ドレイク
〈はい聞こえます。始まったのですね……〉
ナタリーからの念話にパオラが答える。
〈セルザ将軍に伝えておくれ、まもなく大森林を抜けて中層の魔獣が草原に現れる。
ゴーレムやオーガの大型の魔獣には魔導砲を使用するようにとね〉
念話というものは、文字通り話したい相手に念じながら言葉を紡ぐ魔法であり、話すと言うよりは言葉を投げる
感覚に近いため、言葉に込められた感情は察しにくく、当然パオラとセルザの会話はナタリーに聞こえてこない。
〈了解しました。ということです……〉
パオラの返事はどこか歯切れが悪く、言いたかった言葉を呑み込む。
〈王都内のことは任せたよ、予定通り8つの刻の鐘が鳴るまでに撤退する。全ガーダーの撤退が完了し次第、
すべての城門を閉めるんだよ〉
〈わかりました。伝えておきます……お祖母様どうか気をつけてください〉
「セルザ将軍、8つの刻の鐘までに撤退するそうです。その後にすべての城門を閉めるようにと……」
「ふむ、あと半刻もないか……迎撃戦は順調ということだな、さすがはナタリー様だ」
落ち着きなく歩き回っていたセルザが、ようやく一息ついたのか椅子に腰を下ろし目を閉じる。
「……嫌な胸騒ぎがして、止まらないんです」
パオラの白い顔が青ざめ、唇までがその色を失う。
「こんな状況だからな、ナーバスになって嫌な想像ばかりしてしまうのだろう……」
セルザ将軍の感情の読めない爬虫類の目が、ゆっくりと開きパオラを見る。
話を終えたばかりのナタリーからの念話が脳内に響く。
〈パオラ!ドレイクが現れた。2層、3層目城壁上のガーダーに迎撃準備を!避難民を守るんだ!!〉
それだけをまくし立てると念話が終了する。
草原に湯浅五助の声が駆け抜ける。
【飛び道具を持つものは、まもなく現れる上空のドレイクを優先して撃ち落とすように!】
大森林の上空をドレイクが群れをなし近づいてくることを、大谷吉継の案山子の目が捉えており
草原へと出ると同時にアンナの稲妻の殲滅魔法で、機先を制することに成功していた。
「まだまだ続いてくるぞ大群だ!ムサシ頼んだぞ!」
吉継が大森林の上を指差しムサシの背を叩くと黙って頷くムサシ。
[ドレイクってのは巨大な蜥蜴にコウモリの翼を持つ魔獣だ。それほど高くを飛べないから脅威ではないが
とんでもない数の群れを作るからね撃ち漏らすんじゃないよ!]
魔晶核に手を置いたナタリーが魔晶船の高度を上げる。
「来たっ!ムサシあそこ!!」
伊織が矢筒を抱え、ムサシへと手渡す。
「伊織、1本づつじゃ足りない!3本づつ手渡してくれ!!」
「来たよ!ジュリアナ!残りの魔力は気にしないで1匹でも多く撃ち落とすんだよ!!フービアはわたしと
ジュリアナの護衛を頼む」
シューシャが駆竜の脇腹に括り付けていた予備の矢筒の蓋を開け残矢を確認する。
「任せて!」
駆竜から飛び降り、双剣を両手に構え通せんぼをするように横に広げるフービア。
「おお~あんな太か鳥は見んことのなか!弓の使える者はわっどんが周りをつまもっで、存分に射ち落としてくれい!!」
北街道から魔晶船を目指し東へ移動中のNO,100ギルドの侍たちが、魔獣を蹴散らしながら空を見上げる。
“ドンッドンッドンッドッドッドッドッ!” “ドンッドッドッドッドッ!” “ドンッドッドッドッドッ!”
島津豊久の付喪神·陣太鼓の鼓舞が侍たちの士気を高め、全身の細胞が太鼓の音に合わせ熱く脈動する。
「庄吉、すまないが落ちている石を集めてくれるか?投石で撃ち落とせそうな気がしてな」
「確かに平塚様ならば撃ち落とせそうですね、任せてください!」
「うん?そういえば背中の赤子はどうした?」
「先ほどの避難民の方たちに託しました。我々といるよりは安全でしょう……」
軽くなった背中に寂しそうに意識を向ける庄吉。
「そうだな……あの王都に入ればまた会えるさ」
そう言い庄吉の背中を叩く平塚為広。
草原へと雪崩込んでくる魔獣たちの足音や咆哮が津波のように押し寄せてくる。
それに呑み込まれまいと必死に押し戻すガーダーたち……森の木々の梢を掠めながらドレイクの大群が
ついに姿を現す。
まるで大森林そのものが巨大化したように徐々に空を覆って迫りくる黒い影。
思わず口を開けたまま立ち尽くす者……2歩3歩と後退り武器を取り落とす者……絶望という空気が広がる。
“シューバ·ペドラ!!” “シューバ·フォゴ!!”
ガーダーたちの頭上、魔晶船がまばゆいばかりに輝きナタリーとアンナの殲滅魔法が闇夜を紅く染め
先頭を飛ぶドレイクの群れに降り注ぐ!
頭を潰され、胴体に風穴が空き、翼膜を圧し折られたドレイクが次々と地上へと落下し、炎の雨に巻き込まれた
ドレイクたちが煙の尾を引きながら地上に激突していく。
“おおおおおぉぉぉっ!!!”
それを見たガーダーたちから歓声があがり、武器を持つ手に力が籠もる。
【王都を!民を!仲間を守り抜くぞ!!】
湯浅五助の法螺貝の声が王都の隅々まで響き渡るのだった。




