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黄泉渡り伊織 ーー関ヶ原で滅した六千の魂を抱く巫女ーー  作者: 結城謙三


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シューシャ隊

東検問所を飛び出したうさぎの獣人であるシューシャ、おそらくはこの大陸でオリバーの次にアブミを体験し

オリバー以上にその機動力に感嘆し胸を震わせた1人である。


「なぜこんな簡単な物を今まで誰も考えつかなかったのかしら?」

自分もその一人である事など棚に上げて、愛用のゴーグルを装着すると速度を上げ、はるか前方に見えている

避難民の集団へと駆ける。

頭を低くすると長い耳が風に流され、アブミに体重を預けて腰を浮かせると普段よりも駆竜の足運びが軽快に

感じられた。


「間違いなく速くなっているわ!」

これまでは駆竜から落ちまいと両太腿で激しく動く胸骨を挟みつけていたが、その緊縛から解放された駆竜の歩幅は

明らかに広がり前へと大きく踏み出されている。

草原の草を力強く蹴り上げ、城壁から五百ドランの目的地へと、かつてない突進力で突き進む。


「魔獣が迫っているわ!急いで王都に入って!!」

すれ違う20名ほどの避難民に声を掛け、隊員の1人に“王都までの誘導”と右手で指示を送る。

城壁から放たれる魔光灯の鋭い光が、駆けるシューシャの影を草原に長く落とした。

その直後、正面の避難民へと迫る複数の不穏な足音を、彼女の長い耳が鋭く捉える。

後続の隊員三人へ敵の出現を報せ、散開のサインを出すと同時に、駆竜の横腹を強く蹴りつけた。

頭を低くした駆竜が、未知の加速を見せる。


「見えた!あそこにいる——バルホーンッ!!」

草むらに身を潜めていた魔獣の群れが、獲物を引き裂かんと後ろ脚を深く沈めていた。

避難民の手前、シューシャの駆竜が長い脚爪で大地を深く抉り、夜空へ向けて跳躍する。

宙を舞い、アブミに支えられた体幹のままボーガンを構えるシューシャ。

照準はブレない。眼下のバルホーンの首元に狙いを定め、左手の引き金を絞った。

——”ギャンッ!”

矢尻に込められた火魔法が標的の首元で激しく爆ぜる。絶命した巨体が勢い余って草の上を滑っていった。

避難民から悲鳴と歓声が上がる。別のバルホーンが、右側から初老の男を目がけて牙を剥いた。

着地と同時に次矢を滑り込ませていたシューシャは、凄まじい制動で振り返り、今度はバルホーンの腰へ向けて引き金を引く。

鈍い炸裂音……崩れ落ちる魔獣……すかさず男たちが初老の男を抱え、必死に引き剥がす。シューシャはさらに、倒れた

魔獣の頭部へ容赦なくもう一発を撃ち込んで確実にとどめを刺した。


「全員、怪我はない!?」

避難民の無事を確認するや否や、シューシャはすぐさま隊員の一人に声を飛ばした。


「この人たちを誘導して!急いで!」

それを受けた人間のガーダー、エルビスは駆竜を飛び降り避難民が曳く荷車に駆け寄り担い棒を飛び越えて

ロープを掛けると、駆竜に繋ぎ手綱を引く。


「荷台に乗ってください、王都まで飛ばします」

家族だと思われる8人の避難民がなんとか荷台に乗り込み“すぐに戻ります”と言い残し王都へと駆け出すエルビス。


その背を見送ったシューシャと2人の隊員が駆竜を並べ大森林を睨む。

「おそらく……もう避難民はいないと思う。ここから後ろには絶対に通さないわよ」

城壁からちょうど500ドランの距離であり、大森林までの草原には無数の魔獣が息を潜めていることをシューシャは

肌で感じていた。

それはウサギの獣人特有の臆病ゆえの警戒心の高さから授かった能力であり、ガーダーとして生き残りNO,10ギルド

という上位ギルドで9席まで上り詰めた結果が証明していた。

つまり、ここより先に避難民がいたとしても……無事ではない……助けることはできないという事でもある。


「「はいっ!隊長!!」」

副隊長で山猫の獣人であるフービアとハーフエルフのジュリアナが答える。


「ジュリアナ、強化魔法をお願い」

大森林を睨みながら、静かに……そして大きく深呼吸をするシューシャ。


「森の息吹よ、我らに大地の力と疾きを――【フォレスト・ブレス】」

ジュリアナの足元から淡い緑光が広がり、草原の草が風もないのに揺れる。

次の瞬間、シューシャたちの身体から重さが消えたかのように感覚が鋭く研ぎ澄まされた。



北街道から東へ進路を取り、高度を上げながら草原の上空を進んでいく魔晶船。

王都から次々と吐き出されてくる駆竜に乗ったガーダーを見つめるナタリー。

[なんだろうね?駆竜たちの速度がいつもより速くて軽快に見えるんだけどね?]


[ナタリー様、ガーダーたちの騎乗スタイルがいつもと違うようです。駆竜から腰を浮かせているようです]

アンナがナタリーの視線を追い視力を強化して答える。


「やはり東街道が圧倒的に魔獣が多い!第一波は東街道だっ!!伊織殿、通訳して五助君にガーダーを東へ向かう

ように報せてくれ[東へ向かってください!]」

大谷吉継の案山子の目が、東街道を突進してくる大小様々な魔獣の群れを捉えていた。





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