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黄泉渡り伊織 ーー関ヶ原で滅した六千の魂を抱く巫女ーー  作者: 結城謙三


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陣太鼓

「大谷刑部殿!島津豊久にございもす!刑部どんも、こっちに来ちょいなはったか!」

島津の家来たちが“ざわりっ”とざわつく。

車椅子に座る吉継から姿は見えないが、腹の底まで響いてくるその声に島津義弘の甥であり

豪将と謳われた豊久であると確信する。


「豊久までがこっちへ来たのか……?」

誰にも聞こえぬように独り言ちる……それは西軍の最大勢力の1つである島津の劣勢を現しているのだ。

三成の家臣や東軍の武将らに、自分の知らない関ヶ原での情勢を聞いてみたかった。

しかしそれは、この世界に来てしまった自分たちにはなんの役にも立たぬ情報であり、今はこの王都で

自分たちが生き延びるためにできることをするだけだと、ぐっと言葉を呑み込む。


「では、ここの代表であり我らに居場所を与えてくれた1人でもある、エディから今後のことを話してもらう

伊織殿……通訳を頼みます」

エディのために壇上の最前列から下がると、“ふっ”とため息をつく吉継


「異郷のサムライの皆さん、わたしがエディだ。まずはじめにわが王国の民が皆さんのおかげで助かったと

聞いています……心からお礼を言わせてください」

そう言うとエディはヨシツグらの作法にならい、腰を曲げて頭を下げる。

いつまでも頭を上げないエディに伊織が肘を引っ張り“そのくらいで大丈夫……”と合図をする。


そのやりとりを見て、どこか肩の力が抜ける面々。

「ここにいる全員が王都の防衛に協力してくれるという前提で話をする。

我々NO,100ギルドの仕事は王都周辺の哨戒任務、ギルド前の城壁の防衛、西口検問所の防衛となる。

そこで馬に乗れる者で5人一組の隊を作ってもらい代表者、つまり隊長を決めて哨戒にあたってもらいたい

そして弓が使える者も同様に5人一組で城壁の防衛にあたってもらうことになる。

そしてそれ以外の者たちも5人一組となって槍を持って西口検問所の防衛となる。」

ここまでを伊織が通訳し皆の顔を見渡すと“うんうん”と頷き、その目にはエディに対する信頼の色が伺えた。


「そして遭遇した者も多いと思うが、魔獣について話しておく……ここから東にサランドル·ダンジョンという

魔獣の巣窟がある。

簡単に話すと、そのダンジョンが噴火して中にいた魔獣どもが地表に現れ人族の血肉を求めてここを目指している

そう思ってくれていい……

おそらく皆が遭遇した魔獣は、ダンジョン上層部にいた下級の魔獣だ」

その言葉を伊織が通訳をすると、いっせいにどよめきが広がる。


「下級の魔獣?それはあいつらが弱いって言うのか?」


「そんな馬鹿な!?何人も犠牲になったんだぞ!?」


「あれ以上の化け物がいるっていうのか!?」

あちらこちらから悲鳴のような叫びが上がる。


「それが事実だ……そして中層の魔獣が出てきた場合は、必ず5人の小隊で相手をするんだ。

万が一だが、下層の魔獣と遭遇したら城壁内に一目散に逃げろ!」


「ちょっと待ってくれ、その中層だの下層だのどうやって見分けるというんだ?」

誰かの発した質問に全員が頷いている。


「それはギルドのカウンターに魔獣図鑑を用意してあるが……君たちも戦士ならばわかるさ全身の体毛が逆立ち

血が沸き立つからな」

そう言って不敵に笑うエディの口角が鋭角に上がり、肉食獣の鋭い牙が鈍く光る。


「中層以上の魔獣と直接に対することはないだろう……その時には城壁内に籠り城壁の上から弓や魔法での

籠城戦になっているはずだ。1つ厄介なのが空を飛ぶ魔獣だな、数は多くないはずだが飛び道具を持たぬ者は

建物内に避難するよりない」


ため息や低い唸りが広がり練兵場に重く伸し掛かっていく。

するといつの間にか最前列まで来ていた島津豊久が手を挙げ“ぴょんぴょん”と跳ねている。


「わしからも一ついいじゃろうか?」

自分の鼻を指差し満面の笑みを浮かべる豊久。

それを見たエディが苦笑いを浮かべながら頷くと、左手を壇上に掛け跳び乗ると“わっ”と場の空気が変わる。


壇上に跳び乗った豊久は、ニカッと白い歯を見せて笑った。

その屈託のない笑顔は、この場の重苦しい空気を一瞬で霧散させる不思議な力があった。


「エディどん、空を飛ぶ化け物が厄介だと言ったな? ならば、わしが良い策を持っちょる!」

豊久は懐から、ボロボロになった一筋の縄を取り出し、それを空中でクルクルと回してみせた。


「囮に襲い掛かろうと、魔獣が高度を下げた瞬間に……両側から、こうじゃ! 『投網』を投げかけ、翼を絡め取って

地に引きずり落とす!」

壇上の豊久が、見えない網を投げ打つ仕草をする。その動きは驚くほど鋭い。


「地に落ちた化け物など、ただの肉の塊。あとは槍で突くなり、刀で斬るなり、好きにすればよか!

どうじゃ? これぞ島津流”空飛ぶ釣り野伏”にございもす!」

一瞬の静寂。

そして、その場にいた一同から「おお……!」と感嘆の声が上がった。

それは、恐怖に対する悲鳴ではなく、反撃の糸口を見つけた希望の狼煙だった。


“ドンッドンッドンッドッドッドッドッ!” “ドンッドッドッドッドッ!”

全員の鼓動に協調するように太鼓の音が鳴り響く。


「わしらはなんの因果か、関ヶ原で死んだと思っちょったら、こんなところで目が覚め、見たこともなか獣に襲われ……

この国の民に飯を分けてもらい、よう分からんままここに辿り着いた。

じゃが、一つだけ分かったことがあっ!

わしらの力を必要としちょる人らがおって、わしらはまだ生きとるっちゅうことだ!

八幡様がうぬらはまだ負けちょらんと仰せだ!!」


“ドンッドンッドンッドッドッドッドッ!” “ドンッドッドッドッドッ!”


「「「「おおおおーーーーぉぉぉぉ!!!!!」」」」

歓声が波となって押し寄せる。


「あの人には”甲源の太鼓”という陣太鼓の付喪神が憑いています……周囲を鼓舞する希少な付喪神ですね」

伊織が大谷吉継の耳元で囁く。


「甲源の太鼓?あの甲斐の虎といわれた武田軍の陣太鼓か?」



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