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黄泉渡り伊織 ーー関ヶ原で滅した六千の魂を抱く巫女ーー  作者: 結城謙三


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パオラの予知

「セルザ将軍、ナタリー様から念話でまもなく中層の魔獣たちが草原に現れると言っています。魔導砲の準備

と魔導結界の準備をと言われています」

王都魔獣対策室のパオラがわずかに緋色味のかかった目をセルザ将軍に向ける。


「どちらも準備は完了している。魔導ギルド総出であたっているはずだ。あとはナタリー様の合図を待つと

伝えてくれ」

王都には通常のガーダーが所属するギルドの他に魔導士ギルドと4つの治療院を運営する治癒士ギルドが存在する。

魔導士ギルドには4つ以上の属性魔法が使え一定以上の魔力量が求められるため、ほとんどがエルフであり4基の

魔導砲に各8人、魔導結界の展開に200人以上の魔導士が待機している。


〈お祖母様……なんだかひどく嫌な予感がします。腹の中から喰い破られるような……〉

目を閉じてナタリーに念話を送るパオラの小さな手が震えている。


〈未曾有の事態だからね、今はできる事をするしかないんだよ……いよいよの時にはあんたは逃げるんだよ〉

パオラの予感は、予知と言える事を誰よりも知るナタリーは何か見落としている事があるのではないかと必死に

頭を巡らせる。

しかし眼下に広がる魔獣たちの群れに現実へと引き戻らされ、魔晶船上からガーダーを誘導し、魔獣の流れを

避難民から遠ざけコントロールするための岩の壁を建てるために思考のほとんどを割かれていく。


北街道から王都を背に徐々に高度を上げながら、東街道までを見渡せる北東の位置で滞空する魔晶船。


[ナタリー殿、地図で見せてもらっていましたが、こうして見ると王都も草原も本当に真円なのですね……]

大谷吉継が魔晶船から見渡し、案山子の目で見た王都が寸分の狂いもない真円であると感嘆する。


[ああ、隠すことでもないから教えておくけど、王都全体を覆うことのできる魔導結界を張るには王都自体を

魔方陣とした真円が必要なのさ……草原も元々は森林だったんだけどね、あの4基の魔導砲の射程までをすべて

の木を伐採したわけだね]

ナタリーの言葉を伊織が正確に通訳する。


[魔導結界?結界というのは我々の言葉では災いや邪悪な物が入らないようにするためのものですが?]


[……その認識で合っているけど、城塞を超えてくる攻撃や飛行型の魔獣を王都内に入れないようにするための

結界さ、下位の龍種の息吹くらいなら防げるはずなんだけどね……問題はどのくらいの時間を張り続けることが

できるのかなんだ……]

城壁上に並んだガーダーたちの1段下に、等間隔で魔導結界を展開するための魔法陣が魔石に直接刻まれており

魔導士たちが同時に魔力を注ぐことにより、王都の中心である王城の屋根に建てられたアンテナに向けて魔導波

が放たれ魔導結界が展開される。


[つまり魔導士たちの負担が大きいのさ、交代で魔力を流し続けるんだけどね……魔力が切れたらそれまでさ]


[使い時を間違えてはならないですね]

ナタリーと吉継が並んで城壁上を祈るような心持ちで見つめる。


東検問所と北検問所から駆竜に乗ったガーダーたちが草原へと次々と飛び出してくる。

大森林からも途切れることなく魔獣たちが吐き出され続け、魔光灯に照らされた草原の緑が徐々に魔獣の波に

暗く染まり広がっていく。


[今、草原を進んでいる避難民たちはおそらくあと半刻ほど8つの刻の鐘までに王都内に入れるでしょう……]


[街道や大森林内には避難民の姿は見えないということだね?]

ようやく荷が降りたという表情で“ふーーっ”と細い息を吐くナタリー。


[生きている避難民の姿は……]

吉継の案山子の目には街道や大森林のあちらこちらに荷車や馬車の残骸が散乱し、人間なのか家畜なのか判別の

つかない肉塊や血痕が飛散し思わず目を背ける吉継。


[そうかい……嫌なものを見たようだね、予定通り8つの刻の鐘ですべての門を閉めるよ、その後は籠城戦に移ると

ガーダーたちに報せてくれるかい?]

伊織の通訳により、湯浅五助が全方向へとナタリーの言葉を伝える。


そして無事に王都へと入った避難民たちは、用意された倉庫へと案内され長時間の移動の疲れを癒やしていた。

そんな中で、どこか途方に暮れた様子で、焦点の合わない眼差しを空へと向け、与えられた食料にも手を付けずに通り

を徘徊する避難民の姿が多く見かけられた。

通常であれば目立つであろう彼らだが、誰もが忙しなく走り回る状況下では、気にかける者などいなかった。

さまざまな通りを、まるで夢遊病者のように歩く彼ら――その足は一人残らず、王都の城壁へと向かっているのだった。







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