哨戒任務
そうして平塚為広と庄吉は襲い掛かってくる魔獣たちを退けながら、大森林を進み続けていた。
……一方その頃、王都のNO,100ギルドでは
白い光が、傷口をなぞるように走った。
「……おい、見たか今の……?」
誰かの呟きに、周囲の視線が一斉に集まる。
血に濡れていたはずの腕が、まるで何事もなかったかのように塞がっていく。
「すげぇ……」
誰かから思わず漏れた声に、隣のエディが得意気に小さく頷いた。
「治癒魔術師か……聞いてはいたが、実際に見ると別物だな」
伊織とムサシが小さな声で頷き合う。
その言葉通り、部屋の一角では数人の白衣の術者が、淡々と負傷者の手当てを続けている。
手を翳し、短く呪文を唱える——それだけで傷は閉じていく。
驚きと畏れが入り混じった空気の中、伊織は思わず息を呑んだ。
『これが……この世界の普通なの?』
幸いにも命に関わるような重傷者はいない……だが、それ以上にこの光景そのものが現実を突きつけていた。
ここは日ノ本ではなく異世界だということを……やがて、低く通る声が室内を引き締める。
「みなの者たち聞いてくれ」
静まり返る中、大谷吉継が一歩前に出た。
「これより我らNO,100ギルドは、王都周辺の哨戒任務に当たる」
ざわりっと空気が動く。
「北西の草原、西街道方面だ。魔獣の排除、そして避難民の保護と誘導これが最優先となる」
簡潔な言葉に、誰もが真剣な顔で頷いた。
「馬は200頭を借り受けた。先ほど決めた5人一組の隊で動くのだ」
「40隊が出動するわけだな……」
エディが小声で呟くと、伊織も小さく頷く。 吉継は一拍置き、さらに言葉を続けた。
「それと、この言葉を必ず覚えてからここを出るのだ」
わずかに声の調子が変わる。
「“わたしはブランデン語が話せませんが味方です”」
一瞬、何を言われたのか理解が遅れた。戸惑ったように首を傾げる面々。
「この国の言葉で、ブランデン語が話せませんが味方だと言っている。」
そう言うと、吉継は左胸に拳を当ててみせた。
「この仕草と共に伝えるんだ。それだけで通じる」
周囲から、ぎこちない復唱が広がる。
「……わたしはブランデン語が話せませんが味方です」
「わたしは……味方です、か」
——リーン……リーン……
その時、澄んだ鐘の音が遠くから響いてくる。7回……静かに、だが確かに時を刻む音。
「今のが合図だ」
吉継が振り返る。
「一刻後に交代となる。次にこの音が聞こえたら戻ってくるんだ」
「一刻って……どれくらいだ?」
「さあな。ただ——あの鐘が目安ってことだろ?」
「時一つとだいたい同じ長さらしい……今から出たら陽は暮れるな」
「各隊、出立だーー!」
湯浅五助が短い号令を発するとそれだけで、空気が一変した。
そして初めての任務が、動き出す。
そして残された者たちで城壁上から見張りの任務につく隊と、休息をとる隊とに分けて“ほっ”とため息をつく
大谷吉継。
先発の哨戒任務の大隊長を任された湯浅五助は200騎を引き連れ、見慣れぬ武装に広場や検問所に並ぶ大勢の
視線を浴びながら、胸を張り規律正しく西口城門を出る。
じつは貸与した馬に鞍は付いているものの、アブミがなくそれぞれが縄などで簡易なアブミを作っていたため
出発が少々遅れていた。
「……広いな……そして美しい国だ」
歩みを緩め、草原へと出た湯浅五助が周囲を見渡す。柔らかな風に揺れる草、痛いほどの緑が支配する森林
そこに島津豊久が馬首を並べてくる。
「豊久殿、王都へ到着されたばかりで、少し休息されたほうが良かったのではないですか?」
島津豊久ではなく、この部隊の大隊長を任された五助はわずかな引け目を感じながら豊久を見る。
「湯浅どん、そげん心配せんでよか。守らなならん王都ば、いっとう先に見ときたかっただけじゃっで」
自分の小さな危惧などまるで気にしていない様子の豊久に言いしれぬ親しみを覚える。
「ここで4つの中隊に分けようと思うがどうでしょう?西街道、北街道、草原を分割しようかと……」
「大隊長は湯浅どんじゃけ、思うごつ使いなせ……そいにしても、この草原はしんけん広かね〜」
「では、豊久殿は10隊を率いて北街道の哨戒を、大友兼興は同じく10隊を率い西街道、残りは草原の哨戒
にあたる!草原の中に潜む小型の魔獣もいるらしいので十分警戒するように」
日ノ本の馬よりもやや大型の馬を軽快に操り、与えられた区画へといっせいに散っていく。
草原では、王都側と森林側の2手に分かれ等間隔に横に広がると馬上から槍の石突で草をかき分けながら
進んでいく……しばらく進むと。
「大隊長!ウサギです!角が生えていますが……魔獣でしょうか?」
すぐ横を進んでいた大前時治が、穂先を草むらに向けながら叫ぶ。
「可哀想だが殺してみろ、魔石が取れれば魔獣だ!」
無情にも言い放つ五助。
「ごめん!」
そう言いながら草むらへと槍を突き出す時治の身体が“ドンッ!!”という鈍い音とともに後ろへと仰け反る。
「へっ!?」
呆けた時治の声に隊員の視線が集まる。
「腹だ!!」
ウサギの頭が大前時治の胴丸にめり込み、身体がずるりと馬から落ちる。
すぐさま駆け寄り、脇差しを抜くとウサギの首に突き立てる五助。
「大丈夫か!?」
白目を剥いて返事のない時治の胴丸を外し、傷を確かめる。
「時治……かすり傷だ……」
へその横にわずかに血が滲んでいた。
「へっ!?……いや驚いただけです!」
「しかし胴丸がなければ、結構な怪我を負っていたかもしれんな……ほら魔石だ」
その後、全員が気を締め直し哨戒任務に当たるのだった。




