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黄泉渡り伊織 ーー関ヶ原で滅した六千の魂を抱く巫女ーー  作者: 結城謙三


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激突!!

大谷吉継らを乗せた魔晶船が東街道の上空で滞空する。

その眼下では、魔獣たちが草原をじわじわと浸食し始め、その浸潤から押し留めながらも逃れるように

大森林を哨戒していたガーダーたちが、城壁から500ドランの距離を目指し撤退してくる。


[ここが防衛ラインだ!みんな踏ん張れ!!]

魔晶船が鮮やかな光を放ち、湯浅五助が叫ぶ!

王都から駆けてきたガーダーたちも続々と魔晶船の下に集い、撤退してきたガーダーたちを飲み込みはじめ

その厚みを増していく。


上空から見下ろせば、真円の王都から500ドラン離れた草原の中央。

ガーダーたちの隊列が、そこに据え置かれた巨大な弓のように見え、もっとも厚みのある矢乗せ台の部分は、

東の街道を一本の矢に見立てていた。


撤退を終えたガーダーたちが仲間のガーダーらと肩を並べ振り返る。

濁流のように押し寄せてくる魔獣の群れに、ひときわ強烈な輝きを放った魔晶船から放射状に炎の弾が撃ち出され

先頭を走っていた魔獣の群れを焼き払っていく。


[おおおおぉぉぉぉっ!!!!]

[来るぞーーー!!気合いを入れろーーー!!!]

[王都を!!王都の民を守るんだ!!!]

ナタリーの撃ち出した殲滅魔法が戦いの合図となり、マリアガ王国建国以来ーー最大の戦いが幕を開ける!!


先頭の魔獣たちの死骸を乗り越え、バルホーンが牙を剥き駆ける。

どこかで手に入れた多様な武器を手に緑の小人ゴブリンが醜悪な顔を歪め、草原に身を隠しながら迫りくる。

肉の壁のごとくオークの群れが、丸太を振り上げながらガーダーの防衛線の目前まで雪崩込んで来る。


前衛のガーダーがタワーシールドを構え、後衛の魔術師たちが詠唱を終えた攻撃魔法を飛ばす。

飛び道具を構えたガーダーたちがボーガンを弓矢を投石を的確に魔獣の急所へと放つ。

遊撃のガーダーたちは層の薄くなった魔獣の隙間に切り込み、翻弄しながら牽制する。


金属の弾き合う剣戟が、魔獣がタワーシールドに激突する打撃音が、さまざまな魔法の炸裂音が遠く離れた

王都の城壁を越え、すべての民に開戦を報せる。


「ムサシ!オークだけを狙い撃つんだ。オークが邪魔でガーダーの対応が遅れ始めている」

魔晶船の上から身を乗り出し戦況を分析する吉継。


「わかった!」

新しい矢筒を引き寄せ、番えると同時にムサシの放った矢がオークの豚頭の額に突き立つ。


「五助君!魔獣の群れが南に流れて行っている。今草原をここへ向かっているガーダーと避難民を誘導中の

すべてのガーダーを南に向けて展開するように指示を出してくれ、それと北側のガーダーで80から100までの

ギルドの隊員は東へ援軍に向かうように頼む」


吉継の言葉を伊織が正確にブランデン語へと訳し、湯浅五助が法螺貝の付喪神の能力でそれぞれの方面に

指示を伝えると、ゆっくりとだが確実に隊列が動き出し、魔獣たちの動きの先手を打つことに成功する。


[ヨシツグ、戦況をどう見る?]

魔法を放ち終えたナタリーが、肩で息をしながら吉継へと振り返る。


[避難民が王都に入るまで、もう少し時間が必要です……草原にいる魔獣はこちらの倍以上、大森林にいる

大型の魔獣が草原に出てくるまでに少しづつ前線を下げなければ被害がでるでしょう……]

伊織の通訳を介し戦況を伝える吉継。


常時発動している案山子の付喪神の影響なのか、ひどく充血した眼を大森林へと向ける。

闇に包まれ魔光灯の届かない大森林は、まるで1つの生き物のように胎動し枝々を無理やり圧し折りながら

進む魔獣の歩みが他の生物の生存を許さないという雄叫びのように吉継の耳を圧するのだった。


「ここから見ていると関ヶ原の藤川台を思い出すな……もっとも裏切り者の杞憂が必要ないだけマシだが」

悲しそうに顔を歪め、そう独り言ちる大谷吉継。


[そうかい……ここの総指揮はヨシツグあんたに任せるよ、草原にいるすべてのガーダーの命をあんたに任せる。

それがこの国が生き残る最善だと、あたしの勘が言ってるからね]

王都内の魔光灯に照らされ夜空に浮かび上がる王城を振り返り切なげに見つめるナタリー。


[ああ……死力を尽くそう]


[アンナちょっと代わっておくれ……]

アンナの手に重ねるように魔晶核へとナタリーが手を置くと、待ちわびたかのようにアンナがゴンドラの舳先に立ち

その両腕を天へと向けると、口籠るような詠唱を唱えた刹那に彼女の周囲の空気が震え、その両腕を魔獣がもっとも

密集した地点へと振り下ろす!

アンナの腕から稲妻が迸り、巨大な光の竜が地を這うように魔獣たちを呑み込み弾ける。

それを受けた魔獣たちがばたばたとその場に崩れ落ちていくのだった。

愉悦の表情を浮かべながら、長い息を吐くアンナだった。


〈パオラ聞こえるかい?〉

魔晶船を操りながら、魔獣対策室のパオラへと念話を飛ばすナタリー。




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