オリバーと島津豊久
3発の火球を見て感嘆の声を上げるサムライたち。
魔法が使えないという噂はどうやら真実なようだ。
自己紹介を試みようと、自分の胸を指しながら「オリバー」と何度か繰り返してみる。
ようやく意図を察知してくれた、一人際立っって豪奢な武装を纏った若い男が豪快に笑いながら
「オリバー殿これは失礼をした。島津豊久と申す」
そう答えてくれたが……どの部分が名前なのかわからずに首をひねっていると
「シマズ·トヨヒサ」
と一語一語はっきりと発音してくれた。察しの良い男である。
魔石の回収を待ち、ともに王都の東検問所へと向かう。
聞いてみたいことはいくらでもあるのに言葉が通じないのは、なんとももどかしいものである……
それは彼らも同じなのか、こちらを伺いながらなにやら言い合っている声が聞こえてくる。
ただ一人、騎乗したシマズ·トヨヒサが駆竜に馬首を並べ、さかんになにやら語りかけてくる。
「このでっかい鳥は、馬よりも速く走れるとですか?」
駆竜を指差し、なにか質問しているようだ……よくわからないが頷いておく。
「ほ〜っ!こげん細っこい脚で、オリバー殿のような大男を乗せて馬より速く走るとは!
たいした鳥ですな!」
楽しそうに笑うトヨヒサに、とりあえず笑い返しておく。
[トヨヒサは、何処の国から来られたのだ?]
通じないが、こちらから話しかけたほうが気が楽に感じられた。
「なに?どちらが速いか競うかと?面白い!あそこの立ち木までどちらが速いか勝負ですな!?」
そう言いながら、草原の中央にある立ち木を指差す島津豊久。
それを見たオリバーは
[なるほど……西の方の国から来られたと?]
「ではっ!尋常に勝負!!よ〜〜〜ぃど〜〜〜〜ん!!」
馬の尻に鞭を入れ、弾かれるように飛び出すトヨヒサ。
[えっ!駆竜と競争しようというのか?勝てるはずなどないのに?]
少し遅れて地を蹴りトヨヒサを追うオリバー。
しかしどうしたことか、前を走るヨシヒサとの距離がなかなか縮まらない……
[そんな……馬鹿な……?]
何ごとが起こっているのかと、トヨヒサをよく見てみる。
“ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドッドッドッドッ”なにやら太鼓の音が響いて聞こえてくる。
尻を上げて、身体を水平にした騎乗スタイル? 足の位置が馬の横腹に?
なぜあのような姿勢で速く走れるのだ!?まるで猿ではないか!?
いっこうに差が縮まらないことに痺れを切らしたオリバーが、姿勢を低くし駆竜の横腹を蹴る。
“グワッ!”と抗議の声を上げた駆竜が頭を下げ、さらに加速する。
すると正面の立ち木から、拳ほどの大きさの石が飛来しオリバーの肩に直撃する。
前を走るトヨヒサはそれを巧みにかわしながら、馬の上で腰を浮かせると背から弓を抜き矢を継がえる。
走る馬の上から矢を射ろうというのか!?
迷いなく引き絞られた弓が、一直線に立ち木の中へと吸い込まれていく……一射、二射、三射……
その姿は日が傾き始め、黄色く染まりかけた草原の中にあってあまりにも美しくオリバーの目に映った。
立ち木の側で馬を降り、頭に矢が刺さったまま横たわる3匹の赤い猿を見下ろす島津豊久。
「石など投げて攻撃してきたから、思わず殺したが……オリバー殿の同族では?」
そう独り言ちていると、駆竜から降りたオリバーが肩を押さえながら駆け寄ってくる。
彼のなにやら興奮した様子に思わず一歩後退する豊久。
[見事な腕前ですな!思わず見惚れてしまいました。騎乗技術も素晴らしい!!]
そう言いながら、豊久の乗ってきた馬に近づき、縄で編んだアブミを手に取る。
どうやら怒ってはいないようだ……同族ではないということだな?ほっと胸をなでおろす。
[これは?これに足を掛けて、あのように馬上でも安定して走ったり矢を射ることもできると……
馬だけでなく駆竜に付けても、さらに機動力を活かせるのでは!?]
目玉が零れんばかりに見開き、アブミを手に打ち震えるオリバー。
「アブミがどうかしましたか?」
[これはアブミと言うのですか?一度試させてもらっても?]
よくわからないが、うんうんと頷く豊久。
嬉しそうに豊久の乗ってきた馬に跨り、アブミに足を置き駆け出すオリバー立ち木を中心に輪を描き腰から
剣を抜くと馬上で素振りをしてみる。
[なぜこれまでに誰も考えつかなかったのだ?馬上でも戦えるし、もっと速く走れるではないか!?]
興奮気味に馬から降りてきたオリバーが豊久の手を取る。
[これを我々も真似をして作っても良いだろうか?]
よくわからないが、オリバーがあまりにも嬉しそうなのでうんうんと頷いておく。
なにやら感動したオリバーが抱きついてくる。
[これで我々ガーダーの戦略の幅が広がります!]
『見た目より毛が柔らかいのだな〜』
そんな感想を述べる島津豊久だった。




