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黄泉渡り伊織 ーー関ヶ原で滅した六千の魂を抱く巫女ーー  作者: 結城謙三


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魔晶船

「これを信じろというのか!?」

セルザ将軍が眉をしかめる。


「見た通り、これが事実であの商隊は事なきを得たわけだな……」

エディがセルザの肩に手を置く。


「ではっ!そのNO,10ギルドのオリバーに向かって、王城に見えるように空に向かって火球を放つようにと言って

もらえないだろうか?」


吉継がブランデン語での台詞を伝え、オリバーの方向を指差すと先ほどと同じように五助が声を届ける。

どこからともなく聞こえてくる声にオリバーは首を傾げながら、大きめの火球を3発空に向かい放つのだった。

それを見た全員が言葉にならない声を上げる。


「それとまだ姿は見えないが、東側の森林をここ王都を目指し進んでくる魔獣は軽く1000体を超える……

北側は400体ほどで西側はわずかだな、南側は今のところ気配は見えない」


「ヨシツグ、それはここに向かっている避難民ではないのか?」

エディが吉継の顔を覗き込む。


「いや、残念ながら魔獣か人に敵意を抱くものだ……避難民も相当数が向かっている、哨戒とガーダーの数を増やし

各街道の警備をしたほうがいいだろう……どうか信じて欲しい」


「ヨシツグと言ったね?あんたの目には魔獣と人が姿が見えなくても見分けることができると言うのかい?

それはどのくらいの範囲までだい?」


「ぼくの目には、人と魔獣では違った色に見える。強く光っている個体はおそらく生命力が強いのだろう……

まもなくここ王都まで来るぞ、見える距離は20000ドランほどだと思う」


「パイス国王、あたしはヨシツグを信じるよ……どうやらヨシツグの目と耳は本物さ、さらに指示を届けることが

できるなんてこの上ない戦力じゃないか、アレを用意したらどうだい?」


「ナタリー……あれとはまさか魔晶船のことを言っているのか?」

パイス国王が首を横に振りながら、杖の石突きを床に叩きつける。


「それ以外に何があるというんだい?」


パイス国王とナタリー魔導師が無言で睨み合う。

それをテラスから息を呑んで見守る面々……


「エディ、魔晶船ってなんのことかしら?」

玉座の間にいるパイス国王らには聞こえないように小声で問う伊織。


「魔晶船っていうのは、簡単に言うと空を飛ぶ船だな……特大の魔石を使って飛ぶんだが、王都に2隻しかないうえに

魔石もそれほど多くはないはずだ。なんと言ってもダンジョン下層のボスクラスからしか取れない魔石だからな」


「でもそれがあったら、もっと上から魔獣の動きが見えるじゃない!?きっと多くの民を救えるわ!」


「ナタリー様はパイス国王にあれほど強気に迫って大丈夫なのか?」

ムサシが心配そうに伊織に耳打ちをする。それをエディに翻訳すると。


「ああ、いつものことだ。ナタリー様は前王妃の妹、つまりパイス国王の叔母だからな」


「「なるほど」」

“うんうん”と全員が納得し頷き、心の中でナタリーを応援する。


しばらくの問答のあと、遂に折れたパイス国王がダラス宰相に魔晶船の整備を命じる。

「余もヨシツグの能力を信じたからこその決断だ!けっして……まぁよい、セルザ将軍よ聞いた通り街道の守りを

すぐに固めよ、西側と南側のギルドの半数をすぐに出撃させるのだ!そしてヨシツグの能力を各ギルド長に伝えて

空からの声に従うように徹底するのだ」


「はっ!」

踵を返すと、北門横に設営された王都魔獣対策室へと急ぐ、そこから伝令を放ち各ギルドへと最重要事項として

数十分後にはすべてのギルドに伝わり、そこから数分後には1万を超えるガーダーたちが北街道と東街道の守備の

ために駆竜や馬に乗り駆けて行くのだった。


その様子を日が傾き始めたテラスから見ていた大谷吉継がエディの肩を叩く。

「僕らもNO,100ギルドに戻って哨戒に出よう、あまり時間が無いようだ」

その旨を、残ったパイス国王とナタリー魔導師に伝え玉座の間の扉へと向かう。


「魔晶船の準備ができたら使いをやるよ……最後に一つ聞いてもいいかい?その背の高い若者にはどんな能力が?」

ムサシを指差すナタリー。


「ムサシは器です。壊れても必ず戻ってくる器です」

ムサシの肘を掴み、それに嬉しそうに答える伊織。


「器?」

恥ずかしそうに頭を掻くムサシらを見送るナタリー。


急に静かになった玉座の間をパイス国王のため息が重く響く。

「ナタリー叔母さん、やってくれましたね……」


「魔晶船のことかい?出し惜しみするんじゃないよ、王国建国以来の危機なんだよ……このタイミングであの者らが

ここに現れたのには、きっと意味がある。覚悟を決めな」




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