島津豊久
王城から大谷吉継らがNO,100ギルドへ戻ると、日ノ本の同胞らの人数はさらに膨れ上がっていた。
車椅子に乗り白頭巾を被った吉継を見ると次々と片膝をつき主君との再会に歓喜の声を上げる。
ほとんどの者たちが、石田三成隊、大谷吉継隊、宇喜多秀家隊、島津義弘隊であり、その中でも人数こそ
少ないが小早川秀秋隊をはじめとした脇坂安治・朽木元綱・小川祐忠・赤座直保ら東軍へと寝返った隊に
所属していた者たちは食堂の隅でかたまり見るからに肩身の狭い思いをしていた。
さらには東軍だった者たちも加えて見えない壁を作っていた。
そしてほとんどの者たちは王都へと避難してくる領民たちの護衛を兼ねて同行しており、道中での犠牲者の
数も少なくないと言う。
「そうか……みんな苦労してここまでたどり着いたのだな、よくぞ無事……と言っていいのか分からんが
再び会えたことを嬉しく思うぞ」
大勢に囲まれた大谷吉継が労いの言葉をかける。
どのような運命の悪戯なのか、関ヶ原で死んだと思っていた者たちが今この場に会し……日ノ本とは違う
理の中で新たな生を授かった。
そしてほとんどの者たちが異形の獣たちを目の当たりにし、それと戦い自分の置かれた状況を逡巡する間もなく
わずかな安寧を求め王都へとたどり着いたが、大勢の同胞たちを見て安堵するとともに先に来ていた大谷吉継
の隊員から、この地に押し寄せる異形の獣たち……魔獣からここ王都を防衛するための戦いに参戦するという
話を聞かされる。思考が追いつかないが、戦わねばもう一度死ぬだけだ……
ならば主君のためではなく、自分たちが生き残るために戦おう……それは右も左もわからぬ世界に放り出された
自分たちには他の選択肢がなく、大勢の同胞が集うこの場を離れるという勇気が無いことから、この場にいる
ほとんどの者たちが導き出したもっとも簡単で唯一の答えであった。
そんな大勢の中で、置かれている状況をもっとも知る伊織が大谷吉継の背後でここに集まっている日ノ本の
侍たちを静観している。
そして静かに目を閉じ、そのまぶたの裏に意識を集中させる……ここにこれほどの関ヶ原の犠牲者が集まって
いるのならば、この世界に来てから亡くなった人は自分が思うよりも少ないかもしれない……
『2367……』
そのあまりの数の多さに伊織の両脚から力が抜け、横に立つムサシにしがみつく。
ここに居る人の数より、はるかに大勢の人たちが王都にたどり着くことなく命を落としているのだ。
「伊織……どうしたんだ?顔色が悪いぞ?」
伊織の腰に手を回し支える。
「ムサシ……ごめんなさい、なんでもないの……」
関ヶ原で命を落とし、理由もわからず異世界へと連れてこられて、わずか2日も経たずに異形の獣に殺された。
あまりにも救いのない魂の話をムサシに伝える事ができなかった。
「何でもないはずがないだろう?御左口神にまた何かを言われたのか?」
心配そうに伊織の顔を覗き込むムサシ。
「そうじゃないのムサシ……怖いの……」
ムサシの腕を“ぎゅっ”と強く掴む伊織。
「大丈夫だ!伊織は俺が守る……心配するな」
戸田重政が吉継の車椅子を押しカウンター横の通路を通り練兵場へと歩いていくと、人々がそれに続き
かなりの広さのある練兵場が人々で埋まっていく。
[ヨシツグ……1000人を超えているぞ!?]
最奥の壇上に吉継とともに上がったエディが練兵場内を見下ろす。
「そうか、まだ増えるだろうが早く王都へと入らねば……時間がないな……」
[それは魔獣と鉢合わせるということか?哨戒の人数も増やして対応しているぞ]
「エディ、王都の外ではかなりの数の犠牲者がでています。急がないと……」
通訳で吉継の隣についていた伊織が自分の意見を述べる。
[なぜイオリにそんな事が言い切れるんだ?]
「それは……」
伊織が言いにくそうに淀んでいると
「エディ、言ったろう?彼女は巫女だと神の依代となる存在なんだ。我々が見えないものが彼女には見えて
いるんだ」
[ああ……そう言っていたな。しかし哨戒ばかりに人数を割くわけにもいかない、王都の守りが最重要だからな
魔晶船が運用できれば効率も上がるんだがな]
そして建物内から、ほとんどの者が練兵場へと出たのを頃合いに戸田重政が吉継の乗った車椅子を壇上の最前端
にゆっくりと移動させると、ざわついていた場内が静まり返る。
「みなの者たち、よくぞここまでたどり着いた!我は大谷刑部少輔吉継、朝廷より授かった官位は従五位下だ。
しかし先ほども言った通り、ここは日ノ本ではない官位や身分、ましてや東軍も西軍も関係ない
僕がこうしてみんなの前で話しているのは我々の置かれている状況をここに居る誰よりも分かっているからに
過ぎない。
つまり僕の言葉に従う必要などないが、みんなには我々の居場所を作るための協力を頼みたいのだ」
ゆっくりと練兵場に集まる人々の顔を見渡す。
食堂の隅で固まっており、今も隅で肩を寄せ合っている東軍の兵たちは吉継の言葉に唇を噛み締める……
そしてほとんどの者たちが吉継と目が合うと、戸惑いながらも頷きその意思を表す。
「この地はまもなく異形の獣……魔獣の襲撃を受けるだろう。我々はこの建物を拠点として戦わなければならない
しかしこの戦いは主君のためでなく、自分の命を守るため、あるいはここまで導いてくれたこの国の民のためでも
いい……それが自分たちの居場所を作ることになるだろう
もちろん強制ではないから、この地を離れどこに行くのもみんなの自由だ」
「驚いたばい!こげん多か同志の集まっとっとか!?大谷刑部殿の言わした通り!
この国の民に助けてもらわんければ、こん場所まで来れんかったし、命もなかったろう。
あの獣どもで、関ヶ原の鬱憤を晴らそうやなかか!!」
練兵場の入り口付近から豪快な笑い声とともに、大声が場内に響き渡る。
「島津……豊久か!?」




