッッッ!バサァァァーーーッ!!”

人々の頭上を通過する風切り音と悲鳴が同時に上がり、あまりの風圧に人垣が崩れ土埃が舞い上がる。

その厄災の遠ざかる音を聞き恐る恐る頭を上げる人々……


「まさか……バシレオン……」 広場のあちこちから絶望に満ちた声が漏れる。

そして王城へ向けて飛んで行くその後ろ姿を見て、深いため息が漏れる。

バシレオンと呼ばれた魔獣が通過していった広場の中央には、血塗れの人族が折り重なり倒れており

弱々しいうめき声や悲鳴が聞こえてくる。


[治癒魔導士はいるか!?息のある者の治癒を頼む!!動ける者はそこの倉庫に避難するんだ!!

後続がまだ来るぞ!!]

エルフ族が大半を占める治癒魔導士だが人族にも一定数が存在しており、立ち上がると広場の中央へと駆け出す。

ガーダーたちが住民を倉庫へと誘導を始め、先ほど叫んだ人物が大谷吉継らの元へと、数人の屈強なガーダーを

従え近づいてくる。


[あなた方が異国から来られたサムライの皆さんですな?

初めまして私はNO,4ギルドのワグナーと言います。あなたの指示で被害を最小限に抑えることができました。

礼を言わせてもらいます]

白髪に白い顎髭を蓄えた老人が使い込まれた杖をつきながら頭を下げる。


[ーー礼には及びません、あなたがNO,4ギルド長のワグナー殿ですか……大谷吉継と申します。

後続がまだ来ると言われましたが、あの魔獣はいったい?]

広場から離れていた吉継らは一瞬で舞い降りそして飛び去る魔獣の姿を目撃していた。

大阪城の掛け軸で見たことのある獅子と言われる、首周りにたてがみの生えた大きな猛獣に姿が似ており

巨大な猛禽類の翼を羽ばたかせ、人の背丈ほどもある尻尾が大蛇となっており鱗をきらめかせていた。


[あれはバシレオンという魔獣でして、サランドル·ダンジョンの下層に近いところに生息している魔獣です。

通常であれば家族で狩りをする習性ですので……まもなく後続が来るでしょう、向こうへ避難しましょう]

そう言いながらバシレオンが飛び去った2層目を睨み、深いしわの刻まれた目を細めるワグナー。


[それだと、これ以上あの魔獣を2層目に行かせるわけにいかないじゃないですか!?]

通訳をしている伊織が大谷吉継の袖を引き、ムサシらにも日ノ本の言葉で説明し“迎え撃ちましょう!”と

拳を握りしめる。


「伊織……迎え撃つと言っても、いままでの魔獣より遥かに大きく風圧だけであれだけの人間を薙ぎ倒すんだぞ!?」

ムサシが広場の中央を指さし伊織に避難するようにとうながす。


「大丈夫!ムサシなら勝てるわ……」


[お嬢さんバシレオンと戦うと言っているのですか?失礼ですが、みなさんは魔法が使えないと聞いています。

それでどうやってバシレオンを倒すと?]

ワグナーの後ろに控えたガーダーたちも、その言葉に頷いている。


[これ以上、あんな魔獣を2層目に行かせられないじゃないですか!?大丈夫!うちの連中ならきっと倒してくれます]

伊織がムサシと湯浅五助の肩に手を乗せにっこりと微笑む。


[お嬢さん……]


[伊織です!]

ワグナーの言葉を遮る。


[イオリさん……我々は2層目にいる連中に捨てられたのですよ?それでも戦うというのですか?]


[捨てられたんじゃありません、無駄な被害を出さない為の当然の処置です。見殺しにはできません!

みなさんは避難して下さい]

横を見ると大谷吉継も頷いており、ムサシも矢筒から矢を取り出し戦いに備える。


[そう言ってくださってありがとう……みなさんにそんな義理などないでしょうに……]


「来たぞ!3体だっ!!」

大谷吉継が暗い空を指さす。


[おじいちゃんは、なんの魔法が得意なのかしら?ムサシの鏃に魔法を込めて欲しいんだけど……]






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