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黄泉渡り伊織 ーー関ヶ原で滅した六千の魂を抱く巫女ーー  作者: 結城謙三


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魔晶船出陣

3人が乗り込むと他の3人の整備士のの手により、魔晶船がレールの上を走り屋外へと出される。


じつに5年前の建国2000年を祝う式典で、王都上空を遊覧して以来の陽の下への登場である。

傾きかけた陽に染まる機体は、どこか愛嬌があり王国の土産物屋で売られる模型は常に売り上げ上位であり

どこの家庭でも大小様々な魔晶船模型が飾られているほどである。

手漕ぎボートほどの大きさのゴンドラの四隅にはワイヤーが張られ、その上部に夕陽を受けて朱に染まった

球体が浮かんでいる。


「これが魔晶船1号機、通称【ケツァル号】その名の由来は風龍と呼ばれるケツァルコアトルの卵を気球に

使用していることからきており、ケツァルコアトルは産卵してから孵化するまで、けして地上に落ちることなく

孵化した卵の残骸のみが地上に落ちてくるわけです。

その破片をつなぎ合わせた物、非常に軽く浮力がっ!?」 “ダンッ!!”

上機嫌に話しているギャリーの演説がナタリーの打ち付けられた杖の音で遮られる。


「長いっ!!時間がないんだ操作方法と要点だけいいな」

ナタリーの長く鋭い耳が“ぴくぴくっ”と動く。


「はっ……はい!まずはこの中央の柱が魔晶核となっており手を置いていただいて内部のストーム·ドラゴンの魔石に

魔力を通してください」

アンナは黙ったまま言われた通りに魔晶核の上部に手を置き目を閉じる。

“んっ!?”魔晶船と繋がった感覚にアンナの眉が動き、上部の気球部分が七色の波のように輝き脈動を始める。


「どうやって動かせばよいのですか?」

初めて口を開いたアンナの声は、がっしりとした体躯に比べてか細く頼りなかった。


「念じるだけです。攻撃魔法の軌道を変えるように念じればいいと誰かが言っていました」


「飛ばしてみてもいいですか……?」

こんなか細い声で次の魔導王が務まるのだろうか?……と心配になるギャリー。


「どうぞ……慎重にお願いします。二度と手に入らない素材の塊ですから気をつけてください」

ゴンドラの内部に取り付けられた手摺りをしっかりと握りしめる。


気球の七色の波が速さと明るさを増し、レールに乗った台車からゴンドラが離れ真っ直ぐに浮上していく。

「それにしても、この気球の光は何とかならないのかい?目立ってしょうがないじゃないか!?」

ナタリーが上を見上げながら顔をしかめる。


「これは魔術師の魔力に反応していますので……さすがに次期魔導王と言われるだけのことはありますね……

七つの属性の魔力がこれほどまでに輝くとは」

上を見上げ口を開けたまま固まるギャリー。


「これはどこまで上がるのでしょう?」


「それは魔術師次第なのですが、初めての操舵ですと精々が城壁を越えるくらいかと……なっ!?」

すでに王城を越えており、地上を見下ろし青ざめるギャリー。


「ナタリー西へ行くよ、NO,100ギルドまで急ぎな」

こくっと頷くと、西へ向け船体を傾けると同時に船尾を馬にでも蹴られたかのように加速するケツァル号

沈みかけた太陽に向かって“ピィーーーーッ”と笛のような高い音を引き飛んで行く。


1層目の城壁を越え、西大通りに沿って飛んでいると人々が空を見上げて手を振り、子供たちは嬉しそうに

後を追いかけ走る。

そんな人々にギャリーは手を振り返しながら、2層目の城壁も越えるとガーダーたちが忙しなく走り回る姿が

目立ち有事の緊迫感が伝わってくる。

ほとんどのガーダーたちはアブミを作るための縄や皮の入手に走り回っていたのだが上空のナタリーたちに

知る由もない。


「アンナ、あそこに降りな」

ナタリーはそう言いNO,100ギルドの練兵場を指差す。


練兵場上空で滞空すると、ゆっくりと下降を始める。

それに気づいたサムライたちのどよめきが聞こえ、ギャリーが身を乗り出し退くようにと手ぶりで伝えると

気球の脈動が緩やかになり、ゆっくりと船底が練兵場の中央に接地する。

物珍しげに魔晶船を囲む者たちをかき分けて、車椅子に乗った大谷吉継がナタリーを見て頭を下げる。


「これが魔晶船……!?本当に空を飛んで来たのか……」

思わず日ノ本の言葉で呟いた大谷吉継に、こっちにおいでと手招きをするナタリー。


[こっちがあたしの弟子のナタリーで、こっちがこの船の整備をしてくれたギャリーさ]

車椅子を降り魔晶船に乗り込んだ吉継は2人と握手をしながら挨拶をする。


[時間がないからね、早速出発するよ]


[この船には何人が乗れるのでしょう?]

船内を見回しながら誰にともなく質問をする吉継。


[本来は6人なんだが、しかし魔晶核の予備を積んでいるので5人までだ]

ギャリーが長い顎髭を扱きながら答える。


[そうすると哨戒に出ている湯浅五助を拾って、伊織殿にも乗ってもらいたいと思います]

吉継がナタリーに了承を求める。


[それは構わないけど、空を飛ぶ魔獣が現れるかもしれないからね弓が使える者も必要だよ]


「ムサシ、弓の腕前はどうだ?」

ゴンドラのすぐ横に伊織とともに立っているムサシに問い掛ける。


「いや……弓は」


「百発百中です!」

ムサシが答える前に伊織が太鼓判を押し、ムサシの手を引いて魔晶船に乗り込んでくる。


「伊織、俺は弓はあんまり……」

「大丈夫!心配しないで!」

小声で囁やきあう2人……。


「では決まりだな、すまないが弓にありったけの矢と僕に椅子を1つ頼めないだろうか?」

吉継がそう言うと、蜘蛛の子を散らしたように数人が武器庫へと走り大量の矢筒と椅子が積み込まれる。


[じゃあ出発するとするかね……ギャリーあんたは降りて歩いて帰りな]

戦場に出ると聞いて渋々ゴンドラを降りるギャリー。


[エディ!後のことは頼んだ!]


[ヨシツグ!通訳できる奴がいないじゃないか!?]

浮上し始めた魔晶船に怒鳴るエディ。


[君なら大丈夫!上手くやれるさ!]

「みんな!頼んだぞーー!」




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