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黄泉渡り伊織 ーー関ヶ原で滅した六千の魂を抱く巫女ーー  作者: 結城謙三


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王都の兵

陽もすっかりと落ち、魔光灯の明かりに照らされた草原。

城壁から500ドランの距離で繰り返される攻防……誰のものかも知れない血肉が草を濡らし、地へと染み込んでいく。

鉄とし尿の混じり合った獣の死臭が鼻だけでなく目までも刺激し、ガーダーたちの武装も血や油脂に塗れる。

最後尾の避難民の集団は、東の城壁まで200ドランの距離を残していた。


【これより、前線を200ドラン下げる。けして敵に背を見せないようにゆっくりと下がるんだ!】

大谷吉継の指示に従い、湯浅五助の声が戦場を駆け抜ける。


伊織から手渡された3本の矢を右手の指の股に1本ずつ挟み、海獣の腱で作られた、付喪神の宿った弦に番える。

流れるような指運びで次々と矢が射ち出され、群れの先頭のドレイクを射抜き、後続の翼膜までをも貫いていく。

そのムサシの一射ごとに、数匹のドレイクがまとめて地へと落ち伏せた。


“バッサ!バッサ!”と魔光灯に照らされたドレイクの群れが空を覆わんばかりに迫る。

ようやく射程に入ったと判断した炎や氷の魔法が矢となって一斉に撃ち出され、雷魔法の稲妻が夜空を駆ける。

矢尻にさまざまな魔法の込められたボーガンの矢がドレイクの腹に突き刺さると同時に弾け、見る間にその群れが

萎んでいくのだった。


タワーシールドを構えたタンク役のガーダーたちが、じわじわと前線を下げていく。

後衛の魔法や遠距離攻撃が上空のドレイクに向いたことにより彼らの負担が跳ね上がり、さらに傷ついたドレイクが

最後の足掻きと言わんばかりに、滑空しながらタワーシールドへと向けて突っ込んでくる。

小型とはいえ人の背丈を超えるドレイクの決死の体当たりである……

徐々に歯が欠けていくように最前線のタワーシールドが抜け落ち、その隙間から魔獣たちが牙を剥いた。

タンク役のガーダーの背を守るために、遊撃にでていたガーダーたちがその隙間を埋める。


[ナタリー殿、草原に大型の魔獣が現れた……岩の巨人だ。東街道から北に100ドラン!]

魔晶核に手を置き操舵するナタリーを振り返りもせずに、北東の方角に姿を見せた岩の巨人を睨む大谷吉継。


[ペドラ·ゴーレムだね……魔導砲を使うよ]

魔晶船を操りながらドレイクの群れに攻撃魔法を放ち続けるナタリーの額には、大粒の汗が滲んでいた。

〈パオラ、北東の方角にペドラ·ゴーレム!魔導砲で撃退せよ!!〉


王都の東西南北の広場に建てられた、時を告げる鐘楼。隣接する城壁よりも頭一つ高くそびえるその天辺には、

空から大きな水滴を垂らしたようなオブジェが鎮座していた。

およそ兵器とは見えない水滴こそが魔導砲であり、その周囲には8人のエルフ魔導士が待機していた。

パオラの念話を受けた魔導士が他の7人を見て静かに頷く。4人の魔導士が水滴のもっとも胴回りの太い部分に触れ

魔力を流し込む。

半透明な水滴の中心に一筋の魔力の蒼い火が灯り、“ヴゥゥーーン”と大気を震わせ重く唸り、水滴全体が青に染まる。

先導役の魔導士が狙いを定め、詠唱を口ずさむ。

【王都魔導環接続確認――深淵に眠る蒼よ、古き盟約に従い敵を穿て!!】


水滴の尖端から放たれた青い稲妻が、凶悪な雷鳴を残し魔光灯の光の及ばない闇夜を引き裂く、その射線上にいた

ドレイクまでも巻き込みながらも、その軌道は寸分も狂うことなく草原へ足を踏み入れたペドラ·ゴーレムの魔石を

正確に砕き、巨大な岩塊となりその場に崩れ落ちる。

その結果を見て静かに頷いた4人のエルフたちは、後ろへと下がると控えていた4人と入れ替わる。

次のペドラ·ゴーレムに狙いをつけると淡々と詠唱を口ずさみ、草原に新たな岩塊を積み上げていくのだった。


自分たちの頭上を走る青い閃光を見上げるガーダーたちは、魔導砲の射程である草原に中層の魔獣が現れたことを

知り、自分たちに残された時間がさほど多くないことを悟る。


【怯むな!手を脚を動かし続けるんだ!死ぬまで足掻き続けな!!】

ナタリー魔導士の台詞をそのまま湯浅五助が法螺貝の付喪神に乗せる。

草原の全方位に木霊のように伝わり、苦笑いを浮かべたガーダーたちが奮い立ちそれぞれの武装に魔力を注ぐ。


スレイプニルが曳く大型の馬車が補給と負傷者の回収に駆け回り、大型の砲門を積んだ5台の戦車が投入される。

スレイプニル戦車の砲門から砲弾が発射される。

特別に誂えられた荷台のサスペンションが軋み、その反動で大きく沈み込む。

ガーダーたちの頭上付近で最高到達点に達した砲弾から、その外殻が剥がれ落ち魔獣たちが密集している真っ只中に

放物線を描きながら落下していく“カッ!!!”着弾すると同時に黒い炎が広がり、その炎に触れた魔獣たちが熱から

逃れようと転げ回る。

しかしタールのように纏わりついた黒い炎は消えることなく、“ジュウジュウッ”と煙を上げながら皮膚を食い破り

肉の焼ける匂いを漂わせながら、魔獣たちを炭へと変えていった。




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