アブミ
商隊を無事に東検問所へと並ばせると、ガーダー通用口から島津豊久らとともに王都へと入る。
治安局員にサムライたちは西口にあるNO,100ギルドへ行くようにと、簡単な地図を渡される。
[トヨヒサ、ここへ行くんだ……今はここ東検問所にいる、わかるか?]
簡単な地図を指差し、目抜き通りを直進し2層目の城壁に当たったら迂回して西口の目抜き通りをさらに直進
すれば西口まで行けるぞ……っと大袈裟な手振りで伝えるオリバー。
「これをまっすぐに突っ切れば、早いですよね?」
その地図を島津豊久の後ろから覗き込んだ若いサムライが、西検問所から東検問所まで王都を横断すれば
早いのでは?と地図を指でなぞる。
[そうなんだが、すまんが2層目には入れないのだ……その許可証は3層目のみだからな]
オリバーが申し訳なさそうに、再び2層目の城壁を迂回するように地図をなぞる。
「よかでしょう!この街の見物でもしながら、行きましょう!」
東口広場の人の多さと、さまざまな種の獣人や人間でも髪の色や目の色、肌の色までが違うことに興味深気に
まじまじと観察する島津豊久。
[わかってくれたか?……ところでこれなんだが、本当にもらってもいいのか?]
商隊に馬を返した際に、取り外したアブミをオリバーの駆竜に取り付けていた。
「よかよか!そんな物でそんなに喜ばれても、おかしなお人じゃ」
お互いに話している内容はわからないが、奇跡的に会話が成り立っているオリバーと豊久は互いに大笑いをし
肩を叩き合いながら“またなっ!”と手を振りあった。
豊久と別れたオリバーは、北口にあるNO,10ギルドへと駆竜を飛ばし急いで戻ると3階にあるギルド長室へと
飛び込む。
「ギルド長!これを見てください!!」
ソファーで書類に目を通していたNO,10ギルド長のウサンが目線だけをオリバーが手に下げているくたびれた
縄に目を向ける。
「オリバー……またゴミを拾ってきたのか?」
「またってなんすか?人聞きの悪い!これは王都始まって以来の大発明ですよ!」
くたびれた縄にしか見えないアブミを振り回すオリバー。
「前にも龍鱗だとか言って、トレントの硬化した樹液を拾ってきたじゃねえか!?」
オラウータンの獣人であるウサンが唇をめくり上げ、豪快に笑う。
「そんなんじゃないっす!とにかく見てください、見たらこれがどれほど役に立つのか分かります。
練兵場で待ってますから、すぐに来てくださいよ」
「俺は忙しいんだよ、もうすぐ魔獣どもが押し寄せてくるんだ。お前も準備しておけよ」
オリバーが部屋から出ていくと再び書類に向き合い、頭を掻き毟るウサン。
「思っていたよりも厳しい戦いになるかもしれねぇな……誰も死ぬんじゃねえぞ」
1人になった部屋で独り言ちるウサン。
しばらく書類の山に頭を抱えていると部屋に隣接する練兵場からギルド員たちの歓声が聞こえてくる。
「お~~~すっげぇーーーー!」
「なんでそんな動きができるんだっ!!!???」
「おいおいっ!!落ちるぞーーー!!!気をつけろ〜〜〜〜!!」
「凄えな!!俺にも乗らせてくれ!!」
大変な盛り上がりにソファーから立ち上がり、3階の窓を開けようと歩き出したウサンの目の前を駆竜の腹部が
左から右へと横切る。
「はっ!?どうなっていやがるんだ!?」
窓へと駆け寄り、下をのぞき込むとウサンに向かって駆け上がってくる駆竜と眼が合う。
『クワッーー!』
と短く鳴くと、ウサンの頭部をかすめ屋上の縁を蹴り身を翻すと、隣のギルドの壁面を蹴り練兵場の中央に
着地する。
「おいっ!どうなっているんだ!?すぐに降りるからそこで待っていろ!!」
窓から身を乗り出し叫ぶウサン。
「ギルド長!見てください、これ凄いです!!」
そう言うと、短い詠唱を唱え駆竜の足元の砂が舞い上がると弾かれたように正面の壁へと駆け出し、すんでの
ところで壁を蹴り上がると、螺旋を描くように裏手の工場の壁をも斜めに登っていく、そしてギルドの壁へと
移り飛ぶと3階の窓から身を乗り出しているウサンの腕を掴み窓から引っ張り出す。
「シューシャだったのか!?年寄りに無茶をさせるな!!」
「ギルド長に早くこれを見て欲しくて!代わってください!」
駆竜の手綱をウサンに渡し、アブミに足を通すようにと指示をすると駆竜の背を蹴り空中へと飛び出す。
空中で美しい捻りを加えながら華麗に着地をするシューシャ。
それを見届けると“ちっ”と舌打ちをしながら、アブミに足を通し駆竜の身体を太腿で軽く挟み込む。
地上へ降り立つ寸前で手綱を右上へと強く引くと、大きく身体を沈め込んだ駆竜が右脚で地面を強く蹴り
隣のギルドの壁へと跳躍し、壁を蹴ると同時にアブミに全体重を掛け駆竜の後方を風魔法で追い風を作ると
なんと壁を登っていくではないか!?
こんな物があるだけで姿勢が安定し、機動力が何倍にも増す!?しかも両手が自由にもなる……
これは……草原でなく森の中でも戦えるじゃないか!?
楽しくなってきたウサンは笑い声を上げながら、巨大なノミのように練兵場を囲んだ壁を縦横無尽に跳ね回り、
やがてギルド員の白けた視線に気づき……静かに着地をする。
「おっほん!……オリバー……いいんじゃないか?手の空いている工房すべてに掛け合ってこれと同じ物を大急ぎで
作らせろ!!素材は縄でも革でも鎖だっていいだろう、魔獣が来るまでの最優先時事項だ急げ!!
俺は王城の魔獣対策室までこれで行ってくる!」




