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黄泉渡り伊織 ーー関ヶ原で滅した六千の魂を抱く巫女ーー  作者: 結城謙三


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31/45

謁見

許可証をセルザ将軍から受け取ったエディは、足早に駆竜に跨りNO,2ギルドを目指す。

1層目の城壁階段を駆け上がり、きれいに区画整理された2層目の市街地の屋上をほぼ一直線に駆け抜ける。

2層目の城壁を周回するゴンドラの前方をスレスレに通過すると、初めて王都を訪れた民なのだろうか車内から大きな

歓声が上がる。

それに片手を上げて応え、城壁を蹴り通りを飛び越えるとアパートの屋上に着地し尾で空気を叩きながら巣を目指し

さらに加速する。


エディがNO,100ギルドに戻ると侍たちは練兵場に集まり、大谷吉継を囲んで輪になり真剣な表情で話し込んでいた。


「ヨシツグ、すぐに王城に向かうから準備をしてくれ!」

侍たちの輪の外から大声で呼び掛ける。


「ああわかった。すぐに準備をしよう」

ブランデン語でそう答え、大伴兼興に「あとを頼む」と言い残すと湯浅五助を連れ建物内へと入っていく。


「エディ、ずいぶん早かったんだな?王城まではかなりの距離だろう?」


「ああ1人なら、駆竜という移動手段があるんでな……それよりもさらに増えているんじゃないか?」

練兵場の方を振り返るエディ。


「増え続けているな……700人くらいは居るかもしれない」


「いったいヨシツグの国から何人が、この国に来ているんだ?」


「すまないエディ、本当に分からないんだ……」


「転移魔法の暴走でもあったと言うのか?……これでは食料も寝床も足りなくなりそうだな」


「それなら心配ない、魔石を持っている者が数名いて、あとで換金して食料を買うつもりだ」


「そうか……ヨシツグ、ブランデン語が急に流暢に話せるようになっているが気のせいか?」

エディが訝しげに吉継を見る。


「ここにいて隣の広場の人々の会話を聞いているからな……意識を向けた方向の音は鮮明に聞くことができる」


「そういえば千里眼だけでなく地獄耳とも言っていたな、それでも聞いているだけで話せるようになるものか?」

そうやって話をしていると湯浅五助に連れられた伊織とムサシが眠そうに目を擦りながら降りてくる。


[では揃ったようだし、出掛けるか]


「ちょっと待ってエディ、わたしたちこんな格好でいいのかしら?」

着替えがないために多少の汚れが目立つ巫女姿の伊織に、男性陣はそれ以上に汚れた無骨な出で立ちである。


[いいんじゃないか?有事でもあるし、見たこともない文化に触れて喜ばれると思うぞ]


5人が連れ立ち、西門広場で乗り合い馬車に乗り込み王城へと続く目抜き通りを直進する。

混み合った馬車内では、見慣れぬ具足姿の吉継らに鮮やかな緋袴の伊織たちが物珍しげな視線を集め、それを

楽しそうに眺めるエディ。

ほとんどの乗客が3層目のいくつかの停車場で降り、2層目の検問所で全員が身分証や立ち入り許可証を提示し

馬車は再び走り出す。

3層目の雑多な雰囲気とは異なり、目抜き通りの石畳は均等にならされ、商店や上階の住宅もどこか洗練されて

おり避難民の姿も見掛けない。


「あの検問所をくぐると別世界になるんですね?匂いまでが違います……」

伊織がブランデン語でエディに問い掛ける。


[ああ……ここ2層目は中流から上流の王国民の居住地だからな、言っておくが差別ではないぞ、古くから王国に

居住している者たちと、後から王国に来た者たちとの住み分けだ言ってみれば区別だな]


「じつに機能的な都市だな、3層目に防衛のためのギルドを配置し魔獣の解体所や工場、それに携わる商業を集中

させる……君たちがどれだけ優秀な民族かということがわかるよ」

大谷吉継が窓から外を眺め、本心からの感想を述べる。


[次の検問所を抜けるともっと驚くぞ]


あれほど混み合っていた馬車内も1層目の検問所では数人を残すのみとなり、車内に乗り込んできた治安局員が

念入りに身分証や立ち入り許可証を確認する。

そして吉継らの打刀に手を翳すと柔らかな光が手の平から発せられる。


[封印の魔法を施しました。お帰りの際に解除しますので]

そして検問所を抜けると、まったく継ぎ目の無い石畳を馬車が滑るように走り出す。

道の両側には背の低い白い壁で仕切られた白亜の御殿が並び、その庭には色とりどりの花が咲き誇っている。

目を丸くして言葉もなく通りを眺める伊織たちにエディが笑い掛ける。


[どうだ?ここが1層目、王都の中心だ。王宮に勤める重鎮や国王の縁者が住んでいる区画だな……もうすぐ

王城に入るぞ、馬車はここまでだ]


3層目の喧騒や獣や脂の匂いが嘘のように、どこから聞こえてくる水の流れる音に花の香り、魔獣が押し寄せ

て来るといった危機感を忘れそうになるほどの別世界が広がっていた。

重厚な門をくぐり、衛兵のあとに続いて城内へと入る。

白く巨大な石造りの城は日ノ本の城や神社仏閣とは違った静謐な空気に包まれ、壁に埋め込まれたいくつもの

照明が窓の無い通路を明るく照らしている。

いくつもの階段を登り、ひときわ豪華な扉の前で待つようにと長椅子を勧められる。


衛兵が扉を叩き、中へと消えるとしばらくの後に扉が開き中へ入るようにと促される。

エディが先頭となり車椅子に乗ったままの大谷吉継が続く。


円形の玉座の間は中央に踝まで沈みそうな毛足の長い大型の獣の毛皮が敷かれ、壁には丁寧な刺繍が施された

色とりどりの軍旗のようなものが並んでいる。

入口の扉から最奥の壇上には、龍の装飾が施された重厚な玉座が鎮座しそこに座る人物に向かってエディが歩みを

進める。

下段で歩みを止め片膝を突き頭を垂れるエディに倣い、湯浅五助の手を借り車椅子から降りた大谷吉継が白頭巾を

外し頭を下げる。

久しぶりに吉継の顔を間近で見た五助は、主君の顔に疾患の跡がないことに驚き目を丸くする。


「偉大なるパイス国王陛下に拝謁の機を賜り、我ら一同、この上なき光栄に存じ奉ります」

吉継がブランデン語で口上を述べる。






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