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黄泉渡り伊織 ーー関ヶ原で滅した六千の魂を抱く巫女ーー  作者: 結城謙三


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南門広場

【3層目の住人はすべて2層目へ避難するように……なお人族は南門広場へ集まるように】

繰り返し聞こえる湯浅五助の法螺貝の声に、人族は何が起きたのかを理解していた。

20数年前の悪夢……“寄爆茸”が再び王都へと入り込んだのだと……まだガーダーになることも許されない年若い者

たちは当時の惨状を目にしていなくとも親や祖父母から何度も聞かされていたのだ。

自分たち人族にだけ寄生し操る魔植物が存在し、他種族を巻き込み自爆することを……。


“もしも寄爆茸の寄生者が現れたら、絶対に他種族に近寄ってはならない!自分が寄生されていないと思っても

見えない胞子がひっつき、いつ発症するかも知れない……もしも発症すれば脳みそを乗っ取られて、自分の意思も

家族の声さえも聞こえなくなるんだからな”

そう教えてくれた祖父が最後に必ず言う言葉がある。

“万が一……誰かが発症したなら、他種族を巻き込み自爆する前にお前の手で殺してやるんだ。たとえそれが親や

友人、この俺でもな……いいな頭を撃つんだぞ!”

真剣な表情でそう言い、祖父は自分の額をとんっとんっと指で叩いた。


今の王都の恐慌状態であれば、他種族に紛れ込んで2層目へと入り込むことは容易かったであろう。

しかし、それをする人族は1人もいなかった。誰もが粛々と身の回りの物をまとめ南門を目指した。


西門のNO,100ギルドから、城壁や門を守っていた戸田重政ら侍たちが南門を目指し城壁に沿って進軍していく。

エディが先頭に立ち、ときおり城壁を乗り越えてくる魔獣たちを危なげなく蹴散らしながら。

そして南門の広場が見えるところまで来ると大勢の人族のガーダーや住民が集まっていた。

戸田重政や大伴兼興の方を振り返りエディが身振り手振りで伝える。

“俺は、向こうへ行ってやらねばならない事がある、お前たちは彼らと合流してーー絶対に生き抜くんだ!ーー”

言葉は通じない、しかしエディの目が……指先の動き一つがそう語っていると侍たちには伝わってきた。

「エデイ殿、武運長命を!!」

戸田重政のこの短い言葉を理解したエディは彼らと固い握手を交わし、2層目へと駆けていくのだった。


「武運長久ではござりませんのか?」

大伴兼興がぼそっと呟く。

「こんな獣相手の戦いに勝ちも負けもなかろう?あの男には生き延びてほしいのだ……」



草原での魔獣の猛追に多くの犠牲を出しながら、魔獣やガーダーで溢れた東門を諦め、北門から王都へと入った

島津豊久や平塚為広が率いる侍たちと途中で合流してきた人族のガーダーは北大通りを南進し南門を目指す。


「人族だけが南門広場に集まるというのは、何があったというのだ?」

寄爆茸の存在を知らない平塚為広が訝しげに首をひねる。


「分からんが、行ってみれば分っかるが。そいより刑部殿らが気にかかる、急っぎもんど!」

殿しんがりをつとめる島津豊久らは、なおも追いすがってくる魔獣を振り払いながら進み2層目の北門へと

突き当たると、ガーダーたちが人壁を作り押し寄せる魔獣の猛攻に抗っている場面に遭遇する。

しかしともに撤退してきた人族のガーダーたちは、それを見ながらも目を伏せ迂回するように横路へと入っていく。


「助けなくてもよいのか!?お前たちの仲間ではないのか?」

言葉の意味がわかるはずもない人族のガーダーが振り返ると悲しそうに首を振り、迂回するのだと身振りで示す。



東門のNO,1ギルドでナタリーらと別れた大谷吉継、湯浅五助、伊織、ムサシの4人は、城壁に沿って南門の広場を

目指している。

湯浅五助が吉継の車椅子を押し、ムサシと伊織がギルド内で補給した矢を山のように背負い、引き抜いた矢を伊織が

ムサシに手渡す。

百発百中の精度で近づいてくる魔獣を次々と射殺し道を拓いていくムサシ。

わずかな時間に何百という矢を放ったムサシの指からは血が滴り”海獣の弦”を赤く染めていた。


ーーやがて南門広場に集まる人族の姿が見えてきた。

大谷吉継らに気づいた大前時治が頭を深く下げ、年若い小林忠良は嬉しそうに手を振っている。

戸田重政らと駆け寄り、お互いの無事を確かめ合う。


「こっちは静かなのだな……東側は地獄のようだったのに」

車椅子に背を預け、大きく息を吐き出し周囲に目を凝らす吉継。


南門の扉はしっかりと閉ざされ、城壁を越えてくる魔獣たちも広場に集まる人族のガーダーの手で危なげなく倒され

東門や北門に比べて魔獣の数も少なく、被害が少なかったことから集まった住民たちの表情にもいくらかの安堵と

落ち着きが戻っていた。


「みんな!逃げるんだっ!![みんな!逃げるんだっ!!]」

日ノ本の言葉と、ブランデン語で大谷吉継が叫ぶ!!



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