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黄泉渡り伊織 ーー関ヶ原で滅した六千の魂を抱く巫女ーー  作者: 結城謙三


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東門

東門を守っていたガーダーたちが踏みとどまる、撤退してきたガーダーたちを手際よく広場へと招き入れ

追ってきた魔獣の群れをタワーシールドで圧しとどめる。


「ここもそれほど長くは維持できない!避難民と怪我人を2層目まで退避させるんだ!!人族には触れるな!!」

東門の守備を任されていたNO,3ギルド長のギースがタワーシールドの下部から突き出た3本の杭を地面に突き刺し

魔獣たちの圧力に耐えながら指示を飛ばす。

しかし門を守っているガーダーたちは、ギルドでも下位の年若いガーダーがほとんどでありバルホーンやコボルト

の突進を止められても、これ以上の物量で押されてはわずかな時間稼ぎにしかならないであろう……


猩猩オランウータンの獣人であるギースが後ろの広場へ首を巡らせ、息を切らせへたり込んでいるガーダー

たちを見る。

「動ける者は怪我人を連れて2層目へ避難するんだ!急げ!!」


「ギースギルド長!まだ戦えます!!」

駆竜に乗ったシューシャが武器庫で補充してきた矢をボーガンに番える。


「シューシャ、それなら住民の誘導を頼む!ドレイクから守ってくれ!」


東門に押し寄せる魔獣を見て一瞬だけ逡巡したシューシャだが、東大通りに次々と舞い降りてくるドレイクに

ボーガンを放つ。

「わかりました……どうかご無事で!」

手綱を引き駆竜の首を巡らせると、大通りを駆け出すシューシャ。


「ああ……頼んだぞ、よしっ!みんな!!王国民が避難するまで少しでも長く時間を稼ぐんだ!!いいな!!」

東門を守る100人近いガーダー全員に聞こえるように声を張り上げるギースだが、タワーシールドに角を突き立てる

バルホーンや魔獣たちの唸り声にその声も呑み込まれていくのだった。

そして草原に潜み、城壁を難なく越えてきた蜘蛛猿の群れが静かにギースたちに襲いかかる。

城壁にへばりついた蜘蛛猿が四方から白い糸を飛ばす。

それを視認しながらもタワーシールドに身体を預け、抗うすべを持たないガーダーたちが次々と絡め取られると

歯が抜けていくように決壊を始め、後方で剣や槍を持ち控えていたガーダーに襲いかかる魔獣たち。


「耐えるんだ!お前たちの友や家族を守るんだ!!」

そう叫ぶギースの脚にも白い糸が絡みつき、糸を伝い蜘蛛猿が牙を剥き威嚇しながら降りてくる。

肩でタワーシールドを押さえながら、腰から長年の相棒であるフレイルを引き抜くと並外れた膂力で頭上まで

迫った蜘蛛猿にフレイルを振る。鎖が音を立てギースを中心に弧を描いた鉄球が蜘蛛猿の頭部に直撃すると、

頭部を失った死骸が“だらり”と蜘蛛の糸から垂れ下がる。

“ふんっ!”と両足に力を込め足に絡みついた糸を引き千切るギース。


“ボンッ!!”その時、ギースの隣でタワーシールドを支えていた獣人のガーダーが内部から弾けるように地面に

血肉を巻き散らし崩れ落ちる。

その隣で人族のガーダーも同時に肉塊となり地面に吸い込まれるように崩れ落ちていた。


「寄爆茸の胞子か?……王都もここまでか……」

頬に付いた血を拭いながら、目に見えない胞子を探すように見上げるギース。

そのギースの視界に魔晶船の船底が迫ってくる。


「ギース、ここまでよく頑張ったね……」

ナタリーの声が、まるでギースの耳元で囁くように聞こえ、東門に密集した魔獣たちに“岩の雨”が降り注ぐ。

“ドッドッドッ!ドッドッドッ!!”魔獣たちの悲鳴と断末魔の後に獣の血肉の匂いが立ち込め一瞬の静寂が落ちる。


「ギースここは捨てるよ!2層目まで走りな!」


「ナタリー様!?しかし……まだ住民たちが!」


「ギース……四の五の言わずに走りな!!一人でも多く生き残るんだよ!!」

その声に東門を守っていたガーダーたちがタワーシールドを捨て一斉に走り出す。


[ヨシツグ、すまないが最後に1つ頼みを聞いてくれるかい?]


[何でしょう?]


[人族のガーダーも南門の広場へ向かうように伝えて、あんたが面倒を見てくれるかい?]


[それは構いませんが……人族のガーダーが居なくなると、王都の戦力は大幅に減るのでは?]

大谷吉継のこれまで見たガーダーの種族による比率では人族が最も多く感じられた。


[そうだね……半減だよ、でも仲間を信じられずに背中を預けられないだろう?頼むよ……]

これまでのナタリーからは考えられないほど、その背中が小さく見えた。


「五助君、人族に南門の広場に集まるようにもう一度伝えてくれ、人族のガーダーもすべて南門の広場へ

向かうようにと……伊織殿、通訳を頼みます」

伊織の通訳通りに湯浅五助の付喪神の声が響き渡る。


[ありがとうよ、南門まで送れなくてすまないが、武器庫の装備は好きなように使ってもらって構わないからね]

魔晶船が東門の正面にあるNO,1ギルドの屋上へ着船し大谷吉継、湯浅五助、伊織、ムサシの4人が降りる。


[ナタリー様死なないで下さいね……アンナさんも]

伊織が祈るように胸の前で手を組む。


[ああ……あんたたちもね、それとNO,4ギルドのギルド長は人族だから頼るといいよ]





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